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阿修羅天世(改稿中)  作者: 鈴政千離
第三章 幽霊列車編
40/44

第40話 行方

 血が喉を通る。

 気持ち悪いはそうだが、それ以上に痛みが全身を蝕んでいる。


「……ぐぅェ」


 意識が覚醒したのは、耳につけている通信法具の音。

 ノエルの声、楽藍の声、桔平の声が聞こえた気がする……。

 血を吐き、刀華は摂儺を精一杯に握る。壁へ埋まっていた……。

 阿修羅を降ろした魂の共鳴、それでさえ倒せなかった。

 悪夢みたいだ……負けてはならない。

 こんな所……こんな通過点で。俺は死んではならない。

 

 ―――この場は逃げる。

 もう一度、共鳴を使うには時間を費やす。

 一〇分は欲しい……だが敵が大人しく待ってくれる訳もない。

 この列車は扉を渡れば、違う似たような空間部屋に飛ばされる。

 一度扉を渡り閉じてしまえば、追うのはかなり難しいだろう。

 同じ扉でも、開け閉めすれば全て違う座標の部屋に繋がっている。

 扉でも開かない物だったり、本当に様々だが逃げるという一つの手段では、これ以上ない程のピンポイントな環境……。


 目を見開けば、黄金の剣が創造され刀華の心臓を射貫くようにと浮遊する。

 咄嗟に万画を盾に変換するも間に合わない―――、


「じァな、三下」


 魔法を穿った時、その目前へ桔平は割込み野太刀を振りかざした。

 黄金の剣は砕かれ、ジンはその者を視野に笑った。


 権能によって創造された黄金、これには妖気が含まれ硬度に関しては軟体であり強固な性質を持つ。咄嗟に創る黄金ならヒビや粉砕もあるが、莽薙刀華に放ったのは練った代物。

 興味も出てくる。ジンにとって強者は敵味方関係なく好きだ。

 血を流し、あらゆる戦術から工夫し応用し模倣し、己の刃とする強者との戦い。

 莽薙刀華に魅了された要素は以上なタフネスのみ……。

 だがこれは幻妖族の龍固有のもの。

 玩具感覚で暴れたが、やはり弱い、脆い。


「だいじょうぶか!? 扉を渡れ、莽薙君死にそうやん」


「……きっぺえ、か」


 流れた血が刀華の目に入り込み、視界が赤く滲む。

 声主からしても、分かる。五十嵐桔平……きてくれた……。

 

 共鳴後の身体の負担が大きすぎる……戦えない。

 逃げる、逃げる、逃げる!!

 扉へと向かい、必死に刀華は走り出した。

 だが、途端に空気が躍動する―――。


「行かせるわけねェだろ、馬鹿が」

 

 ジンが黄金に手掌を染める。

 桔平も同様に手掌、腕へと無数の糸の様な筋繊維を纏わせる。


「〝栄光アドラ〟」


「〝手纏しゅてん―――」


 唱えたジンに合わせる様に、桔平は殴打した。


「―――魔神殴まじんなぐり〟!!!!」


 禍々しい金色が生まれ、轟轟と空気が歪み始める。

 力と力の拮抗、両者に途方もない火花が四散した。


 扉が開かれ、刀華は移動する。

 その目前にはジンが立ちはだかり、魔法陣を描いた。

 魔剣に金色が侵食され、斬撃と重ね穿つ―――。


「……く、そ!!」


「安心し。大丈夫や―――」


 刀華へ向けられた攻撃、その刀身を鷲掴みに桔平は抑える。

 予想外な動きにジンは瞠目した。

 強化系の類だろうが、魔剣をそのまま掴むとはァ面白ぇ……。


「行け!!」


 刀華を蹴り、扉へと桔平は弾く。

 でなければ、目前の敵は直ぐに攻撃をしてくる……。 

 扉は閉まり、そのまま他の座標へ刀華は飛ばされた。

 後は目の前にだけ、ただ集中するのみ。

 

