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阿修羅天世(改稿中)  作者: 鈴政千離
第三章 幽霊列車編
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第41話 やりたい事、なりたい者

 ―――なりたい者に、なりなさい。

 

 母の言葉がゲーテの脳に囁く。だが、それを否定し生きる道を強制する父。

 父には恩もあったが、あれはもうダメだ。


 どうでもいい、もうこの世界に用はない……。

 どうでもいいんだ。俺は間違っていない……間違ってはならない。

 俺は後悔を取り戻す。

 






 ―――この列車がどこへ向かっているか。

  

 設問に対し、楽藍は疑問を浮かべる。


「興味ないかな」


 軌跡した糸の斬撃がゲーテの心臓を射貫くも、チェッカが防ぐまでもなく、完封される。涼しんだ形相だ。術陣が描かれる。


 ―――先とは違った景色だ。


 いくつもの樹木……宮殿の様に伸びた朱色の絨毯、絵画、魔杖、白金の騎士像などが並べられていた。

 しかし、天井は雲の浮かぶ底のない青一面。

 その青が太陽を上る様に幾つもの巨大な線路が天へ駆けている。これも隠神による錯覚だろう。


「おいおい。話してる途中だってのに。会話は嫌いか」


 こいつが、仙人用にと『万屋』やカワハギといった部隊や物怪モノノケを戦力としていた。第一部隊にいた頃からそうだ。仙人が来たと耳に入れば、戦闘狂を除き敵は殆ど逃亡を選択する。負けるのが目に見えているからだ。

 今回は違った。仙人が来たとしても、この列車を走らせる意味があったのだ。他の秩序部隊や琵琶鼓人が乗車した際にも魔力養分に、ギャングのエトワールや脱獄者など雑魚とは言え戦力としコイツ自身は列車の道を邪魔されたくなかった……。


「再確認したいんだけど。幽霊列車はキミが主犯って事でいいかな?」


「幽霊列車……ね。もう既に死んだ者を乗せてるし、あながち間違いではないか。でも、どちらかと言えば次元列車と言ってほしいね」


 ノエル、楽藍は構えゲーテは一つの魔術陣を描く。綺麗な芒星が幾重にも描かれ、淡く輝き列車の空間へと無数に浮遊しそれぞれが連結し始める。

 絡繰りの様に、連結陣が自動オートで動きまた幾つもの陣や文字をプロットし始める。共鳴で服従しているにも関わらず、まだ魔力に余力があるのだ。


「世界は連続性の中で無限に枝分かれ、平行し続けている。これは、転生という概念においての基盤軸だそうだ。俺が生み出した《結星ゾルテラ》、これには続きがある」


 現在、この列車は線路を儀式軸に魔術陣を描いている。


「《結星ゾルテラ》の続き、現在進行で描いている―――終わりの魔術《時の扉(アルテーゼ)》」


 共鳴した隠神の術を魔術陣にプロットし、ゲーテの権能と魔術を組み合わせる事で可能とする唯一無二の魔術。


「死した魂は、万混へ帰り世界意志記憶書アカシックレコードへその魂の人生が記録される。でも、それはどんな魔術魔法でも、万混と等しく観測できない。だから万混への道、魂の帰り道を教えてもらう。《時の扉(アルテーゼ)》は情報の完全記録だ。この列車内には、死した者の魂を結界により閉じ込めている。まぁ、これも俺が開発した魔術だが。《時の扉(アルテーゼ)》が完成し結界を解いた時、魂の帰り道に則してこの列車は世界と万混との道を辿る」


 つまりは、魔術陣が完成するまでの時間稼ぎ。

 ノエル、楽藍はそう飲み込む。

 要するに敵の理論を一言にするなら『死にたくない』、だろう。


「ひひっ。いかんせん応用がききやすい。星芒文字しか陣に組み込めないのは欠点だが、まぁ今はいい―――基幹に据え派生させた今の列車、その根幹の魔術《結星ゾルテラ》。俺が開発した大規模魔術、否、もうそれは魔術なんていう貧相な概念に収まらない神如き現象だ。やり直すんだよ、この世界を……!!!!」


