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阿修羅天世(改稿中)  作者: 鈴政千離
第三章 幽霊列車編
44/44

第44話 渇望

「母さん、大丈夫……」


「大丈夫よ」


 母の病は、悪化していた。

 ゲーテは治癒魔術を唱える。

 第五位階魔術の治癒魔術、この歳で使える物はそうはいない。

 人間の歳で換算すれば一〇歳程。

 

 母の病、その悪化は止まらず衰弱してゆく。

 毎日、毎日ずっと研究をし治癒魔術を開拓する。


 授業も怠惰にせず、やる事は淡々としひたすら魔術を開発する。

 何かにとりつかれたように、怪物のように。


 泣きながら魔術陣を文字を、星芒をプロットしてゆく。


 このままでは母さんが死んでしまう……。

 そんな気がした。

 時間はたっぷりあったはずだ。

 医師でも治せない病なら、得意分野の魔術で突破する。

 何のための才能だ、何のための時間だ、何のためにここまで研究してきた、してこれた。


「ゲーテ、大丈夫? 顔色悪い」


 書物や術陣で散らかった部屋に、ノノが駆け寄った。

 深夜、寝る時間だ。

 何やら音が騒がしいと部屋へ向かえば、泣きながら魔術陣を描いているゲーテがいた。


 怖かった。

 

「少しゲーテは頑張り過ぎている……休まないと脳によくない」


「うん。ありがとう」


 無理をしたゲーテの笑みにノノは気色悪さを感じた。

 

「手伝えることある?」


「いや、もう終わるから。ただの宿題だよ、ギリギリまでやらなくてさ」


 同じ学院に通っているが、そんな物はない。

 課題は毎度提示されるが、そんな研究職がやるような魔術の開発などしない。


 殆どの者ができない。


「お母さんだよね……」


 ゲーテは無言で魔術を次々と繋ぎ、開拓を進める。


「ねぇ」


 ノノは何かできる事がないか、そう訊くも声は返ってこない。

 ずっと下向きに、無言で術陣を描いている。


「泣いてるじゃん」


 ゲーテを無理に掴めば、目が腫れ涙を流している。

 ゲーテの母親が医師でも治せな病に陥っていたのは知っていた。


「ごめん。一人にしてほしい、時間がないんだ。ノノにできる事は、何もない」


「そう、分かった……」


 邪魔になるだけと感じ、静かに部屋へと帰る。

 できる事は何もない、これは本心であり間違っていないだろう。


 でも実際、頼ってほしいと関わって拒絶されると


「少し、しんどいな」


 


 ノノが部屋からいなくなった後も、ひたすらに作業を続ける。


 精神など認識しにくい、もしくは認識できていない苦痛を和らげる、治癒といっても概念は広い。

 ゲーテが研究しているのは人工免疫をつくる魔術。

 だが、できない。どう頑張っても、ビジョンが見えない……。


「まぁすごい。なんだか、元気でてきたわ」


 投与した薬、治癒魔術。

 にっこりと笑う母に、ゲーテも肩を下ろし安心する。

 しかし病が消えた訳ではない。


「ほんとか!?」


「当然よ。ゲーテのおかげ」


 抱き着くゲーテに、笑いかける母。

 そんな二人の間へと声がかかる。

 ベルール家専門の教育係の者だ。

 

「ゲーテ様。舞踊の授業です」


「えーもうか……。母さん、いってくる」


「ゲーテ様。母上と呼びなさい」


「ふふっ。別にいいわよ。ねぇ、ゲーテ、いいこと。あなたのしたい事をして―――なりたい者に、なりなさい」


 頭へ手を置き、頬を通りもう一度優しくゲーテを包み込む。


「なりたいもの?」

 

 顔を出し、問う。


「いつか。この言葉の意味は分かると思うわ。じゃぁ、行ってきなさい。今度、舞踊見せてね」


 額へキスをし、ゲーテはやる気がでる。


「分かった……!!」


 授業はしんどい、先生も怖い人は怖い。

 舞踊は特にそうだ。ただでさえ、運動は苦手科目。


 でも母の頑張って、という言葉に自然と笑みがでる。

 舞踊中に思い出し笑えば、集中しろと先生に拳骨をくらった。



 ―――エリカの病気は更に悪化する。

 死の手前まで。


 それの治療費にレアンドは一切使わずゲーテの教育費に使った。


 しかし、これにはエリカも賛成しており治らず延命されるぐらいなら、その費用をゲーテに出すべきだと、普通に生きてほしいと肯定していた。


 許嫁を決めたリンテーダ家にも、いい恥じになる。


「母さん。新しい回復魔術を開発したんだ」


「あらあら」


 ゲーテは《小さく無欲な幸せイノセント・フェアリー》を唱え、母は気を楽にする。

 淡い光の粒子に包まれ、小さな精霊が笑いながらエリカの周囲を舞う。

 

