表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
203/224

197_魔導書購入

リンの日記_六月一日(日)


 私は魔法道具屋――ドリブンにいた。魔導書紛失に伴い、新しい魔導書を購入するためだ。店内は薄暗く、落ち着きと高級感を併せ持っている。暖色のランプが目に優しい。

 魔法道具屋にも様々な種類がある。このお店では棚という棚にギッシリと魔導書が並んでいた。無論これらの魔導書にはそれぞれ特徴がある。魔力を流した際の処理速度の速さや、記録できる魔法陣の多さ、魔導書自体の大きさ、重さなど…。あと色やデザインも千差万別だ。どれを買うべきだろうか…正直全然分からない。


「まさか、こんなに種類があるとは…」


 ちなみに前の魔導書は学校指定のものだった。それなりに高いスペックだったが、学校価格で割と安かったのを覚えている。あの時みたいに選択肢を絞ってくれた方が楽なのだが…。もちろん店員に話し掛けるのは最後の手段。私は一人でまごついていた。すると隣から聞き覚えのある声がした。中性的な声色だ。


「魔導書の勉強か? プロとして精進しているらしいな」


 顔を上げると、そこには魔法デザイナーのモスが立っていた。灰色の前髪が少し伸びており、両目がギリギリ隠れかけている。服装は前と同じ黒めのシャツ。彼はユニのライブ案件で、共に仕事をさせていただいた仲だ。仕事のためなら恥も外聞も、倫理観すら捨て去る変人である。前回案件ではアイドル――ユニのニーズを汲むため、アイドル衣装を着て踊っていた(三十代男性が)。

 ちなみに魔法デザイナーとは、魔法の効果や外観をデザインする仕事を指し、私達エンジニアと結びつきが強い。彼はフリーで活動しており、その実力は折り紙つきである。そしてよく考えると、彼は私の知り合いでも数少ない、夢を叶えた人間だ。そういった意味で私はモスを尊敬している。私は慌てて彼に頭を下げた。


「お、お久しぶりです!」


「ああ、元気にやっているかね」


「え、ええと、なんとか…」


 私の表情から彼は何かを察したらしい。


「今日は魔導書を買いに来たのかい?」


「は、はい…実は魔導書を紛失してしまいまして」


 私はここ数日の出来事をモスに説明した。彼と最後に会ってから一週間も経っていないが、悪い意味で濃厚な毎日を送っている。正直に話したけれど、彼は何と言うだろうか。プロ意識の高い人だからな…私は恐る恐るモスの表情を確認した。


「仕事道具の紛失はプロとして恥ずべきことだ。だが盗難なら災難だったな」


「いえ、私の確認不足です」


「背景は理解した。で、購入する候補は絞れたのかい?」


「それが全然で…これだけ種類があると、どこから見たものかと…」


 すると彼はムッと顔をしかめた。紛失を告白した時よりも不満そうだ。私がまごついていると、モスは私のおでこに人差し指を向ける。


「いいかい、購入すべき魔導書というのは既に決まっているのだよ」


「…はい?」


「これも一つのデザインだ。消費者、つまり君自身のことを正確に理解すれば、必要な魔導書は自ずと定まる」


 そう言って彼は胸ポケットからメモ帳を取り出した。そして私にいくつかの質問を行う。普段扱う魔法陣の容量や、前の魔導書のメーカー、予算、戦闘スタイルなど…。そして私からの返答に合わせて、モスは次々と魔導書を絞っていく。私は彼の手際の良さに、ただただ感激していた。


「観点を洗い出し、適切な優先順位をつける。例えば、リン君は仕事道具を買うのだから、仕事にならない処理速度の製品は論外」


「そ、そうですね」


「そして大きく重い魔導書は君の戦闘スタイルと合わない。これも命に関わることなので重要項目だ。あと君は新人だから、値段も気にする必要があるか」


 あっという間にモスは候補の魔導書を絞ってしまった。本当に仕事のできる人だ。それにデザイナーにも関わらず、こんなに魔導書の知識を持っているとは…。私は彼に何度も頭を下げた。それでもモスは黙々と魔導書選定の作業を進める。


「あとは色とデザイン…か」


 彼の選んだ魔導書には十種類以上のカラーバリエーションがあった。表紙の模様も千差万別。見ている分には楽しいが、この中から一つに決めなくてはならない。こればかりは自分で決める他ない。こういうのって楽しいけど、悩むんだよな…。決めかねていると、モスが口を開いた。


「選択の手助けなら可能だ。君のバッグを貸してくれないか」


「え、私のバッグ…ですか?」


 不思議に思いつつ、彼にそれを手渡す。モスはバッグを受け取ると、ストラップに腕を通した。その立ち姿はやや内股で、どことなく女性らしい。いや、これは私だ! 彼は私の真似をしている!! そしてモスの口からやや高いトーンの声が出た。


「えー、どの魔導書にしようか悩むな。正直、私の好みはこのモスグリーンのやつ。でも少し色味が明る過ぎて、都会のパリピ感があるかも! それならこっちのブラウンにしようかな。いや、でも流石に年寄り感が強いか…? 会社で毎日使うものだし、もう少し無難なチョイスで――」


 ――わあああああああ!!!


「いい!! 止めてください!!!!」


 モスはまだ何か言いたげだったが、慌てて遮った。自分の思考を言葉にされるって恥ずかしい! あと割と当たっているのが嫌!!


「大丈夫です! 自分で決めますから!!」


 私は慌てて一冊の魔導書を手に取った。ところが問題はそれだけじゃない。実はこの魔導書、少しだけ予算オーバーなのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