1話 開幕
フェルベール王国の首都スロッス。
その城に、1つの冒険者パーティーが呼び出されていた。
玉座には、美しくもまだ若い、少年が座っている。
彼は、傍に控える、老婆に尋ねる。
「この国の厄災の話を。」
若き王の命を受け、老婆は語る。
「東の帝国との狭間に住まう魔竜。 封印の結界が壊れ、この地に破滅をもたらす。 このような占いが出ております。」
老婆の話に、若き王は頷く。
「魔竜の封印は、長い間我らが受け継いできた。 帝国は北の彼の地を根城にしている魔王との争いを理由に、かなり昔から封印に関しては放置し、こちらに協力する目途もない。」
呼び出されたパーティーメンバーは3人。
それぞれは、やや反抗的な顔と、態度で話を聞いている。
「今回の依頼は、東の地にある、廃都ペーションにて封印の再チャージである。」
それを聞いた槍を装備した男が声を上げる。
「おいおい、ペーションの魔竜って、俺達に死ねと言っているのか? そんな大事な事なら、手前の兵隊を使ってやれよ。」
男の罵声とも取れる声に、傍に控えた老いた男が声を荒げる。
「王に向かって、大変不敬であるぞ!」
若い王は、手をあげ、老いた男を制する。
「よい。 この者達には世話になっている。 多少の言葉は不敬とはせん。」
槍を装備した男の他は、女性の魔導士らしき者と、体躯の大きな僧侶の装備を着込む男。
若き王の対応に、それぞれの戸惑いをみせた。
「ペーションに向けての派兵は、帝国の国境を脅かすとして、帝国からの派遣されている監督者に制限されている内容でもある。 恐らく、魔竜の結界の破壊については帝国が望んでいる事やとも我は思っている。」
そこで、いかつい僧侶らしき男が質問する。
「依頼は、あくまでも結界の再チャージ。 魔竜とはまみえる事は無くてもよろしいか?」
「もちろんだ。 結界が継続されればそれでよい。」
「では、報酬は弾んでもらう事を期待して、承りましょう。」
「ああ、もちろんだとも。 我も期待しているぞ。」
こうして、依頼を受けたパーティーは謁見を終えた。
「おい、本当に大丈夫なのか? 帝国も手を出せん魔竜だぞ?」
「ふふっ。 私に策あり。 さあ、お仕事にいきますよ。」
いかつい僧侶らしき男の言葉に、不安な顔をさせながら二人はついて行くのだった。
場面は変わり、夜の夜道に3人組。
彼らの目的は、町の郊外の山にある防空壕あとらしい洞窟。
学校の噂話がきっかけだった。
なんでも、夜、その辺りから人の声が聞えるだとか。
その洞窟から聞こえてくるのだとか。
そして、その中で武者の幽霊を見たとか。
高校3年の最後の夏休み。
少年達は、くだらない思い出を作る事にしたのだ。
やがて、その目的地に到着する。
「おお、夜に来ると雰囲気あるな。」
「びびるのは無しで、中に入って怪談話でもやるか?」
「あくまでも僕は、噂の真相だから。 何もなかったらすぐに帰るよ。」
「まあまあ、それじゃあレッツで探検だ。」
3人は、道から外れた先にある、その洞窟に懐中電灯の明かりを頼りに中に進んでいった。
洞窟の中は、思ったよりも広く、そして先は全く見えない闇である。
ひんやりとした空気が漂い、頼りは足元を照らす灯りのみだ。
誰かが、もう引き返そうと言うのを待っていた。
だが、お互いの見栄がその言葉を塞いでいた。
3人は、何かに誘われるかのように、深い闇の奥へと、進んでいく。
「結構、歩いてきたくない?」
そう言って、後ろにライトを照らすと、その先は闇である。
