第21話 準備
「お疲れ様です!!」
一声したラウラはトーンや間に気を使いながら、警備隊の二人に挨拶をする。
まるで恋に落ちました、といった表情に1トーン高い声。
一歩後ろにいるジンは軽く会釈をした。
「……なんだ、お前達は」
怪訝な声でラウラとジンを警戒し、武具を強く握る。
顔も初対面、琵琶鼓人かそこら一般人なのは確かと相手は直感する。
しかし、ラウラは相手の思考を見据えたように自信気に言葉を繋いだ。
普段のラウラからは考えれない表情の豊かさ、声質だ。
しかし、どれもが作った仮面、虚飾に過ぎない。
「す、すみません……。私達、新人で……グレイ先輩とルクス先輩ですよね!? 私の名前はテフロン、こっちの金髪不良はドーラです」
「お前達新人じゃないか……? 名前なら、名簿にあったな。交代はまだ早いぞ」
そう言い、警戒が一瞬で溶ける。
無論、ラウラは目の前の二人を知らない。
テフロンやドーラという人物も先程知った。
だが安堵せず、トーンや緊張感を作り声を発する。
「その、遺跡に、法具を落としてしまって。とても高価なものなんです……!! 取りにいってもいいですか? 五分で済みますっ!!」
後ろで見ているジンは誰コイツ、と鬱陶しそうな目をする。
気持ち悪いとまで思った。
しかし、警備隊二人はあまりジンを認識していない。
理由は極簡単、ラウラという一人のカワイイ少女に目を捕らわれている。
権能も魔力も魔法も、魔術も、何も使わず心理テクニック一つで場の主導権を握る。
ジンは呆れ顔に、溜息をぐっと堪えた。
頭はキレる、そして魔王直属配下でもあり強さも本物。
何でもできるなコイツ、とジンに嫉心が昇って来る。
「法具か……。別にいいが、出入りの際、手持ち検査はさせてもらうぞ」
「ぜひ!! ありがとう、ございます」
ラウラ、ジンと二人は持ち物検査をされる。
空間へ収納整理する指輪型の魔法具は置いてけと言われかねない。
予めジンは金貨に変化させ、ラウラは下着へと隠している。
警備隊二人は男、それに警戒心も最初程高くない。
女相手の検査といえど、五分で済む用事にそこまで深くの接触はしてこない。
魔力痕跡など、検査に引っ掛かりそうな要素はラウラの魔術で誤魔化しが効く。
魔術を隠蔽する魔術、この高位階を気づける者はそういない。
色々緊張はジンの中ではあった。
まず二人が新入りを把握していない事や、一度遺跡に入ったのかと問われれば、面倒になる。
その時はその時だろう。
特に問題なしとされ、二人は遺跡へと入った。
「五分で終わらす」
素に戻ったラウラは疲労の溜息を吐く。
「あいよッ」
新たに発見されたルート、それをラウラは魔眼で把握している。
ルート的に辿って行くならば、遺跡は古代文明の歴史痕跡、廃墟に繋がっている。
「んじゃァ、やるか」
すべき事は簡単。
ジンは金貨を魔法具に戻し、空間へ収納させていた召喚石を取り出す。
任務を伝えると同時に、魔力を注ぎ込んだ。
「黒に赤いメッシュ、紅眼の人間のみを殺せ」
無尽蔵に殺し過ぎれば、それもまた騒ぎ。
鬱陶しいが、この遺跡に超級の魔物が召喚されるのだ。
目的の人間さえ殺せば、本当に用はない。
オルゴーラへと直ぐに帰還する。
「それだけで大丈夫? 容姿被りとか」
念押しに、ラウラは隣で呟く。
「ねェだろ。オレの記憶、頭に描いた人物像を送ッたしよ」
言い残し、召喚石から生まれた立体魔術陣が底の見えない淵へと落下した。
この淵が新たに発見された遺跡ルート。
最後まで目をやり、音も聞こえず虚空に消えジンは振り返る。
「帰ンぞ」
帰路の途中、ふとした疑問が湧き出てくる。
「そういやァ、なんであの警備隊の名まで分かった?」
「《万理想間眼》。あの場へ行く前に魔眼を使って、警備隊が肌身に着けている手帳やらで情報は出てくる。幸いにも新人研修中なんて者もいたから、男っぽい名前と女っぽい名前の魔族名を選定した。チェックも入ってたし、過去に遺跡門番してた情報もある。色々聞かれれば齟齬も出るから運が良かった」
連続使用、それに強化魔術と魔眼魔術との多重平行から間違いなく疲労はくるはずだが、先の警備隊の前ではそれも押し殺していた。
「怠。あーそれで、これが遺跡で見つけた法具。ていう設定ね……」
ラウラが下着から取り出した指輪型魔法具。
空間へ無限に収納可能な貴重品だ。
無論、中身の検査もされるだろうが、本当に空っぽだ。
