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阿修羅天世(改稿中)  作者: 鈴政千離
第三章 幽霊列車編
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第42話 かぞく

 一人の少年が箒へと乗り、魔力を込める事で浮遊し学校へと通う。

 途中で友人と出会えば、そのまま一緒に通学する。

 

 またある時―――杖を持った貴婦人は洗濯物を魔力で浮かせ運び終える。

 杖を振れば花に水を、それから朝食を作り、出掛ければ戸の鍵がロックされる。


「いってらっしゃ~い」


「らっしゃい~、らっしゃい~」


「おはよ! おはよ! いってらっしゃ~い」


 花がニコニコと囁き、通りかかる皆も挨拶を交わしてゆく。


 辺りを見渡す限り、レンガや魔石によって殆どが建築されている。

 より一層カジュアルさが増した穏やかな国。


 皆が有する箒や杖、これらには低位階の魔術がプログラミングされており魔力や妖気を送るだけで日常を豊かにしている。

 この国でしか限局とし扱えない杖、箒、唯一無二な技術である。


 ここは、魔瞳王国ハルバラード。魔法文明が他国の未来に到達した、他の先進国の先へ座する一鶴。貴族政権でありながら、外交能力にも優れ何よりも国としての運営が安定していた。

 

 国民の声を聴き入れ、大きな反対運動も起きず常に先へと国は進んでいる。

 今の城和国が目標にしている国である。

 だが、あらゆる他種族を集めた人身売買も盛んにある。


 といっても、表では何も見えず国としても汚点の一つと度々問題視している。


 一二年前。


 ハルバラード王国は貴族政権である。


 爵位は上から順に『帝爵』『公爵』『副爵』『伯爵』『栄爵』『子爵』『男爵』『九爵』と、総じて『天宮八階てんぐうはっかい』と称す。

 貴族階級の高位である帝爵、公爵、副爵、伯爵、の四柱からそれぞれ各当主領主一〇名の、計四〇名にて議会最終決定がなされ、栄爵、子爵、男爵、九爵の四柱を含め当主が代表し計八貴族での、天宮八階にて政治を執り行っている。

 九爵は貴族の仲間入りだが仮爵位、民間人が騎爵に入り功績を納める事で認められる。そこから上るには、政治運動において民からの信頼に限る。


 天宮八階の一柱『九爵』に、ベルツァンラッサール家という貴族がいた。

 通称、ベルール家。


 ベルール家は領土を強欲なばかり拡大し、税をより得ようとした。結果、嵩取る権力争いに敗北し貧乏貴族と落ちぶれた。貧乏貴族。貴族ではあるが九爵と、民間人が功績を納めた事で獲得できる国家名誉において、先祖代々受け継いできた由緒な貴族が良い恥じだ。

 九爵は元々貴族でない物が入る場所と社会的にも認識されている。

 他と違い九爵を与えられる爵位にはある一定の数が決まっており、自身のベルール家が圧迫していると感じていた。


「クソが……!! クソ、ゴミ!! ゴミ!! こんなんじゃ、こんなんじゃダメだろ!! 何も……!! この国は何も分かっていない……!! 折角の魔法文明、ここまで先進しておいて何故戦争をしない!! 得られる益しかないだろ!!!! 腐ってんだよ……!!!!」


 怒号が弾け、男は小さな少女を殴り飛ばした。数十回も感情に任せがむしゃらに殴り続ける。少女の全身が打撲だらけで腫れていた。


 少女は奴隷だ。希少種族と言わしめる森霊エルフ族。それを何度も玩具の様に殴り、殴り、ひたすら殴り続ける。売買によりベルール家へ来たのは一週間ほど前。


 既に少女は生きる気力をなくしていた。


「くそ……いや、まだ大丈夫だ。こっから」


 奴隷を地下へと蹴飛ばし、彼は自室へと戻ろうとする。その脚を少女は必死に掴んだ。蹴飛ばされるも、何度もしがみつき懇願する。


「お願いします!! もっとなぐってもいいですから、この部屋……この部屋は怖いんです」


 異様に広く、そして死臭がする。光も音も聞こえず、暗黒が彼女の全てを抱くのだ。死臭の原因は彼女は何となく察していた。過去にも奴隷を買っており、なぐり殺されたのだろう。

 それが何もない空間にずっといる、恐怖でしかなかった。


「そんなに殴られてんなら、殴ってやるよ!!!!」


 顔を殴り、地下の何もない部屋へ入れられる。階段を閉じ、ロックがかかり、彼が先までいた地下部屋が完全に隠蔽される。


 長く薄い金髪、それを後ろで束ねている。背丈は丁度二メートル、三白眼の緑眼は何かに依存しているような、執着しているような、獣の様な強欲が宿っていた。顔には鼻筋から横へ曲線敵な黒紋が描かれた人魔族。