 別名、精霊魔術。

 森霊エルフやその血の入った者は、先祖である精霊の力を借りれる。

 森霊エルフだからこそ使える精霊学、言語も独学でマスターした。


「どう! 病気治った!!」


 期待に目を膨らませ、母のエリカはにっこりと微笑んだ。


「凄いわ。ゲーテの魔術がお母さんの病原体を倒してる……!! ありがとうね。でも、私は大丈夫だからゲーテがやりたい事をするのよ」


「うん!! 俺、母さんにまだいっぱい話したい事もある!! 外でも遊びたい!!」

 

 歯を見せニッコリ笑うゲーテ。

 少し困った表情になるエリカは、泣きそうな顔を笑顔で隠す。


「お父さんもいるじゃない」


「あの人は嫌い……だよ」


「少し固いのは認めるけど、素敵な人よ。私が認めてるんだから」


「本当?」


「本当よ。お母さんの目を見て」


 両頬を包み、二人は目が合う。


「うん。もう少し、頑張ってみる……!!」


 エリカの願いとして、ゲーテがレアンドと仲良くしている姿を見たかった。

 安心して死にたいと思っている。


 正直、自分はかなりタフというか、強い女なのだと思う。

 病は臓器や呼吸器官、生命基幹に関与していき毎日痛みが伴う様になっていた。


 痛みは脈の様に激痛もあれば、鬱陶しい程度、かなりしんどい、など色々で寝付けない日もあった。

 

「金が必要なのか……分からない」


 深夜。


 部屋でそう呟き、ゲーテは空を眺めていた。

 背中には無数に散らばった魔術書がある。

 魔術を何度も開発し、母を治せないか考えていた。


 根源的に免疫が殆ど働いていない。

 それに謎の毒性もあった。

 俺の作った回復ポーション薬だって、そろそろ切れる。


 金が必要だと父上は言っていた。

 金さえあれば、母さんも助かるんだろう……ほんとうか?

 昔いた両親もそうだ。金がとにかくなかった。

 別に良かった……。

 幸せだった。


 金さえあれば、奴隷だって救える。

 母さんも助けれる。そうだ、金さえあれば動きやすくなるんだ。

 そうだ、当たり前のことじゃないか……!!

 ここを出て、本当の母さんを探したい。

 会いたい……。


 金をつくる魔術。

 

 脳裏に浮かんだその術は破綻していた。

 不可能以前に、結果への理論が存在しない。

 金をつくる……それはできないが、もっと魔術を学びたい。

 他の可能性を見たい、試したい。開拓したい。

 魔術をもっと生み出したい。


「父上。もっと学びたいと思い、魔術学院に通いたいです」


 夜、部屋を訪れゲーテはレアンドと話す。


 元々レアンドもゲーテは公爵家の通う名門学院に入れる予定だ。

 今いる学院は来年で卒業する。次の進級の話……。


「魔術学院か。具体的には?」


「このライナグランテ学院です」


 宮廷魔法師と呼ばれる研究棟、そこへ配属された者も派遣され先生としてくるらしい。


 事前に調べた情報から、選定しゲーテはライナグランテへと道を決める。


「ふむ。……まぁいいだろう、同じだ」


 学院に関しては、確かに神童集う学院。

 ゲーテなら問題なく通るだろう。

 レアンドも強く否定する事なく了承し、出願する。

 

 ―――四ヶ月後、ゲーテは飛び級でライナグランテへ入学した。


 簡単なカリキュラムを淡々と、そして一途に魔術の発明をしてゆく。

 学院には更に奥深い文献が数多くあり、収穫はあった。

 だが、一つ問題がでてくる。


 学院というコミュニケーション必須の組織間において、ゲーテはそれが欠如していた。 

 無論単純な受け答えは相手が誰であれできる。

 そう、簡単な受け答えだけ。


 自分からは何も発さず、意見も言わず、問われれば必要な事を述べるのみ。

 ただ独自の世界へ浸かっていた。

 

 最近はノノとも授業以外で真面な会話はしていない。 

 