だいぶ奥に進んだようだった。
「それじゃあ、もう止めるの?」
その問いかけに、返事が出せない。
あくまで3人の目的は、噂の真相である。 未だ、なんら不思議な事は起こっていなかった。
更に進んだ所で、空気が変わるのを感じる。
ざわざわざわ。
何者かの囁く声が、聞こえてきた気がした。
「おい。 今なんか言ったか?」
「しっ! 静かにして、聞こえないよ。」
3人が声を静めると、また、微かな声のような音が聞こえてくる。
ポチャンと、水の滴る音が響いた。
その音で、3人の内、2人はもう限界だった。
「お、俺っ。」
「もうっ。」
そう、反応を見せた時だった。
手元の懐中電灯の明かりが、消える。
真っ暗になった瞬間、限界だった2人は叫んだ。
「うわああああああああ。」
力の限り叫び、元来た道を、がむしゃらに走った。 逃走したのだ。
そして、いきなり押しのけられて、転んでしまった1人。
彼は、転んだ拍子に持っていた懐中電灯を落としてしまう。
手荷物は2人に預けていたので、彼が手に持っていたのは懐中電灯だけだったのだが、今はそれも無い。
真っ暗闇に、転び、そして、右も左も分からない。
彼を残して去っていった声は、すでに遠く、そこへどう向かうかすらおぼつかない。
しかし、彼には恐怖の色は見えなかった。
ただ冷静に、今の状況を考える。
「そうだ、ポケットに携帯が入っていたはず。」
そう言って、ポケットに手を入れた所で、それは現れた。
ドラマで見た事のあるような立派な鎧を装備した武者だった。
その顔は、面金に覆われて表情こそ見えないが、何かしらの意志を感じさせている。
「おお、これが噂の幽霊か。 初めて見たけど、これは凄い。」
少年は、恐怖よりも、どうやら感動の方が高いようだ。
「真っ暗なのに、どうして見えるんだろ。 身体から少し光が出ているのかな?」
そんなどうでも良い考えを述べていると、鎧武者が声をかけてきた。
「童よ。 なぜ、ここに来たのだ。 ここは、すでに、お主の住んでいた世界とは違う所だ。」
違う世界と言われた所で、少年にはピンと来ない。
だが、会話できるという事には興味が沸いた。
「ここへは、あなたが見れると噂になったので、高校生の思いでとして、会いに来ました。」
「そうか、私に会いに来たのか。 だが、この私は既に朽ちた身、お主の力には余りなれないかもしれぬ。」
どうやら、悪い霊ではなさそうだったので、少年は気を良くした。
「いえ、目的は達成しました。 あなたに会えた事を自慢のネタにしたいと思います。」
少年は鎧武者にペコリとお辞儀をすると、出口の方へ向かおうとする。
しかし、振り返った先は、行き止まりだった。
そして、目が慣れてきたのか、いや、先程の場所と違うのだろうか、真っ暗だった辺りが、少し輪郭を伴って見えている。
微弱に、辺りを照らす物質があるのか、月の明かりに照らされた程度のしろものだが、少年の目にはしっかりと辺りが見えていた。
「あれ、おかしいな、一本道を真っすぐ来ただけなのに。」
行ける道は、鎧武者の佇む先しかない。
いつの間にか、少年の向きが反対になっていて、振り返った所で鎧武者が現れたと言うところだろうと、少年は思ったのだ。
「どうやらそちらから来たようで、それでは。」
少年は鎧武者を避け、先へ進もうとした。
「童よ、止まるのだ。 その先は死ぞ。」
鎧武者の言葉に思わず、身体が止まってしまう。 死。 死ぬって言ったのか?
