第20話 傾く不穏
吟葉と楽藍は仕事もあり、刀華と別行動になった。
琵琶鼓城に提示されていた依頼が特務警察に任務として降りて来たらしい。
幽霊列車の件で、人が毎日行方不明状態。
流石に無視できるはずもない。
「地図だと……ここだよな」
パッションを出た刀華は一つの店に訪れていた。
武具屋『冒険者の庭』、ここで購入したいのは法具。
並べられた品に目を通し、購入してはさっそく身に着ける。
装するだけで便利な指輪型法具。
空間へほぼ無限に収納可能と私生活で役立つ物品だ。
後は薬草とか、毒薬など疲労困憊した時の応急措置。
基本的に薬草関連は腐敗しないので、瓶詰めと共に空間に収納して問題ない。
おっさんが他にも色々とオススメをしてくる。
どうにもデカい鎧や兜が多い。
剣闘士ではないんだが、確かにそそられる。
けど、多分だが自分の武具屋の宣伝文句に使いたいのだろう。
俺がもし有名になれば、その装備している店の名の宣伝になるという理屈だ。
武具屋も色々地図で調べたが、殆ど変わらない。
琵琶鼓人だと札色で値段変動もあるが、俺は黒札。
噂とかだと、超強い人の場合は宣伝費として無料で購入できるのだとか。
秩序部隊でも上の方はよく贔屓にさせてもらっているという。
楽藍だと、それに当てはまんのかな。
正直うらやましい……。
出費は変に増やす必要もないので、笑顔で軽く頭を下げ店を出る。
向かう先は琵琶鼓城だ。
依頼では賞金首の首切り殺人鬼オッドーを受けた。
けど、わざわざ探すのは無理。
……というか、探せて見つかるのなら苦労なんてしないだろう。
でも城和国のどこかにはいる。
賞金首とされた者には殺人の許可が出ているので、見つけ次第殺していい。
昔のような古い価値観でいたのなら、俺は首切り殺人鬼相手に負けるだろう。
―――で、今日の夕食でも稼げる程の依頼を探しているのだが……。
まず仲間がほしい……切実に。
「―――は?」
今……視線を感じた。俺の後ろ、少し遠いだろう。
視線、そこから見える泥の様な殺意。
何故? 俺に殺意を向ける人物がいるか?
俺の気にし過ぎなのか……?
あーでも、今は視線が消えている……。
何なんだ……気味が悪ぃ。
つーか仲間だ仲間、どうするか。
報酬も減るんだろうけど、それだけ難易度の高い依頼でより良い報酬が得れる。
結果だけ見れば、少なくとも今よりかはマシになるとは考えている。
仲間の募集欄も見にいったが、どれもしっくりこず。
一時的な物だ。それに札色はどれも殆どが緑以上。
やだなー現実的すぎて。
安定を一番に置いときたい。
楽藍も琵琶鼓人なら仲間に誘いたいけど、多分断られる気がする。
札色もそうだが、そもそも本職とは違い趣味でやっている。
ガチでやるってなると、俺が向こうの立場なら少し考える……。
依頼をどれにするか流しながら見ていれば、一つ目に付くものがあった。
札色の制限はなく、琵琶鼓人なら誰でも申請受理される依頼!!
