第33話 不可逆
特務警察第六部隊『三色団子』。
一条楽藍を筆頭に莽薙刀華、ノエル・アスカーチェと三人構成となる。
第六部隊初任務。
元首の命令より第四部隊の二人が派遣され一時的に部隊とし構成された。
一人は五十嵐桔平。
黒髪ツリ目、身長は丁度二メートル。
細身でありながら筋肉ががっしり付いている。
純粋な力自慢の腕相撲を刀華が挑んだ際には一秒で分からせた。
身体には龍に抱かれた入れ墨が彫られている。
同じく第四部隊から派遣されたリーベ・ヴォルバンザクト。
獣人族に大きく枠組みされる中、より具体的に述べれば猫族に分類される。
銀の長髪をした中性的な顔立ちをした男。
光が苦手なため夜以外はフードを被っている。
夜、刀華は資料に目を通す。
不可解に人が行方不明となる列車の総称『幽霊列車』。
書類だと物怪が二体確認されている。
そいつらを狩れば任務は一旦終了になる。
世間を騒がせておいて、いざ見れば単純ってのはあるあるなのか……?
オッドーの時にも、俺は負けたが特段レベルの差が大きかったとは思えない。
脱獄ってのは引っかかるが。
楽藍が脱獄野郎って言ってたっけか。
ノエル曰はく、城和国の結界を見る限り脱獄はほぼ不可能に近いらしい。
幾重にも法則をもって連立された結界魔術。
そこに何千もの念押しがされている。
連続性のない時間の中では可能と言ってたが、過労死レベルらしい。
そもそも一級近衛兵が幾人も巡回する中、仮に結界を解いたとして、そこへ何百人もの近衛兵と対峙する事となる。
結界以外に物理的に壁を破って出よう物にも、特殊な拘束法具により妖気や魔力が刑務所内で封じ込められる。
今回の脱獄、特務情報曰はく誰かしらが結界魔術を解いた。
ノエルが不可能と言ったのけた結界を解いて見せたのだ。
動機も不明、ただ大量の受刑者を解放させたとある。
最近かどうか知らないが、城和国って特務警察っていう秩序部隊の位置で見ると犯罪関連が多い。
その分、秩序部隊が強いんだろうが。
やっぱ昔の贖罪とやらが尻尾を引っ張っている。
それでも、仙人の瑠瑠がいる事で抑止力にはなっているそうだ。
まぁ、なるよな。俺もまだ怖いし。
でも、楽藍と同じでカッコイイんだよなー。
なにあれ、俺もあーなりたい。
「莽薙君! ピザ買って来たで、夜食や夜食!」
桔平は背伸びしつつ、仕事を終え焼かれたピザを机に置く。
大広間の窯で焼いたのだろう。
夕食は食べたが、夜食にしてはピザは重い気がする……美味いしいっか!
俺の部屋へは桔平とリーベが泊まりに来ていた。
どうせ一緒に任務するのだし、と二人が第六部隊へ遊びに来たのだ。
夕食はリーベが一人で全部作ってくれたので、感謝しかない。
俺もそうだが、楽藍もノエルも料理は苦手らしい。
よって、普段は琵琶鼓城の酒場に三人で行く事も多い。
「なぁ、そーいえば聞いたで」
チーズを伸ばしながら頬張り、桔平は呟く。
俺も唾をのみ、ピザを食べ始める。
深夜の太ってしまう罪悪感を抱きながら食するピザは、格別だ。
それに、皆で食えばカロリーは〇に近い。
「あの鬼神と共鳴したぁ言うて、他の部隊でも莽薙君有名やわあ」
「え、困る」
有名って言われても、俺が知ってる奴なんて殆どいない。
鬼神と共鳴……瑠瑠みたいな思考がいないと願うばかりだな。
隣に座り、リーベがピザを区切り食べ始める。
ついでに、俺たちへと酒を持ってきてくれた。
「別にいいんじゃねーか。特務警察なんて、戦闘狂が集まった頭のおかしい集団なんだし、こいつら全員ずれてんだなって鼻で笑えりゃ困んねえ。共鳴でいやぁ、桔平もそーだろ?」
「董弦君とおんなじやね。先天的に遺伝で共鳴しとるから、それが術になってもうとう。あー思い出した、思い出した! 耳に入ってきたわ。あの仙人の董弦君とやりあったんやろ? どないやった? 気色悪い刀使っとったやろー?」
「俺の記憶にはない。勝手に戦ったの、コイツだし……」
摂儺を取り出し、二人は面白そうにそれを観察しだす。
師匠の形見ってのもそうだけど、ちょっと面倒なのを貰ったと今になって思う。
会話はできるけど、大体は説教されるし。
未だにオッドーの件で怒られてる。いつ、終わるんだろ。
「おれも昔、董弦君と戦ってなー」
「まじぃっ……?」
興味津々な刀華に、桔平は笑い出す。
「あー勿論負けたよ。無理無理、あんなん。生物としての枠に収まっとらんよ。そもそも、戦いになっとらんかった」
「へー俺も初耳。あれか、仙薬の不老不死を欲しがってた暗殺結社時代の話か」
リーベも聞いたことが無い様で、猫耳を傾けつつチーズを伸ばす。
仙薬というのは知っている。
仙人に流れている力、『気』を結晶化させた物だ。
賢者の石の欠片みたいな。
とにかく仙人を不老不死たらしめる道理の一部が仙薬。