「ここより先は、修羅の道。 戦うすべも無ければ、死しかあるまい。」
「いや、でも、ここしか道がなくて。 どうすれば。」
少年は、とても困った。
「今いる場所。 私は、こちらとあちらの世界を繋ぐ、狭間の地と呼んでいる。 使命を、役目を終えたら、この地はあちらへの世界へ繋がるようだ。 私は、使命を終え、帰る途中、こちらの無念にしばられあちらへ行けず、ここで朽ちた。 だが、お主は何故かここへ来てしまった。 これは運命なのかもしれない。」
鎧武者の言葉を聞き、少年は自分が来たであろう道を見つめる。
そこは、紛れもなく行き止まりだった。
「この先にいける? 帰れる?」
「うむ。 だがどちらにしても過酷な道じゃ。 童には無理やもしれぬ。」
だが、ここで立ち止まっていてもどうしようもないのだ。 少年は選択肢が無かった。
「行くしかないのかな。 そっちに。」
鎧武者に止められてから気づく。 確かにこの先は、異様な気配。 死の臭いがするのだ。
「私の名は、武者小路 彦麻呂と申す。 お主の名を聞いても?」
「僕は、水巴 宗馬。 もうすぐ18才になる高校生です。」
「ふむ。 水巴とやら、どうやらお主の身体からは、私と似た雰囲気を纏っている。 もしや、お主も侍なのか?」
「えっと、侍では無いですけど、死んだ爺ちゃんから剣術を習ってました。 今は、全然やってませんけど。」
「ほう。 やはり、これも何かの縁なのかもしれぬ。 ならば、私の無念を聞いてはくれぬだろうか?」
正直、この状況では、他に選択肢はなかった。
鎧武者、武者小路はこの地であった過去を語ってくれる。
かつて、戦場で傷ついた身体で、ここへ迷い込んだ時。 帰り路が無くなり、先へ進むしかなかった事。
そして、激戦を潜り抜けて出口から外に出ると、元いた世界と違った事。
右も左も分らぬ土地で、優しい人達に助けられた事。
恩を返す為に、様々な戦いをこなした事。
そして、魔竜によって国を滅ぼされた姫に助けを乞われた事。
二人のロマンス。
魔竜との戦い。 死闘。
痛み分けとなった所で、自分の命を助ける為に、姫は犠牲になった事。
傷ついた身体では、元の力は発揮できなくなった事。
そして、悲しみの果てに、元の地へ戻ろうと思った事。
だけども、魔竜を討伐出来なかった無念。 姫を守れなかった無念で、進めなくなり。
ここで、朽ちた。
「私はもう十分だ。 だが、もしこの先の修羅の道に行くのであれば、私の相棒と、私の力を使ってはくれまいか?」
「良いんですか? 何も返せるものなんて僕にはない。」
「良いのだ。 まずはこれを。」
そう言うと、まるで手品かのように、手元に長尺の見事な意匠のされた鞘に納まった刀を差し出してきた。
これは、絶対高い値打ちのある品と、素人でも分る物だった。
その見事な刀を受け取る。
刀は、思ったよりも軽く感じられた。
少し、鞘から刀身を覗かせてみると、その刀身には、禍々しくも力強さを感じさせる波紋が浮かんでいる。
「これは私の相棒、村正が作の竹馬ノ友鬼切丸と言う。」
「えっ、ちくわ? おにぎり? いや、村正って言いました?」
「うむ。 村正が作、竹馬ノ友鬼切丸だ。」
凄い、伝説の刀匠の刀! いや、名前を語った、偽物かもしれない。 だけど、村正と呼ぶにふさわしい刀だ。
僕の喜びように、少し沈黙する武者小路さん。
「しかし、その刀は試練を呼ぶ。 私がそれを譲って貰った師匠も、そして私も、常に戦いを強いられる事になった。 だが、それ以上に力になってくれるだろう。」
「武者小路さん、ありがとう。 大切に使わせてもらいます。」
僕は素直に、最強の武器の予感のする刀に喜んだ。
「そして、これが私の培った力だ。」
そう言うと、僕の頭に手をかざす。
ふいに、頭の中に、様々な刀の振り方が浮かんでは記憶の中に滲んでいった。
その中に、違和感のあるおかしな動作も含まれた。
それは、魔力という新たな力を使った知識の活用法だった。
魔法ではなかったが、僕から見たら手品のような業である。
この力も、これからは重要になるに違いない。
