第32話 『新設』第六部隊
路面列車から近くの駅を降り、徒歩で宝食城へと向かう往路。
食の集落として世界的に有名な場、首都・宝食謳閣。
その道すがら、刀華は楽藍やノエルと共に楽し気な会話をしていた。
「ね、ね、名前どーする?」
団子を食べながら、楽藍は二人に呟く。
現在、ノエルをスカウトし最低限の人数である三人が組織とし揃った所。
新設された特務警察について元首へと報告しに向かっていた。
賞金首であるオッドーの討伐は直ぐに報道され、まだ元首に合ってもいないのに新設第六部隊なんて題意があった。
―――という事は、確定なのだろう。
俺たちはそこで正式に特務警察となる申請を行うぐらい。楽藍曰はく、だが。
「名前……? なんのですか?」
ノエルは城和国について見聞を広めつつある現状、少し浅学だ。
ずっと城和国へいた楽藍と違い、刀華と同様浮世離れ感がぬぐえない。
「私達の部隊、第六部隊だよ。私が元所属していた第一部隊は『静かな夜』。リーダーの瑠瑠が音のしない夜が好きって言ったのが起源だね」
「他には、どのようなものがあるのですか?」
「第二部隊の『黄昏』とか~、第五の『茜雲』とか? 何でもいんだよ、ただのキャッチコピー的な。多分、知らんけど~」
黄昏という単語は知っている。
かなり希少価値のある宝石、術陣形態を崩さぬ様殆どの法具に用いられている物質だ。
大昔は大きさや純度に比例して通貨として扱われていたらしい。
萌萌が言ってたな、あの子ほんと知識広い。
というか、景色みたいな名称が多いな……風雅なもんで。
「名前って適当かも」
「適当だろ」
「適当ですね」
つーか、名前なんてどうでも……。
そうか、思えば俺も名前なんて無かったな。
勝意がくれた名前『莽薙刀華』、今になって少し気に入ってきている。
刀華という名は勝意が、刀に華を持たせれる男になる様にと名付けてくれた。
あの時の感覚……うわー鮮明に覚えてるな。
「ほらーもう門が見えて来たよ~。名前ないなら、私決めるけど」
「候補あるのか?」
「好きな色や花束でいいんだよ~安直にさ。風雅な気分でつけるし、たいした意味なんて無いよ。多分ね」
城門をくぐり、再めて刀華は物珍しさに周囲を見渡す。
最初はそんな感じで入りたかった。
ここへ入ったのは手錠をかけられ、咎人みたく連行されたのを覚えている。
後、瑠瑠が怖かったのも物凄く覚えている。
瑠瑠に何を言われたっけか……。
死にそうな状況でも阿修羅を出すなってのと、もし出したら俺も一緒に殺されるって事。
ギリウスの件もそうだけど、強くなる理由が色々付属してきている。
特務警察なんて元首直属の精鋭部隊だ。
雑魚が一匹混じっていれば、直ぐに馴染めず潰される気しかしない。
「え……」
城門前。
刀華や楽藍が城へ入る中、護衛の者がノエルの道筋を防ぎ思わず言葉が零れた。
刀華と楽藍は特務警察の制服を着してるが、ノエルはただの普段着だ。
周りの近衛兵からも、竜人というハーフも含めよく目立っている。
城門……というより、宝食城の一定領土では特別警備隊『近衛兵』が常に巡回しており普通には入れない。
貴族による政治運動からテロ多発も、少なくはないからだ。
そんな浮世―――。
城へ入るに身分を証明できる制服や紋章を装していなければ、見知った者でも、刀華や楽藍でも入れないのだ。
