46 ルカ side
「サクラという名前なのは本当か?」
兄上がサクラの名前を出した途端、珍しく焦ったような様子を見せた。
「兄上?」
「ルカどうなんだ?」
「サクラはサクラだと名乗りましたが、本名かどうかは分かりません」
「そうか……。すまない。続けてくれ」
「はい。オルセーの報告によると魔力量はAで回復魔法に特化した属性です。所謂、聖女ではないかとのことでした」
「今サクラはどうしてるの?」
「魔力を封じたまま私の寝室にいます。私がいない時はスリープを掛けてます」
「体調は?」
「はい。ずいぶん良くなりました。怪我などはオルセーが完治させたので問題ありません」
「そうか。聖女ということであれば大事に保護しなければならないが、ルカと婚姻を結ぶのであれば大丈夫だろう。誘拐などあってはならないからね」
「分かっています。サクラの魔力を悟られないようにした上で側にいます」
「そうなれば、ルカを騎士団から外さなければならないか……。人事についてはまた相談するとして、婚約については今日にでも発表しておこう」
「兄上、ありがとうございます」
「いつか落ち着いたら、サクラに会わせてくれればいいよ」
「分かりました」
兄上は執務に戻り、私はサクラの元に戻った。
兄上は一体どうしたというのだろうか。いつもと様子が違い落ち着きがなかった。サクラの名前に反応していたようだが、サクラに何か意味があるのだろうか?
私は眠っているサクラの髪を撫でながら考え事をしていた。
『ルカ様、隣国ユークリッドから商隊の事件についてまた問い合わせがきています』
サージから念話が入った。
『分かった。今戻る』
私はサクラにキスをした。寝ているサクラはほとんど動かないが微かに口角が上がり微笑んだのを見て、私は執務室に戻った。
「ルカ様、こちらが問い合わせ内容です」
書類を受けとると再度調査したい旨が記されており、その責任者にルーゼント・ホークの名前があった。
ホーク殿か。先日世話になった分協力はしたいが、この事件は我が国の恥を晒すのと同義だ。
いや、待てよ。なぜ今さらこの事件について調べている?被害者は他国の商隊でユークリッドには益はない。
あの事件は商隊が誤って毒を持つ食物を食べ、誰かは分からないが治癒で治してくれたことになっているはずだ。再度調査する意味は治癒師の方か。
「サージ、この件の治癒士は分かったのか?」
「いえ、まだ特定できてません。間者は一人の女性を示唆していましたが、その情報も裏は取れていません」
そういえばその時に聖女の話を兄上としたはず……。
「サージ、黒幕を追っていた影を呼べ。来たらお前たちは席を外せ」
「え? 私もですか?」
「今はすまないが……」
「分かりました。少々お待ち下さい」
サージは影を呼ぶと、他の側近と共に席をはずした。私は影が執務室に入ると遮音のために結界を張った。
「わざわざ来てもらってすまないね」
影は片ひざをついて頭を下げた。
「お聞きしたいことがあるとか……」
「お前たちが黒幕を追っていたときにユークリッドに行かなかったか?」
「行きました。他国に潜伏先を作っていたようですが、そちらのルートは潰されていたようでかなり焦っていました」
「その時に誘拐などの行為はあったのか?」
「ありました。ちょうど商隊の事件があった森の中辺りです。手出しはできませんでしたので……」
「それは分かってる。事件で生き残った女性はその人ではないかと思っているのだが」
「顔の確認はできませんでしたが、茶髪の町娘でした」
「そうか。ありがとう。もう下がって良いよ」
結界を解くと影は一瞬で消えた。
やはり、サクラはユークリッドで誘拐されてきたのだろう。他はすべて国内での行方不明者だったし、何より、茶髪で町娘の姿は発見時のサクラだ。
「これだけの魔力持ちが二人もいるとは思えない」
商隊を助けた聖女こそがサクラの正体であろうことにどうして気が付かなかったのか。数日前の私はバカだ!