 ベルール家主人『九爵』レアンド・ベルツァンラッサ―ル。


「まだ、戦えるな」


 彼は部屋を長く移動し、結界を高価な魔道具から何重にも張り魔術でテレポートする。

 屋敷へと着き、レアンドは部屋をノックした。


「やぁ。体調は大丈夫かい、エリカ」


 笑顔でレアンドは声をかける。


 ふかふかの巨大なベッドで半身のみを起こし、エリカと呼ばれた淑女は読んでいた童話を閉じレアンドを視野にいれる。彼女はレアンドの妻、エリカ・ベルツァンラッサ―ル。

 女神と呼ばれる程に絶世の美を誇る。彼女は貴族絡みの中でも、未だ女神として知らぬ者などいない。


 彼女目当てで騎爵へ進路を考える者がいる程。無論、既に夫であるレアンドがいる訳だが。


「あなた……心配しないで」


 綺麗な碧眼を閉じ、彼女はレアンドに微笑む。


「先ほど医者に駆け寄っていて。今、他の要因を見てもらっている」


「ありがとう。子供……ごめんね」


 泣き始める妻に、レアンドは抱き寄せる。


 ただ彼の形相は、疲労していた。

 しんどい、と。


「また来るよ。今日は私が夕食をつくるさ」


「まぁ!! 楽しみにしてるわね」


「これから、また仕事さ。行ってくるよ」


「いってらっしゃい!!」


 キスをかわし、レアンドは部屋を出る。

 向かった先は、ビッカム・ザー・ランデェス駅。ハルバラードの交通機関は主に列車だ。箒も一般的ではあるが、遠出には必ず列車が使われる。


 そもそも、区域領土には不可視不可侵の結界が常に展開されており、箒の種類であっても区域によって異なっている。その広大な領土内では自由に移動できるが、領土を挟んだ移動においては列車が多様される。

 中でもビッカム駅が各領土の中心地に位置しており、最も使われる交通駅の一つであった。


 車両内にてレアンドは憂鬱になる。

 自然と溜息がもれた。


 何度も抵抗し今の政治を変えるため、そのためだけに貴族とし復活しようとした。時間は有限だが、多少は費やしてもいい。妻と結婚し、ベルール家を継ぐ子供をつくる予定だった。妻も子供を授かる事へは賛同し、それまで特に問題など起きなかった。

 妻であるエリカは不妊症だった。

 だがこれは二次災害に過ぎず、本命は免疫疾患により様々な病原体を身体が引き入れてしまう。癌も治療で感知したが、現れたのは事実。原因は今だ不明、医者曰はく治療法も無いという。

 

 彼―――レアンドは絶望した。

 今まで殴るや、弄ぶ物とし扱っていた奴隷。その日は三人も殺してしまった。


 子がいなければベルール家は途絶える。やはり一生貧乏貴族であり、この国は変わらない、と鬱になった日も多々にある。

 ならば優秀な者を子にすればいい。血統などは少なくともハルバラードには関係ない。あくまで政権たる王の器を優先する。


 駅を降り、一つのショップへと足を運んだ。

 巨大な宝石店『ラッキー』である。


「ご注文は」


 事務的に四〇後半に差し掛かる男は、レアンドに声をかける。


「ああ、前にややこしくオーダーメイドしていたんだ。レアンド・ベルツァンラッサールという者だ」


「しばらくお待ちください」


 一分もせずして、店員が戻って来る。


「では、金額の方へ最終確認の為、お入りください」


「ああ」

 

 そのまま別の部屋へと入り、見えない扉へと呪文が唱えられレンガ壁にドアノブが生まれる。そこを開けば、また通路が広がっていた。中にはドレスや時計、装飾品類が多くみられる。


 レアンドは特に気にせず、無言で後ろを歩いていた。

 通路の真ん中で立ち止まり、店員は幾層もの暗号呪文を唱える。


 何もなかったレンガ地が奥へ奥へとねじ込まれ、地下へ続く階段が創造される。そこでレアンドへと振り返り、一つの仮面を渡した。特に拘りもない、普通の仮面だ。


 しかし、この仮面を装しなければ入場は許可されない。

 自分の身を守る為でもあるので、そもそも外す愚鈍はいないだろうが。

 