 両手を広げ、演説の様に、だが傲慢に明確に見下しゲーテは笑う。先よりも、否、人生において心の底からゲーテは笑った。


「俺は何度でもやり直せる、治せる、救える。あらゆる世界において、一回きりにおける人生に選択肢が生まれ、経験ができ、俺の意志で何度でも完全にやり直せる……!! 一度次元さえ渡れば、何週でも世界をループできる。あっははっはっははっ!!!! 至高の世界、誰かができたか? できないだろうとも、こんな発想はあったか? 実行できたか? 俺だから、できた!!!! もう、ここからは俺の世界なんだよっっ……!!!!」


 扉が開き、ゲーテの思想が錯覚となり景色に色づけられる。


 ゲーテの脳裏へ可能性の未来が描かれる。趣味でどこまで可能なのか、国家転覆なんてのも面白いだろう。肉体は老化するが、魂は老化しない。真に死ぬことはない、永遠の命だ。基準を決め何度も任意にループを繰り返せる。やりたい事を、全て経験し手を伸ばす事ができる。


 会いたい者にも、殺したい者にも、過去へと―――。

 

「アイン、ジョーカーは転生という万混に干渉する事で、記憶を魂に結ぶ魔術を開発した。マギーは世界に意識を残し、ラルウは悪魔の器へ受肉する、皆それぞれ四大賢者は寿命という概念を突破した。そして俺は、世界を何度もやり直せ、選択する事ができ、寿命の概念を突破する!! 賢者へと―――否、俺は五人目の未来の賢者、ゲーテ・ベルツァンラッサールだッ……!!」


 仮面を外し、ゲーテは《結星ゾルテラ》を描き膨大な魔力を隠神へと費やす。魂の共鳴に、ゲーテの身体に禍々しい呪字が羅列されてゆく。

 獣の様な耳、牙も生え、髪色がより濃く漆黒に染まってゆく。目色が淡く輝き、少しづつ人としての形が崩れてゆく。変化してゆく。


 魂の共鳴状態にあるのだ。


「ゲーテ君……!! なんで……っ」


 ノエルの声に、ゲーテは目を凝らした。


 記憶にしっかり残っている。


「あ~先生。久しぶり、そしてお別れだ。ありがとう……!! 先生もそうだ、賢者について教えてくれた。伝えといてくれ。ノノとの勝負は俺の勝ちだ」


「貴方!! 何を……何をしたか分かっているのですか!? 人を何人も何人も、罪のない人々を民を殺してるんです!! 貴方は犯罪者なんですよ……!! まだ間に合います、罪を償いましょう。本当の貴方はそんな人じゃないはずです……!! もしかして、誰かに脅されて、誰かの指示で……」


「俺の意志だよ。先生は優しいな……でもダメだ。この世界の俺は失敗だ、だから―――やり直す。どっちみち、先生がいくら庇おうが俺は人を殺している。俺は結局、根っこが弱虫ってのは変わんないんだよ。俺は、そういう奴だ。ハルバラードでもそうだ、面会の時で話したろ?」


「お願いします。貴方を殺したくありません!!」


 涙を流しながら、ノエルは言う。


「ひひっ。殺してみなよ、やれる物なら」


 ゲーテは挑戦と受け取り、空へと浮き隣のチェッカは構える。


「いい眺めだ」


 ゲーテは現状を見下す―――。

 まるで夢を見ている様だった。自分が自分ではない様な感覚だ、でも気分は凄くいい。

 自分の可能性を実感している……。

 大丈夫だ、間違っていない。正しい、そう、俺はやりたい事を成し遂げれる。


 人生において、日々無意識に生命は選択をしている。今見ている景色、これは俺が選択したからこそ生まれた世界だ。先生にも恨まれ、人も大勢殺してしまった。実際手にかけた感覚は無いが、枯渇で死んだ者は大勢いるだろう。


