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阿修羅天世(改稿中)  作者: 鈴政千離
第三章 幽霊列車編
38/44

第38話 死を弄ぶ者

「ふぅ……多いな~も~っ」


 リーベと分かれ、単独となった楽藍は敵の殲滅。

 収監されていた賞金首をひたすら殺していた。

 他にも等級の高い魔物や妖魔……。

 楽藍にしてみれば相手にならないが不可解な点がありすぎる。


 こうも敵が多く、皆のレベルが高い。

 元々いた、なんて事はありえない……。

 考えるに誰かの術による物、もしくは召喚石。

 特務報告書に記されていた収監者の脱獄、それが一点にこの列車に集っている。


 ―――何かは、ある。

 そう思いながら、楽藍は目前の敵に言葉を投げる。


「キミが主犯? 自主は助かるけど、殺すよ」


 仮面をした、体格から男と思われる森霊エルフが一人。

 刀……妖刀が二つ腰に備えられている。


 特徴として、魔力量が人知を超えていた。

 ……ここまでの道のり、死体が転がっていた。

 死因は餓死、枯渇、。

 この二点が非常に多く後はギャングやら賞金首に殺されている。


 攫った理由は不明だが、眼前の敵の魔力量に違和感がある。

 楽藍の予想が当たっているのなら、主犯はこの仮面野郎だ。


「こっちも俺の結界術に干渉してくる野郎がいる。お前が暴れて戦力減らされんのも困るんだよ。バランスよく秩序整えるってのに、偏っちぁ困る。いやいやいや、いーや、よくやってくれたよ。仙人が来ると過程した際の戦力だったけど、やっぱ壊れてるな。お前一人で半壊超えて、こっちは七割弱壊滅状態」


「―――よッ」


 敵の心臓、首を刻み一閃した。


 軸、太刀筋、震え、色々な要素で判断できたが、相手は素人。

 妖刀もどこかで盗んだ物だろう。

 即死、戦うまでもなかった。


「そうだね、やっぱビビるな。怖いもんは、やっぱ怖い、俺が乗り越える最初の試練はそれになりそうだ」


 殺した、手応えを感じたにも関わらず致命傷にまで程遠かった。

 首から掠り傷、そこに血が滴った程。


「あらゆる攻撃を俺が許容できる『一定』に落とす、これは調和を司る妖刀さ。だとしても、俺が血を流すのは不服だな。嫌いじゃないが、怖い。一度に呪装具、魔装具合わせて最大三つまで保有でき能力を振るえる。使える要素は使うべきだろ、凡人、一条楽藍」


 再度、今度は術を纏わせ本気で抜刀するも、目前に現れた何者かが蛮刀で攻撃を受け流した。

 そのまま身体を回し楽藍を蹴り上げるも、腕で防ぎ一歩後退する。


「遅いぞ、アンダーテイカー」

 

「奇襲で殺せばって思ったけど、バレてたしな」


 筋骨隆々、タンクトップの様な黒い軽装―――。

 楽藍が一番目に入ったのは二丁の蛮刀だった。

 刀身が赤に染められ、綺麗な彫が刻まれている。

 神話時代にまで遡る宝刀とまで言わしめる業物。

 二丁一刀なる妖刀に似る名刀―――名は『みなごろし』。

 ただ名のある刀―――であるが、精度は常に新品であるかの様に尖っている。


 コトン―――とゲーテは召喚石を二つ落とし物怪モノノケの妖魔が顕現される。

 距離を大きくとり、楽藍は警戒する。


「痺れやがる……硬直って奴か。一条楽藍……私と同じ死を司る術」


 アンダーテイカー、という言葉に楽藍は思い出す。


 というより、有名だ。懸賞金の掛けられた『万屋』、次席の葬儀屋。

 第二部隊の燈室燈向が倒したと特務報告にあったが……。


「キミ……チェッカ=ピースだっけ」


「そーそー。後ろの依頼人が助けてくれてさー、まぁ面白い事するから組めって話だけど」


「嘘。城和国の監獄なら、そこに侵入できない、できたとして結界は崩せない。他の奴も、オッドーの件もそうだろうけど、どうやって抜け出したの?」


 楽藍の設問にゲーテは嘲笑ながら、


「あー、面白い事やってたな。この国の大規模結界、物体の配置を常に儀式とし、術陣を四次元的に描いていた。いやいや、馬鹿げてたな、発想もそれを実現するってのも色々さ。天候、星、銀河から伸びた太陽の光、影、妖気や魔力の微粒子。今の様に列車の線路を地下含め、蒼穹を神の目とし重なった部分で何重にも魔法陣を描いていたりと、さ」


