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阿修羅天世(改稿中)  作者: 鈴政千離
第一章 アプルの村編
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第3話 妖気

 思っていたより俺は重傷でいた。

 動けない、体の殆どがダメになっているのだ。


 狩りをしたのはいいが、腕に魔獣の攻撃を受けた際にヒビが入っていたらしく無理に動かしたせいで骨折にまで至った。


 本来は半年程復帰にかかるらしいが、村人の術より完治した。

 何やら、成長を促進させる術らしく、俺の肉体そのものの自然治癒力を向上させてくれた。

 しかし負傷した事実は消えていないので痛みの部分は少し残っている。

 後は萌萌に見てもらおう。


 俺が育った森はもう住めないレベルまで灰となっており、アプルの村で家族を連れ生活する事となっていた。


 そしてもう一つ。

 俺は師の弟子の元、警備部隊と呼ばれる部署に入る事となった。

 これは、村への被害が考えられる対象に、事前に解決へ導く部署らしい。

 簡単に言うと、鎧人間の魔族の直接対峙、というか討伐。

 他にも妖魔や魔物が稀に村へ強襲してくるので、その阻止などなど。


 ―――今日も今日とて。


 下っ端ご飯係である俺は昨晩やった同じ手順で朝飯を作り始める。

 師とは同じ敷地内だが俺や勝意、萌萌の三人は一つの小屋で生活している。

 本来ご飯係りは俺と萌萌の二人なのだが、相方はまだ寝ているようだ。

 俺達の小屋は少し変わっている。

 勝意は慣れたと言ってたが、部屋の壁という壁中に仮面が飾られている。

 どれも独特なデザインで、萌萌が趣味で彫っているものらしい。

 

 案外、センス抜群だと思っている。

 夜寝る時に見ると、不気味に怖いが。

 にしても、この村は瓦が多い。

 師の家だけじゃないもんな。

 皿や包丁の持ち手、竹刀の持ち手までそうだ。


 包丁の捌き方は萌萌が教えてくれたので、大体できた。

 勝意と萌萌が昨晩狩ってきた魚を捌き、皿に並べる。

 味付けはよく分からんスパイシーな木の実汁。

 そんで師が好きだと言っていた漬物。

 これは普段から大量に作り置きされてあるので乗っけるだけ。

 ―――簡単。


 とりあえず、庭へ向かい米を焼く。

 手順は昨日と同じで、土を掘っては小粒の炭に燃えやすい綿、その上に大きな瓦を置き高さ調整。

 

