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阿修羅天世(改稿中)  作者: 鈴政千離
第二章 城和国編
24/44

第24話 鬼

 努力不足……だったとは思わない。

 俺はそれ相応に努力の代償を支払い、強くなれた。

 あの竜、強すぎる……。

 今までの俺の努力は何だったんだ。


 一瞬だった。

 気づけば食われていた。

 抗う事すら許されなかった。


 骨が砕かれ、胃袋には臓器が繋がれ大量出血をしている。

 空間から摂儺を取り出し、中から攻撃するがビクともしない。

 鱗だ。もう一本の妖刀は外に弾かれている……術を使ったとしても……。


(死んだな)


 ……阿修羅か。

 今頃、なんだよ。


(主が死ねば余も死ぬ。共鳴の意味を忘れたか、命を粗末にするとは。無責任な)


 どうすれば良かった……?

 これじゃ、先に行ったアプルの皆が報われない……。


 咄嗟に涙を流す刀華に、阿修羅は無邪気に笑う。


(主、助かる方法があるだろう! 余に代われ、余に代われば主の体の蘇生も直ぐだ直ぐ)


 ここで、死んだら今までの俺の意味がない。

 ギリウスもジンも殺せていない。


「……怖い」


 死ぬのが怖い。村の皆の仇討ちもできなかった。

 悲しい、一人で死ぬのも冷たくて……深く悲しい。


(なぜ、余を頼らない? 久々に外に出れる機会! 早く早く!)






 ―――潮時か? 


「……しんどい」


 ―――助かる方法は、確かに阿修羅コイツしかいない。

 蘇生なんてこの場を切り抜けるピンポイントな術なんだ、縋りたくもなる。

 でも、その後の俺がどうなるかが不安でしかない。


 ―――俺は勝てないが、阿修羅とあの竜をぶつければいい。

 鬼神なんて言われ、生前倒せず封印という形になった。

 期待ぐらいはしてもいいだろう。


「なぁ、阿修羅。俺は戻ってこれるのか?」


(共鳴という形で落ちたのだしな。主、妖刀を心臓へと刺せ。それがトリガーだ)


    §    §


 ―――吹雪。


 無数の氷刃が舞う中、輝く大翼の幻竜。

 その腹から溢れ出すのは大量の熱気、竜は違和感を感じうろたえ始める。

 血に染まった二本の腕、金色の紋様。


「あぁぁ……。おいおい、八〇〇〇年振りだ。流石に興奮するぞ」


 胃袋を破り、竜から大量の血が流れる。


 ノエルは信じられない、と眼を開かせた。

 刀華の容姿は先程と違い変貌している。

 眼は金色に、額からは二本の角が生えている。

 鬼の角だ。

 竜には先程の様に鱗が険しく纏われる。

 破壊された腹には、鱗が覆い治癒を始めていた。

 魔力を最大限に高め、極大魔法陣が完成される。


 天災と言うべき吹雪が舞い、世界が凍える。


「開率―――〝獄界凍土ラグナ・グラキエル〟」


 生まれたのは、この場一帯を覆いつくす氷山。 

 真下から真上から、阿修羅一人に対し過剰ともいうべき質と量で遺跡ごと瓦解させようと放った。


「……あぁ、そーか」


 雑に刺された心臓から摂儺を抜刀し、落下する巨大な山を両断する。

 両断したと同時に内部の氷エネルギーが破裂し、周囲が霞んだ。

 靄がかかり、竜の顎が阿修羅を食らおうと再び口を開く。

 牙は鋭利な氷刃と化し、長い首が軟体な鱗と共に激突する。


「―――あったな、そういうの」


 片腕で顎を強引に上げ、破壊された牙や鱗が雨粒の様に次々と剥がれ落ちる。


「開率」


 氷山一帯が解け、阿修羅は唱える。


「〝陽〟」


 場所は洞窟―――だと言うのに、蒼天が現れ幻竜へと光が照らされた。

 広範囲に照射する〝陽〟の光に触れ淡く消滅する。

 存在が木端微塵に破壊され凍えた世界が刹那に灰燼となる。


 肉片も残らず、燃えカスの様な灰。

 竜だった原型も何もない、魔法が全て幻想的に消えてゆく。


「一分も掛からずか。鈍った体も、そのまま。気分は爽快、愉快」


 呆気ない、の一言に尽きた。

 久々の現世―――。

 抑えたとはいえ何かを壊す快楽は阿修羅にとって生きる意味全てだ。

 生の刺激に、心が体が、魂が、生まれた幸福に通ずる『人生』が躍動してしまう……! 

 押さえきれず、心臓が破けそうな程に!