 一般教養はある。ベルール家で学んだ事も活かし、どこにも相手を不快にさせる要素など見せた事がなかった。


 入学して直ぐ、クラスの皆にグループができ始めた。

 前の学院でもあったが、ライナグランテに知り合いは誰一人いない。

 同じ趣味思想、価値観、など色々な共通点から生まれている。

 喋りかけて来る相手に対し、会話を望んでいないゲーテはただ受け答えだけした。


 緊張もあった。

 一言で言えば、ゲーテはクラスに馴染めなかった。

 それはそれで魔術への勉強に時間を費やせるので、むしろ良かったまである。

 それだけ母さんの治療に、学びたい魔術に偏らせれる。

 元々は魔術の見聞を広めにライナグランテへ来たのだ。

 

 ―――だが、


「こいつ、まともに戦えてねえじゃん。流石、没落貴族のベルール家!!」


 ある日、いじめが起きた。


 いじめと認識したのは、最近だ。

 教材や上履きといった物を隠される、提出課題が自分の分だけ配られない、聞こえない振りや無視、誇張した煽りを周囲に散らす者、等々色々でてきた。


 物を隠されても魔術で直ぐにテレポートし手元における、提出課題も授業終わりに貰う、無視はそもそもコチラも無視をしている。受け答えがないのなら、こちらも反応する必要がない。

 発した意見を誇張させ誤解を与える発言、これも無視でゲーテの中では問題なかった。


「終わったなら、戻っていい?」


 何回か殴られたが、ゲーテには傷一つない。制服までも。

 全て結界魔術とやらで防ぎ、仮に怪我をしても世の中に存在する全ての治癒魔術を使えるゲーテにとって特に何とも思わなかった。


 どうせ三年の付き合い。

 人生、一生つきそう面子でもない。


 誰かに嫌われる恐怖は分かるが、これから関わる者など腐るほどいる。


「まだだ」


 男がそう言い放ち、ゲーテを五人で囲んでは言いたい放題に攻撃をする。


 ゲーテは魔眼魔術を描き、観察する。

 何かの攻撃かと皆は身構えた。


「なるほど。俺に嫉妬しているのか」


 感情を見聞するに、ゲーテはそう述壊する。


「「「はぁ!?」」」


 幾人かの動揺が現れる。


「貴様、無礼な!! 決闘だ!! 今からだ、剣術のタイマンにて決闘を申し込む」


「断る」


「なぁ……!! 貴様、俺の友人の父は栄爵にいるんだぞ!! 立場を分かっているのか」


「いや、お前栄爵じゃないじゃん。ていうか、爵位とか俺はどうでも……」


 天宮八階。

 政治に興味がある者は少ない……多分。

 不満がないという点が一番有力だろう。

 奴隷制度は犯罪を総して、完全にないと言えばウソになるが、それでも他国と比較すれば政治は良好。


 爵位に拘る者など、貴族の血で生まれた奴が大半。

 元々俺はハルバラードなんて国は知らない、名前のない小さな村で育った。


 貴族という民と差別化させた文明大国で、内乱も起きず凄いと思う。

 

