3話 決闘
気づいたら僕は眠っていたようだ。
なんだか、みすぼらしい布団に眠らせらていたようだが、どうやら昨日の出来事は夢では無さそうだった。
しかし、良く眠れたおかげで、気分はかなり良い。
後はお風呂に入って汗を流せば完璧だ。
とは言え状況は未だに理解出来てない。
猫型の人っぽい女の子につられて行って、その子のお爺さんに紹介されたあたりでなんか力尽きた気がする。
残念ながら、名前も何て言ってたか覚えていない。
まあ、ここで2度寝をするのも悪いので、起き上がる。
部屋を見渡せば、古い作りの木造の建物のようだ。
田舎で暮らしていた僕にとっては、それほどとは思うけども、やはり時代がかなり古いように感じる。
だが、いちいち人様の家にケチを付けてもしょうがない。
僕は、隣の部屋に移動した。
そこにはお爺さんが、部屋の中で何やら作業をしているようだった。
僕の姿を見て、声をかけてくれる。
「おお、起きたか。 どうじゃ具合は?」
「はい、おかげさまで。 ただ、少しお腹が空いた程度ですね。」
「そうか、もうじき昼時になるでな。 孫も帰ってくるので、食事は少し待ってもらえるか?」
「ええ、全然。 むしろ助けて頂き、ありがとうございます。」
「ふむ。 やはり、お主は少々他の人間とは違うようじゃの。」
そう言って、僕をテーブルのある椅子へと勧めてくれたので、僕はそれに従って椅子に座った。
お爺さんは奥から、飲み物を用意してくれたので、僕はそれを飲んだ。
何だか麦茶のような味だが、それよりは苦味があり少し青汁さがあった。 それでも、身体が水分を欲していたようで、ゴクゴクと一気に飲んでしまった。
僕のその姿を見て、お爺さんはにこやかに笑っていた。
改めてお爺さんを見るが。
見事な白髪で、髭を長くさせているただのお爺さんにしか見えない。 だが、その頭には少ししなった耳が生えているのが唯一のおかしな部分に見えた。
門で見た、男の人のような動物っぽい顔付きをしているわけではなかった。
「ところで、お主はどこからやって来たのじゃ? この村を訪ねて来た訳ではないようだし、そもそも旅をしてきたような恰好には見えぬのじゃが?」
「えっと、この村の付近の洞窟から。 僕の町から外れた場所にあった洞窟とその中が一時的に繋がったらしく、こっちの世界に迷い込んだみたいです。」
「死の洞窟から? その先に違う世界とな。」
僕の言葉に深く考えを巡らせているようだった。
「にわかには信じられぬが、もしそれが本当だとしたら、そなたは伝説の異形の戦士という事か。」
伝説はともかくとして、僕は戦士ではないのだが、しかし、今となっては戦える術があり、生きてあそこを突破出来た以上、戦士としても一人前とも言えそうだ。
「別に伝説とか大したことはなくて、むしろ迷い込んで帰り道を失って困っているだけです。」
「では、これからどうする予定じゃろうか?」
「そうですね。 出来れば、人のいる場所、町まで案内してもらったら、そこからまた考えたいと思います。」
もしかしたら、この世界に紛れ込んだ使命の話が聞けるかもしれないし、後はこの世界でどう生きていくかを考えなければならない。
「なるほど。 しかし、我々は人族とは、余り良くない関係でしてな。 この国の町はともかくとして、人族から逃げるようにして、こうして暮らしているのじゃ。」
「つまり、余り人との交流が無い感じでしょうか?」
「そうじゃ。 ただ、この辺りの領主は、獣人にも余り差別意識が低い為か、我々の暮らしには干渉されていない為、今は平和に暮らせているのじゃ。」
獣人族、改めて聞くと実に不思議である。
だが、対等という事でも無さそう。
「では、人の町までの案内は、無理そうですかね。」
「ふむ。 もちろん道筋くらいは教えてはあげたいが、誰かを付けるともなるとなぁ。」
お爺さんが、そう返事を考えていると。 元気良く猫娘が帰って来た。
「ただいまにゃー。」
「おう、おかえり。 それじゃあ、昼ご飯の準備をしようかの。」
「じゃあ、あたしも手伝う‥‥。」
僕の顔を猫娘が見て、その動きが止まる。
「にゃー。 本当に生き返ったにゃー。」
そう言って、僕の顔をぺちゃぺちゃと触りまくる。
「ほっほっほ。 死んではおらんと言うたじゃろうに。」
その言葉に、僕は乾いた笑いをするしかなかった。
猫娘は、お爺さんと一緒にご飯の用意をしているようだ。
僕は、テーブルに座り、考える。
確かに、これから人の住む町へ行くのが筋書きだろうが、助けてもらったお礼もせずに、村を出るのはどうなのか?
