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022_魔法による自動化


  打合せが終わり、私たちはワークツリーへと帰って来た。私は開発ルームに入るとせっせと議事録の清書を開始する。

 打合せ中、沢山メモは取った。しかし私のメモは酷い走り書きで整理されていない。とにかく追いつく事に必死だったのだ。半数以上の文字がぐちゃぐちゃ、後から確認しても内容が分からない。ただでさえ薄い議事録が更に薄くなった。私は文字通り頭が真っ白になる。


 ――この議事録はガスタに見せられない。


 また怒られること間違いなしである。助けを探すようにキョロキョロしていると、開発ルームの奥でアキニレとアセロラを発見した。二人は今頃どんな仕事をしているのだろうか。きっとアキニレはガスタみたいには怒らない。


「君、議事録は取れたのか?」


 早速ガスタが私の議事録を覗き込んできた。心臓がドキリと嫌な音を立て、背中の辺りから冷たい汗がにじむ。


「すみません…実は全然聞き取れなかったです」


「そういう事は聞かれるより先に報告しなさいよ」


 私は「すみません…」と小さく声に出す。しかし彼は返事をする代わりに私の議事録を添削し始めた。いちいち圧迫感がある。


「内容の抜けが多すぎる」


「すみません…」


「それと表記揺れが多い。〝呪文を書く〟と〝プログラムする〟は同じ意味だからどちらかに統一すること」


「次から気を付けます…」


「あと専門用語の理解が甘すぎる。もっと勉強しなさい」


「が、頑張ります……」


 私の議事録はやはりダメダメな完成度であり、ガスタからの添削は一時間にも及んだ。作業を終えた彼は特大のため息を漏らす。


「君、日常でも大雑把なタイプ?」


「そ、そういった部分はあるかもしれません」


「そういうのは仕事にも表れるから。もう少しちゃんと生活することを推奨する」


 クソ、日常生活のことまで口を出しやがって…。魔法陣制作だけでなく、こういった部分も頑張らなくてはならない。いつかガスタが「ギャフン」と言うような議事録を作ってやる…。

 一方のガスタは机に向かって一枚の魔法陣を編集していた。慣れた手つき…アキニレが優秀だと言っていただけある。今のところガスタには「怖い」という印象しかない。その粘着質な喋り方は最早“姑先輩〟と呼ぶにふさわしい。だがこれから一緒に働いていくのだ。もっと相手のことを知るべきだろう。(私は学生時代、教師や先輩から「引っ込み思案で協調性がない」と言われ続けてきた)私は勇気を出してガスタに話しかけてみる。


「先輩、今から【パイ生地を生成する魔法】を作るんですよね。何か手伝うことありますか?」


 するとガスタの眉間にシワが寄る。


 ――あ、あれれ…?


「君は打合せで何を聞いていたんだ…。打合せで話した通り【パイ生地を生成する魔法】はほぼ完成している」


「すみません、議事録に必死で…」


 今日は行動がとことん裏目に出る日だ。ガスタは小さくため息を吐いて見せた。そして自分の隣に置いてある物体を指差す。彼の隣に小さなゴーレムが立っていた。二頭身でゴブリン程度の大きさ。顔や足のデザインは非常にシンプルだが、手は指先まで作り込んであった。まん丸の瞳がマスコットみたいで可愛らしい。そして背中にはさっきまでガスタが編集していた魔法陣が焼き付けてある。


「パイ生地を焼くための材料が一階にある。二階まで持ってきてくれ」


 私は粉の入った麻袋を持って階段を往復した。バターは大きな塊が冷蔵機の中に入っており、二階に戻るとガスタが材料を取り出して机の上に並べていた。彼はゴーレムを椅子の上に持ち上げると、背中についている魔法陣を起動する。オレンジ色の魔法陣が輝きを増した。


「メイク・パイドウ」


【メイク・パイドウ_パイ生地を生成する魔法】


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