 大体完了だろう。

 料理と聞けば少し怪しいと思ったが、意外にもやる事は簡単だ。

 焼米に漬物、魚に味噌汁、もう一品には木の実を添えている。

 アイグリーと呼ばれる木の実らしく、萌萌曰はく美容効果が期待される油が入っていると言う。


 かなり健康的な食事ではないだろうか。

 勝意は師を起こす係、萌萌は多分寝ているので昼か夕食は全部任せよう。


 そうして、師が起きては皆が庭へと集まる。

 基本、飯はここで食う事になっているらしい。

 何といっても、景色がいいしな。


 朝飯が終わり食器洗いが済んだ所で、早速剣術指導が始まった。

 扱うのは竹刀で、持ち手が瓦で出来ているので重い。


 莽薙勝意、桜木萌萌、この二人は村でも若くして武士と認められている。

 この村アプルにはそれぞれ生活を皆でする上で社会を形どっている小さな政治『部署』がある。

 武士というのは、警備隊部署の中でも更に戦闘特化した個人兵の事だ。

 それが勝意と萌萌の二人である。

 無論、トップは師匠こと心羅だ。

 その師の三人目の弟子という俺は他の警備隊の皆からも嫉妬されていると勝意が言っていた。

 弟子には成りたくても成れない、なんて人が多いらしい。


「水神流や断刀流と例外にも色々あるが、まず基本として剣術流派はこの世界に三つある。言ってみろ」


 心羅は竹刀を背に、勝意と萌萌二人に設問を飛ばす。


獅子十刀術ししじゅっとうじゅつ。基本的に速度に強く依存している。獲物を狩る攻撃に特化しすぎた流派。まず、一番の印象は使って分かるが速度だ」


 実戦より座学から入り、いよいよ剣術の本筋を知って行く。

 剣術は一つ極めるのも、かなり難易度が高い。

 大抵は自らの術を極め、剣術など二の次という人も少なくない。

 剣術は戦いの根源だ。

 知識としても武器になりうる。


 隣の萌萌が説明を始めた。


灼一臣流あらたかいっしんりゅうって呼ばれるブラフ、フェイント、カウンターみたいな反射に特化した剣術があるの。相手の攻撃が当たる0.001秒前に武具に妖気を展開させるのが特徴。体術でも感覚で扱うことができるし強い! あとカッコイイ! 昔の偉人が編み出した抜刀術だね」


 トリッキーな感じだろうか。

 どれも奥が深そうだな……。


「三つ目が……何だっけー? 長い名前の流派」


 と、萌萌はド忘れしたらしく、心羅が説明してくれる。


「名は出雲捌身流いずもはっしんりゅう。最初に生まれた流派で、難易度が高い」


「師匠は使えるのか?」


「無論だ。とまぁ剣術の名などどうでもいい、今から軽く試合をする。勝意と萌萌と順番に一対一で坊主としてもらう。手加減ぐらいは初心者にしてやれよ」


 早くない? 剣術教えるとか言いながら、無知のまま俺試合すんの? 

 ただのイジメじゃん……。


 勝意は竹刀を手に取り、様子見程度と言わんばかりにと俯瞰に構えた。

 流石に本物の刀は使わないらしく、かなりホッとした。


「妖刀は使わないでやっから、ほらマヌケ、来いよ。その自然に培った稚拙な狩猟剣術でよ」


 いちいち言葉に腹が立つ奴だなぁ……。

 そもそも狩猟の時は術を使ってるし。


「師匠、術はダメか?」


「当たり前だ」


 と、本当に竹刀だけで試合をするらしい。


「おりゃぁッ」


 そのまま一直線に竹刀を真横へ薙ぎ振るった。


「なんだ、それ? 挑発してんのか……?」


 俺の振るった刃に、勝意は左手で触れ停止させた。

 妖気だ、妖気を感じる……それを左手に纏わせている……?


「獅子十刀術」


 斬撃が一閃されたかと思えば、瞬間、淡い紫が爆発していた。

 それも束の間、俺の首筋へと勝意の竹刀が静かに当てられている。


 ―――まさに、電光石火の如く。


「はい、お前死んだ」


「……マジ、かよッ」


 なんだ……妖気? 

 それで、……なにがどうなった?


「師匠、こいつ剣術どうこうの話じゃない。妖気すら纏えていない、論外だ。猪狩りに転職させた方がいい」


 ……猪狩り。


「妖術を扱うのだから、できる物と思ってたが。そうか……、なら今日は妖気展開について教える。坊主、さっそくだが妖術は知ってるな?」


 勝意は眠そうに瓦椅子へと腰かけた。

 なんか、物凄い溜息が聞こえたな……。


「……術に妖気を通したやつだろ?」


「そうだ。なら、その妖気を術ではなく体外に出すよう意識投影してみろ。放出、想像イメージは呼吸と同感覚で酸素を吸い、はく、簡単だと思うができるな? 頼むぞ?」


 この人、たまに煽って来るんだよな……なんなんだ。


 呼吸……呼吸……、酸素を吸ってはく、


 ―――意識投影、


 ―――意識投影、―――意識投影、―――、意識投影……



 投影ってどういう意味……?


