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阿修羅天世(改稿中)  作者: 鈴政千離
第二章 城和国編
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第14話 御守り

 酩酊しそうな、もしくは呆然としそうな、そんな景色が空馬の術でブレる。

 馬車の中は瞬きをすれば景色が遡行する不思議な空間―――


 空馬が時空を跳躍し、きこり、きこり、車輪の音が響いては刀華と出雲とで他愛無い会話をし、城和国へと進んでいた―――。



 ―――夜、


 馬を止め、今日はここで野宿する。

 琵琶鼓人にはよくある事らしい。

 火をおこす道具など必要最低限の物資は馬車へと詰め込まれていた。

 出雲は滝で水浴びをし、その間に刀華は狩猟した魚を焼き始める。


「魚を狩ってきたのか」


 水浴びを終え、身を軽装に包んだ彼女は火で温もりつつ、串刺した魚の横に巨大な二匹の蛇を添え焼き始めた。


 その真横の熱した石上に、トカゲを一〇匹ほど乗せ焼き始める。

 バチッと花火を起こし、生きていたトカゲを一瞬で焦がしスパイスをかける。


「え……?」


 今、俺の魚の横に何置いた……? 

 呆気取られた現実に、刀華は今もにゅるにゅると動く蛇を視野に入れる。

 というか、インパクトが強すぎで入って来る。


 トカゲはまだいい……食った事ないけど。

 蛇はデカい、デカいのだ、とにかく。

 魔力を感じるって事は、魔物なんだろうけど食べれるのか……? 

 食べたことも、というか食べようという発想に至ったことがない。

 大人一人分の大きさでありながら腹にも巨大な眼があり牙で覆われている。

 怖かった。

 綺麗に皮が剝がされ、首が無いと言うのに長い胴体が生き生きとしている。


「水浴びをしていれば、タンパク質がいた。歯ごたえ良いぞ?」


 そこへ瓶へと封じられた香辛料を取り出した。

 血よりも赤く、どろッとした油を串刺した蛇にかけ、焚火がより一層炎上する。

 それを出雲は呆然と眺め、気を休めた。


 外は寒い、それも夜は特に。


「少し高価な唐辛子だ。城和国には食の集落がある」


 異国から、太古から、あらゆる食文化が集大成した大都市『宝食謳閣ほうじきおうかく』。

 これは世界的にも知らぬ者などいない文化の宝地である。

 宝食謳閣。それは昔、貴族の中でも上位階級『公爵』のみが行っていた独裁政治による規定から始まったもので、貴族のみが立ち入り可能とする貴族区がある。

 それが現代の宝食謳閣に当たる。

 当時、公爵の中でも最も国家権力のあった貴族グループの君主、その者が美食家だったが為に、現代にまで食の集大成が続いていると言われている。


「飯か……!! 俺も城和国で稼げるようになったら、仲間と寄ってみよっかな」


「宝食謳閣と呼ばれる大都市、今現代では城和国の首都にもなっている」


「首都ねー」


 首都って事は、そこが政治の中心地でもあんのかな。


 炎上の中、そろそろ焼きあがったと出雲は串刺した蛇とトカゲをくれる。

 若干の抵抗があるも、一口ゆっくりと味わう。


 最初にトカゲ、これは普通に美味かった。

 カリカリとしていて肉らしい弾力は感じれなかったが、腹の足しにはなる。

 次に蛇、これが一番の問題だ。


「どうだ?」


「……なんか、初めて……不味くはない」


「そうであろう」


 でも、美味しくもない。微妙よりの普通……。

 俺は口直し……ではなく、美味しそうな魚へと思いっきり嚙みついた。


 塩加減がいいなぁ……。


「ところで。汝は人の子か?」


 出雲は瞳を合わせ、刀華に問う。

 