「あ、あの……」


 刀華、と思いノエルは話しかけた。


「聞いていたぞ、魔術の天才児だ。余に才能はないからな、大したものだ」


「どういう……。それより怪我」


「完治している。敵は、もういないのか? 」


 ノエルの方へ闊歩した時、その真下から巨大な腕が現れた。

 ただの腕ではない。骨、人骨だろう。

 脆そうに見えて触れて直ぐに理解する。

 あり得ぬ程の頑丈さだ。

 破壊はできるが、生半可な攻撃では傷もつかぬだろう。

 巨大な骨腕が阿修羅の身を包み、瞬きをすれば人影が視界へ映った。


「〝大切断・無弦〟……!!」


 人影から十字の巨大な斬撃が刻まれる。

 間合いへ踏めば阿修羅の首へ妖刀が一閃、今まさに斬首しようと―――。


 拘束した巨大な骨腕を直接触れ内部から破壊。

 人影の手元を蹴とばし、軌道をずらしては妖刀を腕で防ぐ。

 妖気展開から身体強度を底上げさせた。


「緊急と訊いたが、鬼神が現れるのは予想外だ」


 一閃を防いだ阿修羅の腕は豆腐の様に切断された。

 反撃とし怠く腕を振れば、骨腕が現れ壁へと激突させられる。


 何が起こっているのか、ノエルはただ傍観するしかできなかった。


「痛ぃ」


 防いだというのに、斬られてしまった。

 術……というより、まじないの方か。

 ふむ。いい刀だな。


 腕を蘇生し、大きく背伸びをした所で阿修羅は不意に笑ってしまう。

 名も知らぬ目前の人間、いきなりの攻撃だ。

 先と違い戦いになりそうだ。味がある。


 阿修羅の前に現れたのは、仙人の瑠瑠。

 特務警察第一部隊とし、遺跡に超級の魔物が現れたと報告を受けた。


「ふぅぅうう~」


 彼女、阿修羅の人生の意識・快感は『破壊』と『舞』。

 封印の中、何度も孤独に舞をし過去の文化へ没頭した。

 そして壊滅。何かを壊す、滅ぼす、戦うという過程に酷く喜びを覚える。


 そんな彼女が莽薙刀華の体を代り、現世うつしよへ再臨する―――。


 声にもならず現状把握が儘ならぬまま、ノエルは安全第一に身を構える。

 瞬きは一瞬だった。

 その一瞬に瑠瑠は阿修羅の死角へ移動し、妖刀で心臓を狙う。

 幾つか火花が散った刹那、炎渦が生まれ爆発が起きる。 


 負傷したのは瑠瑠の方だった。

 肌が焼き切れ、右腕から肩まで登り破壊される。

 咄嗟に妖刀を落とさぬよう、器用に脚で蹴り左腕で再び居合を構える。

 破壊されたと言うのに、冷静に淡々と肉薄する。


 ―――目線を添えた時、瑠瑠の腹へ手が当てられた。

 手の真空へ赤のオーラを纏った発勁はっけいから、瑠瑠を壁へと激突させる。

 剣呑を宿した瑠瑠の視線。

 手応えを感じた阿修羅はピースし無邪気に笑みする。


 焼き焦げ破壊された瑠瑠の右腕は既に完治され、先程と変わらぬ形で妖刀を構えた。

 仙人を仙人とたらしめる根源『賢者の石』は、不老不死。

 身体的損傷に不死が働き、嫌でも治る、治ってしまう。


「丈夫だな、手応えは相応だが。知ってるか? この世界には妖気と魔力二つが存在している。両者は衝突しあえば小さな反発を生む。後は妖気や魔力展開の応用、こういった小さな反発エネルギーを増幅し身体に付与できる」


 阿修羅の身体に纏われたのは淡く幻想的な赤いオーラ。

 妖気と魔力、相反する両者を強引に相乗させた反撥物だ。


流撥りゅうはつといってな。妖気や魔力の丁度倍のエネルギーを保持している」


 流撥は術に通す事はできないが、妖気や魔力同様に身体へ展開する事で無類の身体強化が行われる。身体強化という点では上位互換と言った所だ。


「それは余りに非効率だろう」


 言葉を溢し、小さな予備動作から瑠瑠は接近する。

 狙いは首、そして心臓から臓器にかけての全破壊。

 

