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阿修羅天世(改稿中)  作者: 鈴政千離
第一章 アプルの村編
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第6話 平和の一歩

 獅子十刀術を一通り学び終え、萌萌からも灼一臣流を座学とし教え込まれた今日この頃。

 村に来てかれこれ半年弱、春が訪れた。

 魔族軍が攻めてくる様子はなしで、いつも通りの生活を送っている。

 けど、いつ攻めてくるか分かったもんじゃないので二四時間交代で村が見張りをしている。

 たまにだが姿が確認されると言う。

 他にも、村の住民が攫われたなど、尾鰭がついたか分からないがそんな噂も周っていた。


 俺が育った森は灰になっているが他の妖が心配になり、師や勝意、萌萌と共に向かい遊ぶ日もあれば、今みたいに師と真剣勝負をする日もある。


出雲捌身流いずもはっしんりゅう―――」


 師から出雲流を習得している最中で、何度も技の磨きを教えてもらった。

 何度も何度も失敗し、ボコられた。

 わりと本気で泣きそうにもなった。

 勝意と萌萌との試合も、ちゃんと戦えるという状態にはなれた。

 ―――にしても、やっぱ先輩なだけあって強い。


深淵開放しんえんかいほう……? なんじゃ、それ?」


 いつもの山、その瀑布にて軽く試合をしている最中―――俺が疑問を浮かべ、その隙を狙っては勝意の竹刀が一閃し弾き飛ばされた。


「よそ見」


「話しかけたの、勝意からじゃん!」


 勝意だが、いつもより顔色が優れない。

 何か思い悩んでいる様子だ。


 不安……後は緊張とか意地、か。


「深淵何とかって……なに? 」


 互いに胡坐をかき、休憩を挟む。


「お前、術を使っていて何か気づいた事はあるか?」


 ふと、そんな事を訊いてくる。


「なんてーか、ふとした発想や敵の特性で新しい妖術が使えたりとか? 既存の式をずらしたり、新しく描いたりで大変だけど、そんな感じ?」


「術と権能は名が違うだけで、根源的には些細な違いでしかない。術や権能は自分の世界そのものだ。それを具現化、具体化、何らかの手段・形で表現したのを妖術や魔法と呼ぶ。それを極めた先が深淵だ。既存に備わった術の奥義」


「ほう、そんな物が」


「俺が悩んでんのは、深淵の修得だ。俺はまだ自分の世界さえ見えていねぇ。萌萌だって、あの師匠だってそうだ」


 心臓や切れ端として脳に描かれている術。

 それを意識的に知覚認識する事が深淵を紐解く第一歩。

 そもそもの話、難易度が最も高く扱える存在自体ごく僅か。

 世界の秩序バランスを調和、戒律、統治させている魔王達を除き扱える者など数えるレベルでしかいない。

 本物の強者だ。

 心羅でさえ使えず、だからこそ師を追い抜こうと勝意は毎日迷走していた。


 自分に何が足りていないのか、そもそも深淵が使えたからと師に勝てるのか、ジンを殺せるのか否か。

 剣術も全てではないが物にし、戦いのセンスも技量も極めた。

 最後に残されているステージは深淵開放―――。


「俺はまだ弱い。師を追い抜くのも、いつになるか分からないな」


「じゃぁ、俺が先に勝意を追い抜くぜ。そん時には、その妖刀もらい受ける……!!」


 半分冗談に俺は言葉を投げつけた。


「なんだ、妖刀に興味が出て来たのか? 俺が負ける、そんな日は一生こないが。だが、万が一俺が死んだらお前にあげてもいいな。とりあえず、ジンを殺すまで俺は死なん」


「妖刀、大事じゃないのか?」


 冗談で言ったのだが、意外にも軽かった。


 勝意は軽い男だった。


「大事だからお前に上げるつってんだ、マヌケ。そんで俺の分まで強くなって、家族を守れ」


 そう言い、コン―――と、俺の頭へ謎のチョップが降ろされた。


「お、おおう……任せとけ!」


「……俺の家族は魔族に殺された。ジンの配下だろう、だからお前のいう家族という気持ちは少し分かる。相手が妖魔なのはどうかと思うが」

 

 そうか、それであの時、俺が殺すのを躊躇う決断をしたとき……。


 その後はいつも通りの鍛錬が始まり、師匠が来ては俺と勝意の二対一で試合もした。

 相変わらず、師に勝てる未来は到底見えない。

 なんであんな強いの? 人間? それとも妖刀のせい?


