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209_違法魔法陣

リンの日記_六月三日(火)


 目を覚ますと私は誰かに担がれていた。一歩前をアロエスが歩いている。ここはどこだろうか。上下に揺れて身動きがとりにくいが、出来る範囲で首を捻ってみる。私達の左隣には大きな土の壁がせり上がっていた。周囲は薄暗い。壁に埋まった水晶が発光しており辛うじて視界を確保できている。しかしアロエスの松明がなければかなり歩きにくい道だ。どうやら私達は大きな洞窟にいるらしい。近くにこんな場所あったけな。ラムスもいない。ブリックと離れたところまではいた気がするのだが。


「ここはダンジョンの中よ」


 アロエスが小さく振り向いた。どうやら私の気配を察したらしい。


「な、なぜダンジョンに?」


「一時的にアジトとして使っているの。名前はダンジョン〝デスワーム〟…難易度は中級冒険者向けだったかしら」


 機密っぽいことをあっさりと話す彼女。そんなことを私に話していいのだろうか。え、私ちゃんと帰れるよね…? 恐ろしい〝もしも〟が脳裏を過り、私は身震いした。なお目が覚めたことで私は地面に下ろされる。私を担いでいたのは見覚えのある男性だった。確かブリックに吹き矢で攻撃した盗賊だ。


「彼の名前はミストよ。毒を使って、相手に幻影を見せることが得意なの」


「あ、はい」


 アロエスは平然としているが、盗賊を紹介されても困る。とりあえず私は小さく頭だけ下げた。ミストからも小さな会釈が返ってくる。あ、意外と丁寧。

 さて、ここからどうしようか。私は盗賊団に捕まり、知らないダンジョンの、よく分からない場所にいる。というか何故、誘拐されたのかも謎である。でもここで逃げるのは得策ではない。盗賊から逃げ切れる可能性は低く、二人を怒らせるだけだろう。それにダンジョンの魔物に襲われるのもマズイ。今の私には投石と結界しかないのだ。あれこれ考えていたら、アロエスがこちらに視線を向けた。


「リン、君はどうして誘拐されたか、心当たりはあるのかしら?」


「いや全くです」


「ふーん、嘘吐きの顔じゃあ…ないわね」


 そう言って彼女はミストに視線を送る。どうやら目だけで会話しているようだ。盗賊って凄い。アロエスは再度私に視線を戻すと会話を再開した。


「リンから見ればアタイらは悪者かしら?」


「そりゃあもう、炭より真っ黒ですけど…」


「フフフ、そうでしょうね。でもアタイらは自己中に盗賊の力を振るわない。人が平和を実現するには、法や倫理を捨てざるを得ない場面がある。アタイらはそうした状況で冒険者ギルドや自警団に代わって依頼を引き受けているの」


 彼女の声には一切の淀みが感じられない。アロエスは自身の仕事に誇りを抱いている、そう思った。だが、それならば益々理解できない。


「私が狙われる理由が分かりません。私は法や倫理を無視してでも消さなきゃならない存在ってことですか?」


 自分で話していて、一瞬ラムスのことが脳裏を過った。まさかアイツのせいなのだろうか。私が楽師だから何者かに狙われている…みたいな(楽師が何かもよく分かってないのに)ところがアロエスの答えは私の想像とは異なるものだった。


「アタイらは〝さるお方〟から依頼を受けている。君がとある違法魔法陣を隠し持っており、都市を守るためにそれを回収すべし…と」


「い、違法魔法陣…?」


 なんのことだろうか。本当に心当たりがないし、絶対にそれは私じゃない。私はトランに来て二か月しか経ってないし、社寮とワークツリーを行き来する生活しか送っていない。そんな怪しい魔法陣なんて見た事も…。


 ――いや、危険な魔法陣なら見た。


 人を魔物化する〝黒い魔法陣〟だ。ユニのライブにて、彼女を憎むファンが黒い魔法陣を発動した。結果、男は強力な魔物――死神安置デッドロックとなり暴走。ユニと私達は互いに協力し、魔物を撃退したのだった。盗賊達が探しているのはあの魔法陣ではないだろうか。そういえば、あの黒い魔法陣ってどうなった? 私はあの日の記憶を回想する。ところが――

 この三分後に私はブチギレた。怒りが収まらず、人生最大クラスで荒れ狂う。しかしこの時の私はアロエス達に怯えており、そんなことが起きるとは夢にも思っていなかった。


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