第30話 仲間
―――早朝。
体調は完全に治り宴屯から三奥州へ移動する。
楽藍、刀華とで面白そうな依頼を見ては琵琶鼓城で朝食をとっていた。
まず、ノエルがどこにいるかは不明だ。
最初に会った場所は森群緑府の野伏遺跡……。
依頼を受けた琵琶鼓城が設立されてる区が壟雲逢簑。
とりあえず、向かってみるか。
「こっから壟雲逢簑って結構距離あるよな?」
「いんや~、一分もかかんないよ。一階と二階にワープゲートの法具があるんだよ。琵琶鼓城はここの三奥洲と一望泉野、壟雲逢簑の三つに設立されているから、その区の琵琶鼓城は直ぐに移動できるよ。ゲートが込んでなかったらね~ん」
「新情報なんだが」
「じゃ~、今知ったね」
琵琶鼓城には色々な機関がある。
一階では主に依頼要請、受付、素材の買い取り、仲介、医療機関、酒場、今いる二階では同じく酒場に隣ではダーツやポーカーなどのカジノゲーム、三階には宿屋や薬屋、武具屋がある。
―――なにせ広い。
早朝というのもあり、ゲートは込んでいなかった。
朝食を済ませそのまま壟雲逢簑へ到着する。
と言っても、そこに都合よくノエルがいるわけ―――
……いたわ。
目が合った。
「あぁ……刀華君」
「久々だな」
ゲートを渡り、一階へ降りれば依頼欄に目を凝らすノエルがいた。
片方に角が生えているので、それだけでも分かりやすい。
「見てください……!! 私、白札に昇格したんです!!」
自慢げに札色を見せ、ノエルは満面に笑みした。
いつの間に……野伏遺跡の際には同じ黒札だったのに。
これが実力の差……置いてかれてる……。
「あれ? 竜人? 顔つきとか、角もそうだけどハーフの子かな~?」
隣の楽藍は目を凝らし、ノエルの角を触る。
「痛くないのか?」
「感覚はありますけど、爪を触られてるのと同じ様で痛くも痒くもないですね。万が一折れても、数か月で勝手に生えてきますし」
「「……生えるんかい」」
と、俺も触ろうとすれば―――ぺしッとノエルに手を払われた。
「セクハラですよ」
「え」
適当な場所に座り、朝食を済ませてなかったノエルはサンドイッチを頬張る。
バイトの賄いらしい。というか、バイトしてるのか。
俺と違って真面目だ。
そうだよな、琵琶鼓人になって一攫千金なんて夢物語だし。
こんだけ強い楽藍でも趣味でやってるんだし。
稼いでる奴は、裏金とか色々言われてるけど、さ。
「隣の彼女は刀華君の恋人ですか?」
「そだよ~。一条楽藍だよ~」
「違う。まぁ色々あって特務警察っていう秩序部隊に入ることになってさ」
途端、ノエルは目を見開く。
野伏遺跡で出会って以来、互いに琵琶鼓人として頑張って行こうとなり、何故か竜に襲われ、それを倒し変な女の人と戦って連れていかれた。謎現象だ。
最初は整理がつかずにいたが、琵琶鼓城の報告提示を覗き見れば董源瑠瑠という特務警察が向かったと記されていた。
何者かは知らなかったが城和国について調べている内に仙人など、第一部隊など少しずつ理解していった。
つまり、いつの間にやら刀華君に置いて行かれている……。
実力の差だろうとノエルは心で呟く。
「大出世じゃないですか……!! この国についてはまだ浅学ですが、特務警察なんて元首直属の部隊ですよ……!? もしかして隣の人も」
「そだよー。今からその申請手続きをしに行くんだけど、面子が最低三人は必要なんだよね。それで、とーかが誘いたい奴いるっていうから~。それがキミって訳」
「……そういう事ですか。私魔術に関しては自信ありますけど、戦闘経験殆どないですよ? たまに来る賊やらチンピラを追い払う程度で……」
十分だと思う。
前に戴堂というチンピラ相手に物怖じせず、冷静に対処していた。
中々に肝が据わったいる。
多分ここで特務警察に入らなくとも、ノエルは実績が物をいうのだと思う。
時間の問題で、ノエルはもっと成長していくのだろう。
―――そういえば、