「妖刀欲しいです師匠。くださいその妖刀ー、ください、くださいーっ」


 山の中、気にぶら下がり真っ逆さまな景色を眺め、岩に凭れ掛かかっている師匠に呟く。


「妖刀は希少だからな。少なくとも、俺より強い可能性の奴に託す」


「お……!! という事は、師匠に勝てる日がくれば妖刀貰えたり……? チラッ?」


「坊主がその妖刀の責任を負うのなら、本気で考えてやってもいいぞ」


 なるほど。


「俺の妖刀ではなく、他の妖刀が欲しいなら話は別だが。城和国じょうわこくで手に入るかもしれないぞ? そういう公式試合があると耳に挟んだ事がある」


「城和国? この村の住民って他の国にいったりするのか?」


「村はここ一つ。まあ他の村もあるにはあるが、遠すぎてな。国からもここだと遠すぎる。海を渡らず行くのなら半年はかかるぞ」


 どんな距離……?


「今の魔族問題が解決したら俺もそこに行こっかなー」


「えーいいな、じゃぁ私も行く。ここから北にあったよね」


 と、いつの間にか隣へと一緒にぶら下がった萌萌が楽しそうに呟く。

 ここから北……大体は分かった。


「勝意は? 勿論、来るよねー?」


 目線を上に、勝意が木の枝を背もたれにしていた。


「お前らは心配だからな。俺がいないとどっかで転ぶだろ」


 多分、三人とも一緒になって転ぶ気がする。


「師匠はー? 村に残るの?」


 萌萌は欠伸ながらに、言う。


「部署の幹部だからな、そうそう辞めれんし村を気に入っている。昔は村から出た者は少なからずいるが、今だと魔族の件もあってか、皆が不安がっている」


「不安がってるなら、寧ろ出て行くんじゃね? ほら、魔族が来るような村は嫌だーつって」


「そうでもない。妖魔に遭遇すればどうする? 武士であるお前達がいっても、危険だ。未知数、だからそうそう無い。村が一番身の安全におけるからだ。階級の高い妖魔が襲撃してきても、村の防衛法具や大勢の警備隊で殺せる可能性が高い」


 そういうもんなのか。

 今では俺の家族も増え、より一層村の連中は戦力が増えただのほざいている。

 よく聞くし、うざい、感謝はしてるけど、うざい……。


 家族には村が何と言おうと戦わせないからな。


 でも……。

 少し外の世界を見て見たい―――なら、どうするか。

 今の魔族問題だ。

 ジンという魔族を狩れば、それで解決するもんだと思いたい。


「な、師匠の妖刀って特別なのか? 急に攻めてきて寄越せって言ってくるぐらいだし」


鬼神きじんという言葉を聞いた事があるか?」


 弟子三人を見ては、心羅は言葉を吐いた。


「「「ない」」」


三意鬼神さんいきじん。神話に実在した災厄の三柱がそう呼ばれている。そして現代、それぞれ三柱の鬼神を七つの妖刀へと封じ込めた。これはその一本、阿修羅あしゅらが封印されている。向こうの魔族軍はその鬼神が欲しいのだろう」


 鬼神……。


「あーでも、思い出した。妖か魔王? 五帝衆? 巻物で読んだ事あるけど」


 萌萌の知識量はこの村でも一番だ。

 なにせ、寝るか本を読むかの二択。

 それで武士って……。

 あまり積極的に強くなろうともしていないのに、俺は毎回負ける。

 勝意曰はく、才能なんだと。


「え、けど、おかしくない? 七つの妖刀に封じ込めたって言ってたけど、鬼神は三柱しかいないんでしょ? 残り四本、妖刀余らない……?」


 残り四本は予備とかか?


「確かに余るな。俺も詳しい事は知らん」


 ……なんじゃそりゃ。


「俺の妖刀、天下無双七英神将『摂儺せつな』。これと同じ天下無双シリーズが残り六本の妖刀に命名されている。今となって所在は不明だ」


 名前が一々長すぎて分からん。

 なんで、昔の人って遺跡に入ったら宝箱までの道のりを長くしたり、ありえん数の階段を作ったり、一々命名も長くくどかったりするんだ? 

