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困った息子とその婚約者(予定)


 当主であるサミュエルが先触れもなく突然現れ、あたふたとして屋敷の者が出迎える。


(何を考えているのかしら)


 マーガレットは迎える側の都合を考えない息子に、当主としての責任感がないと苛立ち、その祖父も同様に怒りを表していた。

 そんな中 部屋を整えるまでと、応接間にサミュエルとその女性を通す。


(叱ってやりたいけど、付き添いの女性がいるうちはだめね。大人しくしておきましょう)


 マーガレットは、この際叱咤はシルベルトに任せてしまおうと、カロリーナの後ろに続き、応接間に入った。


 サミュエルは、ソファで寛ぎ、お茶を飲んでいた。隣の女性は緊張した様子、マーガレットたちが部屋に入るとすぐに立ち上がった。栗色の瞳に青い瞳の可愛らしい女性だ。

 マーガレットは、子供であることを意識して、カロリーナの背後にいたのだが、その演技をぶち壊したのは息子だった。


「母上。この女性が手紙でも知らせた女性、ユリアナ・ハックス嬢です」

「初めまして。マーガレット様。ハックス男爵の長女、ユリアナです。よろしくお願いします」


 準備もないまま挨拶され、マーガレットは愕然とする。


(母上?本当何を考えているの?あなたは!)


「サミュエル。お前はマーガレットのことを話したのか?まだ彼女が婚約者でもないうちに?」


 マーガレットが叱りつけるより早く、シルベルトが怒声を発した。


「婚約する予定です。彼女は信用のおける女性です。僕を信じてください」


 サミュエルの隣ではユリアナが力強く頷いている。


(なんていうか、肝が据わった女性ね。おとなしそうだけど、実際は違うのよね。ああ。でも、だからこそ私と同居したくなかったのね)


 再婚を勧め始めたのは、同居が嫌だからと思い込んでいるマーガレットはシルベストが怒りを露わにしたおかげで、落ち着いて二人を見ることができていた。


「お前は当主として失格だ。軽々しく家の秘密を漏らすなど」

「軽々しくなどではありません!彼女は口が堅く、物事に動じない女性です」


(確かにそうかもしれないわね。でも、それだからって)


 マーガレットは言葉を発することなく、サミュエルの隣のユリアナを観察する。するとふと目が合って微笑まれてしまった。


(う、邪気がない笑みだわ。作り笑いではないわね)


「母上。やっとユリアナと想いを通じ合わせたのです。それでよく話し合って、母上と三人で王都で暮らそうということになりました」

「え?」

「母上、仲良く王都で一緒に暮らしましょう。母上は僕達と人生をやり直すのです。僕が母上を幸せにします!」

「サミュエル。そんなこと、許さないわよ」

「そうだぞ。サミュエル。お前はそのユリアナ嬢と結婚する気なのだろう?子供が生まれたら、マーガレットを邪魔に思うこともあるはずだ。そうなればどうする?マーガレットはわたしたちとここで暮らすのだ。お前はその娘と王都へ戻れ」

「お爺様!母上を独り占めする気ですか?」

「え?」


(何、言っているの?サミュエル)


「馬鹿なことを申すでない。お前こそ、母離れするのだ」

「そうよ。サミュエル。その御令嬢と二人で新しい家族を作りなさい。マーガレットは渡さないわ」


 三人が言い争い始め、マーガレットは頭痛を覚えた。

 サミュエルの隣では、ユリアナが目を丸くしている。


(どうにか収めないと)


「サミュエル。お義父とう様に、お義母かあ様。ユリアナ様が困ってるわ。私はここで暮らすの。サミュエル。私は王都に戻るつもりはありませんから」

「母上……」

「そうだぞ。わかったか?サミュエル」


 情けない声をだすサミュエルに、勝ち誇ったシルベルト。カロリーナもほくほくと微笑みを浮かべている。


(かなり複雑な心境だけど、これでよかったのよね?)


 事態は収拾したと、マーガレットは思うことにして、ここで一番驚いているだろう、サミュエルの未来の婚約者に声をかける。


「ユリアナ様。驚いたでしょう?大丈夫?」

「ええ、大丈夫です。サミュエル様のお母様好きを知っていますから。私もお義母様が大好きですわ。可愛らしくて。抱きしめていいですか?」

「は、い?」

「ユリアナさん。だめよ。抱きしめていいのは親族だけなのだから」

「私もいずれ親族になります!」

「では、その時に」

「カロリーナ様」


 がくりとユリアナが肩を落とす。


「ユリアナ。大丈夫。母上と一緒に三人でお茶を飲むときに機会があるから」

「サミュエル?何を言って」

「だめ。そんな機会はあげないわ」

「そうだぞ」


 今度はユリアナを含んで、おかしな言い争いが始まってしまった。


(えっと、どうしたら?)


「あの、皆様。カリエダ卿がいらっしゃってますが?」


 アリスが声をかけて、言い争いはピタリと止まった。その後に再び口を開いたのはサミュエルだった。


「カリエダ。ジョセフ・カリエダ卿か。確か母上が乗馬を習っているんでしたっけ?」

「そうよ。シーザとも友人だったみたいだけど。あなたは何か聞いている?」

「ええ」


 サミュエルは何か意味ありげに頷いた。

 シルベルトとカロリーナは顔を見合わせている。


「アリス。カリエダ卿のために椅子とお茶を用意してくれ。準備が整ったら入室してもらって」


 サミュエルは当主らしく、きびきびと命令を下す。


「お爺様。カリエダ卿は母がこの姿になったことを知っているのですか?」

「いや、私は話してない。マーガレット、君はどうだ?」

「話しておりませんよ」


(当然のこと)

 

 シルベルトに聞かれて、マーガレットは意外な気持ちで答えた。


(こんな秘密、外部の人に話せるわけがない。サミュエルがユリアナ様に話したことがおかしいくらいなのに)


 どうして聞くのかと、シルベルトを見返したのだが、何か含みのある笑みを浮かべるだけだった。


(なんていうか、サミュエルもだけど。どうしたのかしら?)


「準備が整いました。カリエダ卿をお呼びしても構いませんか?」

「ああ」


 アリスの問いにサミュエルが答え、扉が開かれた。


「ラナンダ伯爵。お初にお目にかかります。ジョセフ・カリエダです。ご滞在を許していただきありがとうございます」




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