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7 ギルバート side

 

 私が六歳のとき、母が小さな女の子を産んだ。はちみつ色の髪に赤い瞳をもつ女の子で、予定よりも早くに生まれたため、エリサが生まれたときよりもずいぶん小さかった。


「かわいい」


 私と二歳のエリサはあまりのかわいさにニコニコとずっと眺めていた。


 コポリ……


 えっ!


「マクレガー! マクレガー! 血! 血! セナが血吐いた!」


 具合の悪い母上のところにいた医師のマクレガーに慌てて声を掛けると、すぐにセナの治療が始まった。その後私たちは母上の部屋に入ることが許されず、セナの容態も、母上の容態も分からないままだった。数日経って部屋に入ることを許されたが、それは母上との最期の時だった。


「ギル、エリサ……お母様が呼んでるよ」


 父上が私とエリサを呼びにきた。すぐに母上の部屋に行くと……


「母上……」


「おかあさま……」


 私たちは母上のそばに行くと母上がゆっくりと私たちの方を向き、私、エリサの順に頬をさすった。母の顔色は青白く、頬をさすった手はほっそりとしていて振るえていた。訳がわからなかった。


「ギル、エリサ……お母様がんばったけど、最後のお別れをしないといけないみたい」


「なんで? どうして?」


 私は母上の様子からもう長くないことは悟ったが、セナが生まれたばかりでこれからなのに! という思いが強く、納得できないでいた。エリサはまだ理解していないようで、母上の手をにぎにぎしている。


「ギル……あなたはお兄様としていつも立派よ。エリサとセナを……助けて上げてね。愛してるわ」


 母上が微笑みながらゆっくりと話す。


「エリサ……ギルを困らせないようにね。セナをかわいがって……あげてね。大好きよ」


「はい!」


 エリサはニッコリと笑い手を上げて返事をした。それを見た母上はふふっと儚く笑った。私の視界が滲んだ。


「母上……ぼくが、ふ……ふたりを守るから安心して! ぼくは、お兄……さだから!」


 いつの間にか涙があふれうまく話せなかったが、私は力一杯母上に言うと、母上は「ありがとう」と言ったままゆっくりと目を閉じた。母上の目から涙が落ちたが、顔は微笑んでいた。


 それが母上との最後の会話だった。



 ◇



 母上が亡くなって数日経ち、セナに会いたいと父上に言うと、セナの病状は重く数日の命であったところを、母上が最後の魔力で治癒を掛け、マクレガーたち医師が今も懸命に治療しているとのこと。


 セナ、がんばれ! 母上の分も生きろ!


 それから数ヶ月後。父上から私とエリサは執務室に来るように呼ばれた。


「ギル、エリサ、セナのことで話がある」


 エリサは父上の膝の上に座った。


「ギル、エリサ……セナに心臓の病気が見つかった。長生きは難しいらしい」


「そんなっ!」


 母上を亡くして、さらにセナまでは嫌だ!


「セナが長生きするにはどうしたらいいのですか?」


「マクレガーが言うには発作が起きないようにすることが大事だと言っていた。人との接触を減らし、無菌に近い状態で過ごせば、今よりは長く生きられると」


「セナに会えないのですか?」


「私たちにはなんともない菌が、セナには命取りになることもあるからね……」


「あんなに小さいのに……一人でがんばらないといけない……なんて……ひっひくっ」


 私の目から大粒の涙が流れた。声を上げて泣いていると、今まで父上の膝の上で遊んでいた小さなエリサもつられてワンワン泣いていた。父上は私たちの頭を泣き止むまで撫で、優しい声で話し出した。


「セナが一番つらいんだよ。セナのためにも、協力してほしい」


「いつになったらセナに会えますか?」


「そうだねえ。浄化の魔法が使えるようになったら……かな……」




 ◇



 それから十日後には浄化を覚えた。この年齢で発動させるのは本来はできないが、すでに豊富すぎる魔力量があった私には可能だったようだ。

 セナのところに行ってはセナを抱っこしたり、あやしたりしてあげたが、話しかけるのは菌が飛ぶかもしれないので極力控えた。エリサにも魔法をかけて連れてきたが、エリサはただただニコニコして眺めているだけで満足していた。


「かわいいねー」


 エリサは部屋を出ると毎回ニッコリ笑ってそう言った。


「エリサもおりこうさんだし、とてもかわいいよ」


「セナとおそろいだね」


 おそろいだねと言いながらうれしそうにうふふ、と笑うエリサ。

 そんな生活がしばらく続き、母上への悲しみも少しだけ和らいだ頃、セナはひどい発作を起こした。






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