第27話 任務
任務の為、刀華と楽藍は宴屯へと到着する。
一様試験ではあるが、特務警察としての身分を象徴する制服が渡された。
ある程度の細かなデザインは変更できるらしい。
「ネクタイ邪魔だな」
「私も最初そうだったけど、御守りみたいな物だしね~。秩序部隊は命賭けだよ、特務警察は特に」
それから数分後―――、
「首切り殺人鬼オッドー。へぇ、本名は不明で童話がモチーフなのか。んで、身長は三メートル、図体デカめ。術は無機有機関係なく触れた物の腐敗……不変のウイルス……分かってる情報はこんくらいか。というか脱獄って、そうそう出来るもんじゃないだろ」
楽藍から渡されたオッドーの書類を刀華は目で読んでいた。
歳は四二、顔……というか、身体全域がとにかくデカい。
筋肉の塊だな。
目力が怖い……やだなー。
「もう殺したけど、人攫いのザナクや人形術師パぺルも脱獄してるんだよ。オッドーと時期も近い。なーんか、やな感じだよね」
過去の事件がいくつか抜き出し明記されてるが、惨たらしい。
首切り殺人鬼というより、快楽殺人鬼……どしがたい奴だな。
脱獄の経路は不明だ。
拘束法具として術や権能、妖気、魔力を封じ込める鎖や結界がある。
単独で不可能となれば、他の誰かが関与したのか?
何の為に? いや、流石に不可能か。
「―――んで」
「ふん?」
紅茶を飲み終え、刀華と顔を合わせる。
「なんで、特務試験だってのに琵琶鼓の護衛依頼受けて俺たち呑気にティータイムしてんだ?」
「オッドーは夜に現れるらしいし、探しようがないでしょ? 城和国に使えてる子の高位階の魔術でも見つけれないんだから。探す分には、お手上げ~」
刀華と楽藍が受けた依頼は船の護衛。
海運だと、資源物資を狙った海賊が有象無象にいる。
既に船に潜り込んでいる者もいれば、大砲で船を沈めようと、単純な嫌がらせも多々にある。
民間人も多少は乗っているが、荷物が大半だ。
護衛には刀華や楽藍以外にも多くの琵琶鼓人が雇われている。
「楽藍は海賊と対峙したことあるのか?」
「あるよ~。あんなの、そこらのチンピラと変わんないよ。それが陸にいるか海にいるかの違いね。初見の大砲はビビるけど」
「大砲とかあるのかよ。海賊船とか、見たことない」
今回の依頼が済み、オッドーを殺せば特務警察第六部隊へ正式に入る事となる。
面子の一人は一緒に琵琶鼓人をしようと誘ったノエルに声をかけるつもりだ。
三人で、一様は組織が揃う事になる。
野伏遺跡以来、一度も会えていない。
琵琶鼓城にでもいけば、その内会えると思っているので機会は多いだろう。
琵琶鼓城は国内において籠雲逢簑、北の三奥洲、北西にある一望泉野のそれぞれの行政区に設立されている。
籠雲逢簑以外、行ったことは無いがどれも依頼内容が異なっている。
安定した拠点を手に入れて趣味として琵琶鼓人、可能なら賞金稼ぎの称号を狙いつつ、本業を特務警察として働くのが今の所の予定。
そして、魔王ギリウスとオルゴーラの情報集めだ。
詳しい箇所は書庫でも巡るか。
「海賊なんて私がいればいちころよ! ま~初心者なとーかは見てなって」
「……おい。俺も戦えるぞ」
海賊、あとはオッドー。
どれくらいの強さか、今の自分がどこまで走れるのか試したい好奇心がある。
「夜ぐらいに船は到着するし、それまで待機だね~。一様、船大きいし不審な点がないか探すけど」
あくまで護衛。何もしないだけで依頼完了なんて事もありえる話だ。
楽そうに見えるが、この依頼は楽藍がいなければ受理されなかった。
難易度もそこそこに高い。
一定の札色がなければ受理されない、あぁ……マジで早く昇給したい。
というか真面目にやれば楽藍ならとっくに紫までいくだろうに。
本当に趣味らしい……。
「この船ってどこに向かってんだ?」
刀華の質問に、ぐでぇ~とした表情をする楽藍。
「依頼内容ちゃんと読んだ? 向かう先は万雷国家だよ」
「……どこ?」
「そういう名前の国。城和国と仲良しなんだってさ、その貿易船だよこれは」
「ほえー」
そりぁ、賊も出てくるだろう。
資源の塊が移動してるもんだし。
「天颯遊真って知らない? 十二天衆のさ」
「知らない」
一瞬、げ? と笑みする楽藍。
思い返せば、とーかはアプルと呼ばれる村から城和国へ来たばかり。
多少の浮世離れも頷けてくる。
「天颯遊真は今向かっている万雷国家の元首だよ~。うちの元首が最下位魔王とか最弱魔王ってあだ名つけてる」
やめたれ。
「序列って、そんなに大事なのか?」