「〝手纏〟……!!!!」


 魔剣を握れば、その振動がジンを襲い床へと片膝をつかせる。

 真下に描かれた魔法陣を警戒し、桔平は距離をとった。


「存外悪くねェんだろうが。まぁ、オマエを殺した後に探そうかァ。ちぃとばっか、本気出してやッからァ、興を削ぐんじゃねェぞ。ガキ……!!」


「―――へっ」


 五十嵐桔平の中には、魔神が住んでいる。

 

 牛の頭に、鬼の様な筋骨隆々の胴体。

 名は―――『魔神』牛鬼ぎゅうき

 先祖代々、桔平と遺伝共鳴している術でもある。


 術の齎す恩恵を桔平は腕や脚など、単一で部分受肉させ無類の腕力を生み出していた。


「黄金魔法―――〝不可逆栄光負荷価値アウル・アドラ・ヴォルゴウル〟」


 幾つも、何重にも何百にも構造密度を凝縮させ射貫く事に特化した槍が創成される。

 莽薙刀華相手に使わなかった、ジンが本気で込めた魔法だ。

 桔平へ穿てば片腕を翳し牛鬼の右腕で握りつぶした。


 爆音爆風、共に黄金の火花が散る。

 非常識な威力だった。


「〝手纏―――」


 手掌へ上った牛鬼の力が、妖刀へと昇りまるで生きているかの様に心臓の鼓動を鳴らす。

 妖刀に浮き出た血管、呼吸、音、それらに術陣が描かれる。


魔神斬まじんぎり〟……!!」


 長距離でありながら、あまりの速度に距離という概念を無くす。

 振り落とした刃とほぼ同時に放たれる斬撃波。

 〝栄光鷲潰ルガン・アドラ〟を唱え、黄金の斬撃とで衝撃波が迸る。


「―――いいぜェっ!!」


 久々の高揚に、ジンは笑いながら桔平へ迫った。

 

    §    §


「この空間は、魔術と妖術によって多重構築されている……恐らくですが」


 ノエルの元へついた楽藍は治癒魔術から損傷を治してもらう。

 それにしても、だいぶ酷い傷だ。

 ノエルは治癒ながら、だいぶ強引に戦ったと痕跡から直ぐに分かる。

 多岐にわたる毒まで埋め込まれていた。

 

「構築された結界魔術? 一人でよく解読できるよ。流石ノエル~」


「いえ、もう一人……あれ?」


 気づいた時には、ラウラの姿は消えていた。


 楽藍が連れて来た民に治癒を施し、一先ず様子を伺う。


「ふぅ~。ちょっと強かったな~、あの『万屋』」


 完治し、楽藍はノエルに礼を言う。


 大体だが、後ろの皆が瀕死状態に陥っている。

 元気な者も所々に……秩序部隊も揃っている。

 調査で行方不明になった者と幾人かは一致する。

 とにかく、まずは主犯を捕まえる。

 そして、『万屋』も余裕があれば倒す。


「やぁやぁ、まさか突破するなんてね。カワハギといい勝負すると思ったのに。それでお前だな、結界に干渉してくる奴……は。……お前」


 無から扉が現れ、ゲーテはノエルに視野を向ける。 

 その顔には見覚えがあったのだ。


 その横には軽く負傷したチェッカがいる。


「お前は何をしている、アンダーテイカー。『万屋』ってのも落ちたもんだな」


「一々煽んなよ、殺すぞ」


 どこか気に障ったか、チェッカの言動にゲーテは眉を下げる。

 溜息一つに、周囲を見渡した。

 

