第22話 野伏遺跡
遺跡調査を申請し琵琶鼓人皆の依頼が受理された。
五日間というのも束の間、区・森群緑府へ刀華は訪れ路面列車を乗り替えつつ、歩き遺跡前へと到着する。既に見知った琵琶鼓人が幾人も集まっていた。
刀華自身、不安要素もあったので浅学ながら少し遺跡について調べていた。
まず、城和国という一国のレべルが異常すぎる。
『元首』二階堂理音が統治する世界最大大陸海域を誇る国家であり、その文明力は頭一つ抜けている。幾度と跋扈し繰り返された太古の世界戦争で唯一生き残ったのも歴史として有名だ。
こと戦闘において一度も敗北せず、戦争を繰り返すたびに何度も文明進化が行われた。
国家領域が広いのも頷け、現代においても学問、農業、秩序、経済、政治、政府間での外交能力などなど強く発展しているという。
そんな広大領域の極一部の座標地、野伏遺跡。
瀧雲逢簑と森群緑府、緑雲地帯の三区を一つとすれば、海を横断し他区と離れている。
野伏遺跡は森群緑府にあるが、地下の鉱石ルートを通じて緑雲地帯に出る道筋があり、交通路として列車の線路開拓まで行われている。
今は幽霊列車の件で中止されてるとか。
歴史はさておき、今目の前にいる野伏遺跡。
琵琶鼓人……見た感じ黒札が多いな。
琵琶鼓に登録したけど、そのまま放置なんて人も多いのだろう。
遺跡へ入れるのは申請受理された琵琶鼓人のみ、該当者以外への進入禁止のため警備隊がいる。
集合し、二〇分後。
ようやく琵琶鼓人皆の確認が終え、遺跡への調査が開始される。
一斉に駆け込んでゆく人々、後は俺とかがちんたら歩いている。
宝欲しさだろうが、未開の地だ。
未知の危険、その分夢もある。
ま、宝目当ては諦めている。
本命は仲間。
とりあえず一緒に高ランクの依頼を受けてくれるパートナー探しだな。
遺跡に入り、新ルートやらを見つける。
遺跡地図は購入したので、まだルート開拓されていない場が新ルートだ。
迷えば、皆に付いてけば何とかなると思いたい。
だいぶ深い、まさしく深淵だな。
底が見えず、地味に階段っぽい鉱石を地に何人かは下っている。
灯は魔石もありカジュアルに輝いていた。
道はいくつもあるのだが、一番安全なのが時間はかかるがゆっくり下る階段。
急かしている奴なら、術や器用に妖気展開を使い一気に真下へと落下する。俺は後者。
術や権能は『五現大円』と呼ばれ属性系統、召喚系統、操作系統、変換系統、強化系統と五つの系統に枝分かれている。
俺の術は属性系統だが、汎用性が五現大円の中でもずば抜けている分、欠点として相性問題が出てくる。
炎とかだと、少し苦手だな。
脚に冷気を纏わせ傾斜な地を滑っては、着地する。
目を向ければ既に何人かは降りていた。
……のだが、その場で停止している。
気配?
