4話 出立
お爺さんの家には人というか、獣人が集まって宴会が始まってしまった。
とても我慢していたようで、皆がガトの死を喜んでいた。
その宴の際に度々、僕は獣人さん達に礼を言われた。
思わず泣き出してしまう方もいた程だ。
用意される食べ物はささやかではあるが、これからの村の未来を語って賑わうのを僕は大人しく眺める事しかできない。
僕としてはこの村の為になる事をしたと思うのだけど、人の町までの旅程をどうするのかは気になった。
「あの、お爺さん。 人の町までの事なんですけど、誰か案内を頼んでも良いでしょうか?」
少しお酒に酔ったような顔をしたお爺さんは、ゆっくりと返事をするが、悩んでいるようだった。
「あたしが、あたしがミニャトモと一緒に行くにゃ!」
すでに自己紹介は行ったが、ミアは、僕の名前を正しく発音してくれない。
というか、ミアが僕の腕を取って、お爺さんに宣言した。
「いや、何をいっとるのじゃ。 お前はまだ若い。 案内できたとしても、一人で帰るとなるととても。」
そう言ってミアの提案を、やんわりと窘めた。
確かに、人の町まで送ってくれた後、この子を村まで帰らすには危ないと思う。
そんなお爺さんに、ミアは頭を振った。
「あたし決めたにゃ! ミニャトモと番になって一緒に暮らすにゃ!」
その言葉に、集まった獣人達が、どよめきが、そして様々な言葉がなげかけられた。
「そうかそうか、とうとうミアちゃんがねぇ。」
「ミアさんもそういう年頃になったか。」
「ミアちゃんのおとっちゃんもこれで安心できるね。」
口々に勝手な事を言っているようだ。
なんだか、僕と一緒に行くはともかく暮らすというのは、さすがにマズイのではと、お爺さんの方に顔を向けると。
「そうか~。 ミアも立派な大人になったんじゃの~。」
と、感慨深げに認めているようだ。
まだ、獣人にしては子猫の部類に含まれると思うのだけど、一緒に暮らしてもいいのかな。
何か周りがそう望む雰囲気を出しているので、人間の僕と感性が違うのかなと思ってしまう。
もはや、ミアと僕が一緒に村を出るのが決まったという雰囲気が出来つつあった。
なので、僕はペットとして扱う感じなら子猫でも普通かなと思い込む事にした。
「それじゃあ、改めてミアをよろしくにゃ! ご主人様。」
そう言って、ミアは僕の腕にスリスリと頬ずりした。
ちなみに、番ってなんだろう? 僕はその疑問を問いかけるキッカケをつかめず、なし崩しに進んでいく状況を見て、まあ、飼い主みたいなものかなと思った。
そして宴もそろそろと、集まっていた獣人達も少なくなってきた頃、新たな客が現れた。
着ている服は短くあしらえてあるものだが、他の獣人達と同じような質だ。
だが、白い髪と尻尾が凄く目を引く。 顔立ちも幼いなりにとても整っており、将来美女になるだろう。
けれども、その有無いわさない態度と、その目がただ事ではないと思えた。
「おお、ルナよ。 お前も大変だったのぅ。」
そう話かけるお爺さんに、ギロっとした目を向ける。
「誰? ガトを殺したのは、誰よ?」
殺したのは村の人達だ。 僕は倒しただけなので、ちょっと目を逸らした。
「そちらにおる。 水巴様じゃ。」
いや、僕殺してないから。 とは言え、その必死さを物語るルナの目と合ってしまった。
ルナは僕に掴みかかって、身体を揺する。 凄い力だ、大人しくしよう。
「どうして。 どうして今になってなのよ!? 私が、もう、諦めてたのに‥‥。」
そこまで言うとルナは突然泣き出した。
子供のようにワンワンと、そしてウオォ~ンと遠吠えのように泣いた。
僕の服をしかっと掴んで泣いてるルナにお爺さんが語りかける。
「ルナよ。 もうあ奴はおらん。 これからはまた皆と平和に暮らそう。」
「ふざけないでっ!!」
お爺さんの優しい言葉に激しく反抗の意志を告げる。
「いままで、誰も助けてくれなかった。 誰も、見て見ぬふりしてきたじゃない。」
「それは、あ奴が強すぎたんじゃ。」
「皆、自分じゃないからって、私が犠牲になるからって安心してたんでしょ!」
恐らく、ガトの犠牲者なんだろうとは分るんだけど、お爺さん達だって、親しい人達を殺されているのだ、その言い草はあんまりだ。
「私はもう諦めた。 諦めて、あいつに、そのまま私の面倒を見てもらうって決めて生きてきたのに。」
嫌いな奴と添い遂げる覚悟とは僕には想像がつかないが、きっと大変な事なんだろう。