「俺は宮廷魔導師にいくんだ!! 魔術なんざ使えなくても、お前に勝てるんだよ」


 乱暴に木刀が投げ渡される。


「嫉妬してるじゃん」


「う、うるせぇ」


 五人組のリーダー的ポジション。

 種族は獣人族、金髪なフェネック族だ。

 特徴的な大耳、それが垂れている。


「お前、ゾアリシャル先生に教わってんだろ!! 俺はフィルグ・ダリア=スコトゥス」


 彼はそう自己紹介をする。


「はぁ……」


 溜息も出る。

 この学院では仲良くなりにきた訳ではない。

 コミュニケーションは大事だが、二の次でいい。

 今は母さんを治す魔術開拓が先だ。


 なくなってからでは遅い。


「名乗れよ!! 品のない……」


 名乗るも何も、というか戦いたくない。

 結果は目に見えている。

 俺はそこまで強くはない。ただ基礎を叩きこまれただけ。

 無視し帰ろうとすれば、フィルグの魔力斬撃が一閃する。


 ゲーテは扉魔法でその斬撃を閉じ込め、果てへと飛ばした。


「おい、魔法はこの学院じゃ禁止だぞ……!!」


「正当防衛は仕方ないだろ。俺は戦わない」


「なんだ、弱いのか? 雑魚が」


「そうだ。俺は弱いから強いお前とは戦わない」


 煽りに乗らないゲーテに、フィルグは苛立つ。


「くそが。ゾアリシャル先生まで、栄爵のノノ・リンテーダに許嫁も渡され、魔術の才能まで……!!」


 反応できず急に吹っ飛ばされたゲーテは治癒魔術を描き、癒す。

 完璧に癒した魔術の才能に嫉妬し、フィルグは憤怒を示していた。

 誰でも使える物でもない。

 冗談抜きに世界に届く域にいる。


 この学院にいれば、心のどこかで賢者を夢見る。

 賢者に魔術の才能といった物は左右されない、だが使える者とそうでない者では確実に『差』が生まれる。

 魔術を使えるだけでも選ばれた者、そして高位の術など国一つに何人いるか。

 妬ましい、ただただ妬ましい……。


 自分の才能のなさが、自分を受け入れてしまった。

 それに対する憤怒。

 ゲーテへの誰にでもへだてなくする自分を見せない腹黒い気持ち悪さがあいまり、存在を拒絶したかった。


 フィルグは賢者を目指したかった、だが不可能と理解し宮廷魔導師を志願した。

 だが目の前のゲーテは、人生出会って来た者の中で最も賢者に近い存在だ。

 羨ましい、妬ましい。


「ゲーテ!! お前は恵まれすぎてるんだ!!」


 図書館へ寄ろうとした脚が、停止した。

 恵まれすぎている。

 この言葉に、なぜか苛立ちを覚えた。


 元々奴隷だ。

 地獄だった。

 そうだ、多分どこか俺は調子にのっているのかもしれない。


「なんだ、やる気になったか!?」


 別に戦う理由はない。

 本当にない。


 少し怒っている。

 俺は恵まれてなんかいない。


 剣術は知っている中で出雲捌身流、獅子十刀術、灼一臣流、水神流の四つがある。先生に教えてもらったのはこれだけだ。

 そもそも剣術に関して興味関心もなく、知識のみで動きも脳裏や感覚にトレースしているに過ぎない。


 だから、本当に強い奴には全然敵わない。


 いくつか木刀が重なり合うも、ゲーテは地へと叩きつけられた。

 だが、カウンターをくらったフィルグも空へと弾かれる。

 大きく負傷したのは明らかにゲーテだった。

 技量の差だ。


 貴族としての礼儀、作法、常識。

 教育など勉学には秀でていたがコミュニケーション能力が欠如していた。

 知っている者には、話せるし抵抗はない。

 こうも人数が多いと、難しい。

 タイミングもそうだし、不安もある。

 友人という頼れる存在がいる分には越したことは無い。

 分かっている、分かっていた、自分が周りと違っていると。

 変わり者だと。


 その日は飽きるまでボコされ、治りにくい打撲を負ってしまった。

 魔術は賢者を除いて万能ではない。

 治癒の再現率性であっても、必ず治癒される訳ではなく、何度も使えば乱雑さが生まれる。

 魔力枯渇にも初めて陥った。


 使える位階が高いだけで、魔術の知識が深いだけで技能は浅い。

 ゲーテも自覚している欠点の一つだ。


 いじめを受けた、誰かに慰めてほしかったのだろう。

 だから最初に父上にゲーテは相談した。

 何かを隠されたり、決闘とはいえ過剰な程にボコされたこと。

 だが、父は将来上に立つ人間であり偶然爵位に恵まれた下民など相手にするなと言う。

 一月もすれば、いじめに関するゲーテの相談に無視をする用になる。


 ノノに相談するなんて、みっともない。

 恥ずかしい。


 選択肢としてもう一つあったのが母さんだった。

 

「……どうしたらいい?」


「イジメね。お母さんも良く合ったわ」


「そうなの!?」


「私に嫉妬する人は多いの。ゲーテと同じね、最初は嫉妬からイジメが生まれた気がするわ。こういうのは早めに対処しておかないと、大きな障害になるのよ」


 そこでエリカは助言をする。


 過去に容姿に嫉妬する者が数多くいた。

 顔に傷をつけようとか、襲わせようとか、突き落とそうとか、思い出せば色々ある。よく乗り越えたと、今でも思う程だ。


「仲良くなればいいのよ」


「―――嫌だ」


 きっぱり言うゲーテにエリカは笑う。


「気持ちは分かるわ。嫉妬でイジメをする理由は、自分にない物が欲しいからよ、まぁそれが嫉妬だから当たり前の話かもしれないけどね。そーいうのは、仲良くなって、自分から歩み寄ればいいのよ」