とわいえ、このままこの家に厄介になるのも気が引けるのも事実。
正直、見たところ、裕福に暮らしているようにも見えない。
そうだよな、僕は何か手伝える事をやらないといけない。
そう心に決める事にした。
それから、食事となったが。
運ばれたのは、お粥のような、猫まんまのような物と、先程の青汁もどきだった。
僕だけの料理でもなく、2人とも同じものを並べているので、これがいつもの食事なのだろう。
僕は、猫娘になんだか期待の目で見つめられながら、その料理を口に含んだ。
まあ、普通に食べれる味だった。 不味い物でもない。
なので、僕はそのまま、食べる。 食べると不思議と空腹に凄く染みて、より身体がそれを要求してくる感じだ。
なので、ぺろりと出された料理を平らげてしまった。
それを見て、お爺さんはともかく、猫娘は嬉しそうに食事をしていた。
すいません。 なんだか食い地が悪いみたいな感じで。 お腹空いていたんです。
僕は、少し恥ずかしくなっていた。
「人間には余り口に合わんとは思ったが、中々、良い食いっぷりじゃの。」
「お腹が空いていたらしくて。 ありがとうございます。」
「あたしが作ったにゃ!」
そう言って猫娘が自慢してきたので、僕はその頭をなでなでしてあげた。
いや、肌触りが、本当に猫だな。
「あの、色々と助けて貰ったお礼と言う事じゃないんですが、僕に力になれる事はないでしょうか?」
僕は、食事を食べ終わった猫娘を、なでなでしながら尋ねた。
「ふむ。 お主があの死の洞窟を越えてこれたと言うのならば、相当の手練れなのじゃろう。 見たところ、魔法を使う者じゃろうか?」
僕が何も持っていないので、まあ、ただそういう理由なのだろう。
「いえ、魔法を使える訳ではないですが、あの洞窟くらいの怪物なら問題無いですね。」
そう言って、僕は笑って見せた。
「なんとっ! あの洞窟の魔物を倒せると!?」
「はい。」
「あそこの魔物は、この村の腕自慢が集まって、ようやく何とか倒せるというのに。」
「でも途中でヤバイの居たので、そいつはキツイかもですね。」
「ああ、あの洞窟の主は、わしらの同胞がついぞ敵わぬモノじゃった。 命からがら逃げて来れた者もその恐ろしさに2度と戦えぬようになるほどじゃ。」
「まあ、倒しましたけどね。」
そう言って、ぐっと親指を立てると、お爺さんはたまげていた。 猫娘は、目を輝かせて僕を見つめていた。
「でも、まだまだ怪物はいるようなので、安全とは言えませんが。」
「いや、これは。 天が与えてくれた好機。」
僕の話を聞いたお爺さんは、真面目な顔をしながら語りだした。
「実は、この村には、一人の厄介者がおってな。 そやつにこの村は支配されておるようなものじゃ。」
僕は、お爺さんの話を続けるようにと促す。
「今まで、多くの勇士達が奴に立ち向かったが、奴は全てを殺した。 そして、逆らう者にも容赦なく。」
そう語るお爺さんはとても悲しいそうな顔をさせる。
「あたしの父ちゃんと母ちゃんも、あいつに、ガトに殺されたんにゃ。」
つまりお爺さんは、息子夫婦を殺されたという事だろう。
「そんなに強いんですか?」
「ああ、奴は間違いなくこの村では最強じゃ。」
確かに、僕は強くなったとは思うが、この獣人の基準からしてはどれほどの強さなのかは正直良く分からない。
まあ、会ってみれば分るかもしれないけれども、安易に倒せるとも言いにくい。
「どうか、その力を持って、奴を、成敗してくれまいか?」
そう言って、少し涙目になりながら、僕にお願いしてきた。
まあ、洞窟の主を倒したとか言ってしまった訳だし、断りづらかった。
僕は曖昧な返事をするしかなかった。
「ガトやっつけるにゃら、あたしが案内するにゃ。 あいつにゃら、まだ屋敷でごろごろしてるにゃろうし。」
よく見ると、猫娘の細長い尻尾がピーンとしているのが分る、鼻息も荒いし、どうも興奮しているようだ。
「じゃあ、とりあえず、落ち着いたらそのガトさんの所へ行きましょうか。」
