215_手持ちのカード
【火球を放つ魔法】なら登録してあるが、【大火球を放つ魔法】が見つからない。どうした私、焦っているのか? 私は再度ページをパラパラとめくる。するとアロエスが「あっ…」と小さく声を出した。
「その【大火球を放つ魔法】ってやつは闇市で売ったな。そこそこ金になりそうだったから…」
「じゃあ意味ないじゃん!!」
私は思わず特大のツッコミを入れた。もうヤケクソである。確かに私の【大火球を放つ魔法】は闇市で売られていた。それに気が付いた自警団のブリック、タランチがワークツリーに乗り込んで来たんだったな…。積んだかもしれんでやんす。
私にツッコまれてもアロエスはケラケラ笑うだけ。これだから盗賊ってやつは…。彼女は強力な魔物を前にしても自然体のまま。散歩するような温度感で魔物の前へと踊り出る。
「最初は情報を集めなきゃね。リンも思うようにやってみな」
「え、ちょっと…!?」
アロエスは一気に魔物へと斬りこむ。いきなり戦闘が始まってしまった。私はとにかく距離を取って、大きな水晶の裏へと避難。だがどんなにページをめくっても、私を助けてくれそうな魔法はない。というか、そもそも私の魔法はボスクラスの魔物と戦う事を想定していない! 私がお婆ちゃんから教わったのは「街を襲う下級魔物を確実に撃破する方法」である。投石も火球もデスワームには、嫌がらせにしかならないだろう…。
「む、無力感…」
一方のアロエスはデスワームの長い身体に飛び乗った。そして魔物の鎧に足をかけると、頭に向かって一直線に駆け上がる。敵が首を持ち上げているため、そうやって頭に近づくしかない。にしてもアグレッシブな選択である。
デスワームは身体を捻り、くねらせることで彼女を振り落とそうとする。しかしアロエスは細やかなフットワークで、すぐにボスモンスターの頭上まで到達した。
「食らいな、蟷螂の一撃!」
≪蟷螂の一撃_ククリ刀の強攻撃≫
アロエスは小さく飛び上がると、勢いよくククリ刀を振り下ろした。重心の偏ったククリ刀は、足場の悪い場所でも十分な威力を出せる。強い…! これはひょっとして、このまま勝ってしまうのでは…? ところが彼女の攻撃は「ガキンッ」と鋭い音を立てて弾かれた。魔物の身体は鉛色の鎧に守られている…!
「あら、思ったより硬いのね」
アロエスは十メートル近い高さから落下した。ただし全身をバネのように使い、しなやかに着地。そして今度は彼女の反対側、敵の死角からミストが飛び出した。
「これならどうだ…?」
彼は地面からボウガンで矢を撃ち込む。しかしこの攻撃もデスワームの鎧を貫通することはできない。
そもそもダンジョンでの盗賊の役割は、奇襲やサポートである。正面から高火力で魔物と打ち合うのは得意じゃない。しかも二人は、デスワームの動線に私が巻き込まれないように意識しながら戦っていた。クソ、今の私にできることがなさすぎる。せめて【大火球を放つ魔法】があればいいのだが…。
ちなみに【火球を放つ魔法】と【大火球を放つ魔法】では役割が根本的に異なる。【火球を放つ魔法】はスイカサイズの火球を三つ敵に目掛けて飛ばすことが可能。小型魔物を複数相手にするのに便利だ。一方で【大火球を放つ魔法】は弾数こそ一つだが、倍以上の特大サイズを生成することができる。あの大きさなら、デスワームにもダメージが通るはず…。
駄目だ、思考がループしている。【大火球を放つ魔法】のことは諦めるべきだ。今はアロエスと戦った時と同じ。仕事も戦闘も、能力や物資が整っていることの方が珍しいんだ。現実から目を背けている場合じゃない!
――「手持ちのカードで何が出来るか」を考えなくては。
私は再度、自分の魔法や、出来そうな事を洗い出す。その時、一枚の魔法陣が目に入った。それは火属性の基本魔法である【火球を放つ魔法】。この魔法陣はアロエスに返してもらった魔導書に残されていたので、すぐに使うことが出来る。だが私が火球を撃ち込んでも、ボスモンスターには殆ど効かないだろう。私が着目したのはそこじゃない。
元々【大火球を放つ魔法】は、アキニレが【火球を放つ魔法】を改造して作ったものだ。
「そうだ、ないなら作ればいいんだ…」