 何を言っているのか、この場でチェッカや楽藍は意味不明でしかない。


 だが、実際にゲーテは実行した。

 転変帝国ファルシアには、十二天衆という経営をモチーフに一四政最高執行者と呼ばれる一四名で一つの元首が席居している。

 その一柱、『大提督』テレス・ノディアルヴァとゲーテは手を組んだ。

 結界全般はゲーテが、なるべく戦闘を避けテレスは近衛兵の暗殺に至った。

 元首の耳には直ぐに届き、それを民に知らせぬよう命じ城和国の結界全般や内部組織を事細かく調整した。もう一度収監された者を脱獄させろ、なんて言われれば次は難しいとゲーテは考えている。


 兵もそうだ、特務警察の配置といった戦力強化だけではない。

 結界に新たな技術とし妖術を絡めている。

 早いとこ塗り替えられぬ内に実現でき、単純にラッキーだった。

 求めていたのは戦力。

 そして妖刀や召喚石の奪取、使える者は盗めるだけ頬張った。


「おっと」


 ゲーテの首筋に血が滴る。


 電流の斬撃を刹那に刻んだのだ。

 しかし、調和が働き即死を免れる。

 かなり防御に特化した、生き残る事にだけ秀でた妖刀。


「《小さく無欲な幸せイノセント・フェアリー》」


 第四位階に至る回復魔術。


 ただの治癒だけでなく、稀に精霊が病気を治してくれるオマケつき。

 精霊学の知識を必要とする、稀有な魔術である。

 ゲーテは、この世に存在する全ての回復系統魔術を使用できる。


「いったい、いつ攻撃されてたんだかな。三回は死んでるぞ、俺」


 召喚された妖魔、そして万屋とゲーテの戦力に対し、単体の一条楽藍。


 相手がかなり高位階な魔術を使用する事は、楽藍でも分かった。

 このまま魔術で支援されつつ、皆で攻められると負ける気はしないが、怠い。

 敵は未知数、奥の手は使わずにいきたい……。


「こいつらは、強いよ」


 嘲笑にゲーテは両手を広げ、我が身のように召喚者を称える。


 ぺた、ぺた、と小さな足を動かす子供。

 楽藍へと無邪気に包丁を翳した。

 無な形相、三つの瞳、髪の無い子供。

 それらが楽藍に包丁を向けているにも関わらず焦点が定まっていない。

 それぞれが意志を持ちキョロキョロっと回っている。

 だらっと唾液をたらし、分かれた長舌が不気味さを増していた。

 口の奥に、もう一つの濁った漆黒の瞳が一条楽藍をずっと眺めている。


 たった一晩で村を血に染めた災厄なる物怪モノノケ、名を殺戮小僧。

 元々は九歳の男の子だった。 

 それに寄生した妖魔が成長。

 無名から殺戮小僧と称される様になった歴史がある。

 