話し合いでは済まなそうだが、とりあえず相手と話してみない事にはどうしようもないだろう。
向こうからしたら、突然あなたを倒しに来ましたは酷い絵ずらではある。
まあ、被害者がいるようなので、獣人にとって生き死には、人間の感覚で図れない部分もあるのかもしれない。
食事を終えてから少々、まるでお出かけするかの如く僕達は家を出た。
村は主に木で造られたような物が多かったが、その強度的に、2階建てのような高い建物は無かった。
僕が、村を見ていると、逆に僕の方をちらちらと見ている獣人の方達。
顔立ちとか耳の形から、犬と猫の獣人が多いように見えた。 もしかしたら、他の獣の種族もいるかもしれない。
獣属性にそこまで趣味は無かったが、普通に可愛いものならどんな種族も関係無いような気がする。
色んな種族の可愛い子を愛でてみたいなぁ。
そんな妄想を楽しんでいた所で、どうやら目的の所へ来たようだ。
村からはちょっと高い位置に構えられた屋敷。
木で造られているものの庭付きの結構広い間取りをしているような屋敷である。
ぱっと見たところ、村長の家って感じだった。
「やいガト! お前の命運もここまでにゃ!」
と、大きな声で、猫娘が叫んだ。
後ろにお爺さんもいるけど、なんだかいきなり物々しいな。
しばらくすると、大柄な男、狼の顔をした獣人がその立派な体躯を自慢させるような恰好で現れる。
人間なら、肌色多目な恰好だが、狼の色が濃いいのか体毛で覆われている為、余り寒そうな恰好にも見えない。
「ふん。 誰かと思えばミアじゃねえか。 俺様を呼びつけて何の用だ?」
「今日は、お前をこの方がやっつけてくれるにゃ!」
そう言って、猫娘は僕の背後に身を隠した。
「なんだお前は? 人間が相手だろうと、俺は手加減しねえぞ? 俺がこの村の為に何人殺してやったか覚えてねえのか?」
「何が、この村の為じゃ。 お前が余計な事をしたおかげで、人間との交友は無くなったんじゃ。」
「交友ね~。 ていの良い奴隷契約みたいなもんじゃね~か。」
「あれはちゃんとした雇用じゃ。 そのお蔭で、村は色んな物を買えるようになったんじゃ。」
「よく言うぜ。 俺の親父は強かったが、馬鹿だった。 あん時の長の命令に逆らえず、人間の為に働いておっちんじまった。」
そして、ガトは僕達に目を合わすと、にやりと笑う。
「だが、俺様は違う。 人間なんてよえぇ種族の為には従わねぇ。 俺はこの力で欲しい物は全て奪ってやる。 わははは。」
ガトは自分の言葉に気を良くして笑った。
「あの、ちょっと良いですか?」
そう言って、僕は手を挙げて問いかけた。
「あん? なんださっきからお前は?」
「僕からの質問なんですが、ガトさんは、お父さんの仇として人間を敵として追い返したって感じですか?」
だとしたら、父親の仇なのだ、人間に不信感を抱くのも当然だろう。 ただ、簡単に殺すのはどうだろうとは思うが。
「親父の仇だぁ? ははははっはっは! そんな訳ねーだろ。 親父は力があるのに、へこへこと長の言う事を聞いて、ほんとに馬鹿だったぜ。 良い様に利用されて、本当に情けない奴だった。」
そういうガトに悲しみの表情は見えない。
だが、村、ひいては身近な者の為に、力を使っていたという彼の父は立派な人に感じられた。
「お前の父は立派な戦士だったというのに、お前という奴は‥‥。」
「立派だぁ? そんなもんなんて何の役にたてねぇ。 力があるならそれを使って俺のように皆を従わせれば良かったんだよぉ。 そしたら俺様も惨めな暮らしをせずに済んだのにな。」
「今の村が良くなったのもお前の父の成果でもあるのだぞ。」
「だからどうした。 俺は、親父と一緒にいてもいつも我慢してたぜ。 豊かになんか感じた覚えなんてなかった。 お前たちじじい共が、良い思いをする為に親父達を利用してたんだろうが。」
お爺さんは、なんだか言いくるめられているのか苦しい表情をさせていた。
「うるさいうるさいにゃ。 父ちゃんと母ちゃんを殺したくせに。 お前にゃんかくたばれば良いにゃ!」