「母さん」


「なに?」


「俺は恵まれすぎているのか?」


「なにそれ。んふふ、それを決めるのはゲーテ自身よ」


「そうか」


 またいつもの様にフィルグとその仲間がちょっかいを掛けてくる。

 嫌な事に、もうすっかり慣れてしまった。


「今日もいっぱい、ぶっ飛ばしてやる。どんだけなぐっても、痛くねえんだろ!?」


 結界も肌に纏わせてるし、衝撃の痛みもあるけどそんなの直ぐに治せる。

 無傷といっていいレベルだ。

 前みたく、打撲レベルに魔力展開で殴られれば別だけど。


「俺は今日、お前に話がある」


 ゲーテはそう言い、相手は警戒を始める。

 何かしかけて来ると。


「あ?」


「俺と友達になってくれ」


「「「「はぁ!?」」」」


 相手は驚嘆し、意味不明とばかりに悩ませる。

 深読みまでした。


「なにか変か?」


 自分から歩み寄ったが、少し順序を間違えたかとゲーテは考える。

 でた結論は、


「やっぱ今の無し」


「いや、無理だろ!!」


 フィルグは構え、魔力を纏わせる。


 結果、ゲーテは負けた。

 互いに負傷し、ゲーテはいつも通り治癒する。


 そのまま帰らず、フィルグの元へと駆け寄った。

 いつもと違う行動にフィルグは警戒する。

 自然と木刀を強く握りしめる。


 そのままゲーテは治癒を始めた。


「俺はお前より魔術の見聞も、才能もある」


「は? うぜえ」


 そのままゲーテを転ばし、木刀で頭を叩く。

 そこへは結界を張らず、真面にくらいフィルグは驚嘆する。


「痛ぇ……。お前は俺より強い。剣術なんて知識があるだけで、技術面ではどれだけ工夫しても俺はお前に追いつけない。何に特化しているか。俺には病の母親がいる、だから治したいと魔術を死に物狂いで探究した。興味があったのもある、そして俺はそれしかやり方を知らない。お前は宮廷魔導師に向けて強くなった、お互い違う道で努力している」


「何が言いてえ」


「俺はお前に嫉妬している。負けは負けだ、何であっても俺は負ける事は嫌いだ。だからお前は凄い」


 そのまま立ち上がり手を伸ばす。


「友達になろう」


「「「「そうはならねえよ……!!」」」」


 後ろの四人がそう叫ぶ。


 ゲーテが手を出した時、フィルグはその手を掴んだ。

 両者、照れながら。


「お前、俺が羨ましいのか?」


「え、あ……うん」


「いいぜ!! じゃぁ俺がお前に指導してやる。だから俺に魔術を教えろ!!」


「いいけど。魔術は素質が」


「関係ねえ。知りたい、努力でだって挽回できる!! お前も、いつか俺に敵う可能性があるって事だ!!」


「分かった。じゃあ友達か」


「ああ」


 母親の助言通りにすれば、フィルグはゲーテを受け入れ友人にまでなった。

 バカにしないようになった。

 流石に早すぎたと思ったが、母さんに報告すれば褒めてくれた。

 どうやら母さんもその日に友人にまでなれたらしい。

 すごい……。



 ライナグランテ学院に通い一年が経過した。


「宮廷魔法師、第一研究棟所属のノエル・アスカーチェです。よろしくお願いします」


 そろそろかと思ってはいたが、きた。

 本物の魔法師……はそうなんだが、珍しい種族だ。


 竜人とう種族名だったか……竜族と人間のハーフ。

 片方に角が生えている。

 触ってもいいんだろうか。

 

 挨拶を済ませ、ノエル先生は出席を始めた。 

 かなり淡々としている。

 残りの二年、これからの授業全般をこの先生が務める事になる。

 教育係として宮廷魔法師として派遣された訳だしな。


 授業は終わり次第、俺はその先生の元へと向かった。

 

 フィルグ家の所有する図書館も借り、全ての魔術本を頭に入れた。

 魔法師とは研究職専門、魔術や魔法術を開発する陣営者だ。

 この魔法師に会いたかった……!!


「魔術について、教えてほしいです」


「あ、はい。えーと」


「ゲーテ・ベルツァンラッサールです。よろしくお願いします」


「はい」


「どんな病気も治せる魔術はありますか? 俺は今、その魔術を開拓したいんです」


 率直に答えを貰いに来た。


 可能ならまだ見ていない文献を読みあさりたい所だ。

 研究から文献も生まれる訳で、宮廷魔法師とは関わっておきたい。

 俺の知らない魔術も多く眠っているだろう。

 いわば、宮廷は一つの図書館だ。


「そうですね……私は聞いたことありません。私の研究分野は術式の詠唱をプロットする……ん、簡単に言えば術式をもっと簡単な低パフォーマンスで同じ効率を保つ物なのです。魔術開拓となれば確かに研究職の魔法師をオススメしますが、いきなり研究者にはなれませんからね。ここを卒業しても、いくつもの実習やらで時間はかかりますし。ただでさえ魔族は長命種ですし。やりたい事をするには、時間を使います」


