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阿修羅天世(改稿中)  作者: 鈴政千離
第二章 城和国編
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第11話 共鳴

 莽薙刀華。


 彼は今、山を登り城和国へと向かっている。

 いい景色で空気も美味しいというのに、こういう日に限って妖魔が襲い掛かって来るのはいつもの厄日。


 疲労はラハードの件で大きいが、確実な成長を感じていた。


「出雲捌身流―――初段しょだん


 摂儺を構える時、空から突撃してくるのは鯉狂こいくるいと呼ばれる巨大魚の妖魔。

 蛇の様に顎を広げては口の中からもう一つの口が出てくる。


 正直、見たくなかった……気持ちわりぃ。


「〝時飛ときとばし〟!!」


 踵を返し、舞う様に身体を回転させ鯉狂の首を斬り落とす。

 刀華が先程使った妖刀は心羅から授かった、天下無双七英神将『摂儺せつな』。

 幻術が扱えなくとも桁違いな妖気量に質を誇る一品だ。


(おーい。動きに無駄があったぞ)


 摂儺に封じられた阿修羅がそう呟く。


「知ってる」


    §    §


 ―――昨晩。


「阿修羅……」


 名を聞いた途端、脳裏を過る。

 師匠から授かった摂儺に封印されたという鬼神だ。                                                                                                                   

 こいつ……が、本物の……。

 無意識にも阿修羅と聞けば邪悪を体現した巨男を連想していた。

 意外にも女の子だったとは……。


「余の名を知らぬか? 余は自己紹介をした、主は何者だ、名乗れ」


 傲慢に高らかに、しかし不快感は謎に感じれず言葉を交わし始める。


 ……名前、そう名前だ。


莽薙刀華くさなぎとうか


 気楽に阿修羅は刀華を観察する。

 何度もまじまじと、物珍しい物体を吟味しているかの様に―――。


「ふーん。主、魔王だろう? 分かるぞ」


「え。いや、違う……けど」


 沈黙も束の間、


「え?」


「え」


 そして、調子を取り戻し阿修羅はコチラに笑いかける。


「あれあれ、長ったらしい名前の天下無双なんちゃらの『摂儺』という封印刀だ。儺面がモチーフだったか? 兎にも角にも長らく出れなくてな、コミュニケーションを取るのは久しぶりだ。封印、解けたりしないか?」


 何を言っているか、刀華は一先ず黙り込む。

 まずは封印という言葉だ。

 鬼神という意味は深く知らない、だがニュアンスだけでも多分世には放っちゃいけない的なのは分かる。

 何しろ、今の空気が陰気で不安を感じているのだ。


 『鬼神』阿修羅、それを封じた妖刀が誰でも封印解除できるのなら、とっくに世界に災いが起こっている。

 

 つまりは不可能だ。


「無理でしょ」


「勝手に共鳴しておいて随分身勝手な者だな、主」


「共鳴……?」


「共鳴は基本、二極化されている。力を授けるその代価として主の体を貰う、早い話受肉だな。もう一つ、傲慢にも腕に自信があるのなら主の力で余を帰伏させる。しかし、主は余の魂と急にリンクし共鳴した。聞いたことのない事例だ。知らぬ」


 何を言っているのかよく分からない。

 とりあえず、殺意はないと判断していいだろう。


「なった物はどうしようもない。余も深く理解できていないからな。たまにでいいから、話に来てよ。でないと余は暇死にする」


 意外にもラフな口調に、刀華の緊張が解けてゆく。


「……」


「……なんだ?」


「え、いや。そもそも、何が何だかまだ整理がついていない」


 何をするにも、動く事も、極端に言えば息をする事さえも面倒そうに阿修羅は寝転んでいる。


「にしても、共鳴のおかげで広く外が認識できる。名前……莽薙刀華だったな、長い付き合いになる」


 先から疑問に思っていた事がある。


「なぁ、お前。なんで封印なんてされてるんだ?」


 刀華の中では危険人物判定。

 しかし、話してみれば特に悪者っぽくも感じれない。

 本当は何かの被害者だったりするのだろうかと。


「世界を色々融合させ創造した余は、多くの犠牲から世界を壊滅しかけた咎人とされ国中が結託して封印したのさ」


 普通にヤバい存在だった。

 言葉の意味が分からない。

 なんだ、世界を色々融合って……。


 師はどうやって、この妖刀を使いこなしていたのか。


「心羅っていう人間を知っているか?」


 師匠は強かった。

 この認識は間違っていないと、修行をしていた過程から刀華は知っている。

 それこそ何年修行しても追いつけないレベルでだ。

 ラハードを殺したのは俺自身、だが相手も少し弱っていた。


 最後の勝意や心羅の手助けが無ければ、俺も首を切断され死んでいた。


「その口ぶり、余の前の持ち主の事か? 知らぬ。共鳴による契約はその者にとって論外だったのだろう、だから力の屈服で余を飼いならそうとしていた。もっとも実力を測れる程には脳はあったな。主はラッキーだ」