 子供の中で単為生殖を成し遂げ、それが三つの瞳となり形相に描かれている。

 奥にいる漆黒の瞳が殺戮小僧を生んだ、また三つの瞳の親である。


「か、か、かかかっ……ほ、……いぃ……弱い、弱い、弱い、弱い……恥ずかしい、恥ずかしいぃ、恥ずかしい……」


 刀を腰に体格とは裏腹に、小さくボソボソと呟く妖魔。


 チェッカの横に並ぶ、和装とした居合道着。

 常に体臭の様に鉄、血の匂いがする。

 ツギハギの皮膚が無数に事細かく縫われ見るだけで悍ましい。

 鬼面を装した背丈が三メートルある物怪モノノケ、名をカワハギ。

 『殺戮者』や『死』など阿修羅や酒呑童子の様に時代と並行し異名に知られた大怪物。元々、弱い鬼だった。

 名も誰もしらず本人も自身が生きている事以外、深く理解していない。

 カワハギも一種の異名である。

 最初は死にたくない、と盗賊に殺されかける中に脳裏で過った。

 生きたいと思う本能だろう。

 相手が油断した所で首を嚙み殺し価値観に変化が興じた。


 弱い事が『恥』で仕方なかった。

 醜い事が、生きている事が、主観が、自分が、存在が恥で仕方がなかった。

 恥を持たない人間に、その鬼は強く嫉妬した。

 またある日、盗賊に襲われた所を一人の淑女が助けてくれた。

 東万心あずまばんしんと呼ばれる淑女に村へ案内され、鬼は言葉を学び、剣術を学び、術に覚醒し、時に村で働き力をつけ―――皆を殺した、村を滅した。意味はない。

 崩壊した村に、東は自らの贖罪とし猛毒を仕込んだ自爆により、互いに死した。

 否、死ぬつもりでいたが、鬼は生きた。

 特に何かしたい事もない、でも死にたくはない。

 それだけで生きる事に突出し崩壊した村で五日間休眠。

 薬草をひたすらに食しギリギリで命を繋いだ。

 だが、ふと見ると全身の肉は剥がれ骨も見え始めている。

 とても『生きている』とは肯定しにくかった。

 人間の嫉妬から、人間への恨みに変化したのはこの瞬間だ。

 見にくい、気持ちの悪い、恥……。


 だが、その次にまた価値観に変化が生じた。

 人間は一人ではない、皆が自身と違い共存している。

 思えば、冷静に見れば盗賊も村も組織とし共存していた。

 一人である事は、孤独である事は弱い事への証明―――『恥』だ。


 鬼は人間に憧れた―――。


 人間になりたいと、共存したいと願った。

 自分が人間という雑輩に負けた。

 『恥』は『恥』を背負う事で消失する。 

 強くなりたいと、共存したいと願いに願った。渇望した。

 鬼は自らの弾け飛んだ血肉に、最初に東の肉、皮膚を縫い付けた。

 鬼は村を出ては通り魔となる。

 国を歩き回り、名のある武者を狙い皮膚を縫い続けた。

 過程にて数々の培った武を身につけた。

 『価値』と『自信』が、自分の中で生まれ生きている幸福を感じる様になった。

 カワハギと呼ばれた本体の外付けの肉は、全て武人そのものであり細胞が生きている。カワハギと共に葬った武人は共存していた。

 だが、仮面の中は何度も改造した事へのコンプレックスから装している。

 仮面の中を覗いた者は、例外なく何よりも優先して殺す。

 背中には東から勝ち取った一本の長刀を所持している。

