今の職場 -設計部署-
「何をもってしてそれでええと判断したんや?」
目の前のスキンヘッドの男がウチに問いかける。
試しているのか、素直に聞きたいだけなのか、教育の一環なのか。
おそらくそのすべてだろう。
口は笑っているがメガネの奥の目は笑っていない。
相変わらずシワのとれないシャツで額をぬぐい、すり減った革靴のつま先同士を
テーブルの下でこすりながら何とか答える。
「負荷側の魔具の新旧取り換え後に、監視用魔具の表示が赤から緑になったことをもって
結果良好と判断する方針で…」
「うん、それはさっき言っとったな。そうじゃなくてその負荷側の
末端の水まき用魔具と監視用魔具の間のつながりは
どんな仕組みなのかを聞いとるんや」
「えーと…」
「監視と制御は違うやろ」
スキンヘッドに青筋が浮かび始めている。
なんとなく言いたいことはわかってきた。
古くなった水まき用魔具を取り換えて、
水量なんかを監視している魔具の表示はオールグリーン!だからOKだね!
と安易に考えるのではなく、どういう仕組みで緑になるのか?
その緑は水まき用魔具に魔力が供給されていれば色がつくだけで
実は魔具自体は制御不能に陥ってたりしないか?
表示の仕組みを理解したうえで、
「良否判断方法として適切である」
としたのかどうかを問われているのだ。
(アカン…そんなん調べてない…)
「…すみません…一度製造会社に確認いたします…」
「おう、そうやな。一般的なプロトコルなのか独自のプロトコルなのか
わからんが聞いてみてくれや。一般的なやつなら見ればわかるわ」
「はい、またご説明に伺います」
「おう!」
スキンヘッドから青筋が消え、目も笑顔になった。
設計部署にきてから任された伝送用魔具の取り換え。
正確には先輩が新しく設置した伝送用魔具に負荷側の魔具を
載せ替える作業だが、負荷魔具の種類がとにかく多すぎて
ひとつひとつの確認方法を考えるのに多大な労力がかかっている。
ちなみにさっきのスキンヘッドはウチの上司の上司の上司で
設計屋というよりシステム屋である。
言葉の定義やその背景に非常に重きを置いており、
うっかり変なことを口走ると瞬間湯沸かし器になる側面もあるため、
会話中は常に気を張っているが部下はしっかり守ってくれる親分的な面もあるので
嫌いではないしむしろ頼りにはなるのだが、いかんせん毎回ハードルが高い。
さっきのような問いもウチだけでなく周りも食らっているわけだが
考えの浅さを露呈させられるので、みな説明後は沈んだ顔で自席に帰ることとなる。
まぁウチへの問いはとてもきゃわいいレベルだが、それすら答えられない自分が情けない。
ウチの業務の最終決裁権を有しており、納得のいく説明がなければ
さっぱりハンコはもらえず、作業に移れないのである。
「もしもし…フレアです…はい、表示の件で…」
(あぁ…現場にいたときはこれでOK!と思ってたレベルが
ここでは話にならないな…もっと勉強しとけば…いやそんな話じゃないか…)
今日もウチはお星さまがキラキラと一番綺麗に輝く時間に退社した。