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3.ジュスティーヌの手記(下)

this is the dream, beyond belief [手記1と同じ]

https://www.youtube.com/watch?v=YNKzsIq-wwk

 改めて、考えました。


 エルダの町を回避しても、思いもかけぬ形であなたが亡くなってしまうだけ。

 やはりエルダの町の襲撃が、もともとの運命のかたちなのです。

 だから、あの襲撃に介入するのが運命の向こうに行く、唯一の方法なのでしょう。


 毎回、わたくしは、盲滅法にただもがいていました。

 それではいけないのです。

 それではこの呪いには勝てない。

 結局、暗殺者が何人来ているのかすら、まだわたくしは把握できていないのです。


 最終的に成功するためには、もっとあの襲撃がどのように起きるのか観察しなければならない。

 十分な策を練り、力をつけ、襲撃をしのぎきることに集中しなければならない。


 目の前にいる「このあなた」を見捨てなければならなくとも。


 運命の日、わたくしは防御に徹して、できる限り居合わせた人々と、暗殺者の布陣を確認しました。

 やはり、群衆の中にカタリナは紛れ込んでいました。

 カタリナが死んでいても襲撃は発生しますが、生きていれば最後の最後で立ちふさがるのはカタリナなのかもしれません。

 次からは、彼女をまず排除しようと決め、わたくしは「戻り」ました。




 探索を進める上で困ったのが、王太子妃、公爵令嬢という立場がとても不自由なことです。


 王太子妃となると、ほぼほぼ行動の自由はありません。

 ですが、王太子妃とならず、家にとどまったとしても、動けるのは貴族の館と王宮、あとはサロンくらい。

 エルダの町をじっくり下見することすらかないません。

 風景画を趣味にして、スケッチ旅行でもと思いましたが、あまりに元気だとどこかに嫁がされてしまいます。


 あなた以外の者に嫁ぐ──


 それまで他家への嫁入りについては回避することしか考えていませんでしたが、貴族達の内情を探るためには、怪しい家に嫁ぐというのも有効なのではないかと、気が付きました。


 幸い、暗殺者の顔ぶれも徐々に覚えてきたところです。

 特に、右眼の下に青い痣のある男。

 あんな目立つ風貌で暗殺者というのは解せない気もしますが、彼は必ずあの場にいるのです。


 名を挙げるのは差し控えますが、わたくしはなるべく暗殺をたくらんでもおかしくない家、またはそこに近い家、貴族間の内情によく通じている家を選んで、幾度か嫁いでみました。