 妖刀『絶蘊刀ぜつうんとう』、ギザギザの刃に幾人もの血で錆びた痕跡がある。

 呪『黄泉の道』、斬った者を衰えさせる。

 無機物であるなら錆びを、人なら壊死に向って少しづつ侵食してゆく。

 斬れば斬るほど、衰える速度が増してゆく生命を殺す為の禍々しき妖刀。


 ゲーテは興奮気味に言葉を吐き、


「―――物怪モノノケの召喚者、そして『万屋』アンダーテイカー」


「うぃす」


「加えて―――」


 指を鳴らし楽藍の真後ろ、その天井から扉が開いた。

 列車とは違う、異質な扉だ。

 急に無から扉が顕現された。

 そこから現れたのは人だ。

 魔族、幻妖族、人間。

 弱っている、皆が疲労している……枯渇状態だ。

 既に亡くなっている者もいるだろう。


「スペシャルゲスト―――どうだい」


「自信満々の笑みだね」


「言ったろ。最悪の想定をした仙人を足止めする為の素材だ。結実、来た最高戦力はお前だけ」


「残念。瑠瑠なら、もうとっくに任務完了してるね~」


「ほざけ。じゃーね、名誉に死にたいならカワハギに頼むときっといいよ」


 再び扉が現れ、ゲーテは消えた。

 主犯、標的はゲーテ。

 だが、それのみに突っ張れば今度は後ろの人が殺られてしまう。

 必要な犠牲……そうは割り切れない、まだ生きているのだから。


 後ろの皆は混乱し、声も出せずに倒れている。


 チェッカは蛮刀を器用に回しながら、楽藍に少しづつ歩み寄る。

 同時に殺戮小僧、カワハギもゆっくりと歩き始めた。

 チェッカを中心に、殺戮小僧とカワハギは左右に楽藍を中心に円を描いてゆく。


「あー、大丈夫。人質どうとか関係ないよ。やなんだよねー、魔物や妖魔はいいけどさ、それ以外の人や魔族や幻妖族とかを殺すってのは、気が病む。私は戦いが好きであって、殺しが好きって訳じゃない。よー勘違いされんだよな」


 無論、馬鹿正直に楽藍は信じない。

 眼前の敵は倒す、後ろの皆も絶対助ける。


 何にしても、少し肩の荷が下りた。


「ほっとしたよ」


 楽藍は強欲の刀に術を込め、妖気展開を成す。


「あ?」


 ゆっくりカワハギは抜刀術を成す。

 殺戮小僧は顔が真っ二つに開き無数の小さな瞳が現れる。

 いくつもの粘液毒牙を生成し、楽藍に狙いを定めた。


「私以外なら、負けてたから。誰も死なせたくない、だから私で本当によかった」


 にひっ、とチェッカは笑みし瞬間に空気が爆ぜる―――。


 カワハギの抜刀を受けきり、粘液毒牙を召喚させた殭屍キョンシーを肉壁に防御する。

 チェッカは様子見とばかりに観察し、


「妖気展開、『絶景』―――出雲捌身流っ!!」


 チェッカの蛮刀へ濃紫の妖気が纏われる。


 剣術を唱え、抜刀に合わせ楽藍も兵刃を通し殺戮小僧の串刺しを避ける。

 胴体を曲げ首を狙ったチェッカの〝馘円斬〟を背中を地に紙一重で回避、瞬きの間に視界にカワハギの両断が映る。


「ふッ―――」


 バク転から仮面、胴体に蹴り上げ粘液毒牙の弾丸を首を傾け避ける。

 面倒なのが粘液による弾丸、当たればマズい。即死系の技が多い……。


「おいで―――」


 楽藍が唱えれば五つの殭屍キョンシーが召喚される。

 

