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2.ジュスティーヌの手記(上)

this is the dream, beyond belief

https://www.youtube.com/watch?v=YNKzsIq-wwk

 アルフォンス。

 愛しい方。


 あなたにこのような手記をしたためるのも、幾度目のことでしょう。

 人のみちから外れて久しいわたくしですが、あなたと呼ぶことを、この手記ではお許しください。


 今のあなたにとって、わたくしは幼い頃に少し交流があっただけの顔見知りにすぎないことは理解しております。

 ですが、わたくしにとっては、103回結婚し、本来は87回共に死ぬはずだった、愛しい愛しい夫なのです。


 幾度繰り返しても、あなたは大陸歴876年4月5日の午前11時52分に非業の死を遂げてしまう。

 その運命に抗うために、わたくしがなにをしたのか、説明させてください。


 きっとわたくしはあなたを混乱させてしまう。

 でも、そのくらい許していただく権利は、あると思うのです。




 まずは、「1回目」になにが起きたのかお話しましょう。

 ありふれた話です。

 世継ぎの王子と、同い年の公爵令嬢。

 それなりに縁があり、ですが結婚を妨げるほど血が近いわけでもなく、わたくし達は自然な流れで親しくなり、婚約し、結婚しました。

 最初の子はシャルロット。

 次の子はギュスターヴ。

 3人目の子はドナテロ。


 ドナテロが産まれてしばらくして、国王陛下が重い病にかかられ、1年ほどの闘病後、崩御されました。

 29歳で即位したあなたは、わたくしを伴い、巡幸の旅に出ました。

 そして、エルダの町の広場に馬車で入ったところで、あなたは暗殺されてしまったのです。

 あの、右眼の下に青い痣のある男によって……


 血まみれになったあなたは苦しい息の下、共に重傷を負ったわたくしにおっしゃいました。


「ジュスティーヌ、頑張るんだ。

 子どもたちのために。

 ジュスティーヌ、死んではならない。

 君は死んではならない」


 でも、あなたは先に息絶え──

 わたくしは真っ黒な渦の中に引き込まれて──


 気がついたらわたくしは、15年前の861年9月2日に戻っていたのです。


 目覚めたのは、公爵家のわたくしの部屋。

 身体は当時のわたくし。

 でも、記憶はあなたに先立たれた瞬間のまま。


 なにが起きたのか、最初はまるでわかりませんでした。

 夢を見たのかしら?