「懐かしいな。もうそん時の特務警察に壊滅されられたけど。あん時やりあって、一分は戦えたんよ。そこで、おれに対してやる気ないならコッチで働けってナンパされてな。というか、暗殺結社からもスカウトされたわ。最初はただ生きていくのに、稼ぐのに、戦闘スキルを活かせる職を探しとうてな。当時は琵琶鼓人や知らんし、盗賊ごっこしとったな。いひひ、あれはあれで毎日おもろかったなぁぁ」
「コイツすげーんだぜ。殺戮王なんつー異名は超有名だ」
「へー。なんか、物騒」
「普通盗賊ってのは何人かで組んでやるもんだろ? でもコイツの場合常に一匹オオカミ」
「そりぁ、信じるんは己だけって痛いポリシー持っとったからなぁ。今は、ちゃうで」
煙草を吸いつつ酒を流し込み、桔平は椅子に胡坐をかく。
「思い返せばおれの人生、誰かに使われてばっかやん。盗賊は食ってく為やけど、そっからギャングに誘われて、繋がりの海賊、空賊、んで暗殺結社、特務警察、……なんか色々経験して人生楽しいわー。戦闘スキルなんて天成なもんもろたし、こればっかりは神に感謝やで」
「桔平超凄ぇ」
「やろやろー? もっと褒めてええんやで」
いひひ、と笑いながら桔平は酒を喉に流し込む。
「明日は他の任務で速いし、俺はもう寝るぞ」
「おいおい、食ってすぐ寝たら太ってまうで。もう少し話そうや」
「諄い」
そう言い残し、リーベは寝た。
俺のベッドで。
にしても、このお酒美味しい。
初めて酒ってのは飲んだけど、案外悪くないな。
琵琶鼓の酒場でも色々メニューあったし、今度行ってみよ。
「あーあ。そんな眠いもんなん?」
「俺は変に緊張して寝れ無さそう……」
「なぁら、もうちょい話そう。リーベは弱いからな、おれ全然酔えてないで。そやそや、莽薙君の昔話でも聞かせてや。ほら、飲も飲も」
§ §
当日、その夜。夜な理由は、そこで物怪が確認されるからだ。
大抵、魔物や妖魔……というか野生動物でも夜行性が多い。
最初は皆で他愛ない会話をしつつ、まずは停車の中を巡回する。
一五両編成となり、長いので二人でチーム分けし端に付けば、また元に戻る。
物怪の出現報告があった列車。
まだいるかもしれないし、もういないかもしれない。
とりあえず停止している列車に結界法具を設置し任務に当たった。
この結界法具は、妖魔や魔物を外へ出れなくする呪が描かれている。
持続時間は約一時間。
村や町に設置する巨大なもんでもないし、大体質は知れてくる。
経費とはいえ、高いしな。
物怪ってレベルだと、逃げ足が速いのもいるし簡単には見つからないだろう。
俺のチームは桔平とノエル、向こう側が楽藍とリーベの二人。
楽藍は第一部隊にもいたし、リーベと二人で問題がなく、初心の俺とノエルは桔平が受け持つと結論に至った。正直、かなり心強い……!!
「なんや、物騒やなぁ。妖魔いうても、姿が見えんもんもおるしなぁ」
三人で進む中、所々は電気が途絶えている。
変にホラー感がぬぐえないが、妖魔の姿は見えない。
物怪が出たとされる列車、もう他の場所に逃げたなんて可能性もある。
「 《光源》」
ノエルが魔術を描き、列車の全両に光が灯ってゆく。
「焦っとるなぁ、二人とも。もっと、楽しまなあかん。敵に関する情報もないし、不安は分かる。懐かしいなぁ、おれも、最初はそうやったわ。おれが一緒に乗っ取るし、死にはせん、安心しときや」
「が、頑張ります」
ノエルは緊張ながら、そう呟く。
「なぁ、敵感知の魔術とか使えないのか?」
「それが、反応しないんですよ。不思議です。これだけ広範囲に感知していれば、列車どころかその外にも向けられるのですが、ゼロです」
「ゼロって事は珍しいのか?」
「敵がいる前提でゼロはありえないですね。ですが、感知をくぐりぬける魔術も高位階ですが存在しますし」
まず、ノエルより高位階な魔術者はそうそう自分から足を運ばない限り、遭遇しないだろう。
楽藍がそう言ってた。
「敵は妖魔だもんな。魔術なんて使えねーし」
「もしくは、本当に誰もいないって可能性もあります」
その場合、想定される被害領土全域を手分けで巡回する必要がある。
火のない所に煙は立たない。
つまりは特務としての任務がきている以上―――何もない、はありえないのだ。
「こんだけ被害でとって、誰もおらんは笑てまうけど。まぁ、もう逃げたーとかあるかもな。でも、痕跡はあるし、たいてい妖魔は一定の領土を住処にする習性があるんよ」
また一つの車両へと進んだ時、ドアがパタンッ―――と閉ざされた。
桔平は冷静に、ノエルと刀華の二人には急な緊張が走り神経を尖らせる。
ノエルの魔術感知も、刀華特異の感情を読む視線も、何も感じられない……。
「まぁ、何かはおるやろな―――」
窓、扉が全てガチン、と重い音吐を乗せ閉ざされた。
本来の機能として付属された電球が、明かりが灯される。
《光源》を解き、足場に迫る小さな振動に注意を払う。
列車が進み始めた―――。
「え」
「え」
「……え」
俺たち三人は唖然とした。