「……あなた、もしかして」


「なんだ? あぁ、特務警察か。知ってるわな」


 楽藍の言葉に、ゲーテは笑い始める。 


 万が一億が一の為、特務警察皆は城和国が保管している工獄の一二刀の物怪モノノケの情報を全て頭に入れている。ノエルや刀華も皆が頭に詰めさせられた。

 何も考えなかったが、主犯は城和国の監獄に侵入し結界まで解いた。

 そして妖刀、召喚石を奪取した。

 今でも信じられないが真実だろう。

 戦力強化と言っていた……実際に戦闘した。カワハギもいい例だ……。


 一二の封印刀の中に、矛盾と無限を司る物怪モノノケがいる。

 無限というが、少し違っているかもしれない。表現が難しいのもあるだろう。


 恐らくここで言うならば列車という物理的な外界との遮断から始め、その列車内において脱出不可能な結界を構築している……。


「俺の作った共鳴結界は、不可能物質の性質をこの列車内に築いた。分かるかー? もうここは、俺の世界だ。一度入れば、もうそこは城和国じゃないって事だよッ!!」


 矛盾と無限の物怪モノノケ……。


「……隠神いぬがみ


 ぽつり、楽藍は言葉を溢す。


「ひひ。正解」


「……あなた。自分が何をしたか……」


 隠神―――。


 実体は確認された事がない、しかし獣の様な姿をしていると文献に記された物怪モノノケ

 何かに化ける妖魔と思われたが、正確には矛盾と無限を生み出す妖魔。

 歴史書そのものを訳すと、太古、国に化け人間を数十万と最も食らったとされる最悪の大怪物。

 生きる災害もいいところだ。

 化ける……だが、正確には化けていない。

 だが、認識する者、存在に矛盾と無限を掛け合わせ半永続的な錯覚を起こす。

 国でも大海でも、太陽でも、匂いや温度、触覚、味覚まで錯覚を起こさせる。

 つまり隠神自身は常に姿を出しているが、基本誰もそれを錯覚で見る事ができないのだ。


 仮に本当だとするなら目前の主犯に受肉した場合、瑠瑠や元首案件だ。

 楽藍短期でチェッカ、隠神、それも後ろの民を守りながらでは荷が重い……。

 不可能とは言わないが、しんどい。

 コイツを殺せば、隠神も殺すと同義。

 それが共鳴……これは使命だ。

 大袈裟でも冗談でもない、本当の意味で城和国の危機だ。


 援軍はノエル曰はく結界が張られており、不可能。

 魔術も関与しているなら尚更。


「隠神との……共鳴」


「そりゃ受肉してんなら、俺は死んでるよ」


 共鳴と違い、受肉されれば器の主格は消え失せる。

 それは死を意味するのだ。


 隠神との共鳴……ありえない。


 共鳴は血縁関係のある者、魔力や妖気による力の服従かの二択。

 前者はない、魔力で屈服など……。

 物怪モノノケと称される者には無尽蔵に近い妖気量が備わっている……。

 まさか、それで―――、


「俺が開発した魔術《結星ゾルテラ》。この列車は隠神の、そして共鳴した俺の腹ん中みたいなもんだ。物を食えば人は消化するだろ。同じだ。共鳴に常に支払っている俺の魔力、腹の中にいるお前らの魔力、それらで強引に服従させている。人でも幻妖でも、妖気や魔力の力の根源は同じだ。妖気だって魔力だって、共鳴に支払う料金に変わりはない。俺とすれば、魔力の方が列車を動かしたり、結界を構築したりと嬉しい訳なんだが」


 がくん、と楽藍の妖刀に似た現象が起こった。


 妖気、魔力、この列車内にいる者全ての力が持っていかれる。

 一定のリズムで小刻みにしてる……直ぐに無くなる訳じゃないなら、眼前の主犯を殺し任務は完了。

 『万屋』に関しては雇われ、依頼人が死ねば仕事は無くなる。

 前もそうだが、依頼人が死ねば敵対はしてこない。


「もしかして、貴方は……」


 ノエルが何か言おうとした時、ゲーテは一つの召喚石を落とした。

 こいつ……まだ持っている。長期戦は避け、一気に殺す。


「魔力供給が無くなれば、死を意味する」


 楽藍の言葉に、ゲーテは笑いつつ肩を竦める。


 受肉されれば、こいつも死ぬが、まず乗車している者が誰も助からない。

 なにせ、戦う前から既に腹の中にいるのだ。

 消化されて終わり。援軍も不可能。外界も気づかない……。


 状況が不利すぎる……。

 そもそも、城和国の結界を解くなど異例中の異例だ。


「供給が途切れる、か。ひひっ、確かに死ぬが……その前に、俺は辿り着く」


「……何に。どういう意味?」


「この列車、どこへ向かってると思う?」

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