 他人の妻となって、わたくしではない方を妃として娶られたあなたと、社交の場で顔を合わせるのは、奇妙な感じでしたが。


 そうしてみてわかったのは、暗殺を企てる家は決まっていないということでした。

 王家に不満のある家がいくつかあり、その中の一つが起こしているのです。

 まるで、あなたがあの日あの広場で殺されることが先に決まっているよう。


 計画を進めていたある家の証拠を押さえ、直前に告発して巧く計画を潰せたこともありました。

 今度こそ成功したと思ったら、やはり黒い渦に吸い込まれてしまいました。

 わたくしが把握しきれていなかった他の家が引き継いで、暗殺を実行したのでしょう。


 やはり、暗殺をその場で食い止める以外に道はありません。

 時は進み、「戻る日」はもう3月なかばに入っていました。

 月末には、王太子妃候補となるつもりがあるかどうか父に問われます。

 その返答で、王太子妃になるかどうかが決まります。


 わたくしは、王妃という立場ではなく、第三者として介入する道を選びました。

 これで、あなたとわたくしは今後結ばれることはなく、シャルロットもほかの子どもたちも「産まれてこない」ことが確定しました。


 子どもたちを失うのは、辛かった。

 でも、ターゲットであるあなたを、暗殺者達は死角から狙ってきます。

 始まる前から、敵に有利な位置をとられてしまう。

 何度も何度も王妃として戦いましたが、この不利を覆すのは並大抵のことではありません。


 次は、戦闘能力を上げること、そして実戦訓練を積むことを考えなければなりません。


 あの暗殺者達はそれなりの手練です。

 一対一ならとにかく、まとめてかかってこられるのですから、相当鍛え上げねば、太刀打ちできません。


 まず、魔導師の家を選んで幾度か嫁ぎました。

 魔法の練度が上がったせいか、「斉射フューサレイド」を覚えることができたのは僥倖でした。

 最初は3発分しか並べられませんでしたが、練習を重ねていけば、増やしていけるはずです。

 といっても、魔力をごっそり持っていかれるので1回しか打てませんから、あまり魔力を使わずに、他の者を素早く倒す方法を別に考えねばなりませんが。



 魔導師の家に嫁いで魔力を磨き、あの日に合わせて家を抜け出してエルダの町で戦う。

 でも、幾度か繰り返すうちに、これでも足りないと気が付きました。


 わたくしの能力は徐々に上がってきています。

 でも「本番」は、15年に一度。

 だいたいの配置は覚えているとはいえ、ほぼぶっつけ本番で暗殺者達を倒し、勝ち切るのは無理です。

 これは、立ち回りを練り込み、眼を閉じていても正確なタイミングで敵を倒せるほど身体に覚えさせて、初めて勝てるかどうかという戦いなのです。


 誰かの妻であったり母であったりしたら、到底時間が足りない。

 練習する場もありません。


 でも、嫁がなかったとしても、公爵家の令嬢では、なかなか一人にはさせてもらえません。

 不審な行動が度重なると、領地の館で半幽閉となったり、目に余れば修道院、なんなら精神病院に放り込まれてしまいます。

 一度嫁いで出戻っても同じことです。


 エルダの町から、馬で2、3時間のところに、母の実家の支族の領地があります。

 あの家の「預かり」という立場になれば、侍女もつかないでしょうし、かなり自由に行動できるのではないかと思いつきました。

 エルダの町をじっくり観察し、暗殺者達の事前の動きを把握することもたやすくできます。


 スキャンダルを起こし、領地の館に留め置くにも困るような本家の令嬢を、支族が預かるということは、ままあることです。

 わたくしが母の実家に戻され、しかも母の実家では持て余して支族に押し付ける。

 そういう展開に持っていくには──わたくしが父の子ではないということにしてしまうしかありません。

 父の子である限り、わたくしはシャラントン公爵家の者なのですから、支族に「預ける」にしても公爵家の傍流の家になってしまう。

 それではエルダの町からあまりに遠いのです。


 わたくしが実は母の不義の子であったという証拠を捏造し、第三者に暴露させました。

 父や兄達が信じざるを得ない状況を作り出すには、何度も何度も試行錯誤が必要でした。

 ようやく成功した日の夜、母は自殺しました。

 わたくしは、母の実家に戻され、狙い通りの家に預けられました。


 一度目。

 そこまでして得た機会だったのに、あまりにもお母様お父様に申し訳なくて泣き崩れてしまい、なにも出来ずに終わってしまいました。


 二度目。

 ある程度は動けました。

 でもまだ火力が足りない。

 速さも足りない。


 三度目。

 四度目。

 五度目。


 回を重ねるごとに、次の課題が見えてきます。

 支族の屋敷から少し離れた林の中に、ちょうどほぼあの広場と同じくらいの空き地を見つけ、少し手を加えて、実際に動きまわりながら訓練できるようになりました。


 三二度目。

 三三度目。

 三四度目。


 子供の玩具をヒントに作った、魔力で弾を撃ち出す日傘が完成しました。

 狙撃技術も上がりました。


 弾詰まりさえ起きなければ、もう、第一波は難なく倒せる。

 第二波もほぼほぼ倒せます。


 ただ、最後の一人、あの青い痣の男が倒せません。


 あの男が投げてくる魔道具。

 あれは、起動して投げつけると、前方の心臓の鼓動を感知して吸い付き、抉るというものです。

 ファイアボールをぶつけても、直前の「斉射フューサレイド」がありますから、威力が足りません。


 男があれを投げる前に倒すことができれば終わるとわかっているのに、どうしても間に合わないのです。

 あの男を、カタリナのように事前に始末できればいいのに、いくら探しても見つけられないのです。


 でもさっき、良い案を思いつきました。


 見ていてください、あなた。


 今度こそ、わたくしは成功します。

 今度こそ、終わらせます。

 今度こそ、わたくし達は宿命から解放される。




 最後に、ジュリエットに伝えたいことがあります。


 わたくしの知らない876年4月6日以降の世界で、どうか陛下をお支えしてください。

 あなたならきっと、陛下と共に正しい道を歩んでいくことができます。


 実は、あなたとは7回、親しい友人としてつきあっていたのです。

 あなただけが、わたくしの妄言を信じてくれました。

 それだけでなく、エルダの町で共に戦ってくれましたこともあります。


 でも、本質的に、あなたは戦いの人ではないのです。

 どうしても、人を傷つけたり殺めたりするのをためらってしまう。

 そして、あなたというゆらぎは乱れを生み出し、わたくしは対応しきれなくなってしまう。


 決着をつけるには、わたくし一人で戦った方が早い。

 あなたに秘密を打ち明けることは、諦めなければなりませんでした。


 それでも、あなたの存在は、常にわたくしの支えでした。


 一度、あなたが生まれ育った領地に遊びに行ったこともあります。

 抜けるような高い空の下、美しい牧草地で花冠を作ってくれた時のこと、何度生を重ねても忘れられません。

 1回目の人生を除いて、なにもかも忘れて心から笑うことができたのは、あの時だけだったように思います。




 2人とも、お元気で。

 愛しています。

 あなた方が、わたくしの愛を望まないとしても。




    ジュスティーヌ・アドリアーナ・ゼルダ・シャラントン(347th)


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