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惑星テラ。
理想的な新天地とされながら、移住希望者があらわれない未開の地。
一般的には訪問を申請するだけで親族その他の絶縁状が必須とされ、ほとんど禁則地のような扱いをされている惑星に、いま、移住者第一号が降り立った。
私である。
ゴーンである。
実際には無許可の訪問者がそれなりにいるらしいが、公式に移住を申請して降り立ったのは私が初めてとなる。
私の場合、親族その他の絶縁状は必要ない。なぜなら私は歴史にその名を刻まれた賢者たちの孫であり、惑星テラで生まれたハーフを父母にもつという、稀有な出自であるからだ。幼いころはいろいろと気をつかわれたものだが、それもまた、我がルーツを知りたいと願う動機のひとつとなったのだろう。
一族の期待など背負ってはいない。
あまりいい顔もされていない。
しかし、私が移住せずして誰が移住するというのか。
使命感にも似た熱い想いに綿毛をふくらませ、いま、私はこの四本の足で惑星テラの地表に立っている。
緑豊かな山々があり、水資源も豊富な島である。
大気圏外から観測したところ、大陸と比較して平和な土地とおもわれた。
惑星テラの生態系は父母たちが暮らしていた頃とは異なっており、誠に遺憾ながら、陸上部ではヒューマン種が個体数を増やしている。同族殺しを好む野蛮な生物だ。種そのものを滅ぼすことは容易であるが、先住生物に対する殺戮行為は厳に戒められている。一族の名誉のためにも安易に法を犯すわけにはいかない。
私はゴーンである。
平和主義者の紳士である。
争いは好まない。この島にもヒューマン種は棲息しているが、生活領域を遠ざければなんとかなるだろう。相手がどれだけ愚かであっても、近づかなければ問題は起こらない。
恵み豊かな奥深き山中にて、スローライフを満喫しようとおもう。