表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

2話 皆伝

 あれから、何体かあの毛むくじゃらの怪物を倒した。

 そして、目の前にはでかい昆虫型のモンスターが。

 こいつを倒して、ようやく試してみたい事が出来そうだ。


 もはや、僕に恐れは無かった。

 長尺の刀を肩の上部で支えるように構える。

 そして、モンスターがこちらに飛び掛かるより早く、間合いを詰め一気に刀を突き刺す。

 まるで粘土に突き立てるような感覚。

 確かな手ごたえを感じた僕は、引く力を利用して、身体を逆回転に捻じるように、モンスターから距離を取る。


 モンスターは僕の目の前で息絶えた。


 堅そうな見た目だったが、この村正の威力が凄いのか、武者小路(ムシャノコウジ)さんから与えてもらった剣術が凄いのか、むしろ両方なのかもしれない。


 さて、これは素材として使えるのでは。

 僕は、堅そうな外殻をこついてみる。 まるで鉄のような堅さを感じた。

 では、これを解体して剥ぎ取りを。

 なんて考えてはみても、バラバラにしたら余計な量が増える気がする。

 そして、どうやって持ち運ぶのかとの疑問が浮かんだ。


「こういう時に、こう出し入れ出来るスキルがあればなぁ。」


 そう、あの武者小路さんが使った手品のような。

 知識には、あの業は確かにあった。 魔力を使って行うものだ。

 果たして、僕に魔力が、魔法が使えるのだろうか? だが、試してみる価値はある。

 モンスターの死骸に手を添え、僕に繋げるようなイメージ。


「収納。」


 モンスターは見事にその場から消え失せた。

 頭の片隅に収納されたであろう死骸のイメージが、まるでデスクトップ上のショートカットのように漂っている。

 だが、そのサイズ感が随分実物より小さくなっているような感覚だ。 まだまだ納めれるゆとりがあるように感じた。


 さて、こいつを引き出す時はどうするんだ?

 まあ死骸をつまむようなイメージで、ほいとその辺に手をかざしてみる。

 どすっと重量のある音と共に、死骸が出現する。

 どうやら、いちいち呪文を唱えるような必要もなさそうだ。

 出したばかりの死骸を、再び僕の中に収納させた。


 まだまだ、余裕あるし、臭い等を気にする事も無かったようなので。

 あの異形の怪物も素材になる可能性がある以上、次は、僕の中に納めていくとするか。

 死体がお金に変化するような世界でないとしたら、何かでお金を得らなければならない。


 僕は襲いかかるモンスターを倒して、それを回収していった。


 始めはモンスターとの戦いが、かなり苦しかったのだが、モンスターを倒す度に、ふいに身体が軽くなる感覚があり、それを繰り返す事によって、かなり余裕を持って戦う事が出来る様になった。

