表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/152

019_ラムス

リンの日記_四月六日(日)


「おい、オレちゃん腹が減ったぞ」


 甲高くて馴染みのない声がする。まだ眠いのに…。


「腹が減ったぞ!」


 何かに鼻をつつかれ、私は飛び起きた。眠い目をこすると、目の前で何かがちょろちょろ動いた。


 ――ドラ…ゴン?


 目の前に小さなドラゴンがいた。全長四十センチ程で二頭身。白寄りのライトグリーンで、紅色の大きな瞳がこちらを向いている。そして額にはたんこぶ…。そのたんこぶを見て、私の脳は覚醒した。


 ――ダンジョンにいたあのドラゴンだ!


「何でここにいる!?」


 私はベッドから転げ落ちるとすぐそこのバッグまで駆け寄る。そしてバッグに入れっぱなしの魔導書を取り出した。


「ヴレア・ボール!」


 私の手元に火球が生成され、ドラゴン目掛けて一直線に火球を放った。魔物は慌てて窓を開け放ち、すんでのところで私の火球を回避した。魔物の回避した火球は部屋から飛び出していった。


「バカ! 家が燃えたらどうすんだ!!」


 えらく常識的な事を突っ込まれた、魔物のくせに。私は一先ずヴレア・ボールを解除した。勿論警戒は解かないが…それでも会話は通じるようだ。


「アンタは?」


「オレちゃんはラムス。世界樹に連なる聖なるドラゴンであるぞ!」


 チビドラゴンがそう叫んだ時、昨日と同じように手の甲がヒリヒリと痛んだ。手を見ると見覚えのない紋章が焼き付いていた。葉っぱと太陽をアレンジしたような模様だ。プラナリが使っていたマークとは少し異なる。


「おお、それは神聖なる契約の証ではないか!」


「これ、アンタがやったの?」


「記憶はないが…そうなのであろう! ほら格好いいであろう!!」


「陽の者が入れるタトゥーみたいでチャラい…最悪」


「神聖な紋章になんて事を言うんだ! さっきからお前の偏見割と酷いぞ!!」


「魔物が常識を語るな」


 そもそもコイツは不法侵入である。よく見ると私のバッグがパンパンに膨らんでいた。今は殆ど何も入っていないところを見るに、このチビはバッグに詰め込まれてここまで来たのか。もしかするとあのクソ司祭服に? クソドラゴンと睨み合っていると、階段をパタパタ駆け上がる音がした。


「リン、大丈夫!?」


 アセロラが部屋に飛び込んできた


「アセロラ!?」


「外で洗濯物を干してたら、リンの部屋から火球が飛んできたから!」


 ああ、そういう事か…。

 彼女はドラゴンに気がつくと「きゃあっ!」と悲鳴を上げた。


「ま、ままま魔物!?」


「アセロラ落ち着いて、コイツは私が倒す」


「だからオレちゃんは敵じゃないっ! むしろオレちゃん達は一蓮托生なんだぞ!!」


 ――一蓮托生?


「それは命乞いと捉えていいの?」


「オレちゃん達は魔力を共有している! このラムス様を殺せばお前もタダじゃ済まないぞ!!」


「そういう言い方をするって事は、アンタは強くないのね」


 私とチビドラゴンは互いに睨み合っていた。バチバチと火花が散っているのが分かる。魔物の中には人間と共存している者もいるらしい。(私は見た事ないけど)しかしこのチビドラゴンは私を襲った司祭服の仲間なのだ。よってこの魔物のいう事は信用ならぬ。私たち二人と一匹の間に沈黙が流れる。


「ちょっと状況が掴めないけど…」


 アセロラがそう言うから、私は金曜日の出来事を洗いざらい彼女に説明した。ダンジョンに行って隠しエリアを見つけた事。司祭服とこのクソドラゴンに襲われて意識を失った事、さっき目を覚ますとそのドラゴンが目の前にいて、手の甲に変な紋章が浮かび上がっていた事…。


「これどうしよう。アキニレに相談しようかな」


 手の甲をアセロラに見せたが、彼女は首を横に振った。


「私が言うのもなんだけど…暫く誰にも言わない方がいいかも」


「え、そうかな…」


「多分、本当に信用できる人にしか話さない方がいい…それくらい複雑な話だと思う。アキニレは先輩としては尊敬できるよ。でも出会って六日間しか経たないのも事実だし…全部相談するのはリスクがあるかも」


「そ、そっか…」


「大丈夫、私は絶対秘密にする」


「あ、ありがとう」

 

 あ、アセロラと秘密を共有してしまった! 心配そうな彼女をよそに、私は内心でにやついていた。〝友達と秘密の共有〟何かいい響きである。(気持ち悪い奴でごめんなさい)


「でもそれならこの子はリンが面倒を見るの?」


 は?


「大変名誉な事であろう。誇るがよい!」


 チビドラゴンは「うんうん」と満足げに頷いている。


 え、普通に嫌なんだが…。


 やっぱコイツ、オークションとかで売りさばけないだろうか。高値はつきそうだし…今度出品元が割れないオークションがないか調べてみよう。高笑いする魔物をシカトしつつ、私は密かに決意するのだった。

 社会人になって長い一週間がやっと終わった。アセロラは可愛いし、先輩社員――アキニレもいい人だった。業務にも段々と慣れていければと思う。特に私は学校で魔法を専攻していたアセロラと違い最低限の知識しかない。技術面はとにかく積極的に学んでいきたい! そしてプラナリとラムス…

 ――まだ分からない事だらけだが、私の社会人生活の幕が開いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