 でも、あらゆる犠牲から等しく価値を生み出せる。

 そう―――


「そんで……賢者がなに? なって何の意味があるわけ?」


 楽藍は設問をぶつける。


 だが、長話をするつもりもない。奇襲でも殺せない……依頼人を守る『万屋』もそうだ、連戦も怠い。ここで殺す、でなければ詰み―――。


「凡人は理解できないだろうね。この偉大な渇望を」


 隠神を服従させるからこそ、コイツは―――ゲーテはあまり積極的に戦いたがらない。そもそも弱い、後いくつ隠し玉があるか分からない。


 工獄の封印刀が無くなっているなど初めて知った……。 

 内部に仲間でもいたか。特務に置いて、知らない情報があったとは。


 ゲーテの落とした召喚石から超級の龍が顕現される。


 蛇の様な長い身体、それを覆う鋼の鱗、巨大な角に朱眼、長い髭や牙、巨大な大翼、宙に居座り巨大な魔法陣が身体に描かれてゆく。


「こいつは既に滅んだ王国の切り札だ。剛淵龍ごうえんりゅうガルダバウラ、無類の耐久を誇る」


 あらゆる攻撃に対し、硬度を最適化する権能状、殆ど攻撃が通らない。毒は無効、炎や水といった自然属性、虚や聖、闇や星といった自然の関与しない架空属性という概念へも耐性が高い。ほぼ無効化だ。


 耐久戦で逃げられるのもヤバい。


「ノエル、魔眼」


「あらゆる攻撃に対し硬度を最適化する権能。突破方は鎧の破壊、ですが―――」


 解析鑑定する中、龍は天へと上りそこへ無数の雲が発生する。

 妖気で創られた雲……攻撃。


「じゃーね。会えて本当に良かったよ、ノエル先生……」


 ゲーテは扉へ振り返り、その場から退く。


「ノエル、追うよ」


「でも」


 まだ、後ろには枯渇状態の民がいる。

 放置などすれば、龍の餌食……倒す必要がある。だが、時間を割きすぎればゲーテを見失う。そこに、『万屋』が邪魔もするだろう。


 思考の結果―――、


「一〇秒で殺る」


 チェッカの投擲したナイフ―――それがノエルの喉を射貫く寸前、楽藍は弾いた。霧の様な煙幕が起こり、真上の雲からは魔法陣が描かれる。


「一〇秒でやれそーかぁ?」


 煽る様にチェッカは煙幕に囁き、ノエルは結界魔法で互いを守る。


「〝堅界剛陣レフォルジシェンド〟」


 龍が唱え、天がうねり始める―――。


 天から降りる巨大な鋼の剣、槍、斧、棒、それらが落下されノエルは幾つもの結界魔術を重ね掛けする。何層かは直ぐに破壊された。民の方の被害はゼロ、守れている。


「はぅ……」


 呼法で筋肉を休め、妖気を巡らせる。

〝命符殭誕〟により、一条楽藍が強化された。


 一つはリミッターを外した膂力、そこへ妖気展開を成し更に強化。状態異常への完全無効化。妖刀、彌鹿国による相手の妖気の奪取、その代償を背負う浪費という状態異常も無くなり、一時的ではあるが体力不足にも陥らない。


 真下から一方通行に雲を射貫き、龍の元へ赴く。チェッカの攻撃にノエルは結界魔術を展開し、閉じ込め、突破され、また閉じ込め小さな時間稼ぎで足止めする。

 その時、天に雷電が走り神の怒りの如く爆音が響き渡る。雲上で何が起こっているのか、真下のチェッカやノエルは知る由もない。不安があれど、チェッカの足止めをノエルは続ける。


 無数の電流が空から迸り、瞬きをすれば龍の首が落下し血の雨が降り注ぐ。胴体らしき血肉が弾かれ、ノエルの真横では息を切らせた楽藍がいた。姿が消え、焦げた匂いがちらつく。