 俺からすれば迷惑な話だぞ……。


 てか、妖刀にシリーズってあるんだ。


「気がかりだ。何故、鬼神を殺すのではなく封印という形にしたんだ? 殺せなかったのか? 昔の武士は化物揃いと聞く」


 姿勢を崩し、勝意は呟く。


「殺せる者がいなかった。だから、その鬼神のみに特化した限定的な妖刀を作り国の一つや二つ、世界の半分を犠牲にしてまで封印するというのに全てを見出した」


「俺、現代に生まれて良かったぁぁ……」


 安堵の溜息をつく中、勝意は疑問に思う。


「もし復活したら?」


「対鬼神殺しの人工人間『仙人』と呼ばれる四人が退治するだろうな」


「仙人……?」


「賢者の石。天使の魂を抱いた、ちょっと特殊な人間だ。俺も本で読んだ程度の知識、あまり深く訊くな」


 鬼神の封印は成功した―――だが万が一にも、鬼神が復活したとして、それを防ぐ、人類を守る英雄として今は亡きエウヘリアス光国で創られたのが仙人だ。


 寿命は1000は超えているらしい……ほんとに人間か?


「有名どころを上げるなら、魔王の中に仙人が一人いる」

 

「魔王ねー」


 単語だけなら聞いたことがある、それだけ。


「坊主に分かりやすく言えば、国にはそれを統治する元首『王』がいるだろ? この村では村長だ。そして、それと同等に世界を統治する元首、『十二天衆じゅうにてんしゅ』と呼ばれる魔王達が存在している」


    §    §


 十二天衆。


 世界調和を象徴する存在であり個々に思想概念が全く違うが、『平和』というシンボルを掲げ、昔は設立されていた。


 村『アプル』を遥か北西に渡れば、一つの海洋国が在する。

 広大な大陸に、アプルとは一風変わった世界、国土の六割程が山地で絞められており、中心部へ向かう程山地頻度が大きくなっている。


 また鉱石も豊富であり山地に広がる遺跡・洞窟からは、今でも大量の魔石鉱石が発掘されている現状、貿易国でもある。


 名は―――神銘大帝国オルゴーラ。


 帝都ロゴロラを北東に進めば、一つ巨大な魔王城がある。

 そんな魔王城の一室、深夜外へと巨大な魔剣を振るう者がいた。

 片腕で。

 額には一本の角が生えており、細身。

 種族は上位種の鬼族、名はラハード・ファトゥルフ。


 神銘大帝国オルゴーラを統治する魔王直属配下『三闘鬼人さんとうきじん』の一人である。


「おィ、ラハード。魔王様が呼んでるってよ、オマエ待ちだ。仮にも三闘鬼人だ、上司という自覚を持て」


 そう言葉を投げるのは同期、三闘鬼人の一人ジン・グリオノヴァール。

 筋骨隆々に二本の細い角、艶のある黄金の髪に眼、それを後ろで束ねている。

 歳で言えば300歳程だが人間感で見れば少年に映るだろう。

 そしてなにより、美しい。


 二人が城の螺旋階段を上り始める。

 階段、だが列車の走るレールの形をした階段だ。

 数分もせずして一つのだだっ広い部屋へとついた。

 周囲は配下で溢れかえり、皆が頭を下げ礼儀正しく待っている。


 ジン自身、そこまで畏まらなくても良いのにと自分に吐露する。


「よォ!! ラウラ、待ッたか? 連れて来たぜ。魔王様は、まだか」


「もう直ぐお見受けになる。ラハード、アンタはいい加減サボり癖を直せ」


 無感情にそう呟くのは、同僚のラウラ・ファルフォーラ。

 紅一点とラハードやジンと同じく三闘鬼人である。

 漆黒色の長髪に、鬼の角、八重歯が特徴的で身体には花柄の彫が入っている。


「そんなに待ったのか? 夕食ができたと言われ、いざ席に座れば米を炊き忘れたと母に明かされた時の様に」


「……」


「……」


 ラハードの独特なコミュニケーションにジンとラウラ二人は愚か、配下の魔族でさえ沈黙とする。


「まるで友人との待ち合わせに五分遅れ、審判に正確なジャッジをされた気分だな」


「……」


「……」


「これはどうだ? 先生の―――」


 ―――え、まだ続けるの? 

