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阿修羅天世(改稿中)  作者: 鈴政千離
第三章 幽霊列車編
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第31話 『思』賢者への渇望

 元首、二階堂理音が統治する世界最大陸海域を誇る国家―――城和国。

 首都を西に、陣隆じんりゅうと呼ばれる多くの研究棟が連なった学術都市が存在する。

 中でも神童が集う学院、魔法学校アイビーに通う少年がいた。

 魔瞳王国ハルバラートから外部進学した一般生徒だ。

 容姿は街ですれ違えば直ぐに忘れそうな程に存在感が薄い。


 人狩りにあい、両親は殺され貴族に拾われた。

 元奴隷。種族は長耳が特徴的な森霊エルフ族。

 跳ねた黒髪から所々にストレス性による白髪が生えており、下睫毛が長い。

 名門アイビーとして名高い制服は怠惰にダラっと着ている。


 名はゲーテ・ベルツァンラッサール。

 だらしなく、ぱっとしない外見であるが彼の名を知らぬ学生はいない。

 それは彼の実績が物語っていた。

 成績優秀、魔術の才能、人脈、謙虚、愛嬌、と万人に受け入れられている。

 しかし、ゲーテからすればただの虚飾だ、仮面だ。


 ―――多くの生徒、教授が彼の研究を聞きに訪れる。

 開発した魔術陣を映し出し、ゲーテは淡々と板書しては資料内容を伝え四〇分程で終了した。


「―――であるからして、この魔術陣は連結し、そこを主軸の芒星グラムとする星が完成する。これが私の開発した第零位階魔術《結星(ゾルテラ)》です。小さな魔力から歯車の様に連結反応が起こり、時間は費やしますが自動オートで複雑な星芒魔術陣を描いてくれる、意志を持つ、生きる魔術言語です。これは本来、第七位階魔術が原型となっており、それを一般昇華させ言語と技術さえあれば誰にでも扱える第零位階魔術に収めました。しかし、星芒を扱わない魔術では使われないので、今後更なる研究を進めていきます」


 ゲーテは特許申請の通った第零位階魔術《結星(ゾルテラ)》の仕様、具体的な術理構造を発表した。『一を知れば一〇を成す』、それがゲーテの描いた机上の魔術要語。

 それを基盤とする《結星(ゾルテラ)》、この魔術はまさしく革命であった。本来使えなかった魔術を扱えたり、理論上存在するとされる未開の術を開拓する鍵となる。


 拍手喝采も束の間、いくつかの研究員と建前のコミュニケーションを済ます。

 研究室へと戻り一息すれば同期のいつもの友人が遊びに来た。

 ゲーテを入れて全部で四人。


「すげーよ、マジ。マジ賢者」


 同期の友人、ルクス・リーヴァロラスカ。

 自称ライバルの男だが、一度も俺に勝ったことがない。

 正直、この中で一番ぼんくらだと思っている。


「ほんと、いつの間にか特許取るよねー。魔術の才能まであるとか、天は二物を与えるもんか? 不平等……」


 隣でそう呟くのは小さな少女、エミリア・オルスティー。

 飛び級でこの研究機関に入った秀才。

 論理に特化しすぎて単純な物覚えが悪い。

 もう一人……そうだ、いつものアイツがいない。


「あの馬鹿は?」


「ノノの事ね。私は見てないけど、あの子他の区から通ってるから、遅れじゃない? 宴屯だっけ」


「そうか……」


 アイツの小さな発想を元に開発した魔術だ。

 どんな表情をするか見て見たかった。

 しかし、中々に面白い研究だったな。

 達成感という奴だろう。


「共同開発していた魔術だが、全層の魔術言語は命令語以外プロットできたぞ」


 言い忘れていたのを思い出し、ゲーテは呟く。

 