「はぁ……」


 妖刀を使い、一〇秒とおける刹那にあの龍との戦闘でいくつもの稲妻の軌跡が起きた。〝命符殭誕〟を解き、チェッカに詰め寄る。ノエルは援護を始めた。


 ここで、『万屋』は早く倒しておきたい。


「合わせて、ノエル。二人で叩く!!」


「はい……!!」


「来なよ。見て見たいね、死を司る君の術」


 楽藍が妖刀を大振りに、そこへはノエルの闇魔法が付与される。楽藍の電流と合わさり〝黒雷こくらい〟が生まれる。闇魔法特有の性質である引力付与から更に火力が上がる。ノエルは目で見て直ぐに分かった。本気の楽藍だ。


 すごい手管だ。攻撃の全てを捌き弾き、一度たりとも、掠りもせずチェッカを追い詰めていた。にべもなく、ただ黒雷が走る。ノエルを信用し後ろの民に気を使わず、ひたすらに楽藍は攻撃を重ねた。


 魔術支援をいくつか重ね掛けし援護したいが、先に魔術結界により他者の魔術そのものに制限が課されている。簡単な構築から複雑な構築まで、術を描けば変な文字がプロットされ述が失敗する。こんな魔術、見たことも聞いたこともない。


「やるねー。ちゃんと強いじゃん♬」


 トランプが現れ投擲されれば、煙幕が起こりナイフへと変わる。まるで手品だ。ナイフが小さなトランプから次々と生まれ、全て弾き捻じ伏せ黒雷が散る。妖刀へ闇、稲妻を展開しチェッカへ接近した。


「じゃーん♪」


 ナイフをジャグリングし、二つから三つ、四つ、五つ、八つ、十二と増し楽藍へと投擲。だが妙だった。軌道が僅かながら楽藍を狙っていない―――真の狙いは、ノエル。


「闇魔法……!!」


 十字架が浮かび深奥が桃色に溢れかえる。


 ―――だが、そこも通り抜けた。ノエルを狙った攻撃でもない、瞬時にナイフの軌道が変化した。まるで自我を持ったかのように。


 狙いは後ろの民。ノエルが闇魔法で覆うも、速度が間に合わず目前にて数人と心臓を射貫いた。速さもそうだが、威力も馬鹿げている……。皆が慌てて逃げ惑うも、扉が全て封鎖されている。

 続けてナイフが数百本も投擲され、捌き切れなかった量がノエル、そして真後ろを標的に軌道を一徹する。


 ナイフが全て一点へ引力作用に凝縮され、潰れた。ノエルの闇魔法の追撃に、楽藍の接近攻撃にチェッカは追い詰められる。


「んー♪ 君に集中した方が楽しそうだ」


 トランプからは一本の蛮刀が生まれる。

 茜色に夕日が刻まれた幻想的な刀身だ。


「魔装魔法―――〝斬掌刀正ルーク・パニッシェ〟」


 唱えれば、蛮刀へと斬撃そのものが渦の様に纏われる。恐らく、手掌へつけている漆黒の手甲の様な物、あれが魔装具だろう。描かれた術が反応していた。


「あーこれね。タネは、私が生み出した事象を掴む、虚空掌こくうしょうという手形の魔装具さ♬」


 刀の様に振るい黒雷とで跋扈する。だが、黒雷が通っても斬撃の物理的な衝撃波に妖刀が押される。たった一振りが重い……!!