 と、ラウラが引きジンはまた始まったと呆れ笑いする。

 彼のコミュニケーションに応答できるのは今の所世界に存在しない。


 黙っていれば面は良いのだが、共に過ごすにつれ残念な部分が垣間見えてくる……。


「もう伝わったからいい……」


 ラウラは露骨な溜息をし、ラハードに言葉を投げる。

 だが、ふと微小しラウラの無表情を相変わらずと思い、ラハードは残念がった。


「昔、俺の比喩に笑ってくれただろ」


「笑っていない」


 強く否定する小さな憤怒に、表情が僅かに変わりラハードが笑った。


 そんな何とも言えぬ空気の中、音が響く。

 列車の走るレール、それが生きてるかの様に蠢きレールに立った一人の男が真上から降りてくる。

 

「俺が一番の遅刻だな」


 一言、魔王の声が響いた。


 目を開け、上を覗き見れば玉座に座る魔王の姿。

 長髪黒髪、目は碧眼に透き通る白肌。


 また竜種特有のオーガとは違った形の角が二本生えている。

 その内の一本は何故か、欠けていた。


 ―――彼の名は、十二天衆の魔王が一人。


 第九席居:『神核者』ギリウス・ヴォルフォニアロッテ


「天下無双七英神将の居場所。アプルと言ったか、調子はどうだ?」


「既に結界準備を開始しており、もう間もなくアプルを攻め滅ぼす予定です」


 さっきとは人が変わったかの様に仕事モードなラハードは頭を上げ、そう呟く。


 ジンは思った、―――誰だよ!! と……。


「なら俺が一緒に行ってやろうか……? オマエはサボり癖があって心配だ」


 そう言葉にするのはジン。

 仲間であるラハードのサボり癖改心というのもあるが、それ以上に戦いたいという欲が強く秀でていた。


 妖刀探しの為、ワシュタルデ村を魔王より攻め滅ぼすよう任され、実行するも不完全燃焼。

 多少村が広く、妖刀に頼っている人間がいるだけで本物はいなかった。


 ―――欲求不満、これでは配下にまで手を出してしまいそうだ。

 半分冗談だが……。


「お前には他の仕事を任せたはずだ、優先順位を考えろ。今回はラハード一人でいい。やれるか? 危機を感じ取れば、兵を連れて戻れ。俺は仲間が死ぬのは良しとしない。生きている者が勝者だ」


 魔王ギリウスに配下の皆は上辺だけでなく、本当の意味で心から絶対的な忠誠を尽くしている。

 それは柄の良さ、何よりも魔族軍だけでなく民にまで思いを届け、平和を実現しようとしているからである。


 ラハードは軍服へと着替え、魔装具である大剣を空間へと収納させる。


 兵の数は二〇〇〇程で、必要以上にコストを掛けないようにしている。

 自身の給料にも多少なり響いてくるからである。

 ホワイトだと聞き最初は皆と同じ魔族軍へと就職したが、天職だと感じている。

 配下をまとめ、それに次ぐ功績は今まで何度もあった。

 達成感もあり、あの魔王様からも褒められ、子供の頃は頭を撫でられもした。

 それ以来、一ヶ月頭を洗わないと決断したりもした。


 ―――思い出すのだ。

 あのお方の、魔王ギリウス様の為ならば、その平和への実現の為ならば命まで平気で差し出せると。

 魔王様の為に、こんなちっぽけな命が役に立つのであればと……。


「行くぞ、お前達。進行は二日かけ、相手の様子を伺う。直ぐに終わらし、ボーナスを貰うぞ」


「「「「「「おおおぅぅうううう!!!!」」」」」」


 大きく叫び、魔王城から軍が現れオルゴーラの民が手を振る。

 本来、二日でオルゴーラからアプルへは向かえない。

 しかし、それを可能にしているのが魔道具だ。


 指輪型の魔道具で、空間を縮める。

 早い話、ワープである。

 それを予め設置したポイントまで瞬間移動する。


「お父さん!!」


 一人の少女がそう叫び、鎧を着た魔族の一人は手を振るう。

 ここにいる軍にも、皆家族がいる。

 誰一人、三闘鬼人として配下を殺させる訳にはいかないのだ。


 そう、三闘鬼人として。

 魔族軍はアプル村へと侵略を開始したのだった。

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