第12話 笠少女
あれから五日、とにかく妖魔を狩り刀華は突き進んでいた。
主に扱っている武具は万画一臣。
鎌や弓、薙刀へと千変万化し術である冷気を纏わせている。
なにせ半年もかかると言うのだ、ゆっくり歩いてなんていられない。
まだ痛みはあるが、全体的な疲労は無くなっている。
場所は山、かなり豊かで見たことのない植物、妖魔が多くいた。
見たことが無い、遭遇したことが無いだけで知識としては知っている。
萌萌が良く自慢家に教えてくれるので、何となく聞いてれば頭に入っていた。
この山……所々だが伐採や地形改変で自然が削られている。
階段っぽいのがあったりと誰かがいた気配がある。
―――とすれば、村の一つでもあったりするのか?
城和国へ行けば何をしようか……てか、どんな所だろ。
前提として、余所者が普通に入れるのか心配だ。
強くなるのもそうだが、魔王に関する情報も集めたい。
「―――ッ!!」
視線を感じ、妖魔が攻撃をしかける前に斬り殺す。
蔓が頬を掠るが、寸前で避け冷気斬撃を放った。
奇妙、体に毒が埋め込まれたか。
―――胞子?
鱗粉、みたいな奴だ。一瞬だが筋肉が麻痺した。
つーか、おいおいマジか。
「勘弁しろよ。出くわすのかよ」
最悪な妖魔と遭遇してしまった。
萌萌が巻物で教えてくれた奴だ。
名は蕈苔、こいつには二種類の系統が存在している。
主に頭にある巨大キノコの色で判別可能だ。
赤は無性生殖からくるただの分裂種、蕈苔分裂態とも呼ばれている。
青はあらゆる他種族と交配する蕈苔遺伝態と呼ばれており、本能的にある一定の寿命を過ぎれば無性生殖をし子孫を残すと言われている。
その無性生殖をした際に、遺伝態から分裂態に変態するという―――。
今世紀一番びびったかも知れない。
こいつは基本、男だろうが女だろうが襲い掛かり子を産ましてくる。
何がヤバイって、コイツに襲われると男も妊娠するのだ。
無論、生まれてくるのは蕈苔である。
基本的に妊娠させられる事は死を意味し、宿主の栄養全てを食い尽くす。
その後は細胞の穴という穴から出てくるので一週間で宿主は枯れ果ててしまう。
昔の国だと、よく拷問で使用された異色兵器らしい。
あー。考えただけでぞっとする。
蕈苔は群れでいたはずだ。
有性生殖である蕈苔遺伝態を守るため、赤色の蕈苔分裂態がいるはず……。
個として独立した存在には、固有の術や魔物なら権能が備わっている。
物怪レベルの強者を除き、群れでいる、もしくは低級の妖魔は個体全てに共通した術が刻まれている。
そこから成長し、術を認識する事で進化するのが魔物や妖魔ではよくある。
つまりは、雑魚といえどそいつらが物怪レベルまで進化すれば足元をすくわれるという訳だ。
万画一臣の刀身を長く調整変換させ、冷気を纏わせる。
妖気展開を終え、息を殺しながら青色の蕈苔へ肉薄した。
一撃で決める―――、
「よッ」
―――〝六華・凛纏斬〟!!
