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ばばあと言われたので……。

 マーガレットは、サミュエルにおかしな再婚相手を押し付けられる前に、問題がなさそうな人物と再婚しようと考えていた。

 出会いが必要だ。

 そうなれば夜会に出席する必要がある。


 マーガレットは久々に商人を家に呼び、夜会のためのドレスや装飾品を求めた。

 部屋いっぱいに広がる装飾品や化粧品。

 侍女が目を輝かせているのを見て、自身が選んだ後は侍女たちにも買い物をさせるつもりだった。そのため商人には幅広い品揃えを求めた。


 マーガレットはゆっくりと装飾品や化粧品を眺める。

 その中で紫色の液体の入った小瓶を見つけた。


「これは、何?いかにも怪しげだけど」

「ああ、これは奥様。あの、えっと」

「何かしら?まさか毒?」

「とんでもありません!あの、こちらは魔法の薬でして」

「魔法の薬?」

「若返ることができるのです」

「若返り?!」

「は、はい。あの、奥様はまだ若々しく必要ないと思うのですが」


 (怪しすぎる。こんなもの購入する者がいるのかしら?)


 結局マーガレットは既製のドレス、装飾品のいくつかを購入し、後は侍女達に選ばせる事にした。その前に、あの怪しげな魔法の薬は侍女達の目に触れさせないように、商人に伝える事を忘れなかった。



 そうして、数日後、夜会に参加する。

 侍女に気合をいれて支度してもらい、夜会に臨む。

 エスコートはいない。再婚相手を探すのに息子を連れていくことが恥ずかしかったからだ。実家には十一歳下の弟がいるが、関係はよくない。結婚して家を出てからマーガレットは一度も実家に戻っていない。向こうもそれで構わないらしく、お互いに手紙のやりとりすらしていない状況だった。


 久々に参加した夜会だったが、話しかけてくるものが多かった。

 その中で、男性を観察するが、独身の者には問題が多い。一夜のお相手を探しているものや、素行がよくなく結婚ができていないもの。再婚を求める紳士は、妻をよく亡くす怪しい伯爵や愛妾を多く囲う侯爵。

 サミュエルが持ってきた縁談と変わり映えがしなかった。


 そんな中、一人の若い男性がマーガットに声をかけてきた。


「初めまして。私はヘルナンデス・トイル。ラナンダ伯爵夫人。いえ、マーガレット様と呼んでも?」


 その男は美男だった。年齢はおそらく二十代前半。

 マーガレットは三十五歳、同年齢でおばあちゃんになっているものもいる、年増の枠に入る年齢だ。

 しかし、恋も知らずにいきなり結婚して、経験も初夜で一回だけ。

 恋愛関係はウブだった。

 熱のこもった瞳で見られ、マーガレットは動揺する。


「ええ。トイル卿」

「ヘルナンデスとお呼びください」


 そうして手を取られ、甲に口づけされる。


 マーガレット攻略はいとも簡単になされてしまった。

 ダンスなんて数年振りで、おぼつかない足取りの彼女をヘルナンデスがリードする。

 彼女はすっかり舞い上がっていた。


 そうして、彼女はヘルナンデスと婚約することになった。


「母上。幸せそうですね」

「ええ」


 サミュエルではないが、さすが母子、マーガレットも恋愛脳になっており、ヘルナンデスに対して何の疑いももっていなかった。



「ヘルナンデス様。これで安泰ですね」

「ああ。あんなばばあ相手、嫌でたまらないが、生活のためだ。しかたない。息子が伯爵だ。いい暮らしは保証されるだろう」


 ある日、ヘルナンデスが屋敷に訪れた時、従者とそんな会話をしているのをマーガレットの使用人の一人が聞いてしまった。

 婚約相手の屋敷で交わすような会話ではない。侍女やその他の使用人たちが聞き耳を立てていることを知らなかったではすまされない。

 恋愛脳、ヘルナンデスにメロメロのマーガレットに直接聞かせても信じてもらえないと思った侍女は、サミュエルに報告することにした。

 腐っても当主。ヘルナンデスのことを調べさせ、生活に困っていること、令嬢たちの間を飛び回っている蝶のような男だと情報を得た。

 それを彼はマーガレットに伝えたところ、証拠もあったので、信じた。

 顔色を失った母に対してサミュエルは心を痛め、やはり自分がいい相手を見つけるべきだと見当違いの思いを抱いた。

 マーガレットはマーガレットで、絶望の中、サミュエルが選んだ相手もろくでもないし、修道院にでも入るかと考えてしまった。

 部屋に戻り、修道院宛に手紙を書こうとして、棚の片隅に置かれた紫色の液体の入った小瓶を目に止める。


「これは魔法の薬?若返るって」


 なぜそこにあるのかという疑問はマーガレットにはなかった。

 

(ばばあ。私はそんな歳なのね)


 サミュエルは馬鹿正直にヘルナンデスの言葉を伝えており、マーガレットは思考力が停止するほどショックを受けていた。


「ばばあ、ね。なのに馬鹿みたいに浮かれて。だって、久々だったもの。あんな風にお姫様みたいに扱われたのは」


 十六歳で社交界デビューそしていきなり求婚。

 マーガレットはうぶすぎる熟女だった。


「若くなったら、何か変わるかしら?」


 修道院に行く前に試してみよう。

 初めての恋を失い、半ば自暴自棄になっていたマーガレット。

 小瓶を取ると一気に煽った。


(苦しい。やっぱり毒だった?!)


 苦しみの中、マーガレットは意識を失った。



 ☆


 目を覚ますと最初に目に飛び込んできたのは、息子サミュエルの顔だった。

 眉間に皺を寄せ、少し怒っているような顔をしていた。


「サミュエル。どうしたの?」

「……君は、母上なのか?」

「な、何を言っているの?どうしたの?いったい!」


 気が狂ったのかと、マーガレットはベッドから飛び起きた。

 体が意外に軽くて、体の均衡を失いベッドから落ちそうになったところを、息子に助けてもらう。そこで、彼女は気がついた。体が小さくなっていることに。


「え?私、どうしたの?縮んだの?手も。どうしたの?!」

「それは僕が聞きたいですよ。母上。なんで、そんな怪しげな薬に手を出したんですか!」

「怪しげ」


 サミュエルはベッドに彼女を降ろした後、見下ろして怒鳴りつける。

 彼のそんな態度を初めて見てマーガレットは驚く。同時に、怪しげな薬という言葉に、直前の記憶を思い出した。


「若返りの薬を飲んだんだわ。それで、縮んで……」

「若返りの薬?!どうしてそんなものを。ああ。僕のせいだ」


 サミュエルは嘆いた後に、ぎゅっとマーガレットを抱きしめた。

 息子の腕の中にすっぽり収まる自身に彼女は戸惑うしかない。


「僕が責任を持って、母上を育てます!」






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