 それとも、死の直前に見るという走馬灯の中で、やり直せる夢を見ているのかしら。


 でもやっぱりどちらも夢ではないのです。

 どういうことなのかわからぬまま、わたくしはまたあなたと婚約し、結婚しました。

 この時は、暗殺計画を事前に止めれば、あなたを救えるのだと信じていたのです。


 ですが、次第に雲行きがおかしくなっていきました。

 1回目とは成り行きが少しずつ違うのです。


 最初の子はシャルロット。

 でも次の子は女子で、マティルダと名付けられました。

 3人目は男子で、これはヘルマンと名付けられました。


 やはり1度目の繰り返しではないのかもしれないと戸惑ううちに、1度目より早く、お義父様が病気にかかられました。

 病名は違いました。

 でも、亡くなられたのは同じ頃。


 また、巡幸の旅程を組むことになりました。

 王太子妃、王妃の立場では、諜報機関も捜査機関もたいして動かすことはできません。

 限られた手段で探っても、誰が私達を暗殺するのか、はっきりとした証拠はつかめておりませんでした。

 わたくしは適当な理由をつけて、警備を厳重にしてもらい、巡幸の旅程も変えてもらいました。

 4月5日は、いったん王宮に戻って休む日になりました。


 でも、その日。

 急に空が暗くなって、雷が落ちはじめて。

 バルコニーに出て雷雲を眺めていたあなたは、落雷で亡くなったのです。

 暗殺者の襲撃ではありません。

 純然たる事故でした。


 そしてまたわたくしは黒い渦に引き込まれ──



 3回目。

 また戻っている、今度は861年9月3日だと気づいた時は、さすがに泣き叫んだ覚えがあります。

 暗殺者の襲撃が起きなくとも、あなたはあの日、亡くなってしまう宿命にあるのか。

 そうであるなら、わたくしが「やりなおす」意味はどこにあるのか。

 魂が抜けたような状態のまま、半年が過ぎました。

 恐ろしくて哀しくて、あなたから取れるだけ距離を取りました。


 3月の末、学院に入学する前、父から前の2回と同じく、あなたの婚約者候補となるつもりがあるかと訊ねられました。

 わたくしは首を横に振り、王太子妃争いを他人事のように眺めていました。


 あなたの結婚式に出席せざるをえませんでした。

 2度もわたくしの夫であったあなたが、花嫁のヴェールをめくり、初々しくキスをする。

 あの時のわたくしが、よく倒れなかったものだと思います。


 その後、わたくしは修道院に入りました。

 もうなにも見たくない。

 そんな気持ちで迎えた876年4月5日の午前11時52分。

 孤児たちの昼食の支度をしていて、ふとあなたはどうしているだろうと思った瞬間、わたくしは黒い渦に引き込まれていました。



 4回目。

 9月4日でした。

 1日ずつ、後ろにズレている。

 どういう意味があるのでしょう。

 でも、876年4月5日の午前11時52分に起きるあなたの死。

 それがこの無限地獄の軸にあることだけは間違いありません。


 あれを止めることができれば、わたくしは解放されるのではないか。

 それには、あなたのお傍にいるしかありません。


 1回目、2回目とは違い、わたくしが心を鎧っていたせいか、あなたとは少々他人行儀な関係しか築けませんでした。

 でもわたくしは王太子妃となり、王妃となりました。

 王太子妃として許されるギリギリまで政治に積極的に介入し、各所に睨みを効かせながら、暗殺を企てる者を探る。

 平行して魔力を磨き上げ、兄に頼んでひそかに実戦訓練も受けました。


 1回目と同じくエルダの町に赴くことになりました。

 でも、わたくしはこれから起きることを知っている。


 あの魔のカーブを下り始めたところで、わたくしから先に攻撃を開始しました。


「ジュスティーヌ!?」


 屋根の上の狙撃者を先制攻撃で斃し、あなたを守る防護陣を張れるだけ張る。


 1回目は狙撃者からの最初の攻撃で、わたくし達は殺されてしまいました。

 だから狙撃者を倒せば良いのだと思いこんでいました。


 でも第2波が来たのです。

 わたくしは、混乱しながら必死に戦いました。

 あなたも、戦ってくださった。

 しかし及ばず、また殺されてしまった──


 ですが、渦に飲み込まれる直前、群衆の中に高笑いするカタリナが見えたのです。

 カタリナ・サン・ラザール公爵夫人。

 あなたに──というよりも王妃の座に異常に執着していた女。


 そうか、カタリナが黒幕だったのか。

 腑に落ちました。

 ならば次こそ、決着をつけられる。

 あの時、わたくしは渦に飲まれながらうっすらと笑みを浮かべていたと思います。



 5回目。


 学院のフェンシングの授業で、わたくしは事故を装って、カタリナを殺しました。

 この時点でのカタリナは、なんの罪も犯していない、ただの高慢な少女です。

 でも、良心の咎めは一切感じませんでした。


 事故という扱いになったとはいえ、わたくしは人殺し。

 ただちに学院を退学し、領の屋敷の離れに引きこもったまま、あの日を迎えました。


 でも、黒い渦に巻き込まれてしまった。

 カタリナがいなくなっても、あなたはまた殺されたのです。

 巡幸で、エルダの町に行く予定になっていましたから。


 6回目、7回目、8回目──


 しばらく、どう年月を繰り返していたのか、思い出せません。

 どうすればいいのかわからないまま流されて、あなたの妻となり、あの日を迎える。

 暗殺者達と戦うこともあれば、エルダの町を避けることもありました。


 でも、あなたはどうやってもあの日あの時間に死んでしまうみたい。


 王宮にこもっても、庭園の池に落ち、喉をつまらせ、落馬し、階段を踏み外してしまう。

 エルダの町ではないところに出かけても、馬車が横転し、橋が落ち、崖が崩れ、シャンデリアが落ちてきて、火事に遭ってしまう。


 あなたに秘密を打ち明けたこともありました。

 わたくしは狂ってしまったということになって、離宮に幽閉されたまま、あの日を迎えました。

 説明の仕方やタイミングを変えても同じこと。


 父に打ち明けました。

 母に打ち明けました。

 兄達に打ち明けました。

 でも、領の屋敷に閉じ込められたままあの日を迎える。


 もう、どうしていいのかわからなくなってしまいました。


 一度、戻ってすぐに、自殺を図ったことがありました。

 どう考えても死ねるはずの高さから飛び降りたのにわたくしは生き残り、黒い渦が来るまで、なにもできずに寝たきりで過ごすしかありませんでした。


 思いつめたあげく、あなたをこの手で殺したこともありました。

 辛かった。

 本当に辛かった。

 なのにすぐに黒い渦が来ました。

 戻る日が一日進んだだけでした。




 確か、戻る日が1月に入った頃のことだったと思います。


 運命の日が近づいてきた冬の夜、床に入ったまま、あれやこれやと考えていました。


 一日ずつ、戻る日が進むということは、試せる機会は有限なのでしょうか。

 最後はどうなるのでしょう。

 当日の朝に戻って、昼前にあなたが死ぬ、また当日の朝に戻るというループを永遠に繰り返すことになるのでしょうか。


 思い悩む私をよそに、あなたは心地よさげに眠っていました。

 

 ふと、あなたは眠ったまま、わたくしの身体に腕を回してきました。

 わたくしの身体がちゃんと布団に覆われているか、手探りに確かめて、わたくしの方に布団を押しやって、包み込む。


 安堵したような吐息をもらして、あなたはまた深い眠りに落ちました。


 ああ、「最初のあなた」も、よくこうしてくださった。

 そう思い出した瞬間、涙が溢れて、止まらなくなりました。


 わたくしは秘密を抱えていますから、王妃となっても、どうもあなたに打ち解けられないところがありました。

 でも、それでも、あなたはその時のあなたなりにいつもわたくしを愛してくださる。

 どこか他人行儀なこともあれば、困惑するほど甘く扱ってくださることもありましたが、いつもいつもあなたは愛してくださるのです。


 やはり、この愛に応えねばなりません。

 あなたの死の運命を打ち払わなければなりません。

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※アルフォンスのセリフは、サラエヴォ事件を参考にしています。

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