依頼期間が五日、つまり今日依頼受理されても、まだ調査はダメらしい。
琵琶鼓城側として、確実な人数を集め調査に割り当てるんだろう。
場所は森群緑府。
今いる籠雲逢簑の隣の区、列車を使うにしてもそこまで時間は費やさない。
厭春が少し遠すぎたのかもしれないな。
「新しい遺跡調査……」
内容として、最近になって新しい経路の遺跡が発見されたらしい。
罠も多く魔物も高レベルはさほどいないと情報。
調査だが、具体的には魔物の駆除が大半だ。
遺跡の主がいれば討伐した者が宝を貰ってもいいらしい。
死人とか出そうだな……。
札色で依頼が受理されないってのも、それは一般的な依頼のみ。
なるべく数が必要な事例だと、例外もあるらしい。
「この宝ってのは?」
遺跡調査の依頼申請が通った所で、俺は受付嬢に問う。
「魔道具、法具など価値ある部品がたまにあるんです。一〇万ベガもいけば凄いですけど、あまり期待しない事をオススメします。ただの綺麗なガラクタや、メッキなんて物もそう珍しくはありません」
要するに、注目させる定型文ってところか。
宝は考えない事にしよう。
首切り殺人鬼オッドーに遺跡調査、これだけでも二つの依頼を受けた訳だが、それだと今日受ける依頼はない。
そこで、いい感じのがあったので遺跡調査と一緒に申請した。
アプル周辺にもいた陰狼という名の妖。
低階級、五体の群れで行動、五体で一つとカウントしてもいいぐらい。
とりあえず、最初の目標としては白札だ。
§ §
魔族二人が城和国へ訪れていた。
一人は男、それもオーガ特有の角。
面は割れていないが念のため仮面の魔道具を装している。
解析鑑定する情報系能力に強い反魔力が備わった祝福が施されている。
その仮面からも金色の双眸が綺麗に見える。
目と同色な長髪、それを後ろで束ねている。名はジン・グリオノヴァール。
隣のラウラは面割れなど気にせず、どーでもいいようで団子を食べながら後をついている。
城和国へ着いた現在、ある程度の情報を調べ周囲を歩きつつ見渡している。
オルゴーラとは文明も、そもそも国の空気、景色、色々新鮮であり異世界に来た気分をふいに味わってしまう。
―――が、ここへ訪れたのは任務。
天下無双七英神将を奪取しにきたのだ。
「これ超美味しい……」
―――任務。
それを自覚しているのかジンは不安ながら、ラウラを軽く睨む。
すると欲しいと勘違いしたラウラは、蜂蜜団子をジンの口へ飛ばした。
無言で食べるが、確かに美味い、と一瞬で怒りが風化する。
「今日はラッキー。割引できた」
「そんな事よりオマエ、城和国の図は頭に入ってるか?」
「徹夜したね」
「ならいい。オレは覚えてねェからな」
「知ってる」
ラハードの事の顛末に、あの人間は城和国へ向かうと言っていた。
まず、紅眼の人間を探す必要がある。
面倒だが、とりあえずラウラの魔眼を使うか。
「おい。見つけたか?」
「うるさい。今探してる」
ラウラ・ファルフォーラは普段、虚無にぼぉーとしているが、魔術に関しては魔王ギリウス様をも優に超える天才。使える魔術は第四位階まで昇る。
―――魔眼魔術《万理想間眼》。
遠くを見据える、感情を見据える低位階の《千里眼》を強化魔術で平行し生み出す一時的に過ぎない魔眼。
有する能力は《千里眼》の効果を引き継ぎ、立体的に広範囲を認識・感知する。
一人一人を認識するので負荷もかなり大きい。
魔術同士を掛け合わせること自体、かなり稀有な事象なのだ。
「いたかァ?」
「急かさないで。近くにいない限り、そう簡単にピンポイントで個人の特定なん……て……。あ、いた」
「いたのか!!」
直ぐに見つかるとは思いもせず、ジンは確認を求める。
溜息ながら指先でラウラは示し、そこへ視線を飛ばす。
黒に赤いメッシュ、後ろ姿しら分からないが背丈からも紅眼の人間というのは直感的に理解した。
ラハードを殺した人間。
