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たちあがれ多摩の衆人どもよ  作者: 椎葉 十嵐
吉祥寺前線基地編
26/27

第26話 脅威は未だ去らず(二)

 八千代が「その話、もう少し、詳しく聞かせてください」と食いつく。

「全く以って無根拠な仮説ですが……国の方で電力を止めているのにそれが使えていたというこそは、単なるミスでないとしたら、『第三者の関与』があったということを示唆しているのではないかと思うんです。そして、電力供給は寝返ったと同時に(・・・・・・・・)ストップした。となると、その『第三者』というのは『東京国』あるいは彼らを支援する何らかの存在であると推定できるのではないかと」

「なるほど、確かに妥当な推論です。しかし、東京で、市民の生活を完全にカバーできるほどの発電が出来るとは到底思えませんし、海外からの支援があるとしたら、電気が海を越えてやって来ていることになります。クーデターにそこまでのコストをかけて支援を行う必要があるんでしょうか? まあ、国家の支配が目的なんて言われたら何も言えないですが——あれ、その場合、都知事は外患誘致罪ということになるような——」

 こんな具合で長々と早口の反論をされたため、自分の推論に対する自信を失ってしまった樋里は、そのまま何も言えなかった。そしてそのまま、この話題はお蔵入り——つまり、ひとまず置いておくこととなった。


「では……さっきの話に戻りましょうか。吉祥寺の皆さん、そちらの方は現在どういった状況でしょうか」

「そうですね……正直言って、少々浮かれすぎている部分もあるような気はするのですが——」

 と、ここで八千代の方をチラッと見ると、ちょうど鋭い目でこちらを見ていた。「せっかく元気づけようと思ってやったのに、その言い方はないでしょう!」と言わんばかりの目で。

「——ですが、依然として北部の警戒はしっかりと行っていますし、特段以前と変わることがないとはいえ、万全の状況が整えられているかと思います」

「なるほど、ありがとうございます。戸越さん——お国(・・)の方はいかがでしょうか」

「そうですね、首相を中心として組織される対策本部にて、出来る限りのことをやっているという段階です。先ほどの電力の件もそうですが、あれは無駄だったんですね……。今後の話になってしまいますが、こちらの方から正式に自衛隊をしっかり動かせるのは当分先になるかと思いますので、それまでは物質的な支援がメインとなります。もちろんこれは法で規定されたものではないですから、決して公にはできませんが。危機的な状況というのもあって、やっぱり風当たりが強いんですよね。そんな時にこんな案を打ち出したら、『国民を捨て駒にするというのか!』みたいな批判ばっかりになるのは目に見えてますから——ちょっと話し過ぎましたね、すみません」

「いえいえ、良いのですよ。では、状況を確認できたところで、改めて本題に入って行きますが……さっきはどこまで話が進んだんでしたっけ?」

「さっき八千代くん……いや、八千代さん?が言ってくれた通り、武蔵野市との境界部が危険に晒されることがない程度に練馬区南西部を掌握する、というところまでですかね」

「ああ、そうでした、ありがとうございます。では、制圧範囲をどの程度にするか、どなたか案はありますか?」

 吉祥寺市街地と杉並区との境界が一キロ前後であったことを考えると、それだけでは流石に物足りないというか、心許こころもとないので、二キロ程度は欲しい。だとすると、適しているのは——。

「あの、西武新宿線以南を奪取するというのは……?」

「……ん、結構いい案なんじゃないですか?」

 戦術家のお墨付きを頂いた。ありがたい限りである。

「というのも、上石神井駅には『車両基地』があるんです。そこを手中に収めることができれば、仮に『東京国』内で現在も電車が走っているのだとしても、交通面でのダメージをかなり与えることができるのではないかと思うのです。距離的にもちょうど良いですしね」

「なるほど、では、西武新宿線のあたりを取るということなので……そのもう少し北方にはなってしまいますが、

 新青梅街道以南を確保するという方向性で、皆さん、いかがでしょう」

 皆、賛成した。となると、次の問題は——どうやってそこを攻め落とすかだ。区の境界部では睨み合いが続いている状況だろうし、正面突破のみを当てにするのは少々心許ない。どうにかして、上手いこと練馬区に侵入できないものだろうか……? そう考えていた樋里の頭に、ふと一つの画期的なアイデアが降りてきた。

「あの……外環道から攻めてみるというのはどうでしょうか」

「と、言いますと……?」

「外環道は、大泉ジャンクション以南では地下空間を通っているんですが……ちょうど練馬区、それも南西部の、杉並区とほど近いところに、『青梅街道インターチェンジ』というのがあるんです」

 桃井区長が顔をしかめた。何かを察したらしい。そう、このインターチェンジは、練馬区の意向が強く反映されて作られたものなのだ。杉並区側が一貫して反対を主張したこともあって、北側のみに通じる「ハーフインターチェンジ」となったが、他に二つ、立ち消えとなったインターの計画があった中で、これが生き残ったのは、やはり練馬区の強い要望があってのことだ。もちろん、こんなことはもはや忘れ去られている。なにせ、七十年も前の論争なのだから。

「南方から、青梅街道インターを通って練馬区内に侵入するのです。もちろん、区を跨ぐ辺りは警戒されているでしょうから、トンネルの真下を通っている避難路を利用します。ある程度行ったところで本線に戻って、インターを目指すのです。……いかがでしょう」

 震え気味の声でそう言うと、八千代が目を輝かせながら反応した。

「高速道路……そういう発想は私にはありませんでした……! 確かに、地下を走る高速の、しかもその緊急避難路となれば、ある程度手薄になっている可能性は高いですし、そこさえ突破できれば西武新宿線の辺りに辿り着くのもかなり容易になるかもしれません……!」

「ほ、他の皆さんはどうでしょうか……」

「僕は良いんじゃないかと思います」

 押立も賛同する。政府のあの——戸越はというと、特に言葉を発さず頷いている。そういえばこの男は、さっき政府の状況を問われた時を除いて、存在感を消しているような気がする。最初のあれで意気消沈してしまったのだろうか……。だとしたら、少し可哀想かもしれない。

「なるほど、では、それで行きましょう。外環道から侵入を行う一隊が先陣を切ったのち、東西から——そうですね、ここで西東京市あたりの協力も仰ぎたいところですが——攻め込んで、南方——武蔵野市からも兵を送り込んで、目標の地域を取り囲むような形にするのが理想でしょうかね」

 全員が頷いた。こうして、作戦に関しては合意に達した。

「ところで樋里さん、この話はしておくべきだと思うので申し上げますが——私、『東京国あちら』の味方をしている中で、かなり不可解に思ったことがいくつかありまして」

「はい、何でしょう」

「まず、『東京国』は最初、東京二十三区出身でない者を一気に排除したわけですが——『非都民』の確保にあたった彼らは、今組織されている市民兵でもなければ、自衛隊員でもないはずです。それなのに、自衛隊の攻撃をものともせず、むしろ満身創痍の状態になるまで叩き潰してから追い返した。そんなことができるのって……一体どんな人たち(・・・・・・)なんでしょうか?」


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