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207_盗賊のアロエス②

「戦いは…武器の強さだけで決まらない」


「へえ、じゃあ何が決め手になるのかしら?」


 決め手…か。戦いに精通した盗賊、アロエスは私が素人であることを分かった上で、この質問を投げかけている。意地の悪い敵だ。だがいきなり全力の戦闘に持ち込まれるよりずっといい。私は彼女への警戒を続けたまま、秀逸な回答を捻りだそうとする。こんな状況だけど…こんな状況だからこそ、私はお婆ちゃんの言葉を思い出していた。


「火属性魔法を使わずに焚火を用意するように」


 あれはお婆ちゃんとキャンプに行った時だ。時々彼女はそういった課題を出す。お婆ちゃんは「魔力や魔法は便利だが、依存してはいけない」とよく言っていたな。

 私は板に木の棒を押し当て、必死に回転させる。俗に言う「手きり式」という火起こし術だ。しかし全然火が付かない。前日に降った雨で湿気ているのだろうか。それか回転が足りないのかもしれない。そろそろ夕方になってしまう。一向に火が付く気配はなく、私は途方にくれていた。

 一方のお婆ちゃんは短剣一本で、周囲、数十体のゴブリンを仕留めている。昔のような体力はないはずなのに、衰え知らずの技術だ。私は現代っ子なので、若干引く。


「相変わらずだね…」


「弱い魔物は頭を使わない…だから全部同じ方法で仕留められるのさ。上位の魔物には複数の強みがあるから厄介だがね」


「強み…?」


 また随分と曖昧な言い回しである。こういうところは私より姉に引き継がれていた。


「そうだリン、これは魔物だけじゃない。人間にも言える」


「…?」


「自分の武器が通用しないと悟ると、諦めるのが弱者だ。強者は自身を構成する無数の要素から勝機を探し出す。こんな具合に…」


 お婆ちゃんは魔法の口頭詠唱で小さな水球を作り出した。それを薄く引き伸ばすと、お婆ちゃんの老眼鏡みたいな凸レンズができあがる。彼女はそれを日光にさらした。


「あ、ずるい!」


「ずるくなんかないね、私が禁じたのは魔法で直に火を灯すことだけさ。それに火を付ける方法なんざ無限にある。アンタの頭なら、ちょいと捻るだけで百や二百は思いつくはずだがね?」


「それは…買い被りすぎ」


 レンズの下に黒い布切れを置く。暫くすると布切れから薄く煙が上がり始めた。

 そうだ、武器や経験なんて戦闘を構成する一要素に過ぎない。私はアロエスを睨みつけると彼女の問いに答えた。


「決め手なんか何だっていい。貴方の急所が撃ち抜けるのなら」


「嫌いじゃないわ、君の考え方」


 私はすぐに球状結界を張った。この実力差なら結界はマスト。しかし湾曲したククリ刀から縦横無尽に攻撃が飛んでくる。


「…っ!」


 軌道が読めない…。敵の動きが見えないと、常に高純度の結界を求められる。その分、魔力の消耗も大きい。私はたまらず、アロエスから距離を取った。だが彼女はすぐに私との距離を詰め直す。クソ、振り切れない。ここまで俊敏な敵は初めてだ。


「ほらほら、早くしないと結界が壊れちゃうわよ?」


「うるさいっ」


 だがアロエスの言葉は正しい。これ以上の長期戦は無理だ。敵を振り切れない以上、投石を行うと隙だらけになる。だが、結界を犠牲にしてでも…攻撃するしかない!


「スロトン!」


【スロトン_投石強化の魔法】


「おっと!」


「嘘!?」


 回避された…。しかもほぼゼロ距離、かつ後出しで。

 そしてアロエスの会心一撃が球状結界を叩き割る。私は賭けに負けた。結界も投石すら有効に使えていない。ここまで実力差があるとは。余裕しかない彼女は私に対してニッコリと微笑みかける。


「躊躇なく私の効き目を狙ったわよね? 会社員で君みたいな人は初めて」


「それはどうも…」


「でも完全には喜べないの。私達、盗賊は沢山の宝箱を扱うけれど…中身が宝石かガラクタかは開けてみないと分からないから」


 彼女には戦闘を愉しむだけのゆとりがある。だがここで舐められちゃお終いなのだ!


「そうですか…でも開けようとした宝箱が、貴方を襲うミミックって可能性もあります」


「いいわね、じゃあ開けてみないと」


 勝負は第二ラウンドに突入する。まずは結界がないと話にならない。私は沢山の魔力を消費し、二回目の結界を張る。倦怠感に襲われるが、そんなことを言っている場合ではない。私は再度、アロエスと距離を取ろうと奮闘しながら、投石を行うタイミングを見極める。

 しかし彼女のククリ刀には私じゃ対処できない。結界は一方的に攻撃され、ヒビだらけになった。追い詰められた私は再度、投石のモーションに入る。

 ここまで第一ラウンドと全く同じ流れ…というかアロエスからその動きを押し付けられている。ここまでの流れを通して、彼女が残念そうに口を開いた。


「それじゃさっきと変わらないわね」


「う、うるさい、とにかく急所に当てれば勝てるんだ!」


「まあ仕方ないか。じゃあね」


 私は焦ったあまり、同じ過ちを繰り返した。やはり会社員に対人の戦闘は無理だ。パニックで正常に会話することもままならない…。


 ――と、アロエスから私はそう見えているはずだ。


 それでいい。出来る限り自分を弱く見せろ。敵の油断を勝機に変えるのだ。


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