めちゃくちゃ、この子身体震えているし。
「もう大丈夫じゃて。」
お爺さんの言葉にイヤイヤと拒絶する。
「こんなのあんまりよ。 お母さんもお姉ちゃんも、あいつに殺された犠牲が報われない。 私だけが生き残って‥‥何て考えてない!」
「お主の辛さも皆分かってくれるて。 村の皆とこれから頑張ればええ。」
お爺さんの声は、どうやらルナの心には響かないようだった。
そして、その燃えるような瞳が僕に向けられた。
「あなた! 責任を取って! 取りなさいよ。 私が諦めて面倒を見させようとしたあいつに代わって、あなたが私の面倒を一生みなさいよ!」
僕はとんでもない言いがかりに困ってしまう。
だが、彼女の涙と、震える身体が、とても可哀想に思ってしまった。
思わず、頭に手を乗せ、なでなでとしてみると、耳を倒して素直に受け入れてくれる。
「お願い‥‥。」
力なく願う彼女に、ちょっと同情したのだ。
「わかりました。 えっと番ですか? 彼女も一緒に僕が面倒みましょう。」
この際、ペットが1匹から2匹に増えようが問題無いだろう。
ただ、寿命が長そうなので世話も長くなりそうだが、意思の疎通ができるだけ、飼うとしても多少は楽にできる部分はあるだろう。 もうやけでもある。
「本当に良いの?」
そう言って尋ねるルナは、とっても愛らしくみえた。
「僕なりに頑張るから、これからよろしくね。」
僕がそういうと、ルナは僕から少し離れた所で、姿勢を正して座り、僕に向かってかしこまる。
「ルナと申します。 主様、これから末永くお願いします。」
何だかあてられて僕の方が照れてしまう。
「あたしの方が先に番ににゃったにゃ!」
そう言って、ミアが僕の腕を取ってひっついた。
それに対抗して、ルナも反対の腕を取ってひっつく。
「私も主様の番です!」
やれやれ、意思疎通が出来るといっても飼い主って大変だな。
「まあ、2人ともこれから仲良くやろうよ? ね?」
そう言って、2人の背中を撫でると、それぞれ気持ち良さそうな声をあげて大人しくなってくれた。
結局、夜の遅くまで残ってくれた獣人達と宴も終わって、そのまま僕はお爺さんの家で眠る事になったのだが。
前はみすぼらしい布団で、余り暖かさも感じないものだったが、飼い主の僕と一緒に寝るのが普通なのか2人というか2匹のおかげで、あったかく眠れた。 産毛と毛の質だろうか、あと、ほのかに香る獣っぽさも何だか気持ち良さを高めさせる。
起きていると、まだ子供と思える子達でも眠るとぬいぐるみを抱いている感じで、なんか凄く良かった。
朝起きて、お爺さんと一緒に食事をとり、早速人の町までの準備を始める。
ミアとルナは日持ちのする食料の確保を。
僕は、お爺さんと村の外に詳しい獣人の人と話して、道の説明を受ける。
基本道すがらに進めば辿りつくそうだが、歩きなので、かなり大変らしい。
途中で休む時の話や、夜を明かす時の話、その辺りは僕の知識でもなんとかなりそうだけど、道中は魔物に気を付けると言うのはさすがに違うなと思った。
人の町までの大雑把な地図と、簡易的に休む為の敷物や、雨よけに使う大きなホロというか簡易テントのセット、野外で調理に使う道具類、旅支度の必要な物を集めていると、結構な量だった。
これに、ミアとルナが持ってくる食料を合わせると、凄い重量になるのだが、お爺さんは気にしている様子はない。
「あの、結構な量になるんですが、大丈夫なんですかね?」
「水巴様はストレージ持ちなのでしょう。 なので、村でできる限りの準備をさせて頂きますぞ。」
あっそうか。 僕の収納魔法?を見てたからか。 あの業、ストレージって呼ばれているのかと僕は認識した。
「えっと、ミアとルナはストレージを使えますか?」
「ふむ。 ストレージは高い魔力と知能が無いと使えぬと聞いておる。 獣人は人間より比較的高い能力を持つと言われておるが、高い知能と言うのがどれほどの事を指すのか、ワシは分からん。」
どうやらお爺さんの話によると、ミアとルナは才能はあっても、今は使えないって事らしかった。
という事は、僕が全部の荷物を持つという事か。
確かに、重さとか手持ちの良さは便利なんだけど、頭の中のデスクトップがごちゃごちゃ埋まるのは、意外と面倒というか負担になるんだけどなあと思いつつも、便利なものは使わないとで、慣れるしかないと諦めよう。