つまるとこ、
「私、置いてけぼりですか……そうですか」
ぼそぼそと小さな石ころと友達になりながら、ノエルは下向いた。
落ち込みすぎだろ……。
「しぁーないじゃ~ん。まだ、制服届いてないんだし、報告だけ済ませておくから。ね! ね!」
憂鬱となったノエルを置いては、刀華と楽藍とで城へ足を運ぶ。
移動するにも元首の場へ行くには少し時間を費やす。
城門をくぐっても城へ行く道のりや中の構造が複雑すぎるのだ。
「今回はその必要ないよ」
聞き覚えのある声がし、振り返れば数人の第一部隊を引き連れ城門へと元首が訪れていた。
後ろには瑠瑠と吟葉が控えており、楽藍は笑顔で挨拶をする。
「彼女は第六部隊って事でいいのかな」
ノエルを視野に元首は設問を飛ばした。
「はい! 魔瞳王国ハルバラードから訪れました、ノエル・アスカーチェです……!!」
深く頭を下げるノエルに、元首は笑う。
「同盟国だね。魔王みたく世界の元首じゃあるまいし、畏まる事ないよ。じゃぁ、仕事内容とか色々覚えてもらいたいから、楽藍君から聞いておいてくれ。既に第六部隊初の特務は提示しているから、よろしくね。僕は最弱元首の友達と遊びに行くから。ばいばーい」
吟葉と瑠瑠はその場に残り、元首は他の近衛兵を引き連れどこかへ行った。
護衛として第一部隊を遣わせていると思ったが、ただの任務報告と移動が被っていたらしい。
瑠瑠はノエルへと特務警察の制服を渡し、それを魔術《同一》によって一瞬で着替えを済ます。魔術ってほんと、何にでも出来る……羨ましい。
「案内するね」
偶然? にも会った瑠瑠と吟葉の二人に宝食城を案内してもらう。
元首が住まう城だが、同時に秩序部隊の一部の機関が設置されている。
兵士の訓練場もあり、城内はバカ広い。
相変わらず雅楽の音色は心地よかった。
「ここは……第一部隊の特務機関。第六はあの端っこ、ちょっと距離……ある」
と、第六部隊の機関に到着した。
刀華とノエル二人に歩きながら吟葉が仕事の説明を始めた。
第六部隊の設備、仕事場だがここでの生活も可能。
コアタイムは無く、他の秩序部隊が対処できない問題を特務警察が行う。
特務警察は国家の、元首の精鋭部隊であり自警団や警備隊とは別物の最高戦力組織に位置している。
「はい、これ通信法具ね」
楽藍が二人に指輪型の法具を手渡した。
この通信法具は、任務執行の際に三人で離れた場においても情報伝達をする為のものであり、妖刀レベルに頑丈である。
部屋は五つあるが、第六機関は使われていない建物だったので全てダンボールで埋まっている。
誇り臭い……よく見れば、蜘蛛の巣なんて色んな所にあるし。
依頼については、琵琶鼓城みたく提示された物を見に行くのではなく、第六部隊当てに特務として妖猫が運んでくるらしい。
妖猫、相性はピーちゃん。
無数の虚像を生み出す術から、他の部隊へ任務を伝達するのに、また何らかの妨害を受けても問題ない様に使われているらしい。
「おい、名前は決めたのか?」
瑠瑠は札を刀華へと渡し、それを楽藍が取っては名前を描いた。
「私たちのチーム名、特務警察第六部隊!! 『三色団子』!!」
「なにそれ?」
「私の好きな食べ物」
何その、美味しそうな名前。
ノエルは気に入っている様子だが、まぁいいか。悪くない!