 刹那に、三体の殭屍キョンシーがチェッカにより瞬殺され間合いへと入り込まれる。


「〝時飛ときとばし〟」


 チェッカの神速抜刀術に、カワハギの異質な抜刀術、殺戮小僧は先に天井へ蹴り上げ二人に集中し対処する。

 カワハギの方が攻撃が重いが、それだけ。

 加え速度はチェッカが担当している。

 カワハギは意識していないが、楽藍は少し面倒だと感じる。

 意図的に、チェッカがカワハギと相性よく動いている。

 カワハギとしても、やりやすいだろう。


「きぇぇええええええええええええええええええええええ!!!!」


 殺戮小僧が天井から包丁を一刀するも、更に妖気を込め腹を蹴とばす。 

 だが粘液砲弾が弾き、後ろの人を守る様に殭屍キョンシーを配置させ防ぐ。


 毒牙の粘液に侵された殭屍キョンシーは、身体が溶解し形が保てなく崩壊してしまう。

 ものの数秒でだ。


 続いてカワハギとチェッカによる斬撃の嵐。

 壁へと蹴飛ばした殺戮小僧は真上から猛毒の雨を召喚した。

 逃げる選択肢を殺し、どう防御し去なすかでしかない全方位攻撃。

 後ろの人にまで被害が及ぶ、まだ間に合うが避ける選択肢は、ない。


「〝霻霳撥閃ほうりゅうはっせん〟!!」


 妖刀を回し、糸の様な細く丈夫な電閃を周囲に弾く。

 威力は高いが、射程範囲が限られている。

 防御はできたが、攻める手段として少し癖が強い。

 楽藍の肩、太ももが流血する。

 少し……食らってしまった。浅いが、違和感。

 死を司る術だから分かる、恐らく食らった斬撃がカワハギの物だ。

 少しづつだが、細胞が死んでいっている。呪、もしくは術……。


「奪胎術―――!!」


 唱えられたカワハギの一閃、斬撃の痕跡が空間に刻まれる。


「出雲捌身流!!」


 カワハギの斬撃に注意し、直接的なダメージを完封する。


 チェッカの攻撃を避け、カウンターから頬を殴り飛ばすも、誘われそのまま地へ叩きつけられる。

 それを腕で支え、腹を連撃に蹴り上げるも打撃で弾かれる。


 真後ろの殺気に反応し楽藍は掌底打ちから顔の蹴り上げ、カワハギへとバキィッと仮面へヒビを深く入れ込む。


「―――キミから殺そうか」


 背後から殺戮小僧が包丁を射貫くも、それらを蹴とばし〝月詠楽華〟により壁へ再度押し込んだ。

 慟哭の様な叫び声、核のいくつも小さな凹凸する瞳、心臓だ。

 止めとばかりな一瞬に、カワハギが真後ろまで迫っていた。

 

 しゃがんでは殭屍キョンシーでカワハギの攻撃を一瞬防ぎ、振り返り殺戮小僧へ抜刀するも既に姿は消えていた。

 一瞬の動揺に、カワハギが跳躍し天から振りかざす一刀。

 同時に神速を誇る濃紫の斬撃がチェッカより穿たれる。


「弱い、弱い、弱い、弱い……。恥ずかしいのぉ、恥ずかしいのぉおおお~」


 小馬鹿に笑い、見下し、興奮ながらカワハギが両断する。

 縦軸へ巨大な斬撃が暴発した。

 