「まぁ、たぶん」


 昔に勝意にも言われたがする。

 幻妖の血とかなんとか。


 仙人の眼だと、普通の人が見えない世界まで見えるらしいが。

 心の目って言うんだっけ……それだろうか。


「狐族や猫族といった獣人族、鬼、龍、と魔族と違い幻妖族の種は少ない。汝からは龍の『気』を感じる」


 気って言われてもな。


「幻妖の龍祖は過去に第四魔王にいた。それが響に代わり、現代の龍祖は第七魔王のみ」


「龍祖って?」


「龍の始祖に当たる七柱。阿修羅が世界を融合し、壊れた秩序を癒そうと進化し生まれた。今ある自然の凡そは龍祖の力による物だ。万物の母とも呼ばれている」


 大地、風、熱や光など強大なエネルギーの親。

 自然の摂理、力そのものを生み出したのが龍祖……。


「すごい」


 出雲は淡々と説明を続ける。


 龍祖が生まれたのは随分と前の時代。

 既に寿命を迎えている者もいれば、世界の行く末を見る者として器をかりている者もいる。

 魔族の竜はともかく、幻妖の龍子は数少ない。

 希少種とも呼ばれ奴隷屋では最も価値が高いのだとか。

 

 そもそも本当に数少ないので、龍の子を探す事さえ無謀。

 世界に干渉せぬ様、龍祖の殆どは子孫を残さず消えたらしい。


「汝は恐らく、幻妖の龍と人の子が混じっている。一瞥には気づかず、人の子と見間違えるだろう。混血ならば種特有の耳や角が生えない者も多い。旅してみれば、こういう偶然もあるものか。面白い」


 話を聞くに、あまり龍祖の話とか出さない方が良さそう。

 ハルバラードという爵位を象徴する国があるらしい。

 そこでは奴隷屋が闇商売とし存在するそうで、かなりビビった。


「うむ、会話の種になると思うたが。汝は親に興味はないのか?」


 黙って聞いてたけど、情報量が多くてパンクしていただけだ。


「あんまり。見たことないし、初めからいない者に悲しいもない」


「それはそうだな」


 蛇肉を嚙み千切りながら、出雲は設問を続ける。


「そういえば、汝の話を詳しく聞いてなかった。城和国へは琵琶鼓城で働くため、目的は強くなる、では汝はなぜ強くなりたい? 何を目指している?」


 馬車の際、刀華が話した事を淡々と処理し彼女は疑問する。


「俺は……」


 それで俺は、これまでの事を全て話した。

 といっても、そこまで立派な物語がある訳でもない。

 楽しい事や辛いこと、今でも受け入れるのに時間を費やす。

 魔族に攻められ、師に助けてもらい、親友ができ、でも全てがある日唐突に消えちゃって、ギリウスという名の魔王の配下がアプルを殲滅して……。


「魔王ギリウス……オルゴーラ大帝国にいる魔王だな」


「知ってるのかッ!!!!」


 彼女がふと思い呟いた言葉、それが呪いの様に何度も刀華の脳へとループを繰り返す。

 オルゴーラ大帝国……聞いたこともない。

 

 いきなり距離をつめてきた刀華に対し、出雲は楽しそうに眺める。


「少しだけだがな」


「教えてくれ……!!」


 刀華のいきなりな行動に、彼女は少し驚く。

 両肩を抑えられているのだ。

 あまり人と関わらずにはいた。興味がなかったからだ。


 人に、こんな近くで接触されたのは久しく、僅かな動揺が走る。


「魔王ギリウスが統治する制限君主制な帝国、それが神銘大帝国オルゴーラ。汝の言っていたアプル村を視点とすれば、北西に位置している。十二天衆では第九席居、後は三柱の直属配下がいる。その内の一柱は汝が殺した者だ」


 三闘鬼人、か。そして―――、


「第九席居? 魔王ってのにも序列的なのが明確にされてるのか?」


「昔は国家の強さを表していたが、今現代は魔王の個としての強さが国を象徴している」


「ギリウスについて、他に何か知ってるか? 能力、顔つきや、性別、強さ、弱点、何でもいい」


 どんな情報でも些細な事でもいい。

 魔王ギリウスの情報なら、全てを知り尽くす必要がある。

 城和国でも情報は少なからず得たいと考えている。


「ギリウス・ヴォルフォニアロッテ。性別は男、魔族の中では上位種の竜。我もそこまで必要以上には知らぬ、この先は汝自身で探す事だ」


 彼女は全身を伸ばし、そろそろ寝ようか欠伸を発する。

 

