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200_デザイナーの弟子

 だが、困ったことに馬車はすぐ直せそうにない。明日は会社だから、私は今日中に魔導書が必要。私達が積み荷を見守っている間に、店に行ってもらうか…? あれこれ考えていたら、モスが思い出したように口を開いた。


「馬車の修理なら手先の器用な奴を知っている。アイツを呼んでみよう」


 モスは自身の呼び出した魔法陣に、何やら打ち込み始めた。あれは【他人に居場所を伝える魔法】…だろうか。少しすると駅の方から、誰かが駆けてくるのが見えた。特徴的な四頭身のシルエット、女性のドワーフである。彼女はモスに向かって大きく手を振った。


「師匠~!」


 ドワーフとはトラン西部に住む小人種族の一つ。身長は低いものの、力持ちが多い。そしてドワーフ最大の特徴は技術力の高さだ。彼らは手先が器用であり、鍛冶や大工として名を馳せる者が少なくない。

 目の前の彼女は全身白黒コーデ。左右バラバラのデザインのシャツを身に纏っており、質素な格好のモスよりデザイナーって感じがする(後で知ったが、モード系っていうそうだ)。お人形みたいな四頭身と、都会的なファッションセンスのギャップが印象的。髪は暗いグレー寄りで、ところどころに白いメッシュ。そして青い瞳が夕日にキラリと輝いた。


「紹介しよう、弟子のラコルンだ」


 ラコルンはニカッとほほ笑むと、ペコリと頭を下げた。いきなり呼び出されたのに、礼儀の正しい人である。コロコロ変わる表情にも、彼女の真っすぐな素直さが表れているような気がした。一方のラコルンは私の顔を繁々と覗き込んでくる。な、なんだろうか。私は顔を逸らそうとしたが、彼女は私を追尾してきた。


「師匠、この人がリンちゃんっすか!」


「ああ、そうだ」


「師匠が『リンはデザイナーのセンスがある』って話していました。だから自分は嫉妬してるっす!」


「っんえ!?」


 耳を疑うようなセリフ、だが確かにモスのアトリエでも言われた事がある。職人に「センスがある」って言われちゃった。嬉しくて、つい口角が吊り上がりそうになる。しかしラコルンへの遠慮や、本来の自己肯定感の低さがごちゃ混ぜとなり、挙動不審な返事しか出来ない。


 ――ああ、恥ずかしい!


 ちなみにラコルンはやはり真っすぐな奴だ。私だったら初対面の相手に、こんなに爽やかに「嫉妬してるっす」とは言えないだろう。彼女の言葉から発せられる爽やかな風、それが私の粘着質な部分を浄化しているような気すらした。そんなラコルンに対して、モスは淡々と仕事の指示を出す。


「ラコルン、この木製車輪を直してほしい。君の手持ちの道具で足りるだろうか」


 彼女は車輪を視界に入れると、分かりやすく眉間にシワを寄せた。何故だろう。そんなに車輪の状態は悪いのだろうか。ラコルンは馬車全体を観察。そして腰を落とすと、車輪の壊れた箇所を指でなぞった。


「短い距離の応急処置なら…、出来なくはないっす」


「よし、頼んだ」


 モスは簡潔に告げると、木陰で読書を始めた。え、彼女に任せっぱなし!? ちょっとどうかと思うので、私はラコルンを手伝うことにする。だが流石はドワーフ、彼女は私よりも大工の心得があった。しかもナイフやロープといった修理道具も常備している。私はラコルンに言われた手順で、車輪の破損箇所を補強した。あまりに手際が良いので、私は彼女に質問を投げかける。


「普段から馬車のメンテナンスとかするんですか?」


「いや、馬車に触るのは初めてっす」


「え、本当に!?」


 私の驚きに対してラコルンは苦笑した。


「師匠はいつもこうなんす…。まあ自分がドワーフだからだと思うんすけど、彼から頼まれるのは日曜大工とか、鍛冶とか、ゴーレム製造みたいな製造作業ばっかり。しかも一貫性もないし…」


「デザイナーとして弟子入りした訳じゃないんですか?」


「デザイナーとして弟子入りしたっすよ! でも師匠は滅多にデザインさせてくれないし、これじゃドワーフの里から都会にやって来た意味が…」


 ラコルンの話を聞いている間に、作業は終了してしまった。彼女の修理は適確で、馬の動きに合わせて馬車はゆっくりと走り出す。駅前までなら十分に持ちこたえられそうだ。流石に馬車に乗る訳にもいかず、私達三人は馬車の後を付いて歩いた。


 ――少しだけ、気まずい。

 

 モスと関わった時間は長くないが、私からすれば彼は頭の良い人間だ。若いうちからやりたい事が明確で、一直線にそれを叶えてしまった。そんなモスはどうしてラコルンにデザイン以外の作業を振るのだろうか。私は思い切って彼に尋ねてみた。


「モスはラコルンにどんなデザイナーになってほしいんですか?」


 ラコルンのため、というより自分の興味でもある。モスの視線が静かにこちらを向いた。う、うざかっただろうか…。しかし彼は暫く考えた後、静かに口を開いた。


「私と同じようなデザイナーになる必要はない。しかしデザイナーはいつの時代も客のニーズに寄り添うものだ」


 モスの言葉は実に彼らしいと思う。視線を落とすと彼の読んでいた本が視界に入った。タイトルは「未来のデザイナーに必要とされる十技能」。その下には小さな文字で「デザインだけでは食べていけない時代へ」とも書かれている。私はそれを見て息を呑んだ。きっとモスは弟子の事を大事に思っている。ラコルンに「ドワーフとしての強み」を強化させているのも、何か意図があるのかも…しれない。

 彼は時代と共にデザイナーという仕事が姿を変えていくことを否定するつもりはないのだろう。その本質さえ失われなければ……。

 昨日の事情聴取で、自警団員――ブリックもOBの技術や志を「受継ぐ」ことを、非常に大切にしていた。彼の熱量は団員の中で飛び抜けており、悪い言い方をすれば少し浮いているような印象を受ける。


「受継ぐって…難しいんだな」


 師匠は「弟子が必要だと思うモノ」をバトンに込める必要があり、弟子はそれを適切な方法で受け取る必要がある。私はお婆ちゃんや両親、絵の先生、アキニレ達から〝何か〟を受け取れているのだろうか。そんなことをぼんやり考えた一日だった。日が沈む時間が少しずつ遅くなっているのを感じる。


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