第23話 轟く竜鳴
刀華の横を歩くフードを被った少女、名はノエル・アスカーチェ(224歳)。
両手で魔杖を抱きかかえている。
歳についてだが、クラゲの様にある程度成長すると細胞組織が若返り、それらをループする。人間種と比べ魔族には長命種が多い。
「へぇ。ノエルはハーフなのか」
どこか親近感が湧く。
互いに軽く自己紹介を終え、扉先を進んでいた。
眼は張っているが、今の所お宝は見つかっていない。
「そうです。超希少種のハーフなので、貴方は幸運です!!」
魔族、と一括りせず具体化すれば数は無数に存在している。
彼女は上位種の竜種と人族とのハーフ。
竜人という希少種族に枠組されるそうだ。
特有の角が片方しか生えていないのも納得。
外見的要素では母の血が濃く青髪や澄んだ碧眼をしている。
内面的な遺伝要素としては、魔術の才能。
第六位階まで上り詰め、中でも魔眼が得意分野。
琵琶鼓人の札色は刀華と同じく黒札であり、金銭的理由から野伏遺跡の調査へ当たっていた。
後ろから来た琵琶鼓人の皆も一番目立つ扉へと進む。
しかし、その先でも道が枝分かれされている。
当然、殆ど皆が宝目当て。
なるべく人が通っていない地にそれぞれ足を運びだす。
遺跡調査の目的は魔物駆除、報酬は少しベガが貰える程度で未開の地の報告など、面倒な要素も多い。本命の報酬は宝とすれば、納得もいくか……。
超レアな、それこそ妖刀が見つけたりなんて可能性もゼロではない。
冒険者になった気分だ。
「にしても、ここ……」
「廃墟……? 見たいですね」
扉の先にいくつも枝分かれされた世界、だが恐らく今いる場は歴史的建造物の中だ。特に呪道具や魔道具が発動し、強制転移させられた訳でも無い。
強制転移事件は楽藍が言ってたが、稀にあるらしい。
バグか不運だと思った方がいいらしい。
運が良ければ宝一直線に、悪ければ死亡もある。
全然笑えねぇ……。
「古代遺跡。お宝があるといいのですが……先に見つけた者勝ちです」
「はいよ」
不気味ってのもある、けどワクワクもある。
ここは地下国? 昔の城らしき建造物がある。
まだこの国の歴史については浅いし、ノエルも俺と同じで城和国に来たばかり。
「なぁ、ノエル」
「なんですか、刀華君」
足場の悪い螺旋階段を下りつつ、木霊する声を抑え、
「俺の仲間にならないか?」
遺跡調査、刀華本来の目的は仲間探し。
長居してくれる様な仲間をパーティーに、高難易度の依頼を引き受ける事だ。
たかだか黒札二人が申請し受理される難易度など知れているが、次第に札色が上がればソロで行くより、一つ上の高難易度を受けれる。
その分、折半される、だとしても一人が得られる報酬は高い。
「……いきなり、告白……ですか?」
ノエルは『仲間』という言葉の解釈を、冗談めかし呟いた。
「いや、仲間だ。友達っつう見たいな。ペアで琵琶鼓人をすれば、高難易度の依頼も受理される。折半でも報酬はボッチでするより価値が高い」
「友達……。別にいいですけど、私も稼げる職は探していますし」
「宮廷魔法師? とかに勤めていて、なんで城和国に? そっちの方が稼げてたりしないのか?」
宮廷というからに王の側近護衛だろう。
見た所歳は俺と変わらないぐらい、けど魔族なら歳という概念思考は捨てた方がいいな。
そもそも、人間とで世界観も大きく違っているだろう。
「何と言いますか、他の世界も見て見たいな、なんてふと思ったりしたんです。私は寿命も長いですし、爵位を捨て魔法も魔術も好きな事を極めて、賢者の仲間入りでもできたらなと小さな夢もあったりとか。流石に、稼いだ貯金も無限ではないですし」
「賢者ねえ。そんな詳しくないんだよな」
「人族、幻妖族、皆がそう言うんですよ。魔族からすれば、神様的な存在で知らない人など会ったことも無いのですが」
賢者……。阿修羅もそんな事言ってたっけか?