「凄ェとこに隠してんだな」
「忘れて」
本来、ジンが遺跡へと残り標的の人間を殺したかった、しかし仕方もない。
仙人に出くわせば詰み。
暗殺見たく隠密に殺す、囮を使う、色々の案は出したが……。
何度も口出しされ、念を押したラウラの権謀へと乗っかったのだ。
後ろ盾も分からない、そもそも今の行動自体が危険でしかない。
今回遺跡で騒ぎを起こすのは超級の魔物だ。
召喚されたと気づいても、誰がなんて分かりもしない。
そもそも古代遺跡、その廃墟だ。
未知との遭遇とやらで、解釈も生まれやすいだろう。
§ §
―――深夜、ジョイント音を載せ一本の列車が走っている。
交通機関とし乗車する一般人が誰もいない。
幽霊列車、この行方不明が続出する事件は社会現象の一種になりつつある。
童話に例えられ、尾鰭がついた願望混じりの物語が国を泳いでいるのだ。
城和国に滞在しうる貴族の血を持った者達が再び権力を握るために民を選別している、食糧問題から民の数を調整しようと殺しを行なっている、他にも魔王の刺客が城和国に圧力をかけてきている……などなど。
世間は他にも―――注目されている物では地下監獄から抜け出した首切り殺人鬼オッドーや人攫いのザナク、葬儀屋のチェッカと犯罪が如実に表れており、被害拡大の為に手は打たないといけない。
ここ最近の出来事だ。
生きる災厄『鬼神』。
それを狩る世界を守る四柱の律師『仙人』が城和国へいる。
その事実が少なからず抑止力になっている。
そうであったから、事件が一つ浮き出ても大して不安は覚えなかった。
殺人や通り魔が出没しても、魔物が村を攻めてきても、戦争が起こったとしても、鬼神が復活したとしても、何が起こったとしても元首と仙人がいるから大丈夫と、大衆にある常識な平和は当の本人からすればプレッシャーしか増さない。
「……どいつも、こいつも」
列車の一室、一人の女は怪訝に憤怒を宿し呟いていた。
被害は今でもあるが、幽霊列車の件が大きい。
人が行方不明で溢れ出てきている。
瘴気に染められた様に、列車や殺人鬼と合わせ約四〇〇〇人もが行方不明。
それの調査に秩序部隊最高国家機関、特務警察第一部隊『静かな夜』が当てられていた。
「―――よぉッ」
一人の少女が列車内で妖刀を振るう。
金色の瞳に艶のある漆黒髪をした少女、名は一条楽藍。
敵は賞金首、人攫いのザナク。
深いフードからは、獣人族特有の大きな耳がはみ出ている。
大きな耳、顔までは見えないが華奢な事から女で間違いはないだろう。
―――人攫いのザナク。
これも、脱獄した犯罪人だ。
本来の目的は幽霊列車の件であり、ザナクに関してはついでに過ぎない。
かと言って別段、無視していいという問題でもない。
目に見える悪から鉄槌を下すのは、楽藍の価値観の一つだ。
列車を次々と立体的に動き回り、天井や壁までもが地であるかの様に相手は平衡感覚を保っている。
見つかっても捉えるのが困難なはずだ。
楽藍は油断せず、動きを追尾してゆく。
構えているのは妖刀、彌鹿国。
『マモンの積富』と呼ばれる呪が備わった七つの大罪シリーズ『強欲』の妖刀。
『強欲』は楽藍が敵と認識した対象者の絶対魔力量や妖気量を無条件で半分簒奪する。真価を発揮するのは、敵が大勢いた場合に獲得できる膨大過ぎる魔力や妖気量だ。
これは楽藍の術とも相性が良く、本人はデザイン的にも気に入っていた。
「ちょっと~。早く来てよ、他の仕事あるんだから。なに、嫌がらせ?」
すばしっこい、飛び出た要素はそれだけ。
術ではないなら、そこから派生する技もない。
速度は眼で追えている。
「―――ふぁぁ」
攻撃せず、常に周りを走る空気に飽きが生じ欠伸が自然と出てしまう。
その隙を狙ってか、相手はザァ―――とノイズ音と共に、無から漆黒の剣を取り出し刺突を繰りだした。
やっと来た、と愉快な表情に楽藍は妖気展開した脚技で敵の腹を蹴とばし天井へと放り投げる。
すぐに体勢を立て直そうと敵が動くが、天井にいた死体が敵の両腕を掴み動きを制していた。
楽藍が召喚したコレクション、動く死体『殭屍』である。
死体だというのに、膂力が半端ない。
本来ある生物としての力の制限が外れているのだ。
火事場の馬鹿力とも言われるその現象が、常に殭屍達には宿っている。
無論死体であるので、病気にも状態異常にも掛からない。