「他の選択肢だと何がありますか?」


「このまま進路コースを変更するのはどうでしょう。賢者は知っていますよね?」


「四人の偉人……アイン、ジョーカー、マギー、ラルウですよね」


「そうです。現代において、もっとも賢者に近き者、賢者に似る者。賢者候補の集う帝魔術学院エバンギージェスに通うといいと思います。そこなら通いつつ、学生でありながら魔術や魔法の研究をしますからね。世に出ていない文献も多岐にありますよ」


 エバン学院……。

 ライナグランテより、少しランクが下の学院だ。

 知ってはいたが、そこは父上が了承しないだろうと踏んで外した。


 エバン学院を卒業したとして、爵位は与えられない。

 ただの分野が枝分かれした研究職につく。

 それでもエバン学院を卒業したとなれば名誉な物だが、天宮八階に関与するなら掛け離れている。

 父上はそれを否定するだろう。


 いや、まだ一度も相談していない。

 話だけでもしてみるべきか……。

 爵位なら騎爵からなら誰でも順当に上がっていける。


 なんで入学してからこんな事……。


「でも、これは魔術適正のある者ばかりです。私も昔居ましたよ。ゲーテ君は魔術の素質がかなり高そうですし、魔術専門研究職に就きたいのでしたら、そちらをオススメします。そこから魔法師になるなら、また時間はかかりますが。この学院であれば、魔法師になれる可能性はあります。爵位をとるなら、本学をオススメしておきますが」


 学院進学を父上に伝えれば、肯定も否定もせずに分かった、と一言で終わった。

 あまり関心を持ってくれないらしい。

 母さんの前だと、少し態度が柔らかいくせに……。 

 

 フィルグが言ってたけど、やはり家族として夫は妻の尻に引かれるのだろう。

 

 否定はなかった。

 父上は何を考えているのか、少し分からない。

 口数も随分と少なくなった気がする……。


「てな訳で、エバン学院に行くかもしれん。父上からの返事はまだだけど」


 進路変更をノノに話し、今は友人であるフィルグに報告していた。

 俺が魔術を教えては、午後に剣術を教えてもらい今に至る。


 スコトゥス家の巨大な中庭、噴水を眺めながらフィルグは溜息を吐く。

 

「あー、なんとなく行きそうだな」


 遠くを見ながらフィルグは呟いた。


「魔術専門研究職。賢者候補が集まるってのに、卒業しても爵位はないんだな」


「今は九爵だろ。もうあんじゃねーか」


「相続される爵位はあまり良く見られないだろ。沈黙になってるけどさ」


 そこが父上も嫌っている所。


 爵位に拘るのは政治に関心のある者ぐらいだろう。 

 貴族に生まれ、政治に興味なく国を出る者だっている。


 爵位を気にする者は、誰かよりも上という立場に拘りを持っている。

 他にも九爵という低爵位に嫌悪を抱いていた。

 社会的には民が騎爵を目指し、そこから更に名誉を与えられ天宮八階の仲間入りになるわけだし。

 本来の貴族が九爵に没落すれば、それだけ九爵の地位を圧迫する。


「なんで、爵位貰えないんだ?」


 それさえ貰えるのなら、最初からエバン学院に進学していた。

 その方が効率良かったし……。


 賢者候補……。


「そりゃ、宮廷魔法師は魔法と魔術に対してエバン学院だと魔術専門だぞ。賢者候補というのは、現代の賢者を継ぐものって意味じゃなく、魔術適正ある者達の名誉みたいなもんだ」


 ほんと、この国は名誉にうるさい。

 いや、立場に皆が誇りを持ちすぎている。

 そこまで誰かの上に居したいか。

 立場が下だからって、発言や人権を奪取される訳でもないのに。


 この国は……どこかおかしいのかも知れない。


「名誉は大事だぜ。俺だってまだ子爵だけどよ、上り詰めて賢爵になるからな!!」


 賢爵……宮廷魔導師の中でも選ばれた者に与えられる特例爵位。

 伯爵程の力を持つ。

 

