第34話 斎
ジョイント音を乗せ、列車が動き出している。
誰かが、俺たち以外にも誰かが乗っている……。
楽藍側から連絡がこない。色々、なんか気持ち悪い。
「何で、動いてる……?」
「分かりません……。敵感知も何も見えないです」
刀華とノエルが緊張する中、リラックスに桔平は当たりを見渡した。
とりあえず戦える状態に備える。
「進むし―――」
「―――ッと……!!」
刀華の目前へ手刀を繰り出し、桔平は妖魔の攻撃を防いだ。
反応どころか見えなかった、不可視な衝撃が後ろの刀華とノエルを攻撃した。
「……なんだ、これ!」
同化だ。胸があるっつう事は、女の妖魔。
……なんか、エロいな。
目も鼻も包帯で巻かれており、俺たちの方角を認識している。
あれも物怪なのか……。
天井へ大の字に、手の間接を無視し逆さに寝転んでいる。
―――そっと顔をこちらに向けた。
包帯から小さな眼が現れる。
俺の中で、エロいから怖いに変わった瞬間だった。
見てるだけで、腕の間接とやらが痛そう……。
「アァぁ……あぁ……ぁぁ……あぅ」
呻き声を上げ、
「あーあれあれ、名前……『信徒』ファルンやったか。めっちゃ硬い奴やなぁ。墓とかで極稀に見たことあるわ。大抵、人の形しとる妖魔は強いんよなー。なんで、こんな場におるんかは知らへんけど」
「物怪って唯一無二って思ってた」
「繁殖する奴とか、元々の人間や魔族が妖魔化するのも万混をくぐって稀にはおるやろ。富と約束を司る女神『プファラン』の狂信徒が何人か集まった邪神の様な妖魔や。宗派を口実に貧困拡大化させた昔の貴族、存在せーへん偶像『プファラン』の信徒は信徒って名前の奴隷やった。そいつらがまぁ、惨い死に方をして恨みが募り魂が流転し生ある者に憎悪を抱くバケモンが生まれた」
―――それが、『信徒』ファルン。
如実な説明を聞きつつ、刀華とノエルは構える。
周りの景色に同化した不可視の攻撃がノエルを強襲し、桔平が腕で防ぐ。
その防いだ右腕は人間の腕ではなく、小さな筋繊維が糸の様に絡み合った生々しい肉塊。凝縮された筋肉の物体であった。
ファルンが落下し四つん這いに背から無数の魔手を出し、包帯が意志を持ったかの様に纏わりつく。
その時、魔手が景色と同化し始めた。
無数の魔手が同化し天井へと張り付く。
蜘蛛の様だ。
術関連だと、あの包帯に巻かれた物は景色と完全同化する。
完全不可視ではなく、物体として存在するので動けばギリギリ分かる。
なるほど、応用して魔力や妖気の波長など学術的な法則にまで同化できるなら、そりゃ見つかんないわな。
「あぁぁああああああああああああ」
魔手が一気に迫り、桔平の前へ刀華が術を唱える。
「〝寒〟」
同化しているだけで、存在はする。それは冷気により、可視化できる。
無論、冷気にさえ同化するがそれを凍結させれば僅かに知覚できる。
そこへ打ち込む、漆黒の大球。
「闇魔法〝黒獄景世〟!!」
魔杖から構築される立体魔法陣、それらが漆黒に染め上がる。
生まれたのは反撥する引力黒球。
穿てば魔手が引力に引っ張られ一気に消滅した。
「ほぉ、やるやん」
関心する桔平の横で、ノエルは違和感を覚えた。
「硬い……というより……。なるほど、他者の魔力や妖気に波長を同化させる事で威力をかなり軽減させていると考察します。実際、硬いという感覚がしますが、どちからと言えば何かに性質から色から、波長から法則までなにもかも同化しているだけ。刀華君の術は、それらを一瞬凍結できる。僅かですが、そこを突けば瓦解できます」
「あぁ……あぁ。あァ、ああ……」
無理矢理に裂き、口から大量の魔手が現れる。
「―――〝冥亘囹〟」
魔術属性『結界』と権能を組み合わせ、闇の結界魔法を創造する。
小さな引力を乱雑に四散させ、攻撃を緩和させている。
そこに、いくつかの結界魔術を描きある程度の防御に成功する。