「宮廷魔法師に勤めてたんだろ? バチバチに戦闘経験あるんじゃないかと」
「それは宮廷魔導師ですね。私は智爵の宮廷魔法師、専門は魔術や魔法の……研究者です。だから生徒に魔法学を教えたり、研究論文を手伝ってあげたりと色々あったのです。私は色々な魔術が扱えますから、それを戦いに応用できる点で、あの時に宮廷魔法師に勤めていたと言ったんです」
「魔術、魔法ってどんな研究? 私、あんましそっち方面は詳しくないや」
楽藍は刀華と同じく、人間種。
人間には魔力も魔術も魔法も、詠唱も文字でさえも理解しない人が多い。
理解する必要もない。
軍学校を卒業した楽藍でも学ばない領域だ。
今では特務警察となり、多少の知識は必要になってくるがそれでも浅学。
それを知ってか、ノエルは二人に分かりやすい様に空間に文字を浮かべ噛み砕いて説明する。
まるで先生と生徒だ。
「魔術は第一から第七位階まで、それぞれ『結界』『強化』『魔眼』『治癒』と四属性があるのです。その魔術にだって未だ見つかっていない術が眠っていたり、儀式を詠唱と共に文字化したり、規模や人員、コスパを減らしパフォーマンスを上げるなど色々な研究があるのです」
アプルの村に下ろされた三枚の結界。
あれも後で調べてかなり高位階の魔術だと分かった。
魔術は位階序列が上がるにつれ、使い手が極端に減っていく。第三位階まで扱える者でも、それ以下の魔術を全て使えるかと言えば違ってくる。
第三位階魔術《封陣五芒星反領域》。
これは大規模結界魔術の一つで現代程魔法学の発展がなかった際、国家規模でやっとの軍用魔術であった。それが今では第三位階を使える者であれば、十数人が集って一定範囲内をプロットし展開できる。
術者の数が少ないと複雑な術式に情報が通らなくなり、未完成や齟齬が生じ不安定さを生む事もある。
最悪、術式がちぐはぐに途切れ爆発なんてのも良くある話だ。
ノエルも昔は何度も経験をしている。
「第零位階魔術は知っていますか? 番外魔術とも呼ばれてるのですが」
「俺は知らん」
「なんか、あったね」
―――と、また空間に文字を起こし説明を絵図する。
「第一位階から第七位階の元の根源は賢者アインとジョーカーが創造した概念です。そして第零は……実際見た方が速いかもしれません」
指先に魔力を込め、魔術陣が描かれる。
小さく魔術文字も少ない基礎魔術に近い形の術陣。
「―――《浮け》」
描いた魔術陣の情報が空いたコップへと掛けられ、宙に浮く。
「他にも、こんな物もあります。《猫耳》」
と唱えば、ノエル、楽藍、刀華の三人に猫耳が生えた。
「実用性はあまりないですけど……強いて言えばファッションですかね。それでも、ずっと魔力消費も神経使うでしょうし。ですが、《猫耳》の術を組み換え、また新たな魔術に派生させるんです。文字を入れてプログラムを組んでみたりと、色々難しんです。魔術言語を体系とし描く事で魔術を発明したり、発動させたりします。魔術言語も星座や連結、ルーン文字、アプトプル文字なんて脳がパンクしそうな情報量を理解し描く必要があるんです。魔術用語は今でもたくさん開拓されています」
事細かく空間に文字を羅列させ、ノエルは説明を続ける。
小さな教室で勉強会をしている気分だ。
「「へー」」
「日常的に扱う魔術、それが第零位階魔術です。応用で魔法陣との連結が考えられたりと、可能性のある魔術なんです。これに才能は関係ないですし、魔法学校の卒業生は術式の論文を大量に書いて毎年魔術が誕生していたり、研究を継承し作られてるんです」
「才能ってのは? よく魔術と絡んで聞くんだが」
魔術は扱える者とそうでない者に極端に分かれている。