自然と出てしまった殺意を押し戻し、懐から一つの鉱石を出す。
球型をした特殊鉱石には無数の陣が列挙し、魔力を送れば輝く。
「今、ここで……殺すのが効率いいかもな」
「効率悪い、仕事増えるからやめてね。今は様子見、もう波長読み取っての魔眼は困難になるけど、追わないから。騒ぎを起こすのは私達じゃない」
「分ッてるよ、半分冗談だ。早く殺してェけどな」
半分本気。ラウラが止めなければ、実行していた可能性が高い。
戦闘に秀でたジンは所々で判断ミスをする。
戦闘センスは抜群だが、それ以外が不甲斐ないと幾度もラウラは感じていた。
「……場所を移す、こっちを見てる秩序部隊がいる」
ラウラは魔眼を閉じ、ジンと共に駅に向かっては列車へ乗車する。
隠密行動には慣れており人数も多いため、目で追われている程度では簡単に誤魔化し移動できる。
ただの警備隊、つまるとこ雑魚だ。
乗車してから僅か数秒、目前のジンは窓を眺めつつ腑に落ちない面を見せる。
「なんで列車」
ジンの問いかけを無視しラウラは片目を瞑り、再度魔眼を働かす。
もう片方の眼では城和国の観光本を暇つぶしに見ており、今日の仕事が終わり次第に向かうグルメスポットを探している。
「あの場でさ。紅眼の人間殺したさにアンタが召喚石割ると、仕事増える」
ジンが懐から取り出した特殊鉱石、名は『召喚石』。
一見すれば綺麗な石ころ。
しかし、奥底には膨大な魔力、妖気が内包されている。
「あそこは琵琶鼓城ってとこね。オルゴーラでいう所の、ギルドと同義。そこに属した琵琶鼓人ってこと。あの人間、札をつけていた。琵琶鼓人確定だね」
「琵琶鼓城、依頼を熟す一種の職業、内容はギルドってのと似ているのか」
「私そう言った」
「召喚石……。あの人間のいる場で使ってりゃ、確実に妖刀を奪えたろ。任務はあの場で終わッてた」
「その物言い、騒ぎを起こすなって魔王様の指示を忘れたのね」
二人が城和国へ訪れたのは天下無双七英神将の奪取。
しかし騒ぎを起こさず、被害は最小限という絶対命令がギリウスより下された。
その命令がややこしいのだ。
ただ標的の人間を殺せばいい、それだけだ。
先の街中に召喚石を使い、超級の魔物を放てば殺せていた。
「殺気立つのも分かるけどね。でも、あの場で石を使えば召喚された魔物はそのまま壊されて終わりのパターンもある」
「あァ? 超級レベル、それも名のある魔物だ。そこらの超級とはレベルも違ェ」
自信家なジンに、眉を顰め溜息と共にラウラは呆れていた。
ジンは強いが物事の判断が直感的で未来のビジョンが見えていない。
ラハードは病的レベルに慎重。
魔王様にコイツと同行するよう命令された理由が知れてくる。
ジン単騎で城和国にいれば、何をしでかすか分かったものではない。
「……この国には、第二魔王と同じ仙人がいる」
ラウラの言葉に、ジンは笑い出す。
「こんなだだっ広ぇ国の区に、ピンポイントでいるなんざねェだろうよ。ンで、今どこに向ってる」
城和国内の地図を広げ、指先でこれからについてラウラが述べてゆく。
「あの人間を殺す為の環境作り。魔眼で見れば、琵琶鼓城の中に面白そうな依頼を見つけた。遺跡調査について、五日間かけ琵琶鼓人を集めている。だから、今からそこの遺跡に召喚石を準備しとく」
「ほんとにその人間が遺跡調査にくるか分かんねェぞ。やっぱ、さっきの時に」
「来ないなら他の場所で使えばいい。これは被害の最小限を視野にいれた事前行動。後、ほんとに召喚石使うのね」
「石を使わねェなら、相当被害がデカいぜ。オレが暴れッからな」
「はいはい。それは禁止ね」
―――召喚石。
昔は国家の一つが所持する代物であり、高位の魔物や妖を封じ込めた大秘法。
召喚石にも限りがある。
今では失われた未知の技術法から製造不可能であり、数は多いが一つ一つが貴重品となっている。
歴史で知られているのは、天使を封印する為に開発された立体次元物質。