こうして、僕達3人は、獣人達に見送られて、人の町へ向かって出立したのだ。
大きな物など、かさばる物は基本僕のストレージへ。
小物や、今日消費するであろう食料等は、手持ちのカバンなどにそれぞれ別けて持つ事にした。
なので、ぱっと見た感じは、ちょっと村の外にピクニックに行くような恰好にみえる。
お爺さんに聞いた話だと、人の町に行く時は結構大がかりな準備を持って行くのだとか、後は人間の人がたまに商売に立ち寄る事があるらしいが、貨幣が余り無い村ではなかなか交流が浸透するのもまだまだ先の話になりそうだとか。
僕と並んで歩く2人は、初めて村を出るらしく、僕の不安を解消してしまうほど楽しそうである。 しかも元気もあるし、僕よりタフなのかもしれない。
何時間か歩いたとこで、休憩とするが、僕の方が疲労が早い気がするのはちょっとショックだ。 無限の体力に感じる2人に、苦笑いするしかない。
休憩となり、僕は、手持ち用に持っている水筒からコップに水を注いでいると、2人も欲しがったので2人にそれぞれコップを用意して注ぐ。
冷たい訳では無いが、喉が潤うだけでも満足と言ったところだ。
そんな僕にルナが提案してきた。
「その水を冷やしましょうか?」
「冷やす? えっと、そんな事できるの?」
「はい。 大量の物はまだ無理ですけど、その水筒の中くらいなら。 頑張れば凍らせれますけど、そこまでは必要ないですよね?」
「ああ、じゃあよろしく。」
そう言って、僕はまだ沢山入っている水筒をルナに渡した。
ルナは、水筒に手をかざし、真剣な表情で祈るような感じだった。
長いって程でもない、電子レンジであっためるかなといったくらいだろうが、はいっと笑顔で水筒を渡された。
渡された水筒は、器がすでにひんやりとしていた。
そして、コップに水を注ぐと仄かに冷気が漂っていた。
僕は、それを少し口に含むと、キンキンに冷えている。
凄い。 思わずテンションが上がる。
「えっと、どうやったの? もしかして魔法?」
「はい。 私は冷気系の魔法が少し使えます。 といっても大した事はできませんけど。」
そういって、困った顔をさせるが、僕はルナの手をとる。
「いや凄いよ。 魔法使えるんだから。」
僕がルナを褒めていると、今度はミアが僕に背中から引っ付いてきて言った。
「あたしだって、魔法くらい使えるにゃ!」
なんと、ミアも魔法使えるらしい。
「そうなんだ! 凄い!」
そう言って、僕はミアをよしよしと撫でると、ミアは誇らしげだ。
「あたしは火を扱えるにゃ! ルナより偉いにゃ!」
ルナはちょっと不貞腐れたような顔で膨れるが、僕は魔法を使えるという2人に感動したのだ。
とりあえず、2人を一緒に凄い凄いと褒めながら頭をなでなでさせると、2人とも気持ちよくしてくれたので、これでいいのだ。
僕もなんか魔法使えたりして。 魔力があるのは間違いないし。
ただ、こっそり、色々と属性に沿ったゲームでよく言われる魔法を言ってみたが、何も起こらなかったので、何かの手順があるのかもしれない。
そういう意味でも、人の町で教わる事も重要な目的と言って良いだろう。
村を出て森や、勾配のある所と、休みをいれながら進んで来たが、もうじき夕方となる。
開けた場所を選び、道から少々離れた所で、野営をする準備に取り掛かった。
火をおこし易くする道具は貰ったのだが、ミアが火の魔法を使えるのなら要らなかったかもしれない。
僕は、簡易的なテントを作り、寝る場所を確保。
ルナは夕食の下ごしらえ。
ミアは焚火の準備と火の準備と作業をちょっと分担した。
僕の作業が終わったので、各自の手伝いへと見て回ると、ルナはまだ終わってはないが、手伝いを断られた。 任せて欲しいらしい。
そして、ミアのところへ行くと、結構いい具合に焚火の準備は出来ていたが、まだ火はついていなかった。
「後は火をつけるだけだね。」
「にゃあ! そうにゃ。」
僕に声をかけられて驚くミア、そして積んだ薪に手をかざして、凄いふんばっている。
すると、手のひらからささやかな炎が現れる。 しかし、火をつけるには少し火力が足りないのかジジっと焦がして煙が出るまでにしか至っていない。
もうちょっとなのだと、見ている僕も力が入る。
そうだ、僕も真似して応援してあげよう。
僕は、ミアが出した小さな炎に手をかざして燃えろ~と念じてみた。
ブオッ
突然、火力が上がり、一気に燃え広がる。 ヤバイ燃えすぎ、火力ですぎ!