超密度の冷気凝縮、相手を凍結しほぼ零秒で粉砕する太刀に蕈苔は胞子を妖気より実体化させ、防壁を作りだす。
その防壁ごと凍結させては粉砕し、一刀両断する。
青い蕈苔を殺したと同時、左右に襲い掛かる赤い蕈苔に対し、くるりと身体を回しては、腰へと当てた妖刀を鎌へ変換させる。
そのまま遠心力に斬り飛ばし、即死させた。
こんなもんだろう……。
変換する隙や小さな調整も、実戦でかなり鍛えられた。
けど、他にもいるよな。
胞子の匂いが後ろから僅かに匂ってくる。
そして敵意を示した視線、俺を殺す気満々だ。
方角に意識すれば、赤い蕈苔が俺へ目掛け一〇体も特攻してくる。
流石にドン引きした……こんなにいるなんて考えもしなかった。
「よッ」
鎌を薙刀に、再び妖気と冷気を纏わせる。
蕈苔全てを殺した刹那、真後ろへと一回り巨大な蕈苔遺伝態が現れていた。
その場、環境全てに胞子を散々とし一瞬、意識がとびかける。
「親玉かよ」
息を殺していても眼球や耳などから、ウイルスが侵入してくる……。
構えた時、目前の青い蕈苔が巨大な怪物によって食われ消滅する。
怪物の正体は妖気で形どられたクジラ。
一瞬だけ見えたが無数の模様が描かれた幻想的なクジラ。
蕈苔を一口で丸呑みし、大海が生まれてはどこかへ去って行った。
途端、衝撃波より土煙で溢れかえり、目を凝らせば人影が映っていた。
陽炎から揺れるその影、一瞬で蕈苔を殺った者だ。
俺へと気づき、足を運んでくる。
敵意は感じない……。
「同僚? もしくは、この辺に住んでいる者……? 無事か? 蕈苔大量発生、新種の蕈苔寄生態を探している。緑色らしいのだが、分かるか?」
尻餅をついた刀華へ同じ目線に腰を落とし、設問ながら手を差し伸べる。
女性にしては身長は170と高い。
ボブヘアーな黒髪に両耳は古風な首飾り、内に白を着込んだ和装、顔は見えにくく鮮やか漆黒の笠を被っている。
笠には尻尾の様な二つの飾り、青や水色、それが不思議と刀華は目に入った。
腰には二本の妖刀を装している。
一本抜いているという事は、さっきのクジラの正体がそれだろう。
「……大丈夫か?」
綺麗な銀眼をしていた。銀……?
銀色、宇宙を封じ込めたような不思議と目を引く淡色だ。
「大丈夫……っ」
少し距離を詰めては、頬へと手を当てて来た。
温かい……。てか、どういう距離感……?
初対面……。
「男か。汝は美しい顔立ちだな。怪我をしていれば、すまない」
手を差し伸べ、屈伸と共に刀華は立ち上がる。
「我は蕈苔を探している、緑色の蕈苔を見たか?」
彼女は素朴に設問をぶつける。
「い、いや……。あぁ、でも」
え? 蕈苔って赤と青以外にもいるの? 気持ち悪い。
「あそこから蕈苔がいっぱい出て来たし、可能性は高いと思う」
「そうか……。汝も気を付けるのだぞ」
かっこいい……刀華が受けた印象はそれだった。
彼女は怪我が無いのを確認し終えれば、発生源へと歩いてゆく。
その時、目に映った物に記憶が遡る。
彼女の腰にあるベルト、タッセルの他、札が掛けられていた。
特徴的な札だ。巻物で見たことがあった。
強さのランクを色で表された札。
下から順に、黒、白、黄、緑、赤、青、桃、紫の八つがあり紫に行くほど強者と枠組みされる。彼女は黒札だ。
「―――琵琶鼓人?」
刀華の溢した言葉に、彼女は振り返り無言で頷く。
「最近入ったばかり、初の依頼が蕈苔という訳だ。汝は同僚か? 依頼内容は被らぬはずだが」
琵琶鼓人は妖魔や魔物を狩るために創設された琵琶鼓城に所属する人達の総称だ。
札というのも、琵琶鼓人のみが所持している一種の証明書。
その琵琶鼓城が在する国、それが城和国―――。
これも萌萌が言っていた。
視野に入れていたが、とりあえずはそこで働き食いつなごうとは考えていた。
まさか、こんな所で本物に出会えるとは……。
「俺も城和国へ連れてってほしい」
「……迷子?」
彼女はジト目気味に観察する。
「俺は城和国を目指して流浪していたんだ。道を知ってるなら、ありがたい」
彼女は少年の身に着けた妖刀に銀の瞳を凝らす。
万画一臣ではなく、摂儺の方だ。
首を傾け少年全体を視野に保存した。
「……問題ない。しかし優先順位は依頼だ」
「俺も行く!!」
「了解した。我は庇ったりしない、自分の身は自分で守るのだぞ」
「おうよ……!!」
純粋な少年の笑顔に、彼女は静かに笑った。
§ §
蕈苔を、主に分裂態の方を殺しまくり一つの大穴へと辿り着いた。
にしても、このお姉さん超強い。俺が知らないだけで、どっかの有名人だったりするのか?