「できたか?」


「妖気展開……、投影……投影」


 何度も呼吸を意識し、感じる。


「へぇ、いっちょ前に集中できてんじゃねーの? なぁ萌萌」


「ん。まぁ、正しく箸を持つのと一緒で基礎なんだけどね」


 外野がうるさいが、とりあえず妖気の認識が終えた。

 それを体外へと出す、呼吸と同じ感覚―――。


「できた様だな。それが坊主の妖気だ」


 目を開けた時、俺の身体へと淡い紫が生まれていた。


「妖気の色は紫、魔力だと桃の色彩を示す。妖気を体外に出せれば後は簡単だ、妖気操作と言ってその名の通り身体やその一部に纏わせる。腕など一点集中すればその分威力精度が、全身に纏えば平均的に身体能力が向上する」


 俺は全身へと妖気を纏い、師を見る。


「それが妖気憑依、妖気展開とも呼ばれている。戦いにおいて基礎中の基礎、出来て当たり前だ。それを竹刀など武具に纏わす事で、質も上がる」


 勝意がやっていたのは、これだったのか……。


 でも俺の妖気は勝意と比較して、少し言葉の表現は掴めないが弱い。

 いや妖気量もそうなんだろうけど、質が低いという感覚がする。

 あの時感じた勝意の妖気は凄かった。


「剣術の基本は妖気展開をしている前提だ。後はそれをどこにどう纏うか、強度の調節、錬成……とまぁ一気に話しても頭に入らないだろうが、妖気展開は覚えたか? 感覚ごと」