仙人とか魔王とか、賢者とか鬼神とか、偉人だか邪神だか、色々な歴史上人物が多い。
「賢者になるのが夢?」
螺旋階段を下り負え、無数の樹木が、苔の生えた昔の城内と思わしき中を歩く。
巨人を思わす鎧の兵隊がいくつも列挙され、川が流れていた。
太陽の光源らしき物は古代魔道具だろう。
「そうです。現代は二人程しかいませんが、その偉大な功績から過去の偉人も含め四大賢者と呼ばれてるのです。貴方も知ってるはずですよ? 一人は十二天衆にも在席していますし」
「魔王で賢者……か。なんか、俺もそんな称号が欲しいもんだな。かっこいいし」
「努力していれば、いつか叶うかもしれませんね」
ノエルは笑顔でそう言う。
魔術について、少し勉強したつもりなんだが意味不明だ。
俺には魔力はない。
けど敵が魔族の場合、知識を持っているだけでも勝利の幅は雲泥に変わって来る。
権能は術と同じで千差万別、だが魔術に関しては数が決まっている。
第一から第七位階、中でも才能のある者のみがより上位の位階を物にできる。
人間の寿命換算で、大体死ぬ一歩手前まで一般人が学んで第二位階まで扱えると言う。
これは魔王であっても例外ではない。
才能があればノエルの様に第六位階まで扱えるだろう。
チンピラ相手に俺も負傷した腕を直してもらった。
才能があり、傲慢にならず努力をしている。そりゃ、凄い訳だ。
「敵はあまりいなさそうですね」
「当たりでも引いたか。つーか、寒いな」
小さな霧まで出てきて、辺りも見えにくい。
「……、そういえば確かに寒いですね。ここに来て急にですか、魔眼で見ても特に変な物は無さそうですが……」
……靄? 霧だが、周囲が凍結されている。
「《核完全感知》」
ノエルは魔術を唱えた。
刀華視点、正直何をやっているか意味不明だ。
しかし、杖の方には知識がある。
魔法や魔術を唱える際、権能との相性判断もあるが大抵は精度が少し上昇する。
「なにそれ?」
「ただの結界魔術です。こうやって結界を張れば、領域内で私達以外の存在を知らせてくれます」
§ §
琵琶鼓人であるチンピラ巨男、戴堂。
二〇人程の子分を引き連れ、刀華とノエルにボコられたのを後に遺跡を探索していた。
無論、宝目当てだ。
皆がなるべくいない地を探し、目の前の扉ではなく更に地下へと続く狭い通路を通っていた。
かなりぎゅうぎゅう詰めな状態だ。
「俺様の勘がよぉお。こういう、煩わしいとこに宝が眠ってんだよなぁぁ……!!」
「「「流石です!! 親分!!」」」
結果、宝は無かった。
―――のだが、代わりに物凄くヤバい魔物を見かけたのだ。
多少の骸骨は直ぐに倒せた。
レベルであっても、そこまで高くはない。
けど、目の前の魔物は命がいくつあっても足りないだろう。
抑えている様だが、膨大な魔力が凝縮されているのが分かる。
一瞬脳裏を過ったのは、十二天衆。
ひょっとすれば、魔王じゃないのか?
そう思えても不思議でない程の実力を感じる。
元海賊の戴堂の直感は外れてはいなかった……戦ってはいけない相手だと。
牙、巨大な牙だ。
四つの幻想的な大翼に刺々しい青の鱗、鋭利な瞳に一番目立つのは二本の魔角。
見間違うはずもなく、上位種の魔物、竜種。
「……上、か」
低く鈍い声を放ち、天井を諸ともせず魔物は突き抜けて行った。
同時に辺りが震撼し真上から瓦礫が大量に落下してくる。
あの魔物が守っていたとすれば、どれ程凄い宝があるのかと期待するが、戻ってこればこちらの命はない。
優先順位は明確だ。
「お、親分!!」
一人の子分が体中を震え上がらせ、戴堂の背中へとくっつく。
だが、当の本人、戴堂であっても生きた心地がしなかった。
「あれは……死ぬ。もう死んでもおかしくなかった……」
広場に出たと思えば、そこに一匹の魔物。
巨大な竜種だ、存在感が違っていた。
向こうは気づいているか分からないが、確かな恐怖を全身に植え付けられた……。
超級レベルの魔物と遭遇した際には、特務警察か陸武将が出向いてくれる。
むしろ、大きな被害が出ない内に報告をしないといけない。
戴堂は子分皆を連れ、野伏遺跡から一目散に琵琶鼓城へ向かった。
知らせた内容は先程見た魔物だ。
竜種、それを伝え琵琶鼓城は国に国家機関の特務警察を申請した。
超級は野生でそう何匹もいる事はない。
むしろ、今回がレアなぐらいだ。