 これは、よくあるレベルアップをしているのだろうと思った。

 残念ながら、ファンファーレは聞こえないし、自動メッセージが現れる事もない。

 なので、一応、元気な声で僕は唱えた。


「ステータス オープン!」


 誰もいない見慣れてきた洞窟に、僕の声だけが響いた。

 どうやら何もおこらないようだ。

 良かった、人前でやらくてすんで。


 ああ、なまじ魔法が存在するようなので、ゲームの知識がちょいちょい出てくるじゃないか。

 だが、使える事と使えない事を誰かに教わる事も、今はできない。

 この洞窟を抜けなければ、僕はここで死んでしまうだろう。


 戦い進んでから、かなりのモンスターを倒し、そして進んでいるがまるで終わりが見えない。

 少しお腹も空いたし、そして疲労からなのか、眠気がする時がある。

 しかし、ここで休める場所はない。

 この洞窟に潜む怪物達は、僕が弱るのを待っているように感じる。 常に監視されているようだ。

 僕が、力尽きるか。 その前に地上へ辿りつけるか。

 そんなギャンブルを強いられているのだ。

 休みたいという衝動を抑えて、僕は更につづく先へ進んで行った。



 進んだ先に、広がった場所に辿り着いた。 かなり広い。

 参ったな、もしここで別れ道が沢山あったら、いよいよ力尽きてしまう。

 今まで真っすぐに来れたのだ、とりあえず向こう側を目指すか。

 僕は、広いエリアの中央へ進んだ。


 少し向こう側の壁が見える所まできた所で、ゴゴゴゴと、地面が揺れだした。

 なんだ。 なんだ、何かが。

 倒れそうな身体を、バランスを取り、揺れている景色をぐるりと確認する。


 地面が、もこもこと盛り上がり、そしてこちらに向かってくるが。

 でかい。


 それが、地面から飛び出し、僕に向かってきた。

 僕を丸吞みにしても余る、とてもでかい巨体。 そして、巨大な口。

 鋭利な歯、むしろ凶器としか良いようのない物が、僕を飲み込もうとしていた。


 そして、訪れる、死を感じた時に起る世界。


 時間の流れが止まったように、鈍くなる。


 その影響を僕も受けるのだが、しっかり意識を繋げる事により、僕はこの世界で動く事ができる。


 とりあえず、目の前の巨大な口を僕は大上段で切る。


 だが、世界の速度は鈍いままだ。


 もう一度、今度は横に薙いで切る。


 切った感触はあるが、時間の流れが鈍い為、切れ味の良さもあり、形が崩れない。 どれほどのダメージを与えたか良く分からない。


「仕方ない。」


 僕は、足に意識を移し、でかいモンスターに併せて、かなり離れた所に向かってジャンプする。

 すると、でかいモンスターの攻撃範囲から離れた瞬間から、世界がゆっくりと再動していき、動き出す。

 その瞬間、自分の身体に、重い負荷に襲われ、地面に吸い付けられる。

 だが、バランスを崩す事無く、なんとか着地できた。


 なんとなくだが、この力を理解してきた。


 この時が止まるような力は、僕のスキルのようだが、敵をしとめ損なえば中々大きな負荷を頭に受ける事になる。

 相手を仕留める事さえできれば、なんらかの力を奪い負荷を昇華している感じだった。

 かなりの怪物達を倒した事で、僕は中々強くなったようだが、この力を連発するのは、非常にマズイ、命の危険を感じている。

 恐らく、僕の魔力が尽きたら、この力は使えずにそのまま死ぬ事になるだろう。


 距離を取った僕の顔に、嫌な汗がどっと流れた。

 今まで戦ってきた疲れもあるのかもしれない。


 でかいモンスターは、地上に姿を現すと、僕の攻撃で苦しんでいるのか、バタンバタンとその身体を震わせていた。

 その振動が僕にまで及び、ちょっとした地震を起こされているようだ。


「ここで、決める!」


 僕は、でかいモンスターに向かって駆ける。

 相手はでかい、とにかく威力の高い攻撃を。

 僕は、足に意識を、そして跳躍。 すると、信じられない程の高さにまで飛び上がれた。

