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これからどうしよう

「今日は楽しんだかね」

「はい」


 夕食はジョセフを含めて四人で取る。

 義理の父シルベルトに問われて、マーガレットはしっかり頷く。

 あのような花畑を見たのは初めてで、いい思い出になったと心に刻む。

 孤児院の話を思い出して、彼女は改めて孤児院に入ろうと思い立った。修道院に隣接しているもので、ある程度成長したら修道女になるのもいいと考える。


「ジョセフもいい気分転換になったんじゃないかしら?」

「はい」

 

 ジョセフはシルベルトの妻カロリーナに問われ、マーガレット同様頷いていた。二人して同じ反応だったのが面白いのか、夫婦は目を合わせ微笑んでる。


「あの、シルベルト様」


 前から言おうと思っていた、この屋敷から出ること。

 それを口にしようとして、マーガレットはやめた。

 食事時にするような話ではないし、孤児院に行きたいと思いだけを伝えるのもよくないと思ったからだ。


(近くの孤児院を調べてみよう。ああ、お母様と一緒に通っていたあの孤児院でもいいわね。ジョセフ様に聞けば教えてくれそうだし)


 ジョセフと二人きりになった時に教えてもらおうと勝手に考えを進めていたマーガレットは、三人の視線が自身に集中していることにやっと気がついた。


「あの?」

「あの、はこっちだぞ。私の名前を呼んだだろう?何か言いたいことがあるのではないか?」


 シルベルトは心配そうだ。


(ああ、なんていうか、本当)


「いえ、あの。何でもありません」

「マリー。遠慮するのではないぞ。話したいことがあればいつでも話してくれ」

「はい」


(孤児院のことはもっと調べてから聞こう。そもそも私は貴族の娘扱いになるから、孤児院では浮いた存在になる。そうなると苦労するに決まっているわね。だけど、迷惑はかけたくない。若返りの薬なんて飲んだばかりに。早く修道院に行くことを決めればよかった)


 マーガレットがまた考え出して、夫婦は顔を合わせ悲しげに微笑み合い、ジョセフはじっと彼女を見つめていた。



「ねぇ。アリス。私くらいの八歳の子供ができることはないかしら」

「ど、どのような意味でしょうか?」


 マーガレットに充てられた部屋で、就寝の支度を整えていく侍女アリスに相談してみた。

 アリスはマーガレットに長い間仕えてくれている侍女だ。一時は育児で屋敷を離れていたが、子供がある程度大きくなると侍女に復帰し今に至る。


「迷惑をかけたくないの」

「迷惑なんて、誰も思っておりませんよ」

「そうかしら」

「そうですとも。私もです。マーガレット様のお世話をできて嬉しいです。さあ、明日はこの新調した乗馬服を着て、カリエダ卿と乗馬の練習をされてくださいね」


 アリスが嬉しそうに広げた乗馬服、機能性を重視しながら邪魔にならないようにフリルがついており、可愛らしい服に仕上がっていた。色は赤色を基調として、マーガレットは少し恥ずかしくなった。


「派手よ。その服」

「そんなことありませんよ。替えはありませんからね。明日が楽しみです」


 アリスは幼女になったマーガレットに可愛らしいドレスや服を着せるのが生きがいとなっているようで、いつもイキイキしていた。

 元の三十五歳の時は、年齢相応、しかも華美ではない装いをアリスに命じていたので、明るくて可愛らしい服を選ぶのが楽しいようだった。 

 幼女だし、好きなようにしてもらおうとマーガレットもアリスを止めることはなかった。


「さあ、そろそろ眠った方がよろしいと思いますよ」

「もう?」

「マーガレット様のお体は子供なのですよ。睡眠が足りないと簡単に病気になってしまいます」

「そ、そうね」


 眠気も襲ってきていたし、病気になって困らせたくないとマーガレットは素直に頷く。そうしてベッドに入ると、ランプが消された。

 子供の体は疲れに正直で、マーガレットはあっという間に眠りの世界に旅立った。



 それから乗馬の練習は順調に進んだ。ゆっくりであるが、マーガレット自身が手綱を操って、馬を歩かせることができるようになったのだ。

 しかし身長が足りないので、常に誰かが寄り添う形で、やはり大人の体が恋しくなった。


「マリー。前伯爵夫人の様子はどうだ?」

「えっと、大分お元気になられたのだけど、まだお客様には会わせられないのです」


(そんな日は来ないけど)

 

 心配そうに、眉間に新たな皺を刻ませるジョセフに申し訳なく思いながら、マーガレットはそう答えるしかなかった。

 

 子供にはお昼寝の時間が必要なので、昼食が終わると強制的に部屋に戻される。最初は眠くなるわけないと思っていたのに、ベッドに入るとすぐに眠ってしまう。

 乗馬の練習を始めてから、ますます眠りに就くのが早くなってしまった。

 けれども今日は、目が冴えていて、マーガレットは再び自分の将来のことを考え始めていた。


(マーガレットも正式に修道院行きにしたらどうかしら?そうすれば一気に問題解決。ものすごい田舎の修道院で、孤児院はないかもしれないけど、私もそこでお世話になろう。それであれば、ジョセフ様が以前いた孤児院ではダメだわ。結局名前とか聞くのを忘れていたけど、聞かなくてよかったかもしれない。アリスに聞くと何か大きなことになりそうだから、領内の教会で聞いてみようかしら)


 領地にきて二ヶ月近く、教会に二度ほどシルベルトと共に挨拶に出かけたことがあった。

 ジョセフの滞在期間終了はあと二日に迫っていた。

 目的の乗馬の練習はまずまずの成果を出していた。彼が王都に戻ったら教会にいこうと決めたのだが、彼女の計画が実行されることはなかった。

 夕方、突然サミュエルが訪ねてきたのだ。しかも女性を連れて。

 手紙のやりとりは続けており、特別なことを書いた記憶はない。


(ああ、そういえば女性を紹介したいって書いていたわ。時期を決めなかったから、焦ってきたのね)


 マーガレットはそう考えていたが、サミュエルの思惑は別のところにあった。


 


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