 他の二人はその仕事速さに引いていた。

 いくら魔術が好きといっても、限度というものがある。

 長い付き合いになるが皆はゲーテに驚かされるばかりだ。


「それノノの領分だろ。暇か」


 ルクスはゲーテの頭をチョップしながら、共同開発した魔術構造に目を通す。


「あの馬鹿は遅いからな。色々」


 ―――ノノ・リンテーダ。

 

 最近見ていない。

 進級に問題はないだろうし、後もう一年程共同研究に勤しむ事になる。

 個人での魔術開発は論文含め皆殆ど終えている。


 優秀という奴だな。

 コイツらは一緒にいて楽しい奴らだ。笑けてくる。


 ―――いい友人だったな。


「それで、次もまた研究なのゲーテ。今度は何する? 何の革命?」


 興味津々にエミリアは訊く。


「今、脳に描いてるのは魔力がなくとも魔術を放つ基幹だ。これができれば、魔術という概念を根本から覆す事になる。賢者のつくった土台を、俺がつくり替える」


 四大賢者に継ぎうる、偉大な功績であり歴史書にさえ乗るだろう。

 開発した新魔術《結星(ゾルテラ)》は既に記載予定だ。

 自動オートで触媒を魔力線とし魔術言語を描く自立法則を自身の名を冠して命名した。


 仮に俺が明日死んだとして、そこから数百年経ったとして、惑星が滅びぬ限り名は残る。


 ふと―――俺は運も含め自分を特別な存在だと思っている。


 大衆は皆、自分をどこか驕って生きている。

 自己肯定感、承認欲求に近い心理だろう。

 これは、当たり前の人生の代謝だ。

 だが客観視してみれば、自ずと見えてくる物がある。

 皆は……大衆はそれ程までの存在ではないという事実。

 見下している訳でもなく、単純明快な俺の主観一〇〇%だ。

 人並みに怠け、勤勉となり、価値を見出し、主観に好奇心を持ち、またある日は己が変わろうとする。

 比較する癖もあるな、だから自分の価値を見誤る。

 

 その点、俺は違っている。

 変わっていると感じている。

 怠惰も勤勉も、代謝は人並みに周りに対して何かを見出す事もない。

 少ない魔術の好奇心……後は、ハルバラードにいた頃か……。

 宮廷魔法師、賢人、智爵、魔術の賦を持つ者が入学許可される特殊な研究棟が四つハルバラードにある。そこへ入るのが目標だった……。

 その研究棟から派遣された研究統括者の先生、あの先生が賢者について教えてくれた。

 当時は治癒魔術に関してずっと勉強してきた記憶があるな……。

 無論賢者という偉人は知ってはいたが、当時は何となくその道を選び研究職になろうと考えていた。


 俺はハルバラードが嫌いだ。

 あそこは闇が深すぎる。


 ―――夕方頃。

  

 ゲーテは用事があるからと夕食での誘いを断り、一人で帰宅する。

 新聞を片手に自宅へゲーテは一人籠っていた。

 狭すぎず、かといって特別広くもない。雑に並べられた机に後は全てが本棚。

 部屋に全部は入りきれず、魔術開発プロジェクトで稼いだ小金で地下を作った。

 無論、全て本棚で埋もれている。

 

「雑魚かよ」


 憤怒でも呆れでも、不快でも何にでもない語調がゲーテから零れる。

 ベッドに寝転びながら、大きく欠伸をする。

 最近になって、人生について思考する事がある。

 意味はないだろうし、意味を見つけたとしてどうすべきかが描けない。


 詰まるとこ、―――暇だ。


 ゲーテが『雑魚』と溢した視線は、新聞へのキャッチコピーに当てられている。


 長らく世間を騒がせていた首切り殺人鬼オッドー。

 彼が特務警察によって葬られた。

 葬ったのは新設された特務警察第六部隊……。 

 元第一部隊の者もいたのなら、道理だろう。

 特務警察では第一部隊の仙人、一条楽藍、樋坂涼歌、第二の燈室燈向ひむろひむか、ユフィ・リーヴェルト、第四の五十嵐桔平いがらしきっぺい日月新花ひずきしんか、調べた程度ではこいつらの功績が大きい。