そーいや、客観視すれば俺のいる第六って強い部類だよな。
その点で言えば、俺は強欲って奴なんだろう。
元第一部隊『静かな夜』。
仙人の瑠瑠にも認められている強者、一条楽藍。
死者の魂を現世へ硬直、留め使役する術。
第六位階まで手掌へ収める神童魔術師、ノエル・アスカーチェ。
俺と同じ属性系統であり、中でも闇魔法の権能の使い手。
ノエルの戦闘的な強さはよく分からんが、汎用性では一番頼りにはなると思う。
組織にはそれぞれ統括者、いわゆるリーダーが必須であり俺とノエル二人で一条楽藍を指名した。
さてと。まず始める事は掃除だ。
埃だらけ、ここで暮らせば変な病気になる気がする……。
仕事ができる環境とはとても言えない。
ノエルは魔術を器用に、楽藍は殭屍で人数を増やす。
殭屍について最近知ったのだが、彼らは死体だと言うのに死臭もしない。
感情も当然見えないが、楽藍が放置しておくと独特なダンスをし始める。
一様仕事はしてくれてるし、何かと面白い。
掃除……術も使いようだな。
俺は冷気だし、特に出番は無さそうだ。
部屋窓を全て開け、そのまま誇りを払い雑巾がけの予定。
その時、背中を柄頭で突かれた。
「用がある。面をかせ」
「はい……」
瑠瑠に呼ばれたのは、下場にある訓練堂。
掃除は任せてと、楽藍やノエルに少し申し訳ない事をした。
いや、でも殭屍のおかげで人数増えたし案外早く終わりそうか。
もしかしたら、俺邪魔者だったのかも……深く考えない事にしよう。
訓練堂、畳の大広間にて瑠瑠は刀華へ摂儺を取り出せと指示する。
「共鳴に付いてだ」
「はぁ……」
自然と、そのまま刀華は構えをとった。
「お前、共鳴が何か分かるな?」
「こいつで言えば、俺と阿修羅の魂が同じになったって事だよな」
「共鳴は幻妖や妖魔の力を借りる物だ。お前、阿修羅を降ろしてみろ」
「え、いや、でも……」
「阿修羅に代われとは言っていない。阿修羅の有する力の一部を己に降ろす。『魂の共鳴』、これが本来あるべき形だ。封印された妖魔や幻妖と契約、もしくは共鳴させる理由は、そいつの力を引き出す為にする」
「……どうやって」
「心臓には術が、それを行使する脳には術の僅か一部が後天的に残る。器の主導権、所謂、人格を交代させる芸当はその妖刀を心臓へ刺し術式をポンプ代わりに魂を流す、限定的な判受肉。野伏遺跡でお前がやっていた事だ。知ってると思うが、妖気には波長がある。共鳴の力を使役するなら、共鳴した者の妖気を取り込み己の肉体で循環させろ」
摂儺へと妖気を纏わせた。
これは万画一臣にも言える事だが、妖刀にはそれ独自の妖気が存在している。
正確には呪を発動させる為の導線そのものが妖気だ。
妖刀に眠る妖気の波長をどれだけ自身の波長と同調させるかによって呪の潜在能力の覚醒率、パフォーマンスの向上が決定される。
これは幻術にも関与してくる要素だ。
「まだ揺れている。波長をまず読め。できないなら、できるまでやれ」
「はい」
勝意や萌萌と山で剣術を習った際もそうだった。
大体の妖気量は、相手が妖気展開すれば質に比例し凡そ検討がつく。
摂儺の、阿修羅の妖気の波長……。
膨大すぎる妖気だな、でも不思議と俺の元へと帰る様に溶け込む。
「遅いぞ」
「はい……」
より深く意識を凝らし刀華自身の妖気と摂儺、それに封じられた阿修羅の妖気を循環させ、一つの妖気へと還元させてゆく。
―――五分程、
なんか、できた。
「それが共鳴の力だ」
ニョキっと二本の角が生えていた。
阿修羅に生えてたのと同じ、鬼の角……。
ちょっとカッコイイかも知れない……!!
角が生えるって、なんか新鮮……。
「共鳴だ。自己に侵食し、多少容姿も似通る」
思えば、前の様な殺意の視線は感じてこない。
最初は俺に対し、かなり警戒していた。
今とは全然違う。
本質的な感情は見えにくいが、表情からも俺の印象が変ったのだろう。
出雲もそうだった。
目線からの感情が見えにくい。
摩滅って奴か、長生きしすぎて狂った部分があるのかもしれない。
「いいのか、俺に共鳴の事を教えても。鬼神を嫌ってたろうし、阿修羅を出せば次は俺、仙人のあんたに殺されんだろ?」
「当たり前だ。しかし現状、お前は第六部隊。一条楽藍を守れ、あれはワタシの部隊だ。今は貸してやる、だから楽藍が万が一にでも死にそうな時、全力で必ず助けろ。死ねば、お前をワタシが殺す」
この人、ノエルの事忘れてないか?