「そうですね……まず、魔術を扱う前提の知識が膨大すぎるんですよ。それだけなら努力でどうでもなるんですが。というか、努力前提の世界ですね。魔術を使用する際に魔力を使います、魔力にも血液型の様に遺伝的に微妙な違いがあるんです。それで扱える魔術が殆ど決まると言う訳です。ですから、努力どうこう以前に生まれた時から決定しているんですよ。それを、誰でも扱える様にする、そうすれば魔法学もより発達しますし。おそらく賢者も昔、そう考えていたんじゃないでしょうか。波長も合わせて努力して第二か第三位階。凄いですけど、扱える位階の話ですので第一、第二位階の魔術全般が使えるという理屈にはなりませんが」
「キミは使えるの? あー、名前ノエルだっけ」
「はい。私は両親からずっと教えられていたので、努力も含め第六位階までなら。それでも全部という訳じゃないですけど……へへ。自慢みたいに、なっちゃいましたね」
照れながらも、ノエルはサンドイッチを食べ終わる。
「凄いやぁ~。第六位階は中々聞かない」
素直に感心する楽藍。
彼女は特務警察に所属しており、秩序部隊全体で見ても第六位階は超レアだ。
強者の集まる場にわざわざ出向いて、それでも第六位階は聞かない。
陸武将に一人、いたかな……ほんとそれぐらい。
「第七位階はいるのか?」
隣の刀華の設問に、記憶を頼りに思い出す。
「うーん、ん~私は聞いたことないな。城和国でんー、いたかなー?」
「第七位階なんて伝説レベルですよ。賢者しか使えないと思いま……すよ」
ノエルの頭の中で元教え子の顔が浮かんだ。
彼は第七位階に迫っていた天才児。
「そういや先生してたもんな。ノエルって、超凄かったのか……。宮廷魔法師、研究者、冷静に考えればそうか」
へへ、とノエルが照れる中、楽藍が本題を出す。
「話ぶれぶれだよ……!! 特務警察の話、一緒に来てくれるの? 戦闘経験なくても、私が二人とも扱くから大丈夫!」
「え、あ……行きます! でも、どういう経緯で特務警察なんて大出世を」
神妙な顔をするノエル。
その場での事情は俺も詳しくは知らない。
なんせ、記憶がないのだ。
竜が現れ食われ死にそうになり、阿修羅に頼って気が付けば瑠瑠と呼ばれる仙人に尋問され、元首の城へと連れていかれた。
俺が特務警察になるというのは特例らしい。
そりゃ、こんな弱っちいのが元首直属の部隊に入れる訳がない。
「なるほど。私が見たのはその阿修羅という物なんですか。本で見たことはありますが、我々魔族でいう所の賢者みたいな物でしょうか」
魔族でいう賢者とは、俺たち人間でいう所の神様みたいな物らしい。
昔は非魔法学的な事象、現象を神の憤怒や涙と心情を吐露していたが、現代では法則が見つかり、大元に関わってきたのが四大賢者。
だが、阿修羅や鬼神どうこうに関しては―――
「俺も知らん」
隣の楽藍はやれやれ、と笑う。
「今の世界を創ったんだよ~。この世界、陸天世海は万混を除いて、全部融合させた物じゃん? 魔、人、妖、天、悪、とさ」
「陸天世海は確かに、今ある文化もそうですし有名ですね」
置いてけぼりな刀華は、茶を一杯啜る。
ずっと森にいたので、あまり世の中の常識といった事は知らない。
家族の妖魔は言語や狩りなど教えてくれたが、やっぱ知らない事は多い。
師匠にも多少、浮世離れしていると言われた。
「その時代に生きてないから分かんないけど~、鬼神は嫌われてるよ。なんでも破壊しちゃうんだってさ。とーかに訊きなよ。共鳴してるなら、精神とリンクしてるだろうし」
「寝る時、たまに会話するぐらいだぞ」
最近は将棋が少しづつ上手くなってきている。
琵琶鼓城にもそういった盤上遊戯があればいいが、今度見に行くか。
阿修羅とコミュニケーションしながら打てば、多分勝てる。
「何を話してるのですか?」
「世間話とか? 最近だと賞金首のオッドーに負けた時、俺が死ねば阿修羅も死ぬからさ、そこで超説教させられたり」
「……たいへんだね。とにかく、朝食も済ませたし宝食城に向かうよ。多分、承諾されるだろうし、よろしく」
「はい! ノエル・アスカーチェです、よろしくお願いします!」
硬く畏まった様にノエルは頭を下げる。
―――ノエルが仲間になった。




