第16話 分かれ道
「ううううぅっっ」
馬車。
稽古も順調ながら、城和国へと向かっている。
出雲捌身流は開祖なだけあって、教え方がうまく基礎から応用まで叩き込めれ、再度刀華は体を痛めていた。
今日は既に半日経過、そろそろ目的地につくだろうといつの間にやら寝ていた。
そして仰向けの中、ふと目を覚ます。
「よく寝たぁ……」
―――目を開ければ額先には彼女、出雲がいた。
静かに読書をしながら、蛇肉を食べ、刀華が起きた事へ気づきふと目が合う。
……。
「起きたか。明日に城和国へ到着予定だ、体はまだ痛むか?」
「少し」
膝枕をしていた出雲は、顔をよく覗き込もうと、刀華は咄嗟に起き上がったろうとした所で互いに額をぶつけた。
「痛いぞ」
「俺も……ごめん」
いつ寝たかは覚えていない。
色々稽古の際に限界突破し、師とはまた違ったベクトルで心が泣かされた。
ただの焦げたボロボロの木に、妖刀を使って尚何度も扱かれた。
馬車に乗り暫くしてからか、うとうとしていた記憶はある。
そこから覚えてない……。
「枕が無ければ、頭を痛めてしまう。とう、我の読書しているアーヴァリアン戦記の皇は枕がなく頭を痛め、それが起因で病に陥ったと記してある。以後、枕には強い拘りを強いている」
小さな本を片手に刀華の頭へ優しく手を置く。
額をぶつけてしまった箇所を撫で、そっと肩に手を乗っける。
「そうなのか……」
「汝は薙刀が得意分野か? 稽古の際、脚の動きからして長柄武器がしっくりと見える」
起き上がった刀華は、その場に座り考える。
薙刀は槍の先端を刀身にさせたものだ。
万画一臣から何度も工程を繰り返し、実戦し扱いやすい武具を模索していた。
刀だけでも十分扱いやすいが、どうだろうか。
この万画一臣の真骨頂は相手の意表を突く絶対点だ。
刀から鎌、槍に変われば、それの急な対処に小さな隙が生まれる。
想像力が働く限り何にでも変化する呪、それが勝意のくれた妖刀。
意表を突く絶対点、これには俺の武具を扱う技術力に強く依存してしまう。
その為に、ある程度は触れ扱える様にならないと折角の呪も本領を発揮できず、宝の持ち腐れになってしまう……。
「慣れてるのは刀だけど。鎌とかは……それなりに」
「……ふむ。珍しい」
武器として存在はするが、大抵の場合皆は刀を扱う。
大昔、殺しに扱われた武具は刀。
それが最も殺傷能力が高かったからだ。
そこへ呪が込められ、呪装具の中でも刀は得に妖刀として伝えられている。
「鎌は使ったことがないな」
「仙人でも未経験とかあるんだ……」
「そうだな」
本を読み終え、クッションの敷かれた場へ座り込む。
「そういえば。ベルトに腰かけている妖刀、邪魔にならぬか? 法具はないのか?」
「法具……?」
「武具を使う際、複数あるのなら使わぬ刀を常に装しておくのは億劫であろう。我も普段は法具にしまっている」
と、出雲は説明を始める。
―――法具。
呪装具とは別に生活を軸とし現代でも呪を描き道具に埋め込んだ物。
村に結界法具を置けば魔除けに、出雲の様に指に付けた物なら空間を開き何にでも収納整理可能とさせる。
装しておけば妖気を微量に注ぐことで大抵の法具は発動する。
「我は二つの妖刀を所持している。だが、一々持っておくと重い、動きに鈍さも付加される。案外便利だ。食糧などは入れれぬが、持っておいて損はない」
「呪装具って持ちすぎると、呪の効果が無くなるんだっけ」
「持ち主の技量や妖気に作用されるが、三つが限界であろう。呪装具、魔装具は希少価値が高い。所持していない者の方が多い。……ん? どうやら馬が休憩に入るらしい。起きたばかりだが、稽古はどうするのだ?」
窓の景色のブレが無くなり、やがて停止し始める。
「頼むよ。仙人に学べるなんて、この先一生来ないだろうし」
§ §
―――夜、稽古を終え水浴びを済まし二人は夕食を終える。
出雲は相変わらず蛇や鳥。
……鳥!?