僕とミアは、慌てて距離をとった。
すると、魔力の供給を失った炎は普通の炎となり、僕とミアは安堵する。
「びっくりした。」
「にゃあ!」
お互いに驚きに返事をするが、ミア自体も驚いているので、思わず笑い合った。
夕飯は、ルナが用意してくれた鍋を温めて、それをみんなで食べたが、僕の舌にもちゃんと合って美味しかった。 ただ、肉が使って無かったのが残念だけど、まあお腹が膨れれば当面は良いだろう。
夕飯を食べ終わる頃には、もうすっかり辺りは暗い。
まだ余裕のある水を使い、桶を使って、使った食器を軽く水で洗う。 ホントは洗剤もあればいいのだが、まあ、何度も使う食器でもないしある程度使ったら使い捨てるものだろう。 僕の作業をそれぞれ手伝ってくれたので、片づけは結構手際良く終わった。
汚れた水はそのまま打ち捨てれるとはいえ、この汚れさえ分離できればまだ水を使えるのになあと、汚れて濁った水を眺め、捨てた。 便利な魔法あればいいんだけど。
そのまま食後の休憩を取ってから就寝と行きたかったが、こういう時は、見張りで1人は火の番をしておくのがセオリーではある。
しかし、2人は子供だし、初めて村から遠出をしたため、すでに眠そうなので先に休ませた。
一緒に寝たいとは駄々をこねられたが、先に眠らせると、もう2人はすやすやと仲良く眠っている。
後で僕も隣で眠る予定だが、何かこう良い方法、魔法、スキルは無いかな~。
そんな事を思いながら、焚火を眺めていた。
火の勢いと、薪の量からして、明け方には火が無くなるかな~といった感じではある。
う~ん。
武者小路さんの魔力の使い方を頭に思い出して見る。
おっ、これ良いじゃん。
魔法と言うには地味だが、武者小路さんの経験を魔力と併用した業だった。
僕は地面に手をつけ念じる。
「知覚陣。」
これで、ここから10mくらいの範囲に外敵が侵入した場合、僕がそれを察知できる。
陣の効力はかなり余裕がありそうなので、朝になっても切れる事はないし、解除もわりと容易い。
まあ、戦場で戦うにはこういった業は必要だったんだろうけど、良い業だ。
僕は、安全策が取れたと、2人が先に寝てるテントへと入る。
とりあえず衣類を脱いでおきたいが、万が一があるので、下はそのまま上着だけ脱いで、隣へ横になってシーツに潜る。
大き目のヤツを貰って良かった、3人で寝てもゆとりがある。
「主さまぁ~。」
寝ぼけた感じでルナが僕に抱きついてきた。
すでに意識が無い感じなので、まるでぬいぐるみだ。 あったかくてふわりとしてる。
このままルナに手を添えて、僕は眠りについた。
不意に頭に痛みが走る。
強烈な不快感に、一気に目が覚めた。
どうやら、魔物が僕らを値踏みしているようで、すぐに襲ってくるようではなさそう。
まだ、距離に余裕はある。
なるほど、これは便利だ。
起きてしまえば、僕にはあの能力がある為、反撃は容易だろう。
しかし、相手が襲ってこないなら、迎え討つしかない。
いつの間にか、僕に抱きついて眠っている、ミアとルナを起こさないよう、気を付けてテントの隙間から外の様子を窺う。 もちろん手には村正を手にしている。
月明かりに照らされて、影が数体。 その形状から獣、狼だろうか?
ちらっと、ルナを見る。
ルナは犬っていうより、狼の獣人だよな? 犬って言って間違えたら傷つくかも。
などとどうでもいい事が不意に浮かんでしまう。
おそらく、眠っているのを探っているのか、未だに向かってこない魔物に、僕もしびれがきれる。
観念して、僕はテントから姿を見せる。
僕の姿をみて、魔物達は散開して、僕を囲み、グルルルルと唸り声をあげた。
「襲ってくるなら、さっさと来てくれよ。 僕は眠たいんだよ。」
僕の言葉が分るのか、魔物達は四方から飛び掛かってきた。
「ほい。 ほい。 ほいっと。」
僕は飛び掛かってきた魔物を、流れるように、刀で切り飛ばしていく。
魔物とは言っても、僕からみたら大きなワンころにしか見えない。
あの、死を感じた時に起るスキルが発動することなく、迎え討った。
離れたとこにいた魔物は、唸るだけで、僕にかかってくる様子がない。
「ほらほら、遠慮しないでおいで~。」
僕がそういって手招きすると、ひと吠えして、残った魔物達は逃げて行った。
「ふむ。 あ、これ良い肉になるかな?」
僕は、斬り殺した魔物を全て回収すると、再びテントの中で眠りにつくのだ。