次第に結界へヒビが入り込んでいる。
流石に、物怪相手だと強いな。
「じゃあ、三人で決めよ―か。莽薙君の冷気での可視化、ノエル君の魔法で瓦解、守りのない胴体へおれが一撃で決める。あぁ別に主役は譲ってもいいけど、一撃で決めてや」
桔平は法具から野太刀を取り出す。
刀に分類されるがかなり大剣に近い刀だ。
統制をとり、向かう魔手に皆は術を唱えた。
「〝寒〟……!!」
冷気による可視化、そこへノエルが魔法を唱え魔手を刻み込む。
だが、かなりの魔手が刹那に顕現させられ急所らしき心臓へ包帯が蠢く。
踏み込みから桔平は野太刀へ妖気を纏わせる。
「―――〝魔神斬〟」
巨大な斬撃がいくつも集中させ、列車を壊さぬ様今の相手のレベルに調整し放つ斬撃弾。敵の頭が割れ、そこから更に魔手が現れる。やがて灰の様に燃え、消滅した。
「ふぅー。あんまり、暴れすぎると列車壊れてまうからなぁあ。さてと、一様もう少し端まで行こうか」
「「はい」」
頼もしい、本当に頼もしい。
俺とノエルだけなら、まだ時間が掛かっていた……。
本物の特務警察……かっこいいな。
「なぁあ、これ。なんか、術中にハマってたりするかいなー。どうやら、通信が阻害されとる」
次の車両へ歩けば、桔平が開いたその扉は、その扉の先には際限のない道が続いていた―――。
扉……それが、足場や天井など、またあるはずのない階段が無数に螺旋へ広がっている。
視界がパンクしそうな程、圧倒的な物量に狂わされる。
何か、コチラが攻撃されている事は間違いない。
「これ……は。魔法……? 魔術?」
ノエルが分析しようとした時、その真下の扉が開き落下する。
その手を刀華が掴み、ノエルは引き寄せの魔術を描く。
―――が、触れた途端に電流が走る。
何者かに反発されたかの様に、
「魔術を阻害……!?」
見えない奥底へとノエルは落下し、扉が閉ざされた。
「なんか、敵がおるなあ。莽薙君、今はこっちに集中や」
四人の男が壁を、天井を側面に歩いてくる。
全員人間なのは間違いないが……平和じゃないな。
初対面のはずだが、殺意の目線。賊かなんか、か。
「俺達は『斎』。その首を狩りに来た……知ってるぜエ、秩序なんかに減り下った盆暗の五十嵐桔平ぇ」
「逃げる選択肢が賢い思うけど。勝てるつもりなんか?」
中心にいるオールバックな男は、フードをとり魔剣を構えた。
確か、人間でも魔剣は使えるし、逆に魔族でも妖刀は使える。
妖気や魔力は力の根源がほぼ同じ、器はともかく武具としてはどちらでも効力を発揮するという訳だ。
不確定要素が増えるのは、少しやっかい。
魔装具や呪装具所持者って、結構少ないはずなんだけどな。
「じぁあ、はよ終わらそか」
「はい!!」
§ §
楽藍とリーベ、二人は順調に進んでいた。
特段、何かと遭遇する訳もなく淡々と駄弁りながら歩いていた。
かれこれ五分経過する―――。
「長いんだけど~。敵いる?」
「さぁな。何も見えにゃしねえよ」
リーベに待機して、と言い楽藍一人で前の扉へと進んだ。
無論、誰もいない。
そしてまた次の部屋へ闊歩した時、リーベの後ろ姿が現れた。
「よっ」
「うわぁ、キモ。なんで、後ろ」
二人は察した。
既に、敵に狙われているという事に。
二車両を一定領土にループが起きている。
楽藍は妖刀を取り出し、リーベは法具から薙刀を取り出す。
術を唱え、沼から起き上がる様に二体の殭屍が召喚される。
それらに指示を出し、前者の扉、後者の扉へと歩かせる。
片目を閉じ、殭屍の見る視界を覗いた。
これで、なにか攻撃があれば釣れるのだが期待はしていない。
「まっ、様子見だね」
「だな」
殭屍の見ている視界には、特に何も映らない。
でも、何かはいる。隣のリーベは通信法具が圏外となった事を伝えた。
つまりは、もうこの場所は城和国じゃないと言う事だ。