「さて最後に、お主はこれから死地に向かう。 戦う術を得たとして、それを抜けるには経験が足りぬ。 それを補うのは、覚悟だ。 水巴よ、お主の遺言を親しい者に伝えておくが良い。 それを伝える手立てをお主は持っているのだろう?」
それを聞いて、ふいに手に取った携帯に辿り着く。
携帯の画面を見ると、電源は入るが、電波は繋がっていない。
だが、それを繋げて送ってくれると言う事だと、理解した。
「わ、分かりました。 遺書ですね。」
遺書、死ぬ前に残す言葉。 でも、帰ってこれたらと繋げる言葉。
僕は、たどたどしく書いた拙い文を、家族や、友人に向けて送信する。
当たり前だが、送信エラーで送れなかった。
「どうやら、覚悟は定まったようだな。 私はそれと共に逝こう。 お主の行く先に加護あらんことを。」
そうして武者小路さんは、僕の携帯に向けて手をかざすと、僕の携帯がまるで元々無かったかのように消え失せた。
そして、鎧武者の姿も、最初から無かったかのように、消えてしまった。
あらためて一人になって感じる恐怖。
だが、今は戦える術がある。
手には村正。 頭には剣術の知識が。
後は、確かに経験だろう。 本当に戦えるのか、不安にしか思えない。
すでに、遺書は送っているとなれば、もう、ここから先へ進むしかない。
時間は有限である。
ここへ入った時は夜だったが、何日も過ごせるような環境ではないだろう。
空腹感もある。 睡眠欲もある。
僕が動けなくなる前に、地上へ出る事が大事なのだ。
僕は、明かりもないのに、見えるこの洞窟を、一歩一歩と、足を進めていく。
ここに来る時は、全くこんな事は想定していなく、気楽なものだったのに、今はどうしようもない不安が足を鈍くさせている。
この先の修羅とは、戦いとは、一体どんなものなのか。
そんな不安の最中、それは突然襲いかかって来た。
良く見えにくい死角から、反応できない速度で。
すでに、相手の攻撃範囲内である。
その凶悪な鉤爪を見せつけるかのように振りかぶって、僕に振り下ろすのだ。
僕の身体は動かない。
せっかく貰った武器も、技能も活かせずに。
やはりただの高校生には無理だったのだ。
だが、どうした事だろう。
やられたと思ってから、しばらく経っても何も起こらない。
閉じていた瞳を開く。
すると、異形の怪物が、相変わらず僕に向かってその腕を叩きつけようとしている。
が、全く動く気配が、あっ、わずかにこちらに向かって動いている。
その動きは余りにも鈍いものだった。
これなら、僕でも。
僕は、一旦離れようと、距離を取ろうとしていた。
今の状況は、怪物と余りにも近くて、精神が参ってくる。 見ているだけでゾワゾワとするものがある。
だが、僕の身体も動けない。
動かない。 なぜ?
いや、そもそも戦わなければならない。
これは、好機なのだ。
相手に殺される間合い。 だが、それは、相手を殺せる間合いである。
僕は、手に持つ刀を強く握る。
昔扱った、模造刀より遥かに長い。
だが、武者小路さんの技術が脳裏に浮かぶ。
切るのだ。 ここから、最速で。
「ああああっ!!」
叫び声と共に、刀を抜くと同時に、化け物の胴を薙いで一足でその向こうへと通り過ぎる。
切った感触はあった。
それはまるで、紙をハサミで切るような感触だった。 余りにも抵抗を感じなかった。
切り終わった、刀の刃を目で確認するが、禍々しい波紋とおどろおどろしい輝きをみせ、血の痕すらついてない。
もしかして、切ってないのか?
そんな不安をよそに、僕の背後で、重いものが地べたに倒れる音がする。
刀を一振りして、鞘にしまって背後を確認する。
異形の怪物は胴を真一文字に別たれた状態で、息絶えていた。
「僕がやったのか。」
とても自分が切ったとは思えない程の、見事な切り口だ。
しかし、この異形の怪物は、とても嫌な臭いをさせる。 腐った物の臭いだ。
本来なら、倒した魔物を分解して、素材とする事があると思うのだが、毛むくじゃらの胴体では、毛皮くらいにしか使えそうにないが、この臭いは使いたいという意欲がなくなる。
「はぁ、倒したらお金とかに変わってくれたら良かったのに。」
僕は、初めて倒した魔物を見つめ、そして更に奥へと進んで行くことにしたのだ。