妖や魔物もいない……何をしているのか無視し歩けば、一人の巨男が威圧の眼を、感情を向けてくる。
「ゴミども、お前ら全員黒札だな。俺様は紫札、戴堂っつう名だ!!」
大胆、そして巨大な男だ。
背丈は三メートル、全身が鎧に近い剛筋肉。
紫札というのは琵琶鼓の中で最高位の序列だ。
楽藍が趣味でやっていて緑、その四つ上が紫。
けどなー。楽藍と比べてかなり弱い、強さに比例して札色も変わると思うんだが、俺が間違っているのか? どーでもいっか。
国家の精鋭部隊と比べるなって話だけどさ。
戴堂と呼ばれる巨男には二〇人程の子分らしきチンピラがいる。
ここへ入れてるって事は琵琶鼓人なんだろうが。
「『武掌天人』という異名の……」
ふと一人、停止していた者がそう呟く。
異名や称号は何かの実績に則して自然とついてくる。
色々調べたので、聞いたことはある。
神速で紫札へ上り詰めた異常人。
戴堂という名や顔までは知らなかったが、武掌天人の方は知っている。
『陸武将』と言われる琵琶鼓人のトップ紫札組の一人だ。
もし本物なら、すごい奴が来たもんだけど……。
本当なら、俺が挑んでもフルボッコ確定だろうな。
「ここにある宝は俺様の物だ。見つけ次第、全員俺の所にもってこいッッ!!!! 一番多く持って来た奴は、武掌天人である俺様の配下にしてやる」
皆が停止している理由、それは圧倒的強者の支配。
逆らう者がいれば、痛い目を見る、黙って従えという―――。
しかし武掌天人など知らぬ者は呆れたトーンで、相手を睨む。
「琵琶鼓のルール違反です。お宝は見つけた者が調達できる全うな権利、それを壟断するのは権利に対する冒涜・侮辱です」
傲睨な少女に戴堂は歯を見せ邪悪な笑みを浮かべる。
その歯にはいくつものダイヤモンドが……否、全てが高級なダイヤモンドの歯をしている。
悪魔の様な歯、というより牙だ。
「分かっちゃいねーな嬢ちゃん。権利を主張すんなら、俺様を倒してから物言いやがれ!!!!」
妖気展開から相手は少女の元へ妖刀を振るう。
何らかの呪が施された刀だ、刀身が大剣の様に膨張し少女の元に銀閃が走る。
刃先は間髪入れずに、確かに少女の脳天を的に射貫こうとしていた。
しかし、認識した頃には妖刀から腕へ昇り、戴堂の足元にまで冷気が溢れかえる。
「おい。無視して進むつもりだったが、女相手に弱い者イジメは見過ごせないぞ」
庇った刀華に少女は目を向ける。
刀身剝き出しの妖刀に、流血しつつ冷気を纏った手掌で握っていた。
そのまま刀華は戴堂を真後ろまで蹴とばす。
周りの見て見ぬふりだった皆は、巨男を軽々と蹴飛ばした刀華の方に注目した。
凛とした少年に、ボスがやられた二〇人程のチンピラは数で押そうとダガーを取り出し、一斉に向かってゆく。
それを少女が魔法を唱え一気に殲滅させた。
灯が一瞬消え失せ、何かに押しつぶされたかの様にチンピラ皆が泡を吹きグロッキー状態へと陥っている。
「どうも、ありがとうございます。けれど訂正してください。私は弱くありません、これでも六年程前まで宮廷魔法師に勤めていたんですよ」
……嘘でしょ、庇ってあげたのに。
「おいごらァ!! 武掌天人のぉッ……俺を……!!」
壁へと埋まった巨男は妖気を込め、刀華の額先にまで瞬間移動する。
横腹を狙った刺突の腕は、しかし届かず、凍結される。
殺意の視線は特に敏感だ。
腰へとかかった琵琶鼓札をとり、少女は目を向けた。
「これ。偽物じゃないですか。本当は黒札なので、それを警備隊に見せたのでしょう。はぁ本当に呆れました。というより、何ですか武掌天人というのは」
「陸武秀って言われる琵琶鼓人の中で、特に実力ある奴だ。雑魚は違うっぽいけど」
そもそも紫札に到達している人物自体が僅か六人、そんな奴が今更宝目的で遺跡調査なんざこないだろう。
底抜けの風呂見たく阿呆程金を使っていれば別だが。
「おい、お前」
「え、あ。な、なんですか……」
最初に戴堂という巨男に対し、こいつは武掌天人と呟いた。
調べたが、武掌天人というのは性別や姿まで色々と不明箇所が多い。
つまり、一般には公開されていない情報に対し、こいつは皆の不安を煽った。
「このチンピラどもの仲間だろ。選ばしてやる」
「な、どういう……?」
否定より先に疑問がくるのか。
後ろの少女はニヤっと笑みし、魔法陣を描いた。
漆黒に染まった陣からは、凝縮された球状の暗黒物質が創成される。
「俺の術で凍結するか、こっちの魔法でボコられるか」