 唱えられた瑠瑠の術に、大地より巨大な骨腕。

 それが阿修羅を砕こうと無数に顕現し、また自らの剣術を場に宿す。

 摂儺を振るうと共に、武術を交え阿修羅は対応する。


 万画一臣を拾い、幻術を開けば電撃が走り拒絶される。

 同時に瑠瑠の兵刃が胸下へ潜っていた。

 巨大な傷痕が生まれ、真下の大地へと叩きつけられる。


「〝炎熱地獄ファルガム〟」 


 追撃を許さぬよう、治癒しつつ炎陣を描き阿修羅は体勢を取り戻す。

 意外だ。妖刀に拒絶された。

 莽薙刀華と余の魂は共鳴で同じだと言うのに、拒まれた……。


 おかしい。

 どうやら、まだ分からん事だらけだが普通の共鳴はしていない様だ。


「―――こころの目」


 瑠瑠が目を閉じれば、超広範囲の力の流れを知覚する。

 仙術の一つ。

 万物の力の流れを知る目である。

 全ての視覚を手に入れ、確定された未来へ歩める目。


 阿修羅が摂儺を構えた時、瑠瑠が接近し抜刀から周囲が暴発する。


 剣術に関しては、あまり触れた事がない。

 鬼神、戦神、風神、豊穣大母、など時代が進むにつれ色々呼ばれていた。

 その中でも阿修羅は、独自の術理から磨き上げた武術の達人『武神』とまで称えられている。


「―――ッ」


 腕を振り上げたと同時、巨大な背骨が地から現れる。

 続いて肋骨が牙の様に次々と阿修羅を囲み始め、何かの結界を構築しようと察し流撥展開から骨を次々と砕き瑠瑠の剣術を摂儺と武術を組み合わせ全て捌ききる。


 瑠瑠の所有する妖刀に、阿修羅は見覚えがあった。


 『妖刀』八咫烏一文字やたがらすいちもんじ

 防御や障害、防ぐ事象や因果を無視し、刃を一方通行させるまじない


 この妖刀の攻撃は全て避ける以外の選択肢がない。

 盾や腕で防御しようが、流撥でも、硬度や次元まで背理し斬られる。

 捌くというのも、刀身を抑え小さな反撃を繰り替えすのみ。

 正直、やりずらい。だからこそ、楽しい!


「―――ッ!!」


 瑠瑠を地へと蹴飛ばすが、そのまま回転し同じように阿修羅を地へ蹴飛ばす。

 それを防いだ阿修羅の腕は、瞬時に妖刀より切断され飛翔の斬撃が首を掠った。

 今ので首を持っていく予定だったが、瑠瑠の目に小さな動揺が走る。

 互いが間合いに攻め合い、阿修羅の両足を小さな子供の手骨で拘束させる。

 そのまま八咫烏を真横へ傾けた。

 一秒未満の拘束だが、瑠瑠にとっては十二分な役割をしてくれている。


「お主。先祖に妖族の血でもいるのか? 召喚系統……一種の共鳴か。稀有な術だな」


 膨大な妖気展開が瑠瑠の刀へ跳躍される。

 それはノエルや、阿修羅でさえ注目した。

 量より純粋な質だ。半分人間を止めている―――と、阿修羅は鼻で笑う。


「幻術、〝無弦斬むげんざん〟」


 銀閃を走る妖刀が再生したばかりの阿修羅の腕を両断し、同時に妖気の衝撃波から背骨へと押し当てられ大量の血を溢す。

 血を吐く欠損部位を治癒し、無邪気に笑う。

 ふと目を向ければ土煙から小さな光が見える。

 察した途端、首を傾けそこへ妖刀が投擲された。

 脳天を射貫く気満々に、大骨へ刺さった妖刀を瑠瑠は掴み阿修羅の首を刎ねさせようと真横へ斬り流す。


 壁に扱う大骨は不気味な音を立て、対する阿修羅は身を下げ間一髪で刃を避ける。

 だが、今いる場は瑠瑠が召喚させた大骨で覆われている。

 瑠瑠が指を振れば骨壁から阿修羅の背中へ向け無数の鋭利な骨が身体を射貫く。

 その時、阿修羅の意識は少し薄くなっていた。

 直ぐに損傷部位を治癒し、瑠瑠の抜刀する妖刀を鍔まで手掌で掴む。

 無論貫通するが、防御を無視する効果範囲は射程が生まれる斬撃を省き手元へ依存する。

 痛みを無視さえすれば、どうとない。


 だが臆せず、瑠瑠は。


「深淵かぃ―――」

 

 一撃で決めようと瑠瑠が唱える時、阿修羅の角が消えてゆく。

 隙が見え、逃さず阿修羅の心臓を射貫き、首を狙った一閃にふと刃を停止させた。

 角もなくなり、一人の気を失った少年が現れたのだ。

 ただそれだけでは、関係なく殺していた。

 彼女が刃を止めた一番の理由は、見覚えのある形をした耳飾り。

 少し前に城和国へ来ていた仙人の出雲が装していた物だ。

 意識しなければ見えなかったが、この龍は一度仙人と会っておいて生き残っている。


 何かしらの理由があると感じ、事情を知るためにも刃を止めた。

 だが、鬼神が数千年の時を経てここへ現れたのは無視もできない。


「おい、お前」


 ぐったりと倒れる刀華をビンタするが、反応はなし。

 そのまま抱え、胸に耳を当てる。

 射貫いた心臓は音を成しており、正常であった。


 その時、コトン―――と摂儺が瑠瑠の背中前へと落下した。

 艶のある長髪を分け、真上から直線状へ突き刺されたのだ。

 いつの間にか、もしかすれば上から下まで頭一直線へ斬られていた。

 先程の鬼神の嫌がらせだろう。

 瑠瑠は呆れつつ少年を抱える。

 まずは野伏遺跡を抜け、元首へと判断を渡す。

 瑠瑠は刀華を肩にのっけては立ち去る。

 ノエルは何が何だか理解不能なまま、後に残されたのだった。

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