 フィルグも爵位には拘りがあるらしい。

 それが普通なんだろうか。

 この国で生まれた訳じゃないし、俺にこの国の普通が無いだけなのかもしれない。


 その間、また新たな回復魔術を開発し母さんに試す。

 効果は分からない。

 直ぐに良くなったと言うが、謎の毒性とやらが不明だ。

 魔術で治る様な物が、治せない……。

 老化現象も激しく、やつれてきている。腕や脚など、胸やあばらなどには骨が浮き出ている。


 全体的に肉が減ってきている。

 見たことのない痣も出ていた。

 魔族特有の魔力回路である黒紋とは違っている、何か病と関連がありそうだ。


 深夜、少し寝れなく屋敷を散歩していた。

 ただの気分転換だ。


 少し受け入れ始めたが、母さんの寿命はもう長くない。

 その話はしてくれたし、俺は家族とし受け入れた。

 ……たぶん。


「ここは」


 目前にはベルール家の護衛がいる。

 鎧に覆われながら、いつでも戦闘可能に武具を構えている。


 そこらを巡回している騎爵より、こういう門番的なのが強かったりするらしい。

 大抵、宮廷魔導師から派遣されたとかフィルグが言っていた。


「ゲーテ様。これ以上は立ち入り禁止でございます」


 一人の鎧の女が身を下げ、囁く。


「どうして?」


「いつ誰がベルール家の屋敷を襲うか分かったものではありません。どうぞ中の温かいお部屋へ」


「あの塔はなに?」


 いくつか認識しにくい結界があるので興味が生まれた。

 護衛の奥には一つの塔がある。


 今の今まで見たことのない塔だ。

 魔道具か何かで阻害能力でも働いているのだろう。


「あれはレアンド様の自室です」


 塔そのものが自室なんだ……。

 広すぎて逆に怖そう。

 あそこにも魔術本があったりすのだろうか。

 父も母さんの病状を昔から心配し、医療について色々当たっているといっていた。


 ―――というので、見に行く事にした。


 第二位階魔術《神に居場所を否定されインビジブル・エグジスタンス》。


 半日のクールタイムがあるが、こちらが魔力を出さない限りバレない。

 気配や探知を消す魔術だ。

 結界と強化に、光や魔粒子の反射を利用したりと超複合魔術な為、第二位階で一番難易度が高い。


 まぁ面倒なのは魔力は使えないので、塔まで《浮け(フロウス)》でスムーズに移動できない所だ。本当に隠れる事に特化している。


 護衛の目を騙し、直ぐに移動できた。


 塔を目指すこと二〇分。 

 魔術を解き、結界に手を翳す。

 

 ややこしい結界だが、なんとかいけた。

 こんな複雑すぎる結界……かなり高価な魔道具なんだろう。

 解く事はできても、到底俺なんかの頭じゃ作れないや。


 部屋は広いと言うより、高い。

 まぁ広くもあるけど、こじんまりとしている。

 父の姿は見当たらない。

 魔術本もないし、ただの仕事部屋という感じだろうか。


 一気に興味を失い、帰ろうとすれば足元に何かを感じる。

 魔力を感じる……。

 だが足元はただのレンガ地、踏んでも空洞らしき響もない……。

 

 魔術で探知をすれば、誰かがいた。

 権能魔法か? 離れていてもコチラに魔力でつついてくる。

 なんだが、俺の魔力まで搔き乱されそうだ。


 魔眼魔術から足元の痕跡を反射でレンズへ映す。

 何度も異様に踏まれた形跡のある一つのレンガを踏めば、ズズズと鈍く動き出す。

 地下へと通じる階段だ。


「《光源蛍火ゾルゼーテ》」

 

 小さな光源を周囲に散らせては、灯を作る。

 気配、何かいる……。


 灯に力を込めれば、鎖で繋がれた森霊エルフがいた。

 小さな少女でありながら、ガリガリにやつれている。

 全身血塗れに打撲だらけ、歯も何本か抜け皮膚も剥がれていた。

 顔などは見るにおぞましい程殴られた形跡がある。


 心臓がぎゅッと握りしめられた感覚を覚える。

 悍ましかった。

 少女ではなく、それを実行した者が。


「大丈夫か……?」


 返事はないが、呼吸はしている。

 臓器も見えている、そこへ小虫が寄ってきている。

 そして死臭……惨い。

 こんな場所があったなんて……。


「《信仰なる聖炎(ヘヴン・オールフレア)》」


 もっとも即効性のある治癒魔術。

 紅蓮の炎で包まれながら、痛みや傷口を完全に蘇生レベルに治す魔術だ。


 初めて誰かを救った感じがした。


 だが少女は目を覚まさない。

 餓死寸前……いや、もう既に……。

 零位階で自身の体内から水や塩を生成できるが、それでもダメだ。

 助からないのか。


「―――何をしている」


 聞き覚えのある声が響いた。

 父上の声。

 低いトーンから、怒っているのは分かる。

 勝手に部屋へ入った事……この森霊エルフを見つけてしまった事。

 