 ここより誰かの仮面を外す、スパイ……もしくは、そう疑われる行為。連絡、賭けを守らないといったルールに帰属するマナー違反はその場で死刑となる。


「では」


「ああ。ありがとう」


 そのまま地下へと続く階段を降り、今度はレアンドが呪文を唱え何もないレンガにドアノブが現れる。

 目的地にまで、いくつものフェイク部屋や暗号が通されている。


 ここは『売買店』アンラッキー。

 賭博兼、人身売買を行う奴隷屋だ。


 表向きは賭博。

 万が一警備隊の者が来ても賭博罪による違法を問題視させ本命の人身売買を伏すのが目的だ。


 人身売買は純粋な金品で買おうとすればかなり高い。

 よって、賭博で行われるのが裏では一般的。

 賭博といっても、色々存在している。

 

 単純なポーカー、ダーツといった遊戯、奴隷同士を殺し合わせどちらが勝つか、奴隷一〇全員を拷問死させる中、誰が最後に死ぬか、といった頭の外れた者達による駒比べ。レアンドも、最初はいくらか狂っていると感じていたが、今では日常となっている。何も感じない。せいぜい、声がうるさいと思う程度。

 皆、平和というビジネスに飽きているのかもしれない。刺激をどこかで欲している、誰もが考えた事があるだろう。ここはそれを誰かが実現させただけ。


「さて。始めようか」


 仮面には声まで変換され、目前の人物が誰かなど分かる要素がない。平民、貴族、もしくは海賊、色々いるだろう。だが、ここでは平等。

 

 いつも通りのイカサマを行い、レアンドは勝ち進む。

 イカサマはマナーとするこの場限りの条約に記されていない。


 バレればマズいだろうが、当然バレなければいいだけの話。周りを見てイカサマをしている者は僅かだがいる。腕の立つレアンドが分かったとしても、立証できる証拠もない。というより、自分自身にとっては関係のない事だ。

 誰が損しようが、得をしていようが、奴隷が狂死しようが、逃げ出そうが、今の自分にとって何の影響もない。無視一直線、この根本的な考えは思想に相反し昔からさほど変わっていない。


 レアンドは勝ち進み、やがて奴隷を買う権利が与えられる。

 実際かなり高いが賭博を挟んで勝ち進んだことで、掛け金により減額される。

 これは大きい。そもそも誰も奴隷をそのまま購入しようなど、見たことがない……。


 奴隷は多く、人間、幻妖族、魔族と、また幻妖族、魔族の中でも希少種がいる。例えば森霊エルフ、もっとレア物では森樹霊ハイエルフ妖森族ダークエルフ、ただの森霊エルフでも更に奥があり、魔力や権能といった物に当たりがある。

 幻妖『龍』、幻妖『鬼』、『狐』なども挙げられる―――とはいえ、これらは軍用に欲しい物だろう。狙いは知性が高い普通の森霊エルフでいい。もともと、有り金も底が見えているのだ。


 これ以上、奴隷の購入もできない。

 屋敷にいる奴隷も、優しく壊す必要がある。

 感情的なのは良くないと、レアンドは最近になって感じてきている。


「いやはや、いつも御贔屓に……」


 太った仮面の男は笑いながらレアンドを見つめる。


「そうだな。これにしよう」


「まいど!! では、深夜に指定された場にまでお送りいたします」


 ベガを渡せば、紙切れが渡される。

 購入した奴隷の種族や知性、魔力、魔術適正、身長、体重、血液、凡その生年月日などが記されている。同時にもう一つ、小さな薬用カプセルが渡され、それを受け取り店を出る。


 流石に奴隷を購入し、そのまま店を出れば牢屋行きは当然だろう。

 店のサービスは待遇がいい。


 高かったが、なんとか奴隷を購入できた。痩せ細っているが、顔が比較的整っている。

 学もそれなりにあり魔術適正やらとで、色々市場価値が高かった。魔術はどうでもいいが、この年で学が堪能なのがいい。

 こいつは王になる器とし、私の下で動き、親である私が政権を得る。



 深夜、奴隷が送られた。

 時間通りだな。


 小さな山にて受け取りを済ませ、奴隷屋は帰還する。

 震える少年にレアンドは優しく声をかけた。


「怯えなくていい。お前は、私達の家族になるのだ」


「……っ」


 当たり前だが、警戒心はあるな。

 弱っている様にもみえない、フっフっ……なるほど面白い。


 先まで奴隷だったにも関わらず、こいつ―――生きたいと思っているな。

 

