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213_無断欠勤

「でも十五歳になって、アタイは知ってしまった。彼が盗賊の技術を裏の仕事で使っていたことに…」


「裏の仕事…?」


「アタイらの盗賊はあくまで、冒険者ギルドが定義するジョブの一つ。基本的にはダンジョンで罠の解除や、奇襲攻撃を担当するもので、人を襲って荷物を奪うもんじゃない。だが親父は道を踏み外していたのさ」


「…」


 アロエスの表情に影が落ちる。


「親父のことを軽蔑したわ。だがそれを機にアタイらは盗賊の様々な側面を知る事になった。盗賊シーフは技術の特性や成立ち故に社会的に信用が低い。仕事にありつけず裏の仕事に手を出す者も少なくない」


 彼女の言葉にミストが付け加える。


「そして…それが更に盗賊の信用を下げる。冒険者の多くは三期連続で黒字を出せば、住宅ローンが組めるとされているが…俺ら盗賊にはローンという選択肢はない」


 二人の言葉は本物だ。私はかける言葉を見つけられずにいた。私は社会について何も知らなかったし、そんな自分を恥ずかしく思う。スワローやアセロラなら、一般常識として知っていたかもしれない。ランチュウは社会人として意識が高いので、ちゃんと調べていてもおかしくない。

 アロエスはミストの言葉を経て、改めて拳を強く握り直していた。


「アタイはそんな現状を変えるため、盗賊同盟――バグリアを結成した。合言葉は『技術は皿。善悪を乗せるは人』。この組織では各々が『正しい』と判断した依頼で技術を振るうことができる。まあ基本的にはフリーランスの集いだけどね?」


「す、凄…。盗賊を一つにまとめ上げたんですね」


「そこまで立派なものではないよ。トラン公式の機関ではないし、まだ登録してる盗賊は全体のごく一部。でもこの五年間で少しずつ信用を積み上げて来たから、今は大手企業の社長クラスからも依頼が入るわ」


「じゃあ私を狙うよう依頼したのも、そういう人らなんですか?」


「フフ、それは内緒~」


 彼女はそう告げると小さくウインクしてみせた。いや、笑える状況ではないけどな…。 


「私は本当に〝黒い魔法陣〟とやらの在処は知りません。私じゃなくて、あのクソ記者を捕まえてください」


「リンの話が真実なら、すぐにそうするから…安心して頂戴?」


 話が一周してしまった。ため息を吐くと、途端にお腹が空いていたことに気がつく。


「そういえば今って何時ですか?」


 私の疑問に対してミストが腕の時計を確認した。


「ああ、十一時だな」


「まだそんな時間ですか、もっと真夜中だと思っていました」


 今が十一時なら私がさらわれてから、三時間程度しか経っていない。ところが彼は右手を振って、私の言葉を否定した。


「違う、昼の十一時だ。リンは十時間以上眠っていたよ」


「え、一日経ってるってことですか…?」


 彼の発言に背筋が凍りつく。心臓が嫌な音を立てており、ミストの言葉が受け入れられない。私の脳裏にはとある単語が焼き付いていた。


 ――無断欠勤である。


 今度こそアキニレに呆れられる! (ダジャレではない)てかこの前、始末書書いたばっかだよ!? で、今度は無断欠勤ですか!? とんだ不良社員である。私は思わずミストに噛みついた。


「私、無断欠勤じゃないですか!」


「それは…盗賊団にさらわれたって言えば許されるんじゃない?」とミスト。


「それは…どうなんですかね?」


 少なくとも就業規則には「盗賊にさらわれた時の勤怠管理」について書かれていなかった。この場合ってどうなるんだろう…。私はまた不安に押しつぶされそうになる。当然だが、これもグローフのせいだ。奴の罪がまた一つ増える。改めて腹が立ってきた。

 居ても立っても居られず、私は魔導書を取り出した。会社には行けないが、せめて業務の続きを行おう。私は魔導書の設定作業を再開する。昨日の時点で【勤怠管理の魔法】は登録済みなので、その魔法陣にワークツリー用の設定を入れていく。私は左手にマニュアルと魔導書を抱えて、右手で魔導書への入力を行っていった。私がせっせと作業を行っていると、二人が覗き込んできた。流石のアロエスも呆れ顔である。


「それ、今ここですることなの?」


「ここはいちおうダンジョンだし、君は盗賊に捕まっているのだが」とミストまで。


「関係ありません。仕事が進んでないと、先輩からの嫌味がとんできます」


 私の言葉を聞いた二人は首を傾げている。アロエスが私のバッグに入った石の礫を指さした。


「会社の先輩ってそんなに怖いモノなの? リンの戦闘力なら大概の社員に勝てると思うけど」


 そんな訳ないだろう…。そもそも社会は〝腕力〟イコール〝強さ〟ではない。


「冗談抜きでダンジョンの雑魚モンスターより怖いです。場合によっては中ボスとの戦闘より怖い」


「これが俗に言う〝シャチク〟ってやつか」


「私はまだギリギリ研修中の身です。社畜と呼ぶには早いかと」


 ミストの言葉を私はキッパリと否定した。


「あ、そう…」


 二人が「やれやれ」と降参ポーズを取った直後――


 ゴオオオオオオォンッ!!!


 轟音が響き渡り、来た道から大きな追い風が吹き込んでくる(巻き上げられた砂のせいで目が痛い)。恐らく洞窟の一部が崩れたのだ。でも、突然何が起きたのだろうか。私がその答えに気が付くより先にアロエスが叫んだ。


「マズイ、急げ!」


 私たちは咄嗟に前方へと駆けた。いつの間にか「ミシミシ」と洞窟が軋む音が聞こえている。最初こそ遠くから小さな音がするのみだったが、それはドンドンこちらに近づいて来るではないか。振り返った私は、思わず叫び声を上げた。


 ――巨大なムカデだ!


 汽車より大きなそれが一直線にこちらへ向かってきている。 デカい! 速い! キモイ! 虫が大丈夫な私でも流石に引く!! コイツがこのダンジョンのボス、配列鎧蟲_デスワームだった。 



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