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216_ダンジョンでの改造作業

 ――「手持ちのカードで何が出来るか」を考えなくては。


 私は再度、自分の魔法や、出来そうな事を洗い出す。その時、一枚の魔法陣が目に入った。それは火属性の基本魔法である【火球を放つ魔法】。この魔法陣はアロエスに返してもらった魔導書に残されていたので、すぐに使うことが出来る。だが私が火球を撃ち込んでも、ボスモンスターには殆ど効かないだろう。私が着目したのはそこじゃない。

 元々【大火球を放つ魔法】は、アキニレが【火球を放つ魔法】を改造して作ったものだ。


「そうだ、ないなら作ればいいんだ…」


 今から【火球を放つ魔法】を改造しよう。具体的には火球の大きさを倍以上にして、一撃の攻撃力を高める。そして制御を容易にしつつ、魔力消費を抑えるため火球の数を一つに減らす。


「でも、私にできるだろうか…」


 ワークツリーでの最初の開発業務が【大火球を放つ魔法】の作成だった。しかし私は分からない要素ばかりで、散々アセロラに頼った記憶がある。しかもそれでなお期限内に開発が終わらず、最後はアキニレに業務を引き継いでもらっていた。あの時は「炎を球状に変化させる処理」が最後まで完成しなかったのだ。今回、頼れる先輩はいない。しかも制限時間付き…。心音が気持ち悪いくらい鮮明に聞こえている。


 ――でも勝算がない訳ではない。


 私は四月の業務後、アセロラ、アキニレと反省会を行っていた。つまづいたポイントは彼から教わっている。模範解答を知っているのだから、できるはずなのだ。私は盗賊二人に向かって叫んだ。


「私が強力な魔法の魔法陣を作ります。ちょっと時間を稼いでください!」


「ちょっとってどのくらい?」


 アロエスから会社員みたいなことを聞かれて慌ててしまう。いや、時間管理が大事なのは会社員も盗賊シーフも同じか。私は咄嗟に時間を叫んだ。


「あ、えっと…七分!」


 そして鍾乳洞の死角に避難すると、魔法陣を編集モードに変更。すると編集できる呪文がズラリと一覧表示された。時間はない、急がなければ。私は次々に魔法陣の処理を書き換えていく。ところがとある処理を前にして、私の手がピタリと停止した。


「あれ、ここはどうするんだっけ…」


 反省会をしたのは二か月も前だ。無論、全部を覚えている訳じゃない。私はすぐに旧魔導書のページをめくる。


「よし、メモは残ってる…」


 アキニレとの勉強会で学んだ内容は、出来る限りメモを取っていた。偉いぞ、私! あの時の自分を全力で褒めちぎってやりたい。私はメモを頼りに、再び魔法陣の書き換えを行う。このままのペースなら…ギリギリ七分でいけるはず。


 ――とにかく急がなくては!!


 新たに追加したファイルには「ファイル1」とか「ファイル2」みたいに適当な名前を付けた。ガスタが見たら怒るだろうな。彼曰く「開発はチーム作業が基本だ。ファイルは誰が見ても役割が分かるような名前にしろ」とのこと。今回で言うなら「球状の制御ファイル」や「火球発射処理のファイル」といったところだろうか。だが今はそんなことを言っている場合じゃない。出鱈目でも動くものを作れ。


「だって命がかかっているから…!」


 十数メートル先では盗賊達とデスワームが激闘を繰り広げていた。魔物が身体を捻るたびに、地響きのような衝撃に襲われる。早く魔法陣を完成させなくてはならない。それは分かっているのだ。にも関わらず、私の手は再度止まってしまう。

 魔法陣が真っ赤なエラーを表示していた。心臓が跳ねあがる。


 ――どこかに…間違いがあるぞ。


 エラーが出るということは、既に私の制作した呪文に「文法的な誤り」があるということだ。この魔法陣の改造を行う際、難所となる処理はだいたい分かっていた(炎を球状にする回転計算など)。それも考慮した上で「七分」と回答したのだ。だが世の中はそう甘くなかった。想定外のトラブルが起きるから案件は遅れ、炎上する。自分に降りかかる困難が全て「想定内の事柄」なら世界はもっと定時退社で満ちているだろう。

 私にとっても、この問題は完全に想定外であった。


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