「まず、家まで送る。ついてきなさい」


「……はい」


 奴隷に拒否権は存在しない。


 臓器に無音爆弾が仕込まれている。逃げようとすれば、何か逆らえばレアンドが呪文を唱えるだけで即死する。誰にも気づかれず。 


 これが信用を得るに、良いスパイスだと思っている。


「お前は私の家族だ。かしこまる必要はない、体内の爆弾は明日取り除く」


「あ……え……!!」


 少年は驚き、目を見開く。

 涙を浮かべつつゆっくりと歩き、レアンドへと抱き着く。


「……どうして、ぼくを拾ってくれたんですか? 他の子の方が」


「……お前が一番、生きたい様子に見えた。救う価値の者を私は救ったまでだ」


「どうい、う……」


「死にたいと思っている者は救っても意味がない。それは真の救いではない。だが、お前は生きたいと見えた、そういう者に手を差し伸べただけだ」


 適当な美辞麗句を並べつつ、テレポートから屋敷へ移動する。 


「あの……!! ありがとうございます」


「かしこまるな。奴隷ではない、家族だ。私の息子だ」


 優しく頭に手を置き、少年を安心させる。

 まずは心のより所にさせる。依存が一番だが、まぁ徐々に様子を見て行こう。


 時間は費やすが、これは国を変える一歩だ。

 ここから、全ては始まる……!!


「ありがとう」


「私の事は父と呼びなさい。そして今、お前に名を与える」


「なま……え……」


 奴隷に名はなく、番号で呼ばれる。

 反応しなかったり、無視すれば駒遊びに確定選出される。

 寝ていてもだ。


 そんな過去を思い出しつつ、少年は父レアンドに顔を向ける。


「ゲーテだ。ゲーテ・ベルツァンラッサール、それがお前の名だ」


「はい、父上」


 レアンドはゲーテを抱き上げ、屋敷を歩いてゆく。


 まず最初に夕食をふるった。

 エリカの分もつくり、嬉しそうに食べてくれた。


 かなり空腹だったのか、ゲーテががっつき水を流し込んでいた。


「フっフっ、飯は逃げんぞ」


「う、ん……!!」


 表情に感情が乗ってきたな。


 その後は風呂へと入れ、清潔感を出す。着替えも済ませ、最初より見栄えはずいぶん良くなっただろう。元々、顔が整っているのだ。


「今からお前の母に合わせる。病を患っている、あまり騒ぎすぎるなよ。父との約束だ」


 エリカの扉前で小さく指切りをした。

 ゲーテは笑いながら、レアンドの瞳を除く。

 

 親はいた。

 父は賊に殺され、母はゲーテとは別々に攫われた過去がある。

 幼かったとはいえ、あの時の光景は今にでも覚えている。

 死んではならなかった。

 奴隷となっても抜け出し、何年経とうが母を探すつもりだ。


 血は繋がっていないとはいえ、これから母となる人物。

 緊張が走る中、レアンドは扉をノックし開く。


「まぁ、かわいい子。どこの子?」


 夜景を眺めていたエリカは振り返り、ゲーテの方へ興味を示す。

 レアンドは微笑みながら、軽くゲーテの背中を押す。


「ゲーテ・ベルツァンラッサールです……。え、あ……えーと。その……」


 何を言えば分からず、戸惑い始め―――やがて空気は静止する。

 自己紹介にて、エリアは「まっ!!」と声を発しレアンド、ゲーテの二人へ笑いかける。

 その笑顔は夜空と合わさり、芸術の如き女神に映った。


「奴隷だった物だ。そこを助けた。先に言うべきだったのは謝罪する」


 レアンドは二人の前へ礼儀正しく頭を下げる。養子を貰うか話した事はある。その場は否定も肯定もなく、終わった記憶がある。


 子が欲しいとは互いに願った。

 特にエリカだ。あれをする、これをする、と色々騎爵やメイドに話していた。


「私は息子とし育てようと思う」


「あら、いいじゃない。ゲーテというのね、ふふっ。おいで、ゲーテ」


 両手を広げ、ゲーテは前へとゆっくりに歩く。

 彼女の前に立てば、エリカは静かに抱きしめた。


 強い否定もなく、純粋にエリカはゲーテを向かい入れる。


「今日から私達の家族よ。もー!! レアンドは相談なしに急に行動するんだから。もう! でも、ありがとう。考えていてくれたのね」


「ああ」


 二人の間へレアンドは向かい、ゲーテは小さな声で呟く。


「ふ、ふつつかものですが、よろ―――」


「ふふっ……よそよそしいわ。もっと自由にしなさい。家族なのよ」


 エリカはゲーテの額へキスをする。


 後ろからレアンドが二人を抱きしめ、皆笑顔で笑った。

 エリカの中で、病に対して少しポジティブに捉える様になる。


 子が来たのだ。

 死なんて相反する事など、忘れてしまう。

 

「世界で一番愛してるわ。ゲーテ、あなた」


 涙を流し、エリカはそう呟いた。

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