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015_新入社員と司祭服

「アキニレ、リンこれらの結界は解除できそうでしょうか」


 副団長が私たちの後ろから訪ねた。

 私たちの会社――ワークツリーは魔法道具の会社だ。その仕事は魔法道具の製造だけではない。ダンジョン内の魔法道具について仕組みを調査し、危険なトラップを停止させたり、必要な装置を動かしたりする事もある。

※アキニレからの受け売り


「そうですね…」


 少しの間、アキニレが考え込む。


「この魔法道具がダンジョン出現時に生まれたダンジョンの一部なら、解除できる可能性は高いです。ダンジョンのトラップや装置は大方が攻略できるように作られていますから…。しかし誰かが後天的に持ち込んだものならば、本人以外には解除できない仕掛けを付けている可能性があります」


「なるほど」


「とにかく出来る限りの事はやってみます」


「承知しました。お手数をおかけしますが宜しくお願い致します。」


「一先ず装置を見てみますね」


 アキニレは魔法陣に近づくと、魔法陣表面の呪文を読み取り始めた。私も出来るだけ参加しようと後ろから魔法陣を覗き込む。きっと表面の呪文なんて氷山の一角に過ぎない。しかし【ヴレア・ボール】と比べて複雑な呪文である事は一目でわかった。


「かなり複雑なプログラムだなー」


 なんて言いながらアキニレは魔法陣を指でなぞっていく。


「リンも気が付いた事があれば何でも言ってね。俺にない知識もあるはずだから」


 アキニレに分からない事は私にも分からないのでは? なんて思うが、魔法の世界は広く深く、魔法使いは互いに全然違う知識を持っている事が少なくない。何故なら本や論文に貴重なものが多かったり、研究テーマが魔法使いによって大きく異なる為だ。あと秘密主義な魔法使いも多いし…。まあそうは言ってもこの呪文は私には難しすぎる様ではあるが。


「ここを…こうかな?」


 アキニレが魔法陣の図形の一つに触れると、魔法陣の手前にテキストボックスが表示された。テキストボックスの上部には「パスワードを入力してください」と表示されている。


「弱ったな…やっぱり誰かが設置したものかも」


 この結界魔法を解除するにはパスワードを入力するか、強引に結界を破壊するかしかないようだ。結界を張ったのはやはりあの司祭服かもしれない。


「困りましたね…」と私もその画面を覗き込む。


「ああ、せめて司祭服の彼が何者か分かればいいんだけど…」とアキニレ。


 彼が何者か分かれば…か。


――待てよ、そういえばあの司祭服の背中には大きな紋章があった。


 金色で大きな樹の形だ。あの紋章について分かれば、あの男が何者なのか突き止められるかもしれない。私はノートを取り出すと例の紋章を簡単にスケッチしてみた。そうだ、こんな感じだ。手を動かすと段々と記憶がよみがえってくる。完成したスケッチをアキニレにも見せたところ、彼は目を丸くした。


「大きな樹か、なるほどねえ…」


 副団長も私のメモ帳を覗き込むと眉間にシワを寄せた。


「この紋章は〝世界樹の青窓〟でしょうか…冒険者ギルドとしてはあまり関わりたくない存在ですね」


「そうですね、〝世界樹の青窓〟が後天的に設置した魔法道具なら…パスワードが分からない以上解除はできません。落盤の危険もありますしゴリ押しで結界を破壊する事も推奨できません」


 アキニレが静かに告げると副団長も頷いた。


「分かりました。この件は一度持ち帰って検討したいと思います」


「最後までお力になれず、申し訳ないです」


「いえ、冒険者の世界ではよくある事ですので」


 ――副団長の決定により今回の探索は打ち切りとなった。


「リン、一先ずゴーレムのいた場所まで戻るよー」


 既にアキニレと副団長は隠しエリアの入り口まで戻っていた。私もメモ帳を鞄にしまい込むと彼らを追いかけようと立ち上がる。一先ず大きなトラブルもなく帰れそうで良かった。体力には自信があったけど慣れない道でだいぶ足首が疲弊していた。そう思った時――


「ここまで辿り着けてなによりだ」


 背後から声がして私は咄嗟に振り向いた。

 振り向くとそこには例の司祭服が立っていた。暗がりの中、魔法陣に照らされて深緑色の司祭服が光沢を帯びている。

 恐らく私より年上…だが具体的なところは推測し難い。大柄で男性らしい顔立ちをしているが肌は陶器のように白く、髪は淡いモスグリーン。そしてその目は死んだ魚のようにハイライトがなく、湖の底のような暗い水色をしていた。


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