でも黒札だしな……。
術を使わず、軽い妖気展開だけで斬り刻んでいった。
なんなら、退屈なのか途中で欠伸なんてしていたし。
気になる点といえば、物凄く俺を観察してくる。
人の視線に敏感な俺だからこそ気づけるのかも知れないが、まぁ良く見てくる。
「汝。名は何という?」
大穴に飛び込むか、色々葛藤していれば彼女が言葉を投げる。
「莽薙刀華だ」
「よい名だ。では刀華、この依頼のランクはそう高くない。見たところ本調子では無さそうだが、それなりに戦えると見える。この大穴は恐らく蕈苔の巣だ。敵も多いが、我に遠慮せず戦うと良い」
実力を見たい、と解釈し刀華は自信満々に答えた。
可愛い、と感じ彼女は刀華の頭を乱雑に撫でる。
勝意や師匠もそうだった。
何故か、事あるごとに頭を撫で始める。
「―――入るぞ」
そう言い、先に彼女が入っては刀華も続いて穴へと息を殺しながら侵入した。
真暗な経路で、謎の異臭が漂っている。
よく底が見えない部分に躊躇いもなく入れるもんだ……。
うわー、なんか臭い。
鼻がツンとする。
「おおお、おおぃッ……!!」
真下へと自由落下し、先に降りていたお姉さんに両手で抱えられ何とかなった。
こういうの、お嬢様抱っこって言うんだっけ……なんか恥ずかしい。
「いつまで抱えてはおけぬぞ」
そのまま腕を放し、大きく尻餅をつく。
「いってええ」
「ここが蕈苔の発生源、で間違いないな」
巣へ眼を向けた時、一面に蕈苔が映った。
それも無性生殖から生まれた小さな蕈苔である。
姿形はそこらへんの蕈が赤くなっただけで、食用だと普通に見間違えしそうなレベル。
ある程度まで成長していないなら、食しても問題なく消化できるらしいが、まぁ食べたくないな。
「あれが寄生態だ」
―――きっも。
頭の巨大蕈が緑色というだけでなく、全身からカビの様な白い胞子を身に纏っている。
そして臭い、臭すぎる……。
というか、頭のキノコから変な汁が垂れてきている……触れたくない……。
「俺は援護する。刀でも触れたくないから」
「了解した」
妖刀を弓へと変換し、氷矢を一閃する。
だが、泡状になった胞子を防御に凍結が逆に侵食され奴の養分となる。
こいつ雌なのか……?
真下の泡の白い胞子から蕈苔の赤ん坊みたいなのがうじうじと湧いている。
―――拒絶。
生理的に受け付けない俺がいる……マジで無理、本当に無理……!!
どうでるのか、隣のお姉さんに目を向ければ既に姿は無かった。
「―――ッ」
淡い水飛沫と共に、妖気が爆裂した。
斬撃、ただ一刀に緑の蕈苔が消滅し淡い胞子で周囲が爆発しそうになる。
「〝凛〟ッ!!」
周囲一帯を冬に、飛沫する胞子を全て凍結させ砕く。
後は発生源である爆発しそうな寄生態を潰せば、それで解決……!!
「無意味だ。ゆくぞ―――ッ」
「え、ええええっ」
軽く転ばされ、刀華を片腕で抱えては大穴に向け彼女は走り出す。
しかし、入口としての機能は良いが出口にするには困難だ。
自由落下の様な入り口であり、どう考えても上るのに両腕が必要となってくる。
蕈苔が増殖し爆発しそうな時、彼女は妖刀を翳す。
どこかの名刀なのか、摂儺とほぼ同格な妖気を感じる。
禍々しく、刀身には四つの巨大な眼が彫られ凝らせば鋸を思わすギザギザな刃が備わっている。
万画とも摂儺とも違った、独特とした刀だ。
さっきのクジラの奴だろうな。
「幻術」
唱えられた呪に、巣の真上へと巨大な穴が痕跡とされる。
震撼し、今の一撃で出口を強制的に作るだけでなく、巣を壊滅とたらしめた。
瓦礫が落ちてこず、何かに飲み込まれた感じだ。
地層そのものが破壊された様に見え、事実消えている。
膨張し膨れ上がった蕈苔が爆音と共に破裂、二人は脱出した。
「すご……今の攻撃」
視界も先より明るくなり、温度も上がる。外だ。
「依頼達成。怪我はないか?」
言いながら、またしても抱えていた刀華を落とし、大きく尻餅をつく。
「……少し痛い、かな」




