世界樹のラムス
リンの日記_四月六日(日)
「おい、オレちゃん腹が減ったぞ」
甲高くて馴染みのない声がする。まだ眠いのに…。
「腹が減ったぞ!」
何かに鼻をつつかれ、私は飛び起きた。眠い目をこすると、目の前で何かがちょろちょろ動いた。
――ドラ…ゴン?
目の前に小さなドラゴンがいた。全長四十センチ程で二頭身。白寄りのライトグリーンで、紅色の大きな瞳がこちらを向いている。そして額にはたんこぶ…。そのたんこぶを見て、私の脳は覚醒した。ダンジョンにいたあのドラゴンだ!
「何でここに!?」
私はベッドから転げ落ちるとすぐそこのバッグまで駆け寄る。そしてバッグに入れっぱなしの魔導書を取り出した。
「ヴレア・ボール!」
【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】
手元に火球が生成される。私はドラゴン目掛けて勢いよく火球を放った。魔物は慌てて窓を開け放ち、すんでのところで私の火球を回避。火球は窓枠をくぐり、部屋から飛び出していった。
「バカ! 家が燃えたらどうすんだ!!」
えらく常識的な事を突っ込まれた、魔物のくせに。私は一先ずヴレア・ボールを解除する。無論警戒は解かないが…それでも会話は通じるようだ。
「アンタは?」
「オレちゃんはラムス。世界樹に連なる聖なるドラゴンであるぞ!」
チビドラゴンがそう叫んだ時、昨日と同じように手の甲がヒリヒリと痛んだ。手を見ると見覚えのない紋章が焼き付いているではないか。葉っぱと太陽をアレンジしたような模様。プラナリが使っていたマークとは少し異なる。
「おお、それは神聖なる契約の証ではないか!」
「これ、アンタがやったの?」
「記憶はないが…そうなのであろう! ほら格好いいであろう!!」
「陽の者が入れるタトゥーみたいでチャラい…最悪」
私は思ったことを素直に伝える。魔物に気づかいは無用。
「神聖な紋章になんて事を言うんだ! さっきからお前の偏見割と酷いぞ!!」
「魔物が常識を語るな」
そもそもコイツはどうやって侵入したのだ? よく見ると私のバッグがパンパンに膨らんでいた。今は殆ど何も入っていないところを見るに…このチビはバッグに詰め込まれていたのだろう。もしかするとあのクソ司祭服に? クソドラゴンと睨み合っていると、階段をパタパタ駆け上がる音がした。
「リン、大丈夫!?」
「アセロラ!?」
「外で洗濯物を干してたら、リンの部屋から火球が飛んできたから!」
ああ、そういう事か…。彼女はドラゴンに気がつくと「きゃあっ!」と悲鳴を上げた。
「ま、ままま魔物!?」
「アセロラ落ち着いて、コイツは私が倒す」
「だからオレちゃんは敵じゃないっ! むしろオレちゃん達は一蓮托生なんだぞ!!」
――一蓮托生?
「それは命乞いと捉えていいの?」
「オレちゃん達は魔力を共有している! このラムス様を殺せばお前もタダじゃ済まないぞ!!」
「そういう言い方をするって事は、アンタは強くないのね」
私とチビドラゴンは互いに睨み合っていた。バチバチと火花が散っている。魔物の中には人間と共存している者もいるらしい。(私は見た事ないけど)しかしこのチビドラゴンは私を襲った司祭服の仲間なのだ。この魔物のいう事は信用ならぬ。