「うっす」


 心羅が合図をし、勝意は竹刀を脚で回転させ再び構えた。


「絶景。妖気全開で来い三下」


 ほんと……俺より強いんだろうけどさ、後輩に優しくしろよ。

 いつか俺が抜かした時、同じセリフを一言一句吐いてやる。

 覚えたぞ、三下。


「「妖気展開……!!」」


 両者同時に唱え、淡い紫が纏われた。

 少年の、坊主の方は身体全土に対し勝意は竹刀にのみ凝縮された妖気が纏われている。


「―――ッ」


 すぐさま坊主へ接近し竹刀を震わせると同時、勝意の手元がぶれる。

 坊主の背中を強く一刀し、そのまま弾き飛ばした。

 反撃に備え、両手を地に立ち上がる。


「今のは相手の急所へと衝撃が向かう太刀。鎧をしている者にでも内部まで衝撃を走らせるが、斬撃による威力は脆い。でも、速度はぴかいちだ。理解できたか、マヌケ」


 と、ぐしゃぐしゃと俺の頭を撫でてくる。

 毛が跳ねるからやめて欲しい……。


「お前、幻妖の血が流れてんのか?」


 髪の赤いメッシュを摘まんでは勝意は尋ねる。

 人族は大抵黒髪が多いイメージ、どうなんだろうか。


 当の本人は気にしていない様子だ。

 二人のやり取りの中、心羅はどうしようかと首を傾ける。


「ステージを坊主に可能な限り近づける。術、剣術、妖気なしの二人で試合をしてみろ」


 その後試合をするも、やはり俺が負けた。

 膂力が、素の力が違う。

 まるでゴリラと戦ってるみたいな……。


 萌萌とも試合をした。

 妖気無し剣術なしでだ。

 それでも負けた。

 力は俺の方があったが、それを利用され一撃でみぞおちを刺突され泣かされた。


「剣術の前に膂力がとことん皆無だな。今から狩猟しに行くぞ、狙いは妖狼だ―――」


    §    §


 狼といってもただの狼じゃなく、察した通り妖だ。

 陰狼いんろうと呼ばれる群れで、基本は五人程のグループで行動している。

 はぐれる事は確認された事がないんだとか。

 今回はその五匹を狩る。

 陰狼は朝、昼に活発的で夜は見張りを立て寝る生活をしている。

 意外にも夜行性ではないのだ。

 夜行性の方が陰狼と対を成す、陽狼ようろうと呼ばれる妖。

 あいつらはグループも基本二匹だけ。


 と、まぁこの地域にそいつはいないので陰狼となった。

 難易度も陽狼と比べ低いそうで、とりあえず今日一日で妖気展開の習得に専念する。


「あそこだ。妖気を鋭く感知すれば、大体分かるだろ、マヌケ」


 分かんねぇよ、マヌケ。

 というか、いちいち頭を触らないで欲しい。


 勝意って……口悪いんだよなぁ。

 飯食った時、普通に美味いって返事くれるし挨拶返してくれるし、てか勝意からしてくるし意外と普通の奴かと思えばこれだよ。

 変な感情の視線だって感じる。


「なぁ。妖って術を持ってる奴とそうでない奴いるよな? あれってなんで? 俺らって生まれたら先天的に術が心臓と脳に刻まれてるだろ?」


 俺の言葉に、師が如実に説明する。


「まぁ強さだな。そこらの雑魚にだって術は刻まれているが、それを自覚する意志も力もない。対してそこそこの妖は、自分の世界を持っている」


「へー」


 妖魔は基本、動物を形どった物か表現の見当たらぬ姿をした化け物だ。

 だがレベルの高い超越した妖魔だと人の容姿をした者、鬼族が多い。

 有名どころを上げるなら荼枳尼やカワハギ、羅刹、酒吞童子などがそれにあたる。


 そう言った超越した妖魔を畏怖を込め、『物怪モノノケ』と呼ぶらしい。


「あの陰狼は雑魚だ。狩るぞマヌケ」


 勝意は早くしろと、俺の背中を押してくる。


「ちょい待ち。妖気展開さ、なんであの時竹刀にだけ集中させたんだ? 身体全土に纏わせた方が強くなってたぞ」


「そこはケースバイケースだ」


「なにそれ?」


「言ったろ、覚えろマヌケ。剣術は妖気展開をしている前提で繰り出す一種の術だ」


 やっぱ、コイツ苦手……。


「狩猟が土台だと坊主も得意だ。いけるか?」


「うぃ」


 俺は渡された刀へ妖気を繊細に纏わせる。紫の螺旋が募り、波動が伝わった。


「剣術、教えてくれるのか……?」


「帰ったらな。今は妖気を学べ」


 刀を構え、静かに一呼吸する。

 そのまま刃を陰狼一匹の首へと降ろした。

 首は刎ね即死、それに気づいた四匹の陰狼が警戒を始める。


 ……いける!!


「妖気展開」


「「「グルルウウウウッゥウゥ……!!」」」


 陰狼を視野に勝意は見下ろし、観察する。


「初心者が四匹片付けれんのか? こっちも一様、構えてるがッ」


「安心しろ。あいつは狩人、捕食者だ」


 心羅は少年に目を向ける。

 勝意と萌萌、三人とで静かに見守っていた。


「「「「ウウゥウゥウゥゥウゥッ!!!!」」」」


 一匹の陰狼が爪を振るうも、刀で受けきり膂力で後ろで弾いては蹴飛ばす。

 脚には妖気を纏わせ、明らかに威力が上がっていた。


 もっと妖気を高められる……!! 

 成長している、こんな戦い方が、妖気を纏わせるなんて概念があったとは。

 今まで術を使うでしか意味を見出せなかった。


「―――ふぅッ!!」


 刀に妖気展開し、もう一匹の陰狼の首を斬り落とす。

 更に一匹はうずくまっており、残りは二匹だ。


「いい反射神経、動体視力なこった。なんだ、あれ? 俺より図太いぞ」


「図太いじゃなく、鋭いね」


 勝意の素直な感想に、萌萌は笑う。


 残り二匹の陰狼相手に、名も無き少年は妖気を活用し首を斬り落とした。

 狩りが終わったのを見ては、陰狼を村へと持ち帰り食糧部署へと預ける。


 して、最初の心羅の家へと戻った。


「妖気は慣れたか?」


「まぁ……大体。好きな箇所に纏えるぐらいはできるけど、少ししんどい」


「妖気量の問題は成長と共に伸びるが、少し効率が悪いか。今日は妖気を纏わせるのが狙いだからな、その辺は萌萌の方が分かるだろう」


 萌萌は俺の横へとくる。


「妖気にはね、波長があるの。妖気を感じて、それを~広げる! 妖気はそこまで消費しなくていいから、ほらやってやって。感覚は教えてあげるから、これは出来て当たり前だよ~?」


 煽られながらも、俺は鍛錬していった。

 よくよく見ると、勝意は剣術と素の膂力が強く、萌萌は妖気量が桁外れだ。

 その日一日で妖気に関して学び、次の日から剣術の指南が入った。

 教えてくれるのは師だ。

 俺が選んだ獅子十刀術を極めろと一日中叩き込まれる羽目となる。

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