表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
218/224

212_盗賊の事情

「あら、宝箱を見るのは初めてかしら?」


「はい、こんなに大きいとは…」


「そうね、アタイも初めて宝箱を見た時には心躍ったわ」


 そう言うと彼女はあっさりと宝箱を開く。すると中から「カチリ」と小さな音がした。え、何の音…? 直後、箱の内側から何かが飛び出してきたっ。


――うわっ!?!?


 魔力も気配も感じられない、完全なる不意打ち。私は驚いて尻餅をついた。アロエスはそれを涼しい顔で回避する。


「これが宝箱…」


 宝箱の中には罠付きのモノが存在する。私でも知っているのは「火が出る」とか「矢が飛んでくる」とか…あと珍しいモノだと「魔物が潜んでいる」のもあるそうだ。盗賊の中にはそうした罠の解除に精通した者も存在する。

 アロエスは宝箱の蓋裏に付いている罠らしきモノを、慣れた手つきで分解した。なるほど、罠は〝からくり〟だったのか。通りで魔力を感じ取れない訳である。彼女の仕事は丁寧で、分解した罠は組み立て直せばまた使えそうだ。私の中の職人の血が騒ぐ。作業中で悪いが、ちょっとだけ彼女に話しかけてみた。


「さっきの回避すごかったですね。まるでどんな罠が来るか分かっていたみたいでした」


「そりゃ、分かっていたわ。でなければ、あんなに無防備な状態で開けないもの」


 ――言われてみれば、そうか。


「どうして分かったんですか?」


 アロエスは少し考えてから告げた。


「宝箱をよく見るの。箱の素材を見れば強度がわかるし、装飾を見れば作られた場所や年代が分かる。あと鍵穴を覗き込んだ時にバネや金具が見えたから、何か仕込んであると気づくことができる」


「す、凄い…」


「そういう複数の情報と、過去の経験と照らし合わせれば…この宝箱から刃が飛んでくることが推測できるってわけ。まあ今回は解錠前の下準備すら不要な雑魚罠だったけどね」


 そう言いながら彼女は分解した部品を自身のポーチに収納していく。ポーチには高度な圧縮魔法が掛けられているらしく、大きな部品がスルスルと吸い込まれていった。


「それ、持って帰るんですか?」


「アタイ、宝箱の罠をコレクションしてるの。中のお宝はミストが回収するし」


 そういえば肝心の中身を確認していなかった。宝箱の中には銀色の貨幣のようなものが沢山入っている。素材は分からないが、お金になるのだろう。緑色の宝石も混ざっていた。でもアロエスはそんなものより、罠の方に興味津々な様子。生粋の罠オタクである彼女に少し興味がわいた。


「こういう盗賊の技術ってどこで学ぶんですか?」


「おや、君は盗賊向きだと思っていたけど、早速興味津々ってことかしら?」


「いや、そういうわけじゃ…!」


 私の慌てる素振りを見て、アロエスは満足そうに笑う。


盗賊シーフの技は習うもんじゃない。盗むものよ」


「盗む…?」


「アタイは自分の親父から技術を盗んだ」


「え、私もお婆ちゃんが戦いの先生です」


 共通点ってあるだけで少し距離が近づく気がする。たとえ相手が盗賊だとしても…。


「あら、まさかそんなところにも共通点があるなんて」


 すると話を聞いていた盗賊男――ミストが彼女の話に補足を行う。


「アロエスの親父様は優秀な盗賊で、特に宝箱の解錠はピカイチだったよ」


「凄い人だったんですね」


 彼女の技術を見てもそれは明らかだ。ところがこの話題になってから、アロエス本人の表情が優れない。彼女は静かに、けれどキッパリと告げた。


「親父は確かに凄い奴だったかもしれない。でも敬意を払いたい人間ではなかった」


「え…」


「小さい頃は親父みたいになりたかったわ。彼と宝箱の解錠対決をしたのが本当に懐かしい…アタイの髪、火炎放射の罠で何度か燃えかけたのよ。『職人性と戦闘力を兼ね備えた盗賊こそ、至高のジョブだ』というのが彼の口癖だったわ」


 私は黙って相槌を打つ。


「でも十五歳になって、アタイは知ってしまった。彼が盗賊の技術を裏の仕事で使っていたことに…」


「裏の仕事…?」


「アタイらの盗賊はあくまで、冒険者ギルドが定義するジョブの一つ。基本的にはダンジョンで罠の解除や、奇襲攻撃を担当するもので、人を襲って荷物を奪うもんじゃない。だが親父は道を踏み外していたのさ」


 アロエスの表情に影が落ちる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