「なんだと? せっかく良い面だから、取っておいてやんのに、じじい共々ここで殺すぞ?」
かなり凄んでいるのだが、猫娘は僕の後ろからべーっと舌を出して堪えてないようだ。
どうやら話し合いで納まる気配では無さそうだ。
「本当は話し合いをして折り合いをつけたかったんだけど。」
「話合いだ? おいおい、今更ビビってんじゃね~ぞ?」
そう言って、ガトは、両手を合わせ指を鳴らしながらこちらへ近づいてきた。
僕は、手をかざし、村正を手にする。
「おお、ストレージ持ちか!」
お爺さんは僕の業に驚いてみせた。
他の二人は余り理解しているように見えない。
「関係ねえよ。 取り合えず死んどけ!」
そう言って、ガトは僕に殴りかかってくる。
しかし、洞窟で激闘を経験した僕にはあの死の気配を感じる間もなく、軽く躱す事ができる。
次々に僕に迫る拳や蹴りを、余裕を持って躱していった。
「ちっ。」
ガトは舌打ちすると、己の指に力を込めて爪を長く鋭くさせた。
それを、僕に向かって振り下ろす。
僕は、その攻撃を刀の鞘の部分で、防いだ。
僕は強くなっているはずだ。 だからどれくらい強くなったかを知りたかった。 なので、片手でその攻撃を受けてみたのだが。
かなりの力を感じるが、耐えられない程ではない。 どうやら僕の方が強いみたいだ。
ガトは、僕が攻撃を受け止めた事に少し驚いたようで、すぐに嫌な顔をさせる。
「ちっ。 ひょろそうな顔して、お前も強化魔法の使い手かよ。」
そう言うと、ガトは僕から距離をとる。
ちなみに僕は、何の呪文も使った覚えは無い。 まあ村正を出しただけだ。
「俺様の本当の力を見せてやる。 力よ!」
ガトは何やら唱えると、両肩の筋肉が見て分かる程に膨れる。
そして、両腕を広げて僕に構える。
「必殺! カマイタチ!!」
そう言うと、両腕を交差させようとする。
僕は、その攻撃を躱す事ができる。
しかし僕の後ろ側には猫娘とお爺さんがいる。
どうしようかと迷っていると、僕のスキルであろうあの世界が展開された。
こんなに離れても僕に致命傷を与えられる技なのか。
それは間違いなく後ろにいる彼等にも当たるのだろう。
だが、まだ相手の技は発動していない。
相手は、獣人。 奥義を使うまでもないだろう。
僕は武者小路さんの技の一つ、早い敵を切る為の技として使われた、早返し切りをガトに向かって放つ構え。
止まっているような世界で、僕は一足に間合いを詰め、刀を振るう。
「燕返し!」
やはりこの技はこの名前が相応しい。
カマイタチと言う技を使おうとしたガトは何もできず。 世界は元の時間の流れに戻る。
僕も少々頭に負担の衝撃がくるが、まだまだ余裕はある。
「ぐあああああっ!!」
僕に切られたガトは、痛みで叫ぶ。
その両腕と両足に見事な切り傷が現れ、そして血しぶきを上げていた。
「お、俺様の腕がぁ、足がぁ、ぐああぁぁ!!」
「なんと見事な剣技。」
僕はもはや勝負はついたと、刀を振るって鞘に納めると心地のよい音が響く。
もはや戦う術を失ったガトに、僕は近寄った。
「待ってくれ、俺が悪かった! だから、殺さないでくれ! 助けてくれ!!」
かなり必死の様子だった。
僕は、どうするものかとお爺さんに尋ねようとすると、村の人達が集まっていた。
しかもご丁寧に槍を持って武装している。
「もう勝負はついたと思いますが、どうしましょう?」
すると、お爺さんが返事をする間もなく。
「お前に、両親は殺された。」
「おっとうを殺された。」
「爺ちゃんと父ちゃんを殺したのは許せない。」
村人達は殺された恨みを口々にしてガトに罵声を浴びせる。
「俺はぁ、ただ人間に従わないようにしたかっただけだ! 死にたくないぃ!」
ガトは必死に命乞いをするが、今まで耐えていたであろう村の人達の怒りはおさまるはずもなく。
次々と、もはや抗うすべもないガトに槍を突き立てる。
そして、ガトは無残に息絶えた。
僕の身体にしがみついて猫娘は声を堪えて泣いている。 僕はその頭を撫でてやるのだった。