 そして、空中で自分の身体をしなりを作り、そのままぐるりと前転の要領で回る。

 僕は回転してた威力と落下する速度を利用して攻撃する。

 武者小路さんの技の一つ、跳び込み切りと言う技だが、名前がイマイチだった。


「天撃斬!」


 僕の今出せる最高の威力を、そのでかい身体に見舞う。

 振った刀は、地面に打ち付ける前に、地面が裂ける。 そして、その大きな身体にも痛烈なダメージを与えたはずだ。

 しかし、身体を裂けさせるまでには、さすがに僕は小さい。

 ダメージを追った部分を隠すかのように、モンスターは身体を動かし、そして、僕に向かって再びその大きな口を向けてきた。


「なにっ。」


 僕は思わず呟いてしまう。

 僕が最初に付けていた傷が、じゅぷじゅぷと消毒される感じで、治りかけていた。

 先ほど付けた部位も同じように泡立たせている。

 どうやら、コイツは自己治癒能力を持っているようだ。


 そして不意にくる。 頭にくる負担。

 思わず足を取られ、倒れそうになる。

 マズイ。


 逃げるべきか。


 しかし、このおぼつかない状態では、とてもこのモンスターを振り切る事は難しいだろう。

 不意に、武者小路さんの言っていた「童には無理やもしれぬ。」と言う言葉が頭に浮かんだ。

 これだけの事ができるのに、すでに打つ手が無い。

 モンスターの攻撃を反撃するも、かわすとしても、もう何度もあの力を使える気がしない。

 僕の中の非常アラートがやかましく鳴り響く。


 考えろ。


 まだだ、僕がここに舞い込んだのが使命で運命としたら、何か僕に価値があるはずだ。


 僕の得た物。


 爺ちゃん。


 僕は、その時不思議と爺ちゃんとの修行を思い出した。



宗馬(ソウマ)、今日は爺ちゃんが、神封一刀流の奥義を見せてやろう。」


 寂れた道場には、僕と爺ちゃんだけ。 道場の周りは天然の緑に囲まれた場所で、いわば田舎だった。


 爺ちゃんは家宝にしている刀を腰に、居合切りの構えを取り、ブツブツと言葉を呟く、そして低く取った姿勢で流れるようにくるりと回る。


「明境一閃。」


 そう言って瞬間移動のような抜刀で刀を振るっていた。

 すると、道場の中をうるさく飛び回っていた無数の蚊が、ぽとぽとと落ちていく。

 その光景に、幼かった僕は。


「蚊取り線香だぁ!」


 と叫んで、喜んでいた。

 それを聞いて爺ちゃんは、豪快に笑っていた。


「はっはっは。 かつての大戦の時は悪鬼の如き恐れられた技も、今では蚊取り線香とは、はっはっは。」


 僕は、武骨な爺ちゃんが好きだった事を思い出す。


「いいか宗馬よ。 例え小さな虫でも、生きる為に人に立ち向かってゆく事ができる。 それは意思が無いからとかそういう次元ではない、それは尊い事なのじゃ。 その立ち向かって来る者を敵意と認識して、その概念を斬る。 我が流派のこの奥義があれば、他に技等は必要は無い。」


「え~でも、相手は待ってくれないよ?」


「そうじゃな、だから他の基礎もしっかりやらんとな。 この技は死線の極みでのみ真価を発揮するのじゃ。 だからこそ、その時まで我が奥義忘れるんではないぞ?」


 そう言って、優しく僕の頭を撫でてくれる。



「あっ。 完全に忘れてた。」


 でかいモンスターは僕に向かいその口を開き、まさに僕は飲み込まれようとしていた。

 だが、慌てる事はない。

 世界はまた緩やかに、鈍くなっていく。


 僕は刀を腰に、居合に構え、その鞘を地面に擦り付け、円を描くように回る。

 ゆっくりで良い、とにかく丁寧に。

 僕は爺ちゃんに教わった祝詞を唱える。

 世界に、自然に、僕を守ってくれる力に感謝する。 祝福の祝詞。

 そして、円が半分を描いた所で、今度は呪詛を唱える。

 相対する者に呪いを、災いを、罰を、それを成す力を。

 その二つを持って、円を閉じる。

 この世界には魔力がある。

 僕の描いた円は、鮮やかな魔法陣となり輝いていた。

 これならイケる!