 疑問が湧く。


 少なくとも、師匠より圧倒的に弱い……。

 今思えば師匠は共鳴? というのをせず、ただの刀同然であそこまで化物じめてたのか。

 

 再めて驚愕させられる。怪物じゃないか。


「共鳴したのなら、早く外に出たいぞ。代われ、代われ、交代だ」


「共鳴どうのこうのって、まだよく分かっていない。お前は俺の敵なのか?」


「敵というより共鳴は一心同体だ。主は余で、余は主だ。お互いどちらかが死ねば、もう傍らも死ぬ。魂の回路には共鳴、受肉、器という三つの言葉がある。受肉は宿主を殺し乗っ取る、ただ宿主が軟弱過ぎれば受肉すれど耐えきれず共倒れだ。運良く人格破綻で済めばいいが、まず死ぬ。共鳴は契約や力の帰伏者へ術や力を貸す、器は無条件での共鳴、支配を指す。稀有な事例で余も正確な事は言えぬが、今は共鳴でも器という言葉が近いな。分かったか?」


「全然分からん」


「じぁ忘れろ」


 阿修羅が笑い、小さく合掌をすれば、そこに一本の樹木が生えてくる。

 無数に散り、一本の木に花がなっている。

 梅や桃、向日葵など、あらゆる種花が一本の木へと満遍なく開花しているのだ。


 不思議だが、幻想的なその景色はどこまでも綺麗だった。


「遊戯をしよう」


「……はぁ」


 阿修羅は指をキッ―――と下ろすせば、花弁が下り二人の間に樹木で創造された盤上が現れた。

 無から宙へと花々な景色が浮かび上がる。

 その内一つの花が俺の頭へと乗っかった。


「盤上遊戯『将棋』だ。たまには、頭を働かそうではないか」


「ルール知らない」


「えー。仕方ないなー」


 ルールを教えてもらい、一局を打った。

 無論、ボロ負けだ。

 何度か戦局も教えてもらい、一時間程時間が経つ。

 寝ているので、現実世界ではどうなのか分からない。


「なんで、このお茶美味しんだろ」


「味も全て想像力だ。別に飲んでいる、そう錯覚し感じているだけで、胃の中には流れておらぬぞ」


 次はどの手を打とうか、頭を悩ませる。

 将棋は駒一つ一つに動ける範囲が指定されており、先に王を狩れば勝ち。 

 飛車や角といった強力な駒も抜いてもらったが、それでもボロ負け状態である。


「どんな駒も使いようだ。雑魚も敵陣へ入れば、裏返る」


 香車という駒が、飛車という駒が盤上での俺の陣地に入る事で強化され、更に王とそれを囲う防御駒が危惧される。

 こっちは一手一手に防衛するべきか、許容し攻めるべきかで頭を悩ます。

 ついでに、待ったは無しだ。

 個人的なプライドとして。


「そういえば主、言っていたな。復讐がしたいのか?」


 実際、阿修羅へ伝えた訳ではない。

 刀華が阿修羅と共鳴した際に、外界の声や匂いといった五感が阿修羅へと入り込んできたのだ。

 遮断しようと思えばできるが、暇をしており興味がてら耳を傾けていた。


「そうだ」


 刀華の率直な言葉に、阿修羅はまたもや面倒そうに溜息する。


「辞めておけ。何も良いことがない」


「俺が決めた事だ。お前には関係ないだろ」


 刀華が一手進め、それを読んでいたかのように阿修羅も手を打つ。王手だ。


「復讐なんて、人生の長い目標を作れば後悔があるぞ? 何もせず、気楽に生きるのが健康じゃ。一〇〇〇年以上生きた余が言うのだらか、間違いなし。証明終了」


「……後悔してもいい」


「えーやめようよー」


 それからも、何度も阿修羅は刀華の復讐を止めさせようと説得させていた。

 何度も何度も、しかし感情的になる事なく会話をし、ふと刀華は思う。


「なんで、そんなに止める?」


 唐突な疑問から、打つ手を止め阿修羅は目を逸らす。


「……」


「あー共鳴? って事は、俺が死ねばお前も死ぬのか」


 沈黙が続き、


「そうだな。共鳴も器もそういう物だ」

  

 当の阿修羅からすればリスクでしかないのか。

 いやでも、俺も共鳴した原因とか分からないし。


 また一手を打ち、王手をかけられる。


 そこで、少しずつ意識が朦朧としてきた。


「これ……」


「ああ。そろそろ主が起きる時間だ。ここは、夢に近い物でもあるしな」

 

 手で払えば周囲が淡く輝き、俺の意識が静まってゆく。

 広大な海の中、深く深く潜り込んで行くように―――、


 意識が覚醒した時、時間は分からないが朝日が見えていた。

 とりあえずは背伸びをし朝食の為狩猟準備をする。


 と言っても刀を添えるだけ。


(起きたか)


「え?」


 収めた二本の妖刀、その内の一つ摂儺から声が飛んでくる。


(軽く思念を飛ばせば会話ぐらい可能だ。他者には聞こえぬがな)


 ―――かくして、俺は阿修羅と共に城和国へ流浪する事へとなった。

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