「検討ついたかな。どう、りーべちゃん」
「さぁな」
「なになに~、怖いの~? 大丈夫でちゅよ~、お姉さんが守ったげるからね~」
「どさくさに紛れて、耳触んな。殺すぞ……」
言っている間に、前者後者の扉から殭屍が歩いてきた。
ちゃんとループしたらしい。
楽藍の覗いた視界にも不可解な事は起きていない。
いつからか、術を掛けられていた事に気づかなかった。
「多分、幻覚とかか。後考えられんのは、妖魔がお前に化けてるとかか? 術を使ったんにゃ、違うっぽいか」
「ねーねー。そういえば、何で暗くないのかな?」
「向こう側にいるノエル・アスカーチェだろ」
「圏外って事は、まずここは城和国じゃないねー。不思議だよねー、窓の外がまっくら。城和国じゃない場所までノエルの魔術効果範囲は広くないし」
「時間が止まってるって言いたいのか?」
「そーそー。連続性を持つ時間軸の中、私達以外の時間が固定されている。場所はどこか知らないけど、一つ考えたのはこの車両の見えない真暗な中に妖魔がいるんじゃないかなー?」
「もう一つ。今俺たちがいる列車の一定車両そのものが妖魔であり、今は腹の中にいる。消化中じゃなきゃいいが」
「なにそれ、面白い」
その時、ノエルの光源が消え、本来の列車の明かりがついた。
そこで、列車が進み始める。
「時間停止じゃなかったってか? にゃ? じぁー敵はどこだ? 諄いのは嫌いだ」
「拉致が空かないね。進むよ、とりあえず」
「なら。俺は逆の方に行くぞ。とりあえずループってもん見て見る。突破方があるかもな。変なもんがありゃ、直ぐ戻る」
「戻れないんじゃない」
「敵は戦力を分散させてんだろ。誘いに乗ってボコる、早く終わらすぞ」
「なるほど。じゃっ」
とリーベが扉を開いた時、妙な違和感を感じた。
広いのだ。先程も歩いてきた車両だ。
天井が高く、無限に広がっている。
「流石に予想外だな」
そこはリーベの知る列車の中ではなかった。
無数の部屋が存在している。
逆さになっているというより、歩く事が可能な側面が際限なくある。
不気味な程物静かだ。
「これ……は」
そこには、死体が転がっていた。
人間、魔族、幻妖族などが倒れている。
既に息は無かった。
そこで、一人知っている顔がいた。
希少種でもある中、同じ猫族なので覚えている。
資料で見た行方不明の子だ。死んでいる。
「お前、大丈夫か? 何があった?」
まだ息のある子へ声をかける。
「分からない。ずっとここにいる、助けて、お腹空いた……もう妖気が……」
「じっとしていられるか?」
少女は頷く。
「待ってろ。直ぐに終わらせて来る」
気色悪い……。
枯渇による死が多いが、何人かは斬り刻まれている。
誰かがいたのは確かだが、やっぱ楽藍と逸れたのが痛いな。
途端、後ろへ二人の人間が現れる。
男、もう一人は女だ。
両者共々、妖刀を備え欠伸ながらに接近してくる。
賊……?
「オラぁッ……!!!!」
一人の男が妖刀を真横へ電光石火。
それを退き女の剣術を無視しダメージ覚悟で薙刀を振るい胸から顎、頭へ一直線に天を仰いだ。即死。
残りは、男一人。
「お前らは?」
リーベに対し、冷や汗ながら男は呟く。
「俺たちゃぁ、ギャング『斎』だ。あんた、やるなぁ、その女ぁ俺らの中でも凄腕なんだが」
「……はぁ。俺は元首の右腕、特務警察だ。なんで、そこらの雑魚に負けにゃならん。んで、なぜ攻撃する」
「ここに入ってきたもんは無条件で殺せとさ。一攫千金ってな訳で、死んでくれやぁ!!」
仲間の死など関係なく、男が笑いながら妖刀を振るった。
先の女と同様、直ぐに切り刻み瞬殺する。
単純に弱い。
「〝時飛〟……!!」
リーベの首筋へ刃が通る。
胸、脇も斬られ血流が溢れ出す。
「その制服……特務警察だろうけど、弱いな。んで、お前の術は当たりか?」
急に現れた少女はそう呟いた。