 僕は力強く、迫る恐怖、死に向かって踏み込んだ。


「明境一閃!!」


 確かに、ぶつかる程の位置から放った技は、気づくと、大きなモンスターを通り過ぎていた。

 手元にズシリと来た感覚があった。 それは、何か命そのものの概念というものだろうか。

 僕はゆっくりと振り返る。

 世界が溶けるように、元の時の流れに戻っていく。


 あれほど苦戦した大きなモンスターは既に息絶えていた。


「爺ちゃんすげぇ。 ありがとう、助かったよ。」


 僕は息絶えたモンスターに近寄る。

 正直、何が要因で死んだか分からない状態だ。

 だが、もう動く気配はない。

 その外殻に触れる、相当な堅さを感じるし、年期も感じる。

 改めて見ると、その大きさだ。

 これだけ広いエリアが、近寄ると視界を埋めてしまう。


「これ、良い素材になりそうだけど、入るのかな?」


 そう言って、僕の中に納めてみた。

 すると、視界から綺麗にモンスターが作った壁が無くなり、広いエリアが残った。

 頭の中での大きなモンスターは、今まで納めたモンスター達に比べて5倍程の量を占めていたが、実物と比べれば、かなり縮小されている。

 これはかなり使えるスキルだな。

 あの大きなモンスターを倒した影響なのか、あれだけ倒れそうだった僕の精神は、お湯に浸かった解放感のようにほどよい感覚だ。

 まぁ、これは癖になりそうな快感。

 死にそうになってたのに、それを越えたら得れる物は、案外そんなものなのかもしれない。

 生き残った事が、僕はとても嬉しかったのだ。



 こうして調子に乗った僕は、この洞窟の怪物達を倒していった。

 斬って、斬って、更に斬る。

 一撃で倒せない奴も、多数の敵も、いざとなったら。


「明境一閃!」


 必殺の一撃で事足りるのだ。

 もはや、僕に敵はいない。 そう、僕が最強なのだ。

 いや~。 最強って楽しい~。


 そうやって、沢山転がっている死骸を僕は回収していった。


 周りにいたモンスターはともかく、逃げようとしていた離れていたモンスターまで死んでいる。

 まあ、圧倒的な威力ではあるけど、これってヤバイな。

 爺ちゃんは、僕を傷つける事なく使ってたけど、ある意味それが極意なのかもしれない。

 僕はただ、強力な力を振るっているに過ぎず、それをしっかり敵味方と区別して使えているとは思えない。

 敵を倒すつもりで、一般人はともかく、味方や大切な人を殺したら、後悔どころの話ではない。

 この奥義は、ちゃんと考えて使わないといけないな。

 まあ、この洞窟の中なら問題ないだろうけど。


 やがて、僕に襲いかかるモンスターもいなくなる。

 どうやら、彼らにも僕の方が強いと認識したのだろう。

 それでも、生きる為には小さな虫でも襲いかかってくる事を考えれば、僕から不用意に手を出さねば大丈夫なはずだ。

 ただ、道なりに歩くようになって、ようやく出口らしき所が見える。

 日の光が差し込んで来たのだ。


 緊張感がなくなったのか、突然、疲労が身体を包んでしまう。

 気を抜いたら、ここで倒れてしまいそうだ。

 随分と戦って、歩いてきたと思うが、ようやくの出口。

 僕は、一つの試練に打ち勝つ事ができたようだ。


 洞窟を出て、辺りを見る。

 緑、緑、緑。

 緑に溢れる大自然だった。

 新鮮な空気を吸って、肺を満たす。

 どうやら、いつの間にか太陽が真上に、昼くらいになっていたようだ。

 日の光を浴びて、地上に出た事を改めて実感する。


 しかし、感動はともかくとして、これからどうすれば。

 そんな事を思いながら、足元を眺めていると、少し先の方に土が晒されている、道のようなものがあった。

 まあ、いくあても無いので、その道に沿って進む事に決めた。


 しばらくすると。

 木で造られたであろう、壁に囲まれた場所に出た。

 もはや、ここが元の世界では無いのは疑いようが無かった。

 ただ、もう僕は色々と限界だった為、とにかく休みたい気分だった。


 壁に沿って歩いていると、門らしき所へと。

 そこには、2人程の人間が立っていたが、まず、その服装がなんか僕の世界観とは違う。

 とてもダサい服装だった。

 そして、男性であろう人の手には、物々しい槍を持っている。

 それを見て、僕は手に持った豪華な意匠がされた鞘を思わず見る。 なんか、盗られたりしたら嫌だったので、僕の中に村正を納める。 おお、便利。

 僕は、手ぶらを示すような形をもって、門の前の人に近寄った。


「おまえ、一体何者にゃ!」


 そういって、僕の胸元くらいしかない小さい子が喋りかけてきた。

 どうやら、女の子のようであるが、頭に猫耳のカチューシャ、コスプレ?をしている。


「いや、僕も何が何やら。 ここらに迷い込んでしまって困っているんだ。 出来れば少し休ませてもらいたい。」


 そう言って、僕は近寄ってきた、女の子の頭に手を乗せ、ナデナデ、そして、よくできた猫耳をさわさわとしていた。

 僕が触るとにゃあにゃあにゃあと、にゃあにも色々と違いがあるんだなあと、ころころと表情を変えている。


「おい、人間、ミアさんから離れろ。」


 そう言って、槍を持った男が僕に向かって、槍を構えて来た。


 人間って言われたので、その男を見ると、耳がなんか頭にあって、鼻が黒ずんでいて、顔の造形が動物っぽい。

 そして、手元にいる女の子を見るが、ちょっと目が大きくは見えるが、鼻筋は普通で、愛らしい顔をしている。 しかし、頬を撫で、耳である部位を探ると、そこに耳が無かった。

 猫! これ、猫なのか! でも人だ。

 なんとも不思議だ。

 そうして、肌に触って見る。 猫を可愛がるように顎下をさわさわと撫でると、女の子は気持ち良さそうににゃ~と喉を鳴らした。 肌と思われる部位は、産毛が生えているようで、良い肌触りだった。


「おい、人間!」


 痺れを切らしたのか、男がずいっと槍を出す。

 僕は、女の子から手を離してお手上げのポーズ。

 すると、女の子はちょっと名残惜しそうな顔をさせる。


「ミアさん?」


「あたしは、人間は悪い奴だと聞いていたけど、この人間は何か違う、良い匂いがするにゃ。 だから、家に案内するにゃ。」


 どうやら、僕は猫娘のミアに気に入られたようだ。

 僕は、今はただ、早く休みたい、眠りたいと思っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