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ゴーン  作者: 京本葉一
3/10

 これもまた、二足歩行の儚さか。

 鉄器をふりあげて追いかけてくるニンゲンどもの滑稽な姿をあわれに思いながら、尻尾を向けて走り去る。

 私である。

 ゴーンである。

 口にかぶらをくわえたとて、ニンゲンとは速度が違うのである。


 ニンゲンどもが飢えなくてすむようにと、土壌改良をしてやったり、日照や雨量を調整してやったり、ネズミ狩りに協力してやったり、いろいろと手伝ってやっているというのに、おらの畑だの、おらの農作物だの、おらのおらのと騒がしくわめきたてるばかりで、かぶらひとつ気前よく与えられんとは、なんとも情けない。


 こちらの思念が伝わらないのが苦しいところか。

 違いをつくりだすことが生命の法則なれど、発声による言語能力とはまた、めんどうなコミュニケーションツールを獲得したものだ。

 同一言語でなければ意味をなさない欠陥ツール。地域集団によって言語にも差異がうまれるのが道理であり、相互理解に難が生ずれば、無用な争いもうまれよう。

 難儀なものである。

 これもまた、ニンゲンという種の分化を加速させようとする、生命の法則のあらわれであろうか。


 能力を強めるか機器を使用すれば意思の伝達などいかようにもできるのだが、それなりの負担はあるだろう。無理をしてはニンゲンが狂うかもしれん。なにより、そこまでしてやる気にはなれない。

 本来ならばここまで関わり合いになるつもりもなかったのである。

 が、いたしかたない。

 可愛い娘たちに土産を持っていってやらねばならない。

 喜んでくれるなら是非もない。

 労を惜しまず、捧げたい。


 もちろん与えるだけである。私たちからすれば、賢者たちのつくりし同族たちは、幼い子どもたちも同様である。保護対象ともいえる子どもたちに求愛するなどもってのほか。ありえない所業といえよう。

 もっとも、私も雄である。

 賢者たちの気持ちもわからないではない。

 それほど可愛い。想像以上に可愛い。実際に会ってみると嗅覚にくる。五感をこえてくる可愛さがある。私も繁殖期であったら危なかったかもしれない。この惑星の公転周期でいえば、あと数百年は大丈夫だろう。念のために用意した繁殖衝動抑制装置もある。なにかの間違いで壊れたり失くしたりしないかぎり問題はない。


 私の領域であった奥深き山中に迷いこんだ娘たち。その衝撃の愛おしさ。保護しているうちに、ニンゲンたちがいる平野部まで降りてきてしまったわけであるが、後悔はない。


 かわゆい生命を守ろう。

 留まっていてはわからない。

 暖かくなったら旅にでよう。

 未だ見ぬ、可愛い娘たちを愛でなくてはならない。

 生命の法則を讃えよう。

 みんな違って、みんな良い。

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