「だ、だ……だから、俺はあんな奴らの仲間じゃ」
大袈裟なジェスチャーも、泳いだ目もそうだ。
何より視線、状況に焦りを感じている視線だ。
もし仲間でないのなら悲嘆がくると思うが。
周りの皆もなるほどと気づき愉快そうに笑う。
俺自身、特に何も罪悪感を感じない。
先に攻撃してきたのは、あっち側だ。
けど、もし万が一仲間で無いのならマズイので、ギリギリまで手は出さない。
「俺嘘嫌いなんだよなー。白を切んなら、妖術と魔法のフルコースだけど」
「魔眼魔術には、《神眼》と呼ばれる対象の真実・価値観に天秤、測りを探る術式があるのですが。貴方には、嘘の色が出ています」
―――淡々と、続けて少女は言った。
「貴方はこのチンピラ達のお仲間ですか」
「ち、違います!!」
《神眼》に濁った色がより濃く映し出される。
少女の眼にすごいと関心していた刀華へ、少女は首を刎ねる形をとり、
「有罪」
少女のその言葉を最後に、相手はダガーを抜いた。
それを見逃さず凍結させ、少女の魔法で圧し潰しグロッキーへと陥らせた。
泡を吹き倒れている状態、正直に言わないからそうなる。
俺達の様子へスカッとした皆は拍手を送る。
なんか、色々とシュールだな。
嘘でも武掌天人なんて言われれば確かに怖いわな。
俺だってこの女を庇ってなきゃ、少しビビってたし。
本当か? と疑いもあったが。
けど、いざ動けば手応えもなさすぎる。
よし! 強くなったな、俺。
「お、おまえェ……」
起き上がった巨男に、子分皆が泡を吹いている姿を見て慌てて背を向ける。
今まで何度か騙し騙しで場を乗り越えて、それこそ一攫千金を手にし、警備隊相手にも勝てない相手は金さえあれば見逃してくれた。
地獄の沙汰も金次第。けど、これは違う。
ここまで、ここに来てツケが回ってきたのだ。
目前の小僧はこの場で一番強い。
でもコイツは金で動かないと長年の勘が騒いでいる。
全力で逃げようと身体を動かせば停止、足元が凍結されひどく恐怖する。
刀華は呆れつつも、馬鹿に笑いかけ、
「お前が大将なんだろ。ほら、謝れよ」
じっとした眼で、小さく睨む。
「な、なんなんだよ!! 妖刀持ちの俺に、お、俺が!! なんでこうなるんだよおおぉおッ!!!!」
色々嘆いているけど、妖刀持ってようが無かろうが本人が弱ければ全てが無意味だろうに。
術と呪の相性問題もあるが、それを語る土台の実力をつけろって話。
俺でさえ、まだ雑魚だってのに。
今のままじゃ、魔王ギリウスに勝てるどころではない。
その辺のちょっと強い魔族相手にも苦戦を強いられるだろう。
最近で言うなら、身のこなしや体を動かす無意識な軸などで感じたが、楽藍よりも俺は弱い。
「妖刀持ちは珍しいのですか?」
後ろの少女は刀華に設問を飛ばす。
彼女は一昨日にハルバラード王国から城和国へと訪れ、浅学である。
「……そうだな。俺もこの国にきて色々調べたけど、珍しいっぽいな」
俺は形見という形式で受け取ったが、それを除くなら城和国がたまに開催している刀真試合で優勝をするか、質は悪いが超極稀に発見される遺跡や迷宮での宝箱などなど。
「くそがぁ!!!!」
斬撃を振るおうとする腕を凍結させ、首から上だけを動かせるようにする。
皆は腕を組み、どうしようもないなと呆れ顔をしていた。
被害があったとすれば、欺瞞による脅迫みたいな物だ。
「ほら、謝れ」
丁度チンピラ達の意識も戻り、戴堂が頭を下げ皆へと謝罪する姿が目に映った。
あの戴堂が、どんな時も騙し楽に稼ぐ事に秀でた大将が、だ。
「よし。んじゃ、もうしょうもない事すんなよなー」
「あ、す……マジ、すんませんでした!!」
凍結を解き、流しながら刀華は進み皆も笑いながらしばらくの話題へと興じ、それぞれに進み始めた。道は広すぎて複数に広がっている。
このまま地下に進む道もあるが、先みたく淵の見えない場所を進む気はない。
さっきは道が真下しか無かったが、今なら扉だって目の前にある。
扉……なんかの遺跡みたいだな……。
結構マジで歴史遺物とかあっても不思議じゃないよな。
いや、そりゃ宝があったら欲しいし期待しなくもないけど。
「進むか」
途端、後ろから袖を引っ張られ振り向く。
先程の少女、フードを被っていて少し分からなかったが綺麗な澄んだ青髪に碧眼。
ん……? 魔族だよな。
種族は知識不足でよく分からんが、黒い太角が頭の横からニョキッと生えている。タケノコみたいだ。
「良かったら、ご一緒しませんか? 城和国について色々知りたいです」