 ここで父上は何をしていたんだ……。


「ああ。先月屋敷に侵入してきた者だ。平民と貴族の堺を壊すテロは城和国と比べればマシな物だが、このハルバラードでもよくにある。護衛が多いのもそれが理由だ」


「……餓死など苦痛を与えて殺す程なのですか?」


 刹那の沈黙から、レアンドは言葉を吐く。


「現代、貴族という概念が曖昧になっている。ハルバラードは名誉を象徴する国家だ、故に高貴なる貴族へ嫉妬し下民が内乱を起こしては国としてみっともないではないか。反発、背反、テロなど天宮八階に少なくとも関与しうるこの高貴なる貴族への攻撃、誇張無くして国家転覆とも私は見ている。これはだ。死に方にも種類がある、これら大罪は地獄を通って死ぬべきである」

 

 恐怖に何も言えず、ゲーテは唾を飲み込む。

 父上の思想は長くいれば分かっているつもりでいた、そう、分かっていたつもりだった……。


 この人はおかしい……。

 絶対におかしい。

 

「なんで、父上の部屋に……。父上が拷問でもしていたのです……か……?」」

 

 ゲーテの頭へそっと手を乗せる。

 ゆっくり、可愛がるように撫で始めた。


「私はそんな事はせぬ。彼女は勝手にここへと入り、抜け出せなく餓死したのだろう」


「誰かに攻撃された後も……」


「この部屋は死臭がする。何日も過ごせば精神も摩耗し、狂い殺し合っても不思議ではない。私でさえ、部屋の地下でその様な事が起こっていたなど。恐怖でしかない。感謝する、今の今まで気づかずにいたのだから。明日には使いの者に処理させる」


「普段、ここは使わなくなった書物を入れる用にと作ったのだが、実際そうは使わなくてな」


「そうですか……」


 審議を確かめる魔眼魔術、これをここで使う勇気はなかった。

 そもそも魔道具で情報系統への結界が張ってある。


「今日は何もなかったと思っていてくれ。命令だ。恩を仇で返す事はやめてくれ、息子よ」


「……は、い。父上」


「では、部屋に戻りなさい」


 何も言えなかった。 

 追及できなかった。


 同じ森霊エルフの子。

 学院でも同胞の森霊エルフはあまり見ないのに……死んでしまう。

 

    §    §


 あれから一ヶ月、

 

 ある日、母さんが倒れ込んだので直ぐにベッドへと移した。

 いくら治癒魔術を唱えても症状がマシにならない。


 いつもなら、大丈夫なのに。

 なにをしたら、俺には何ができる……。


「母さん」


「……愛してるわ。知ってる、ゲーテは絶対にいい人。父のレアンドともこれを機に仲良くするのよ? 最後に伝えてくれる? これはゲーテにも言っている、夫にもそう。世界で一番、愛してる……」


 結論、母さんは息をふき取った。


 火葬はいつだろうか、それより涙が止まらない。

 死は近いと分かっていたのに、まだ色々話したい事もあったのに。


 血は繋がっていない。

 本当の親ではない。

 だが父上に奴隷から拾われ、母さんには本当の親の様に感じていた。

 困った事も怖い父ではなく、母さんに相談していた。

 ……なんで、助けれなかったんだろう。


「魔術じゃぁ救えないのかよ……」


 母の横で泣きじゃくりながら、ゲーテは悔やんでいた。

 何の為に魔術をここまで探究したか、開発したか。


 病を治したかった。

 

 扉が開き、そこへレアンドがゆっくりと足を運ぶ。

 使いの者が伝えに言ったのだろう。


「父……上」


 世界で一番愛している、母さんの最後の言葉。

 今でも思い出しては涙を浮かべるゲーテに、レアンドはエリカを見ては両手で何度も閉じ自身の顔を抑える。


 泣き崩れそうなのか、両手で自身の顔色を消す。

 騎爵の者や、召使などベルール家に使えていた者による花が並べられた。

 母さんは笑顔で眠っている。

 

 ゲーテも父の気持ちを察する。

 愛した妻なのだ、自分と同じくらい、もしかすればそれ以上に悲しいのかもしれない。


 部屋の一室、エリカ、レアンド、ゲーテの家族のみの空間の中、笑い声が聞こえた。


「はっははっ!!!!」


 ゲーテは顔を見上げる。

 父上の笑い声だ。


 父上はおかしくなった……。

 壊れてしまったのか。

 

 どうしたらいいんだ……!!


「教育だ」


 レアンドはぽつり、ゲーテにそう言葉を投げる。


「私は、必要のないと思った者はきる。これは、お前の思考にも入れておけ。時間は有限だ、必要のない物などに構うな」

 

「どういう……それより、母さんが」


「エリカを殺したのは、私だ」


 何気ない表情でレアンドは呟いた。

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