 楽藍の首元へ刃が貫通する。纏わせた斬撃のいくつかを任意に飛ばしたのだ。


 心臓付近に斬撃が刻まれ、避けたつもりが首下へナイフが射貫かれ吐血する。 

 同時にチェッカの腹へと妖刀が刻んでいた。


「の、える!!!!」

 

「闇魔法〝冥異獄界陣コアス・イグルム〟っ!!」

 

 引力の球体がチェッカに、それを抑え込んでいる楽藍二人に激突した。

 大きく負傷したのはチェッカだ。黒煙からは膨大な電閃が迸る。迎撃のナイフ術とで火花が四散し、再び爆音が轟いた。


 それらが黒雷となり、解き放つ。


「―――『絶景』〝黒灰こっかい痺纏霹靂ひてんへきれき〟……!!」


 引力が更に上がり、刹那的に火力が爆発する。

 空気が揺れ、楽藍を中心に震撼する。チェッカが防御するも、意味もなく、不条理な如く。


「ガァぁ……」


 漆黒の稲妻がチェッカを通し、倒れた。

 

 止めの首を狙えば、ポン!! と煙となり、人形へと変わった。

 逃げられたのだろう……。


「はぁ……お、う……。あいつを……主犯、ゲーテを追う。……任務を遂行する。……あいつの居場所特定できた?」


 呼吸を整え、制限されてるとは言えノエルの治癒魔術が合わさり僅かだが回復されてゆく。


「さっきの敵は……」


「もう瀕死レベルだし、次出てきても……今は障害にならない。それより、あいつを……隠神の奴を」


「ゲーテ君の座標はまだ追えてます。いけます!!」


 被害の中でも、差が出ている。死人……もいるが、偶然居合わせた秩序部隊に楽藍は被害にあった者を、この部屋から出ぬ様に指示する。可能なら、桔平や刀華が来てくれるだろう。どう考えても敵を倒すのが全ての優先順位の中で上だ。


 秩序部隊最上位である元首の右腕、特務警察の判断に列車内に居合わせた秩序部隊は従った。


 空間において、無数の扉がありその扉が開くのなら、必ずどこかへ通じている。隠神の術により、それらに無限の選択肢が生まれ、次から次へと元の場所から掛け離れてゆく。扉も扉で開くもの、そうでないものと個々別々。


 どこか一点の基準からループが始まり、正解の扉で抜け出すも、そこからループへと延々する。

 ゲーテのいる正解の扉を全て渡り、追う必要があるのだ。


「ノエル……分かってる?」


 扉を渡り進む中、楽藍はノエルへ言葉を飛ばす。


「はい……。大丈夫です、教え子でも関係ないです。倒します!!」


「ダメ。殺す、じゃないと私達どころか国がヤバい。存在が兵器みたいなもんだよ」


「……で、でも。なんとかな―――」


「何とかならない。見たでしょ、あれは共鳴している。相手も跡がない、魔力供給が途絶えれば隠神に受肉され死亡する。受肉されれば、私達は全滅、国も瑠瑠や元首がやってくれるけど、被害は大きい。分かった?」


「……あ、あの」


「分かった?」


「はい……!! あの、どうして敵からわざわざ私達の方に……」


「そりゃ、生きててノエルみたいな大魔術師に遭遇するなんて思わないだろうしね。それで追われるなんて、考えも無いんじゃない。そして、先生、か。偶然……だろうね。良かった、ノエルがいなければ、こっちは多分詰んでた」


 魔物、妖魔、それぞれゲーテが配置した雑魚を全て処理し突き進んだ。無視したいが、狙いがノエル、楽藍二人でない事から民の部屋に向っている……。

 時間稼ぎも甚だしい―――しかし、そろそろ底が見えて来た。


「あっはははっ。いいねェ、俺と戦うか一条楽藍!! ノエル先生!! アンダーテイカーはどーしたんだい?」


「殺した」


 ゲーテの目的は、この列車を渡らせること。それが、大規模な魔術陣を描いているのだ。

 逃がす訳にはいかない……。


「あっはははっ!!」


 扉魔法で無数の『信徒』ファルンが現れる。

 その数……一〇〇体程。


開率かいりつ―――〝命符殭誕〟!!」


 術、権能の奥の手である開率。妖気、魔力における絶対量の三分の一を消費する他、連続使用は通常は不可能。連続使用では出力不足や身体負担などデメリットしか生まない。楽藍は先の龍との戦いにおいて、一〇秒のみ使い負担をなるべく減らした。