「誰が弱いって~」


 カワハギの背後へ迫り、既に斬りつけた電流の斬撃が胸を負傷させる。

 心臓に風穴を開けるつもりが、寸前に対応されている。


 等級最上位、物怪モノノケであるがそこらの物怪モノノケとは比にならない強さ。

 召喚石から顕現したのだ、昔の時代では倒せなかった、封印するので精一杯だったからこそ。

 今現代の物怪モノノケと比べる方が、おかしいか……。


 一方通行にチェッカへ抜刀し、名刀『鏖』を空中で弾く。

 腕を硬直させ、筋肉を強制的に怯ませたのだ。

 しかし、彼女が手銃を組み描かれた術に比例し空間に歪みが起こる。


「断絶する世界―――〝断絶虚覆エスペル・リペア〟」


 射貫かれた弾丸が首を掠るも、咄嗟に崩した構えを戻し振りかざす。

 生まれた隙にチェッカが手元を蹴とばし、攻撃の的がズレた。


 壁には殺戮小僧が睨みカワハギは抜刀術を構え、チェッカは妖気を纏わせる。

 息を切らし、呼法で整え自信満々に楽藍は唱えた。


「―――幻術」


 がくん―――、とその場にいた者に圧力がかかる。

 妖気だ。それがごっそり持っていかれた。


「〝魄陣器聘ひゃくじんきへい〟」


 殭屍キョンシーを二〇召喚する。


「魂を人形にいれ傀儡とする、死なせてやれよ。お前が一番、死を弄んでいる」


「魂は成仏してるよ、キミと違って。キミと言えば、死を弄び侮辱さえしている」


「はっ、変わんねえだろ」


 民へ向かう殺戮小僧に電流の斬撃を走らせる。

 カワハギに対し殭屍キョンシーは直ぐに切り殺されるが、数は多い。 

 火事場の馬鹿力が常に働いている殭屍キョンシー、膂力は強く三秒の足止めができる程。

 だが、あまり召喚しすぎると妖気を持っていかれる。

 列を成す殭屍キョンシーにチェッカは術から瞬間移動し接近する。

 殺戮小僧を地へ刻み倒し、無数の眼の毒の霧を妖気展開した剣風一つで跳ねのける。

 チェッカの攻撃を領域を付与し、避けつつ抜刀すればカウンターを一歩後退し躱される。

 だが、惜しい。

 抜刀と共に放った斬撃、避ける軸方向を怠ったのだ。

 跳躍する〝践征斬〟、それを咄嗟な防御の太刀で受け止める。

 ―――が、火力に押し負けチェッカは飛ばされる。


「恥ずかしい、恥ずかしい」


 楽藍を無視し、カワハギは積極的に人間を狩りにいく。

 首を狙った居合に対し、妖刀に腕を合わせ咄嗟な姿勢に振動を耐えしのぶ。

 直接触れなければ問題は無い。

 殭屍キョンシー化すれば、その後の疲労で連戦は流石に怖い。

 こいつの攻撃は一度食らった、殺戮小僧の次に優先して殺したい。

 最悪……チェッカは殺せなくてもいい。

 

「衰えろ、絶蘊刀―――!!!!」


 標的を楽藍に変え、妖気が込められる。


 お辞儀の様にしゃがみ、カワハギが楽藍を一閃する。

 刀身、妖気の衝突が音の痕跡とばかりに反響し、無数の火花が四散する。


「東万心流!!」


 くるりと身体を回し、勢いまかせに抜刀される。


「〝斬媒ざんばい彼岸花ひがんばな〟」


 斬撃が迸り、空気が慟哭し、


「〝開花〟!!」


 斬りつけた斬撃が遅れて迸り、巨大な花の斬撃が咲く。


 間違いなく、オッドーより強い。

 開花する花の斬撃を凌ぎ、全て防いだ。

 知らない剣術……出雲捌身流から派生した、少し違った可能性の剣術。

 根源はかなり近い、捌ける。もう学んだ。


 爆音が響き渡り、チェッカの剣術とで火花が再度散る。


「〝時空切断エスパッシオ〟」


 一瞬で弾き、チェッカより跳躍する黒紫の斬撃を避け電流を刀身へ纏わせる。


「〝断絶虚覆エスペル・リペア〟」


 チェッカの刀身へ歪んだ漆黒が纏われる。

 互いに剣術で間合いをつめよる。

 チェッカの肩、背へと深い傷が刻まれた。

 流血すれど、痛みがあれど速度や腕力が落ちることなくパフォーマンスを保っている。


 とんでもないタフネスだ。

 実戦した楽藍から見ても、チェッカは刀華レベルの耐久性がある。


「ふぅ」


 呼法から筋肉を休め、そして標的を葬る。

 

「いやぁあああああああ」


「た、助けてくれえええ!!」


 殺戮小僧は毒牙を纏わせ包丁を振るう。

 相手は後ろに控えた民。

 一人たりとも殺させるわけにはいかない。

 

 妖刀を投擲し、そのまま楽藍は跳び蹴りをする。

 包丁を避け、武術で攻め込む。


「〝斬媒ざんばい朱結命命しゅゆめいめい〟!!」


 慮外、勢いが強い。


 得物がないのを狙い、カワハギが応戦し衰える斬撃を振るうも、真下をくぐり殺戮小僧を目前に直接掴み拳に妖気を纏わせる。

 腹、胸、首へ毒牙の包丁を串刺すも痛みや流血を無視し攻め寄る。

 カワハギがこちらへ振り返った途端、それを壁に見立て解き放つ。


「〝霻霳撥閃〟」


 手掌を開き、糸に絡み合った電流の塊を撃ち込み暴発させる。

 更に術を幾重にも刹那に描き切る。


「〝痺纏霹靂ひてんへきれき〟……!!」


 壁へ刺さった妖刀を抜き、カワハギ、チェッカ、二人の剣術を避け殺戮小僧の首根っこを掴み妖刀を翳す。

 その際、腹、肩へ包丁が突き刺さすが無視する。

 かなり即効性のある強毒だが、標的を殺せば解決する。


「―――っ!!」


 殺戮小僧の首を飛ばす。


 ぐでぇ、と倒れ妖魔の核である心臓を潰し細胞レベルに灰へと変えた。

 再度、呼法を整え毒が身体中で消失したのを感じる。


「なに、休んでるの。ほらほら、次来なよ……ビビッてんの?」

 

 静んだ形相で、楽藍は二人へ挑発する。

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