にしても、案外飯には困らなかったな。
香辛料が魚でも、猪肉でも、木の実でも何にでもマッチするのだ。
ちょっぴり辛いけど、不思議と隠れたまろやかさがあり表現の難しい味だ。
「空は綺麗だ。いつ見ても、風化しない」
刀華の隣で笠を胸へと彼女は呟く。
星数は僅か、空は黒い紫に染められ、涼んだ風が二人の髪を静かに撫でる。
「出雲とはもう会えないのかー」
溜息を吐きつつ、刀華は不満そうに笑う。
「風来坊は暇なのだ、いずれ出会う。御守りも大事にするのだぞ」
「前は忙しいって言ってなかった?」
「我は記憶力が悪い」
くすッ、と出雲は自分で笑う。
つられて刀華も笑い、夜空を大きく眺める。
「我がいないと、悲しいか?」
「そりゃ、もっと稽古つけて欲しいし。一緒に旅もしたい、一人は嫌だ」
でも、分かれ道は分かれ道。
城和国で、互いに違う道を行く。
「ぼん」
出雲は手銃を組み、穿つ。
込められた妖気は炸裂した瞬間、夜空に花が開花した。
音も響き、満開の花が炎で形どられている。
絶景の花火だ。
「綺麗だな……」
「そうであろう」
また一つ、彼女は花火を穿つ。
ドカーンッと穿たれた花火は、鮮やかに何度見ても幻想的に映ってた。
消えゆく最後まで目を放さず、不思議と見惚れてしまう。
「今度、我と会えばもっと凄い花火を見せてやろう」
「おう」
そのまま眠り、また朝が来た。
術を使っては空馬が走り続けてゆく。
ふと思ったのだが、よくこれだけ術を永続していて妖気枯渇に陥らないものだ。
それも込みで術なのか?
―――昼過ぎ頃、眠っている刀華を起こす。
「うぅ……」
「着いたぞ。城和国だ、汝については我が門番に説明済み、下りれば制限なく行動できる」
何か言っている……。
起きた俺は、直ぐに外へ視野を向けた。
やっと見れる、新鮮な、異世界にきた様な……。
「琵琶鼓城は分かるか? あの大きな建物だ」
馬車へ降り、馬を返しに来た彼女はその場で刀華に話す。
琵琶鼓城、一目見て抱いた印象は巨大な城だ。
常に巨大な扉は開きっぱなしで一般人でも出入りしている。
だが少し妙な物を見た。
てっきり城和国は人間大国なんて思ってたけど、魔族、幻妖族がいるのだ。
幻妖族ってやっぱ魔族かどうか分かりにくい……。
「少し案内でもしようか?」
「いや。とりあえずは宿をあたって、整理する。ありがとう、出雲」
「そう……では。またな、莽薙刀華」
琵琶鼓人としても名前を上げて、出雲に自慢しようと思う。
会えなくても、俺が有名になれば会いに来てくれるかもしれない。
不思議と次も会いたいと思ってしまう。
だから強くならないと、忘れない復讐の為にも。
―――俺達二人は別れた。
とりあえず、宿っぽい所を探し当てる。
宿のベガに関しては村からごっそり持って来たので当分困らない。
そりゃ、罪悪感みたいなのはあったよ?
でも、あそこに置いてあって誰も使わないってのは、勿体ない。
猫糞って訳じゃないよー、多分ね……?
ベガは琵琶鼓人になって、稼いでくつもりだし。
「ここが城和国……」
再め、辺りを見渡す。
この場がどこか全然分からんが、建物が色々村と違って大きい、高い。
それに人口密度もヤバい。
なんか変に緊張みたいなのしてきた……。
建物全般は瓦だ。
ここは少しアプルと似通っているかもしれない。
瓦刀まであるし。
道に生い茂るは桃の木、所々に梅もある。
季節つーか、違う道沿いを見れば桜の木もある。
無論花はなく枝だけ、しかし時期がくれば雅に映るのだろう。
城和国は自然豊かって感じだなー。
川もあって風車も、魚だって泳いでいる。
色々新鮮に眺め、宿を見つけては鍵を貰い部屋につく。
凄い、ほんとに一人で宿に来れた……!!
さて、向かうは琵琶鼓城だ!!




