202_魔導書のセットアップ
だがガスタが言った通り、私はまだ魔導書をセットアップしていない。アキニレから「今日と明日を魔導書のセットアップに使ってよい」と御達しが出ていた。私用も兼ねた魔導書をセットアップさせてくれるのはありがたい。私はアセロラと昼休憩を取った後、すぐに作業を開始した。
魔導書を開くと、白紙のページに文字が浮かびあがる。魔導書の案内に従い、設定を進めていく。
「言語を選択してください」
「貴方の名前を教えてください」
「貴方の魔力を登録してください」
上記の他にも様々な設定を行っていく。これでも昔の魔導書と比べたら、かなり簡単になったそうだ。近年では魔法使いでなくとも、魔導書を扱う人間が増えた。よって魔導書は専門家だけのツールでなく、誰もが直感的に操作できるものへ進化している。ちなみにこれはガスタの受け売りだ。
小一時間かけて、やっと基本的な設定は完了した。「魔力の登録」に時間がかかったが、ここまでは殆どつまづいていない。だが厄介なのはここからだ。
「次は【魔導書の保護魔法】か」
保護魔法については先週、ミラーから説明を受けたばかり。
企業の中には、ライバル企業の魔導書を汚染し、情報を盗むスパイがいる。また人の魔導書を汚染し、解除と引き換えに身代金を要求する犯罪者もいる。そうした魔導汚染(魔導書自体が魔法攻撃を浴びること)から魔導書を守るのが【魔導書の保護魔法】である。
この魔導書は新品同様だから、悪く言えば無防備状態。新しい相棒をちゃんと保護してやらねば。
「マジッキュア!」
【マジッキュア_魔導書の保護魔法ver11】
これで【魔導書の保護魔法】はオッケーだ。そして次は…編集魔法の登録である。魔法陣の開発には様々な魔法を用いる。分かりやすいところだと【魔導書に魔法陣を登録する魔法】や【魔法陣に呪文を入力する魔法】、【魔法陣中から文字を検索する魔法】などなど。開発に必須なものから、開発効率を上げるものまで様々な魔法が存在する。これらの魔法も順番に登録し、魔導書に合わせて設定をいじる必要があった。
ちなみに、これらの編集魔法は会社の指定があるから、自分で購入する必要はない。魔法陣のコピーと、説明書は既にアキニレから預かっていた。まあ魔法陣を登録するだけで、難しい作業じゃない。そう思った矢先、魔導書のページが真っ赤なエラーを表示した。
「そんな馬鹿な…」
まずは落ち着いて原因を特定すべき。だが編集魔法の説明書や、魔法陣の案内を確認しても原因が突き止められない。
「…」
二十分悩んだ、が、進展なし。新しい魔導書を早速バラバラに引き裂きたくなる。これはダメだ…私の手には負えない。私は助けを求めて開発ルームをさまよう。しかしアキニレもガスタも打合せなのだ。
――どうするかなあ…。
もう少し自分で頑張るしかないか。そう思った矢先、部屋の隅に二人の人影が見えた。同期のスワロー、ランチュウである。私は二人を頼る事にした。いつもニコニコ笑顔のスワローが右手を上げる。
「やあリン、魔導書を新しくしたらしいな! 記念にBBQをしよう!!」
「BBQはいいです…紛失のせいだし。それよりこのエラー分かる?」
彼は私の魔導書を確認すると、私と全く同じように首を傾げて見せた。
「説明書通りに作業してるなら、不良品じゃないか?」
分かる、私もそう思いたい。私とスワローは性格こそ正反対だが、こういう場面で妙に意見が合う。知能レベルが近い…というか原因を特定する力が弱々なのだ。一方のランチュウはエラーのメッセージを丁寧に読み込んでいた。
「これの原因は編集魔法じゃないナ。リン、保護魔法の説明書を見せてみロ」
ランチュウの言葉に私は反発する。
「え、でも保護魔法は正しく登録できたよ! そこは確認したし、失敗してないはずだけど…」
「正しいかが問題じゃなイ、これは順番の問題ダ。君は保護魔法を魔導書にかけた後、魔導書の設定を追加しようとしているだロ? その行為が保護魔法のセキュリティに引っかかっていル」
「え、そんなことあるの?」
「ああ、普通はあまりないが、この保護魔法と編集魔法は相性がよくなイ。全ての設定作業を完了してから、保護魔法をかけるべきだったナ。保護魔法をアンインストールして、もう一度、正しい手順でやってみロ」
す、凄い…ランチュウはあっさりとトラブルを解決してしまった。
「あ、ありがとう、ランチュウ!」
「まあ、初めてなら気づきにくい箇所ダ。エラーメッセージさえ読み取れれば、どうにでもなる部分ではあるガ…」
皮肉混じりだが、ランチュウは随分丸くなった。ネチネチした話し方や、刺々しい物言いはかなり緩和されている。最近は生意気な弟のような印象だ。
「ランチュウがガスタ二号にならなくてよかったよ」
「まあ彼の定時退社する姿勢は、見習っていきたいがネ(笑)」
ランチュウは同期の中で、重要な仕事を任されることが増えている。慣れない仕事も増え、今は残業多めだった。それでも必死に仕事に食らいつくのは、彼の「同期の中で一番になる!」という決意が、良い意味で作用しているのだろう。
――私も頑張らなくては!
私はランチュウとスワローに感謝を伝えると、作業を再開した。