錬金術が生まれる前の、賢者の石へと昇華させる前の歴史だ。
共通して召喚した物が滅べば召喚石まで砕けてしまう。
「はぁ、仕事早く終わらせたい……」
憂鬱な溜息をラウラは溢す。
騒ぎを起こす必要はない。これは、魔王様から重々に言われた。
行動一つで戦争になってもおかしくはない。
幸いな事にこの国の元首は魔王ではない。
治安が良く、秩序も、平和というのはこういう物を言うのか。
ここの元首は国としての強さより、政治体制に傾いている。
「なんで第二魔王と繋がりあるって言えンだよ」
「可能性の話ね」
第二魔王と繋がりがあってもおかしくはない。
同じ人間であれば、後ろ盾はあるだろう。
―――見えてこないのは、それだけで力がある。
魔王様はそこも警戒してるのだろう。ややこしい世界だ。
「これ食べる? 美味しい」
プリン団子を譲るも、ジンは余所を向き欠伸をする。
「いらねえ。とにかく、遺跡に向かうぞ」
籠雲逢簑から真横にある行政区、森群緑府。
遺跡の場はここだ。ジンは地図を睨み、仕事の終わる推定時間を考え出す。
ラハードが死んでからか、ラウラにも少し変化が見えてきている。
もしかすれば気のせいかもしれないが、感情的な言葉の強さを時折感じるのだ。
前の様な全ての口調が棒読みとは違う、生気の宿った声や口調、温度、空気、何よりも表情が仄かに柔らかくなっている。
感情が枯れている。
死んでるとも思ったが、認識できていなかっただけなのかもしれない。
そんな事を考えつつ、窓に反射する列車の室内を無意識に眺めていた。
呆然として、ふと気づいた事がある。
「乗ってる奴ぁオレ達しかいねェな」
駅は数人程だったか、今はゼロ。
偶然かとも思うが、不自然。オルゴーラと比較しても若干の気持ち悪さがある。
だが泰然にラウラは、
「幽霊列車でしょ」
魔眼の働きも終え、提示版に張られていた内容を思い出す。
紅眼の人間の見ていた依頼には一通り目を通した。
記憶にも新しく残っている。
「あ? なんだ、それ」
「琵琶鼓城に提示されてたけど、特務機関へ依頼変更予定と記されていた。人がよく行方不明になるらしい」
「魔族は?」
「そんな情報は無かったけど、それ含め人と定義してるかもね」
幽霊列車と都市伝説にも聞こえる名だが、オカルトチックに命名された事件に過ぎず犯人は至って普通が多い。
城和国は人間と魔族とで共存し社会形成が、秩序が構築されている。
昔の貴族が統治する政治運動から小さなテロ。
事件を起こす動機はラウラ曰はく、内乱を本格化する口実が欲しんだろうと。
どこまでも大義。
正義に理由を求める者は本質の意を掴めない。
憶測未満だが、面白そうだとは思う。
全然違った可能性もありえる話。
だが、この国がどうなろうが心底興味がない。
「なァ。魔王様が騒ぎを起こすなって命令、あれってどういう意味だ? そこまで仙人って奴ァ警戒してンのか?」
「鬼神対策で創られた人工天使だよ? キモい事に、人間の形してるけどさ」
「戦って見たさはある」
「昔、アンタが魔王様に喧嘩売ってボコされたって自慢げに言ってたわね。警戒するって事は、五帝衆を超えた魔王レベルだよ。というか、一人は実際魔王だし」
一時間程すれば森群緑府へ到着。
地図通り琵琶鼓城に提示されていた遺跡へと向かう。
依頼は五日間かけ募集がされている。
その日まで他者を立ち入り禁止とする二人の警備隊が設置されていた。
先駆けし報酬などを横取りする者に、抑制をかけているのだろう。
普段なら瞬殺だが、余計な殺しは禁止。
魔術魔法でも使おうものなら、変に援軍を呼ばれる。
それは怠い、それこそ騒ぎを起こしてしまいかねない。
「ラウラ」
「はいはい」
瞬間的に魔眼を発動させ、瞬きと同時に閉じる。
ラウラの得意分野と把握し、ジンは素っ気ない塩顔を露にする。
遺跡の中に入るべく、ラウラと二人で警備隊の元へと歩いて行った。