 まだ、奥になにが潜んでいるか不確定要素が多すぎたからだ。

 妖気は相変わらず消費されるが、それでも、いくばかマシと楽藍は詰め寄った。


 幻術におけるゲーテの魔力奪取は使えない。使用可能だが、今度は隠神が受肉する可能性が高まる。今の服従させている共鳴状態でのゲーテを殺す必要がある。

 ここで決めなければ、特務警察として情けない。最後だ、もう追い詰めている。カワハギや世界でも懸賞金の掛けられた『万屋』と、予想外は多かったが問題ない。全て―――この一瞬に決する。


「んぁりぁあああああッ!!!!」


 扉から呼び出されたファルンを全て殺し、無数の雷閃が迸る。ゲーテの落とした三つの召喚石、それらをノエルが闇魔法の引力で別部屋へと飛ばす。

 二分、ゲーテの権能で三〇〇弱における妖魔、魔物をノエルの支援があったとはいえ、楽藍単騎で一騎当千を振るった。


「万屋も龍も突破した、もう無い? 隠し球」


「ひひっ……!! 扉魔法〝塁然大城王門ガミオン・バレット〟」


 巨人族を通す様な扉―――それが顕現され、巨大な炎腕でその扉門が開かれた。


「特級品さ。存在するだけで、全てを炎の海へと変える!! 俺の切り札。―――鬼炎大総裁きえんだいそうさい


 召喚石と違い、ゲーテの扉魔法によって顕現された妖魔、魔物は使役化されていない野生ばかり。ゲーテ自身に被害がいく可能性もあるが、この鬼炎大総裁はジストラム帝国が軍事用にと育成した一級妖魔。


 テレスから貰った。


「闇魔法っ!!」


 何メートルもある巨体でありながら、身体全てが漆黒の獄炎で覆われている。奴は炎そのものだ。

 ノエルの闇魔法に楽藍の雷撃が纏われる。


「―――出雲捌身流、肆段!!!!!!」


 〝命符殭誕〟状態では、他の術を放てない。

 最大火力が剣術に既存する。


 妖刀の刀身が闇色に、そして電流が纏われる。死を硬直し傀儡とする殭屍キョンシー、それが楽藍の術。その硬直の出力を更に何百層にも上げる。

 本命の雷を司る術に比べれば当然弱いだろうが、ノエルの闇魔法とで火力に相乗されてゆく。


「―――〝月詠楽華〟!!!!」


 黒雷の華が満開に、衝撃波が響き渡る―――。

 鬼炎大総裁たらしめる獄炎体が崩れ、淡く消滅する。


 そこへ小さな影が虚空を射貫き、ゲーテの真後ろへ数秒で辿り着いた。

 殺される恐怖、それは何度も分かっていたはずだ。


「強いね、やっぱ」


 血を溢しながら、ゲーテは楽藍を睨む。


 殭屍キョンシー化を解き、ゲーテの心臓へと楽藍の妖刀が刺突された。


「キミ、私の事軽視しすぎ……。さっきの炎より、カワハギの方が強かった……よ。攻撃を一定にする呪、なるほど、限界値はあるみたいで助かった。オーバーキルしちゃえば、問題ない」


〝命符殭誕〟もギリギリ……危なかった。


「ぐくぅ……」


 ゲーテのを、そのまま壁へと抑えた。

 妖魔、魔物、万屋も何もない。


「さて、殺す前に色々訊きたい事あるんだけど、いいかな……?」


「ひ、ひっ……」


 陣を展開するも、楽藍は更に刀を押し込む。


「妙な事してもダメ。動いた瞬間、〇秒で心臓麻痺で即死させる」


「ゲーテ君!! ここまでです!!」


 ゆっくり、ゲーテは目を閉じ血を溢しながら笑った。

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