「今は魔王一個人の強さが物差しになってるからね~。言葉だけ聞くと凄そうだけど魔王って世界の元首みたいなもんだから。国か世界かの違いよ」
だいぶ規模が違くないかと思うが……。
確か出雲もそのような事を言っていた。
「貿易船にさ、特務警察とか乗ってないのか? 海賊つっても、何があるか分かんないし」
「だから私達がいるじゃん! 一様、特務警察だよ」
「俺達は試験だろ。楽藍は第一部隊だし、いいんだろうけど。はぁ……精々、俺は足を引っ張らない様にしとくよ」
船がぐっと揺れ、外を見れば大海が荒れている。
渦……敵意はないけど妖魔が見えるな。
よく見れば魔物や妖魔がうじゃうじゃいる。
船を襲ってこないのは結界か何かだろうか。
「瑠瑠が言ってたけど、とーかは幻妖族なの? めっちゃ人間ぽいけど」
外を眺めていれば、そんな事を言い出す。
幻妖族……。
「正直よく分かってない。出雲にも同じような事言われた」
「あーなんか言ってたね。城和国まで送ってもらったって。凄い偶然……」
「逆にあそこで拾ってもらえなかったら、今頃まだ城和国に向ってる」
ぺしっ、と刀華の額へ楽藍は手を当てる。
「なんだ」
「角無いね。瑠瑠は龍と人の子じゃないかって言ってたから。血が入ってるだけで、薄いのかな」
「さぁ、マジで詳しくないぞ」
「角生えてきたら触らせてね」
「いや、生えねえよ」
§ §
城和国の森群緑府、その書庫へ一人の鬼人は歩いていた。
呑気に読書していたラウラにジンは拳を降ろし、向かい席へと座る。
凛とした姿勢なまま、ラウラは読書に気を取られる。
その分厚い本を取り上げ、ジンはソファーへ投げ飛ばした。
「知ってッと思うが、殺られたぞオレ様の召喚魔獣」
誰に殺られたかは不明。
竜が死んだのは石が割れて直ぐに分かった。
予想外も良いところだ。あの紅眼人間が殺した……。
それは、ありえない。
相変わらずラウラは動揺する事なく、背伸びをしている。
「超級、幻氷竜バラディグパラス。そこらの超級と一線を画する魔物だ。オレでも少し手を焼く、それがあの程度の人間に負けると思うか?」
召喚石には限りがある。
趣味で召喚石を集めているコレクターも多い。
高価で売買したが、ここで終わってしまった……。
勿体ない感が否めない。
「他の秩序部隊が緊急要請したんじゃない? それこそ、仙人が葬っても不思議じゃない。雑に調べたけど、特務警察第一部隊は野伏遺跡に向ったと報告があった。可能性は十二分。標的を殺せなかったのなら、それでいい」
「標的以外には危害を加えねェ。殺せるはずだ」
「じゃぁ知らない。どっちみち、もう一つの案がある。それがダメなら次のプラン、それもダメなら、次の策で遂行する」
「―――ンで、どうすんだ? 四の五の言わねェで、早く殺すぞ。こっちはラハードの分まで、ぶん殴りてェんだよ」
たかだか、―――そう、たかだか刀一本を奪取するのに、雑魚を殺すのに何故ここまで回りくどい事をしなければいけないのか、ジンは苛立ちを覚える。
一周回り呆れてもいた。
「一様、考えてるよ。被害最小限に」
「被害最小限……。そのゴミウゼェ命令、撤廃できねぇのか」
「第二魔王に喧嘩売れるなら、いいんじゃない。巻き込まないでね」
「……ウザ。んで、案ってのは何だ? もう出来てんのかァ?」
「骨組みはね……。色々、ここで調べてたから」
―――城和国。
政治体制は強固に、この国は『秩序』を象徴している。
でもそれは、二句に過ぎない。
幽霊列車、首切り殺人鬼、臓器売人、人食い、テロ、宗派相違、外部を上げるなら万屋、暗殺結社に海賊、空賊の賊匪、ギャング当色々ある。
「なァんだよ。その内、この国終わンだろ。ダッセぇ」
「だから、それを凌駕する部隊が仕えている。でも、全てに手が回る訳ではないしね。莽薙刀華一人を殺すには十二分過ぎる要素。無常の平和は城和国を国とし描く為の自然と築き上げられた現象だ、城和国にとっての敵も多い」
「莽薙……? 誰だそいつ、強ェのか?」
「アンタの言ってた紅眼人間の名前。魔王様の探している妖刀の所有者」
「莽薙刀華……。オレがそいつを殺せば、鬼神も死ンだろ? じゃァ、殺せなくね?」
「中にいる鬼神は死ぬけど、共鳴してるなら術は刀に残る。アンタ学ないのね」
刀に術が残る事で呪となり、受け継がれる。
全てではないが今ある呪装具の呪も、共鳴からきた物も少なくはない。
「よー分かんねェけど、ぶち殺していいって事だよなァ?」
「そういう事。何度も諄い設問答える気ないし、アンタも覚える気無さそうだから、被害最小限を気にかけ、莽薙刀華を殺して。以上」