「そーれーで。キミは人攫いのザナクだよね~、んー。幽霊列車の件と何か関わりがあるのかな~? でもねぇ、依頼を見る限りキミは通り魔か。ハルバラード出身で学歴も高いのに、どうして他国にテロするかな……。貴族の血統限定の殺人って……世界を平等にしたいならもっと他の選択肢を選ぶべきだったね。ゴメンね、思ってないけど。殺さなきゃ、任務が琵琶鼓からこっちに降りた訳だし」
相手は無言に、敵意の視線を向ける。
「斬首は慣れている。私は優しいから、痛みすら感じない」
妖刀で首を斬り落とし、電閃が走る。
―――ザナクは死亡した。
案外世間を騒がせた物だが、普通に呆気ない。
楽藍にしてみれば、警戒は強くしていた。
結果、他より多少逃げ足が速かっただけ。
「後は、首切り野郎だけなんだけどな~」
妖刀を終い、召喚した殭屍は地へと戻されてゆく。
尚も列車は進み続け、隣の一室を訪ねた。
「ね。吟葉ー、そっちはどう? 変なのあった~?」
戸を開ければ、血を拭う吟葉の姿。
人攫いのザナクの仲間、人形術師パぺルの死体―――だったモノが肉塊となっている。
「異常なし」
列車には三名の部隊が乗車している。
楽藍、吟葉、そして―――、
「お前ら。一時間で車両基地だ、荷物は特にないな」
楽藍の後ろから低い声がかけられる。
吟葉や楽藍と同じ特務警察の制服。
容姿は黒髪長髪、紅眼、両腕には甲冑のような瓦を軽装している。
名は董弦瑠瑠、特務警察『静かな夜』のリーダー。
そして―――仙人である。
「リーダー。幽霊列車だよ!? オバケでたら、怖くない~」
と、ウキウキな気分に楽藍は瑠瑠へと笑いかける。
「それは妖だ。今は、相手が魔族の可能性が高い。標的を殺せたのなら、他の二名と合流する。列車の件でもう少し調べる事がある」
秩序部隊である特務警察『静かな夜』。
五人の女性陣のみで構成された城和国で最も戦力に秀でている精鋭部隊である。
一〇分もすれば列車は減速していき、車両基地へ停車した。
皆が列車へ降りれば、目前には残り部隊二人が既に任務を終え楽し気に会話している。
「あ……。リーダー、ウチら終わったよ。異常なし」
乾いた声、一人の少女。名は樋坂涼歌。
セミロングな黒髪に薄暗い碧眼。
強さは部隊の中では楽藍と同じく、仙人の瑠瑠に次ぐほど。
涼歌の隣席には大きな欠伸をした少女、愛上兎兎がいる。
染めた金髪をポニーテールにしている。
ジト目気味で口数が少なく、基本的にはおとなしい。
「リーダー。もう帰っていい?」
兎兎の憂鬱を無視し、瑠瑠達皆が合流する。
「ワタシ達の任務時間では、まだ二時間もある」
「うわぁブラック……」
瑠瑠の言葉に、大の仕事嫌いな兎兎は露骨な溜息を吐く。
それを鼻で笑いながら、涼歌は肩に手をのせた。
「幽霊の正体も見えてきている。組織として、お前の憂鬱はワタシにまで伝わる。控えておけ」
「うぅ……。幽霊ねえ……」
兎兎は落ち込み、言葉を吐きながらも仕事を増やした幽霊列車を恨みだす。
帰って読書をしたい、遊ぶ予定だって、最近だと雅楽にだって手を付け始め趣味が増えてきている。
花より団子な楽藍に聴いてもらえば、意外にも反応が良かったのでモチベーションにもなっている。
だというのに、それに並行し仕事も増える始末。
遊ぶ時間がなく少しずつストレスだって溜まって来る。
溜息の一つでも出てくるものだ。
「ウチは、枯れ尾花じゃない事を祈ってるよ」
憂鬱な兎兎に対し、涼歌は頬杖に欠伸をしつつ言葉を吐いた。
「いや逆でしょ、幽霊見たくないから!!」
仕事は別に嫌いではない、だが幽霊嫌いが共通する楽藍も兎兎に共感する部分はある。
死を操る術だというのに、部隊の中では人一倍怖がりだ。
本人曰はく死体は死体と思うだけ。
幽霊だと見た目に想像がいかず本能的にも未知という要素が介入し恐怖が全身に昇って来る。
幽霊に関わりたくない兎兎と楽藍、どうでもいい涼歌とで会話が盛り上がる一方、瑠瑠に凭れながら吟葉は報告書に目を通す。
「リーダー。幽霊の……正体って……?」
凭れ掛かる吟葉を刀の頭で弾き、皆に話しかける。
「幽霊、と童話に語られているがタネは魔術だ。それも位階がかなり高い。幽霊列車と並行し他の賞金首が出てきている。関連があっても、不思議ではない」
「リーダー。大変そう……」
後ろの楽藍、兎兎、涼歌の仲良し三人組を後ろに吟葉は瑠瑠へと近寄る。
「疲れる」
「……お疲れさま」