「……魔王って強いよな。仲間が欲しい……」


 森にいた頃は妖と、村では主に勝意や萌萌、師匠。

 一人でいた時の方が少ない。

 正直、見えない不安さがある。


 魔王討伐にだって、直接本拠地に攻めたとして配下が無数にいるだろうし。

 現実問題、仲間が欲しい。


「仲間は大切だな。しかし、その気の持ちよう、そんな事で魔王を倒せるのか? 人生は一人、孤独は常識、それ以外は影響を与える異分子に過ぎぬ。いつだって、主人公は『己』だ莽薙刀華」


 言葉を列挙するたび、刀華の頭を軽くたたく。

 ぽん、ぽん、ぽん―――と。


「俺は、割り切れない。一人はちょっと怖い、正直な」


「汝の歳だと、何かと考え事をする事も、考えすぎる事もあるだろう。だが、孤独が怖いとは……」


 一瞬考え、何かを思い返した彼女の頬は仄かに紅潮していた。

 笠を軽く見つめ、小さく笑みを溢す。


「良い物を渡そう」


 憂鬱とした暗い刀華へ出雲は近寄り、頬へ手を当て、それがすらッと耳元にまで伸びる。


「―――御守り。これを我だと思うといい」


 彼女の右耳に装した耳飾りタッセル、それを刀華の左耳へとつける。

 チクッと小さく穴を開け、妖糸を通した。


「痛い」


「一昔、親友から貰った物だ。我は汝と一緒におれぬ、風来坊もそれなりに忙しいのだ。城和国へ着けば、互いに分かれる」


 偶然出会った刀華を拾い、城和国へと向かっているが目的は互いに異なる。

 分かっている、それは刀華とて分かっているのだ。


 男だ、いつまでも愚図ではいられない。受け入れるしか手段もない。


「……そうだな。分かった、ありがと」


「汝は強い」


「ありがと……」


 嘘でもいい、幻想でもいい、偽物でも確固たる生きる自信が欲しかった。

 復讐心だけだと、ふと孤独が邪魔をしてくる。

 皆の事を思い出してしまうからだろうか。


 俺達はその後ぐっすりと眠り、明日へと備えた―――。

 



 蕈苔討伐から馬車へと乗り、今日で五日目となる。

 俺は出雲が途轍もなく強い事は知っている。

 だから、お願いしては稽古をつけてもらう事にした。


 妖刀を鞘に内包したまま軽くいつもの様に試合をする。

 空馬と一時間の休憩時、


 風が靡き、荒野が陽炎より揺れ動く。

 そんな大自然の中心で衝撃波が迸った―――。


「出雲捌身流!!」


「いざ名を呼ばれると、流派と言えど少し照れるな」


 刀華が剣術を唱え放たれる電光石火、迎撃準備に彼女は迫る刃をギリギリに踵を返し軽く後ろへと回り込んだ。


「速さだけでは、我にはとどかぬ。もう少し押してみろ」


 妖刀は腰に添えたまま、体術のみで刀華の腕を弾き、腹を軽く蹴飛ばす。

 軽く、そう、まるで荷物を足で運ぶかの様に柔らかく飛ばされる。


「様子を見るに剣術……使いこなせておらぬな。段はどこまで扱える?」


「半分くらい……」


 仙人の編み出した流派―――出雲捌身流。

 これは八つの式からなる剣術であり、刀華が扱えるのは肆段のみ。

 初段に関しては完璧に熟知したと感じている。


 初段〝時飛ときとばし

 脚や背中への瞬間的な負担から連続使用は不可能だが、神速抜刀を誇る。


「他に剣術は何を扱う?」


「獅子十刀術、灼一臣流とか」


「……ふむ広く熟知している。基本から我が教えてやろう」


 そこらへんに落ちていた少し長い木枝を拾い、彼女は刀華へ先端を向けた。


「え……」


 意味不明で、思わず変な声が吐露する。


 まず得物が木、それも池で湿っていたボロボロの奴。

 加えてハンデとし、出雲は左眼を閉じる。

 片目で戦うのなら、視野にかなりの制限がかかってくる。

 そして目線に気の利く俺だ、流石に舐めすぎてる……。


「強度はこんなものだろう。まず、刀華の戦闘スタイルをもう少し見ておきたい」


 ボロボロの枝には紫のオーラが纏われた。妖気だ。

 そのまま向かい合い、全力で俺は仙人へと挑戦をした。

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