 後に目を張るのは陸武将だが、まだ詳しくは分からないな。

 少し遠いが今度ノノでも誘って琵琶鼓城に行くか……。


「おッス! おッス!」

 

 ゲーテが家に帰ってひと時、天井に寝転がる一人の優男がいた。

 軍服を装した金髪な異国の男。

 背丈は高く筋骨隆々にゲーテと同じく森霊エルフ族である。


 特に驚く様子もなく、ゲーテは視野に収めた。


「テレスか、よく来れたな。この国の結界は丈夫だってのに」


「あんたの御かげさ。数分、それも限られた時間だけッスけど。それよりも聞いたッスよ。研究、意味不明ッスけど、ははっはっ。よ! 天才! 九爵!! 賢者様!」


 天上をベッドに、茶化しつつテレスは笑う。


「変な煽りだな。まだ至っていない。それに、天才はいない。それは馬鹿が努力しない言い訳が集った偶像だ、もしくは価値観の大きな相違から起こる一種の錯覚だ、事象だ」


「ふーん。興味ないや。俺は少なくとも頭悪ぃッスし」


「それでも独裁者の一員か。よく使徒や政治が通っている。いや、通っていないのか」


 興味無さげにゲーテは言葉を投げ、起き上がっては紅茶を二つ注ぎ始める。

 テレスは天井を歩き、壁を平面の様に歩き、やがてソファーへと腰を降ろす。


「そろそろ、だろ? こっちはあんたから素材を貰ったッスし、お礼はね」


「お前が俺の下に付いてくれれば、もっといいんだが」


 紅茶、菓子を並べゲーテは目を向ける。


「冗談。元首はともかく流石に仙人は今は無理ッス。でもいいの? あんたさえ良ければ俺の国、ファルシアに招待するッスのに。席はあるぜ」


「生ある者はいずれ死ぬ。皆はその限られた時間でしか、幸福に至れない。賢者は皆、あらゆる形で『死』を克服し魔へ見聞を深めた。ここにいようが、お前の国にいようが、いずれ俺は寿命で死ぬ。だから意味がない。やりたい事は、城和国で揃っているしな。その為の万屋だ」


「死ぬねー。そりゃ新陳代謝ってやつ? 俺は魔術なんて使えないし。死なんて受け入れるしかないッスよ。大事なのは、最後まで笑ってる事ッス。自分の世界が笑えていれば、それでいいッスよ」


 面倒な話を嫌っては、テレスは紅茶を一口飲み溜息を吐く。


「なんでもいい。俺は俺のやり方で、死を克服し賢者となる」


「そーッスか。まぁ俺は最後にあんたを国に招待しにきただけッスから。長居はできないし、もう帰るッスよ」


「お前がここに来たのは、使徒としてか?」


「私情ッスよ」


 異空ゲートの扉を法具から開き、テレスは足を運ぶ。


「あー。そうだ」


 戸に手をかけ、帰ろうとした所でテレスはふと思い出した。

 特に訊きたい訳でもなく、単なる反応を見る様に。


「なんだ?」


「阿修羅が共鳴したってマジ?」


「さぁな、興味がない。あぁそれこそ、あれだ。無興という奴だ」


 テレスは首を傾げる。

 前々から……というより、ハルバラードで初めて会った時からゲーテの言葉は理解しにくい。


「なにそれ?」


「お前の話は冷めるって事だ」


「ふーん。ま、俺は帰るッスよ。死んでも骨は拾えないッス」


 テレスは帰り、扉が淡く消える。

 部屋で一人、何かに懇願する様にゲーテは言葉を溢した。


「マギー。俺はどこまで抗えるんだ? 未来の賢者よ」

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