「好きなのか? 楽藍のこと」
「皆好きだ。楽藍だけではない、涼歌も兎兎も、吟葉も。ワタシはそいつらを守れる程強い。だが、お前は違う。元首が直轄する組織において、お前は弱すぎる」
ですよね。
はぁ、変に気落とされ認めてる自分もムカつくけど、『事実』だもんな。
今は弱い、それを自覚した上で俺は一歩一歩確実に階段を上る。
「お前、少し手合わせしろ」
「え」
また、俺は誰かに泣かされるのか……。
出会って来た奴が、皆俺より強くていじめられてるんだが。
流石に学んできた。
勢い任せて首を縦に振れば、その結実どうなるのかを。
もう、何回も泣かされた。
学べる箇所もあるにはあるが、痛いし……。
強い奴の戦闘法術は、自分の物に昇華させ結んでいきたい。
「出雲とはやりあったのか?」
「稽古ぐらい」
「なら、武具も何も使わず相手してやる」
「自慢じゃないが、俺クソ弱いぞ」
「共鳴の土台はお前だ。お前の力を見せろ」
§ §
案の定泣かされ、楽藍達のいる特務第六機関『三色団子』へと戻った。
名が綺麗に掘られていたんだが、本当にこれで決定したらしい。
アルカーナ新聞社の記者も二度見していた。
「うっす、うっす……」
部屋へ戻れば、いい匂いがする。
埃も何もない、全部片付いている……すごい。
だいぶ頑張ったんだろけど、何もしなかった俺が申し訳なくなる。
部屋は狭そうに思えたが、いざ掃除すれば案外広い。
うん、結構悪くない、というかかなり良いですね、うん。
「帰ったぞ」
「「おかえ、り」」
楽藍と吟葉がブリッジをしていた。
「いや、何してんだよ」
思わず叫んだ刀華の後ろで、こいつ何してんだとジト目気味に瑠瑠は観察する。
慣れている事から、恐らく第一にいた頃からヘンテコな事してたんだろう。
視線から何となく察せれる。
「ブリッジ耐久勝負……!! 負けた方が、明日のお昼奢る……の!!」
「今、七分経過しました」
横のノエルは猫を撫でながら、二人を見ている。
なんで、冷静なんだろ。
「これこれ。第六部隊の依頼っ、とーかが来てから一緒に見よ~って思って」
吟葉が負けとなり、そのまま綺麗に倒立し刀華の目の前へと着地する。
渡されたのは一通の……というか紙。
依頼を受ける度に顛末を書き書類整理され、続けて行く内に一冊の分厚い記録書になるらしい。
「特務警察第六部隊『三色団子』様―――この度、新たな特務警察とし、ほにゃほにゃ、ほにゃほにゃ」
面倒な挨拶を避け、楽藍は要件を見る。
「幽霊列車か。第一に周ってたけど、第六に下りるんだ~」
「第一と第二は万雷国家に様がある。向こうの軍兵への遠征に付き合わされるんだ、マシだと思え。調査の結果、物怪の仕業と明記されている。そこまで、難易度は高くないだろう」
いや、四級やら三級やら通り越して物怪レベルの妖魔いるじゃん。
前の野伏遺跡での竜みたいな奴って事だろ……。
行くけどさ、俺の中で難易度バチ高いよ。
元首が特務試験でオッドーか幽霊列車と選ばしてくれたが、楽藍に訊けばどっちも俺たちに任せるつもりだったらしい。
実際に行うのは三日後の夜。
それまでの期間、部署移動や説明などで頭をつめられる。