あの竜種さえ追いやってくれれば宝探しに没頭できる。
子分もいる、少なくとも一つは見つかると戴堂は期待を抱くのだった。
§ §
ノエルの結界魔術から数分が経過する。
そのまま術を重ねて描き、強化魔術《加速歯車》を発動させた。
現在展開している結界構築を加速させる物だ。
範囲を広大に設定すればする程、領域の定着に時間を費やす。
万一の不意打ち対策から念押しに《神に居場所を否定され》を唱える。
これよりノエルと刀華二人が不可視化するだけでなく、自らが魔力、妖気を使用しない限りコチラの存在に敵は気づくことが無い。
―――が、一度発動させれば半日は扱えないのがネック。
先に発動させた二つの魔術でさえも、声や物音にだって不可視化される。
この魔術を扱える者がどれ程少ないか。
無論、刀華はその価値を知らない。
「今の所何も……やはり、何かの魔道具らしき―――」
未開の地とは言え警戒しすぎかと気を許せば、突如結界に反応が見られた。
だが、余りにも敵の速度が速く、気づく認識が遅れてしまう。
「真下です。敵です!! もう来ます……!!」
身構えた二人、真下に地割れが起こり巨大な影が刹那に映る。
二本の角が生えていた。鱗が軟体鎧の様に纏われている。
同時に模様が、黒紋が張り巡らされていた。
目前の敵は見るからに竜種。
標的を見据え、一直線にコチラへと襲撃をしてきた。
しかし、姿は見えないはず。
勘かよ。
「―――開率」
二人の真上から声が響き、辺り一面が結晶化されてゆく。
姿は見えない、ならば無秩序に魔法を四散させようと、竜は腕を振った。
「〝獄界凍土〟」
唱えられた魔法から結界が生まれる。
巨大な氷柱を幾層にも顕現させ、真上からは氷山が落下。
顎へ閉じ込めた様な魔法だ。
こちらが術を使っても、これは……無傷で済むわけがない。
範囲も広すぎる。何もかも滅茶苦茶すぎる。
「逃げ場無しだろ。こっちが、やられる!!」
刀華は身構え術を使おうとするが、それをノエルが止めに入り、ひたすらに逃げる判断をする。
「超級!! あれは、やばいです」
「確かに強そうだがっ。というか超級って何!?」
「妖魔でいう物怪、魔物では超級と呼ばれてるんです。一級の等級を超えた規格外の化物って事です!! でも、相手はそんなレベルじゃないですよ……!! 見て分からないんですか!? 超級の中でもあれは別格です。死にたくないなら、早く逃げますよ!!!!」
逃げる、ノエルの判断は正しいが現実的にそれは不可能だ。
無限に近い氷柱が二人を挟み込み、喰らうかの様に牙氷が顕現し始める。
それを判断し、もう一つの小さな可能性へとノエルは瞬時に判断を寄せた。
「私達が魔力や妖気を使えば、姿がバレます。その瞬間に敵はくるでしょう。一瞬だけなら、結界魔術で攻撃を緩和できるので、その時に全力の術でぶっ飛ばしてください。倒す必要はありません、一瞬でも多くの距離を稼げれば大丈夫です!」
「うし!! 任せやがれッ」
描いた魔術は《逆鱗纏守》。
魔物相手にしか効果がなく、二四時間のクールダウンが付きまとうが、一度だけ相手の攻撃をほぼゼロにまで緩和させる。
特に竜種には強い特効性がある魔術だ。
魔力や妖気に反応し、敵は氷山を破壊。
一秒未満に刀華の額先まで接近していた。
目線が合い、心臓を撫でられた気持ちの悪い恐怖が生まれてくる。
相手が巨大な氷牙で刀華の心臓を噛み砕こうとするが、《逆鱗纏守》より威力が九割程にまで減衰する。
それでも、刀華の肉へと冷気が侵入していた。
間髪入れず、そのまま万画一臣を大剣へ変換させ妖術を放つ。
「〝六華・凛纏斬〟ッッ!!」
相手の負った傷は、僅かに凍結した程度。
竜種特有の鱗が刀華の術を防ぎ―――、
「―――ッ」
幻想的な四つの大翼が淡く輝き出す。
刀華の足元のみ凍結され、目前に竜の顎が開かれた。
ノエルは相手の溢れ出す冷気に壁へと激突させられる。
だが、直ぐに刀華の元へ向かおうと立ち上がれば、
「待ってくださいッ!!!!」
彼女の声は吹雪で搔き消える。
意識不明な刀華を巨大な口を開け飲み込んだのだ。
それも味わう様に噛み砕き、ゴギゴギィギィキキィと骨の音が木霊する。
「グゥゥッッウウッッッッッ!!!!」
ノエルの目は絶望へ変わった。
敵はノエルに興味を示さず、満悦に喉を鳴らし大翼を広げる。
光が舞い、辺り一面が冬と化した。




